すけべ妻 夫の留守に(ラフレシア/Rafflesia)
監督:佐藤寿保 脚本:渡剛敏
出演:貴奈子/吉行由実/伊藤清美/今泉浩一/大沢涼/川崎浩幸
小林節彦/渡剛敏/いぐち武士/紀野真人/女池充/切通理作
撮影:稲吉雅志 照明:小川満 編集:酒井正次 録音:シネ・キャビン 助監督:榎本敏郎
企画:朝倉大介 製作:国映 配給:新東宝映画
(1995年)63分
人里離れた豪邸で父一人に育てられたアリサは、海の向こうの世界を知りたいと東京へ。
郊外に住む人妻のハルミは夜になると男をあさりに出歩く。彼女の義母は大物相手の秘密クラブを開いている。
三人の女を中心に一夜にして繰り広げられる騒動を描いたブラック・ユーモア。
秘密クラブで赤ん坊の格好をした客にチェーンソーを振り回す少女、
包丁片手に戦う嫁と姑といった奇抜なアイデアが笑いを誘い、
登場人物がそれぞれの新たな出発を迎えるラストには爽快感すら感じられる。
林田義行「ピンク・ヌーヴェルヴァーグ」(ワイズ出版)より
BUoYでの上映に際し、
佐藤寿保監督のこと、「すけべ妻 夫の留守に」のこと、女優・伊藤清美のこと、と、私・今泉浩一のこと
私・今泉浩一は1990年、佐藤寿保監督のピンク映画「制服盗撮魔 激射・なぶる!」で映画俳優としてデビューしました。当時の私は、俳優になりたい、とは微塵も思っていない単なるプー太郎でしたが、そんな私に声をかけてくれたのが佐藤監督でした。私は「1本くらい出てみてもいいかな」と深く考えず出演しましたが、そんなド素人の私を佐藤監督は使い続けてくれ、デビューから2年くらい経った時に、「この仕事を一生の仕事にしたい」と思うに至りました。1年に5、6本の佐藤組に出演し、同時に佐野和宏監督の組に1年に1本のペースで出演するようなルーティーンでした。
佐藤寿保監督は1985年「激愛!ロリータ密猟」で監督としてデビューしました。今回上映する「すけべ妻 夫の留守に」は、監督デビュー作から10年が経ち、現時点で佐藤監督の最後のピンク映画です。鋭利で尖った凶器(狂気)のような作風の多い佐藤監督作品の中でこの「すけべ妻 夫の留守に」は、狂気はそのままに、表現方法がそれまでの映画とは異質な映画でもあるように思えます。なんでもあり的な暴走感、尋常じゃない疾走感があり、林田さんが作品解説で書かれているような爽快感もあります。「最後のピンク映画」ということで言えば、それまでの私のルーティーンに変化が生じたことを意味し、あとから思えば自身の転換期となった映画でもあります。
「ピンク映画」という言葉ももはや古くなってしまい、40代以下の方には馴染みのない言葉かもしれません。かんたんに説明すると、ヘテロ・セクシュアルのポルノ映画ですが、アダルト・ビデオとの違いも知らない人も多いのではないでしょうか。ピンク映画自体も現在では「風前の灯」と言っても過言ではありません。しかし私は、いまでもピンク映画の俳優であることに誇りを持っています。そして、佐藤監督と出会えたことこそが幸運であり、俳優として下手くそな私は佐藤監督によって叱咤されまくり、それでも使い続けてくれることによって育てていただいた、ということが重要です。
私が映画を監督するようになった経歴を語れば、全ては1986年に飴屋法水に出会い東京グラン・ギニョルに参加したことから始まったのでありますが、1990年に佐藤監督によって映画という場に身を移した結果であり、その過程において佐藤監督から受けた影響は計り知れません。もちろん、他の多くの監督や俳優と一緒に仕事をしてきた経験、コミュニティとの繋がり、挙げればきりがありませんが、それらが一本に繋がった、ひとつの道程です。
今回、BUoYでの特集上映で、特別上映作品として「すけべ妻 夫の留守に」を上映したいと思った理由は、ピンク映画に対して薄暗いイメージを持っているような、いままでピンク映画を観たことがない人にとって、そのイメージを一転させる作品であるだろうこと。同じく、ピンク映画を観たことがないゲイ男性にも楽しんでいただけるだろう映画であること。ゲイ・ピンク映画も多数撮っている佐藤監督ですが、「すけべ妻 夫の留守に」はヘテロ映画であるのにクイア度がずば抜けて高いからです。同じく、ピンク映画を観たことがない女性にも受け入れやすい映画だろうこと、です。つまり、間口が広く、且つ、古臭くない映画だからです。そして、佐藤寿保という映画監督を知らない人に、佐藤寿保という監督を知っていただきたい。また、当時29歳だった若い今泉を見て笑ってほしい。肌の質感が現在とは全く違うので、もはや記録映像の域に達しています。
今回、佐藤監督、及び、国映のご好意で、特別上映させていただけることになりました。
高画質のHDリマスター版での上映です。フィルムとはまた違う画質感は、既にこの映画をご覧になった方にも楽しんでいただけると自負しています。
最後になりますが、この作品に出演している伊藤清美さんは、佐藤監督のデビュー作「激愛!ロリータ密猟」でヒロインを演じ、その後も多数の佐藤組に(もちろん他の監督作にも多数)出演されている女優であり、ある意味、最も佐藤組を体現しているミューズであると思っています。それは私にとっても同様であり、特別な存在です。ピンク映画俳優としての私にとって、清美ちゃんは最も共演作が多い女優であり、その役柄は高校生のカップルから母子と幅広く、それらの設定もレイプや近親相姦といった歪んだ愛情表現を重ねてきました。それは清美ちゃんとでなければ成立し得なかった奇特な関係性でもあります。今回の上映会では、佐藤組で清美ちゃんと共演した多数の映画から、佐藤監督自らが場面抜粋をし編集してくれたダイジェスト版を「今泉浩一+伊藤清美共演 佐藤寿保監督作品 名演集」と題して特別上映いたします。私の映画「初戀」と「すべすべの秘法」でメイン・キャストの母親を、「家族コンプリート」では私の妻を演じてくれた清美ちゃんですが、それとは全く異なるふたりの姿をご覧いただけるでしょう。「名演」と言えるかはともかく、これもまたひとつの記録映像集とも言えますが、私自身は、佐藤監督を含めた清美ちゃんと私の、三人の捻れた愛の軌跡であると認識しています。
生涯ピンク映画俳優であり続けたいと思っている私の、原点の片鱗をこの機会に観ていただきたい、と願ってやみません。
今泉浩一