2008.0426, sat
リサたちは明日起きられるのかねえ、などと言いつつ就寝して、目を覚ましたらもう5時を過ぎている。うわ、まずいオレらが寝坊だ。ナミさんに電話すると案の定まだ部屋にいて「あれ?」とか言っている。急いで甚平を(寝巻きとして持ってきているのである)ズボンに穿き替えてロビーへ。そしてそこにいたのはリサと彼氏らしい西欧人、ごめん久しぶりごめんごめん久しぶりごめんごめんなさいと挨拶してリサのボーイフレンド、セバスチャン(ドイツ人)にもご挨拶。しかしナミさんもディオンも(ついでにイマイズミコーイチも)来ていない。やがてナミ&イマイズミがやってきてすいません、言いだしっぺが寝坊で遅刻。相変わらず運転手ディオンが来ないので(ばっくれたか?)、ナミさんが「寝てるよねえ…でもディオンの番号知らないし」とおそるおそるニーノに電話する。ニーノは電話には出たようでナミさんはしきりに「ごめんね~」と言っているが僕らも申し訳ない。「連絡しとくって」ということで日は出てきてしまったから(現地で朝日を拝もうと思っていたのだった)もういつ出ても同じ、とそろそろ6時なので朝飯にする事にしレセプションに「ディオンってのが来たらレストランにいると伝えて下さい」と言って、5人でぞろぞろ、プールサイドへと歩き出した。まあお茶でも、と言っていたのだがせっかくなのでちゃんと食べよう、と出来たてのパンケーキをもりもり食べ、紅茶のお代わりなどをしている。
リサ&セバスチャンと話をしているうちにディオンがやってきた。「ごめん~」と飛び跳ねている。まあまあ座ってお茶でも。「昨晩雨が降ったでしょ(気づかなかった)、だからどっちみち朝日は見られないと思って遅くてもいいやと思って」おいおい遅らせるならせめて連絡しろ、とは思ったがディオンも仕事ではないし、まだ時間はあるしね。砂糖で血糖値を上げつつ、でも眠いねえ。さてゴー、といつもの映画祭の車に乗り込んですぐ近くのガソリンスタンドくらいまではみんな起きていたが最後尾座席のリサ&セバスチャンは速攻寝てしまい、隣のイマイズミコーイチも寝てしまい、自分と助手席のナミさんのみ(あ、あと運転手ディオンも)起きていてジョグジャ脱出。街を抜けると道の両側はほぼ農地か林である。途中ディオンのバッグに入っている携帯のアラームが何度も何度も鳴るのでその度に止めて一体何時に起きるつもりだったのか、とおかしい。遺跡にあやかっているのか何なのか、石像を売ってる店多し。「もうすぐあそこに小さな寺院が見えてくるよ」とディオンが言い終わらないうちに。ぽかっとあいた緑地に石の寺院が見えてきた。これだって全然小さくないが、ボロブドゥールはいったいどれだけでかいのか。
ガソリン価格は日本の3分の1くらい
「そろそろ着くよ」とディオンが言う。イメージしていたのとは違って、周囲はかなり整備されている。道の先にはすでに遺跡の頂上が見えていて山のようである。駐車場に車を止め、出る前にディオンが「いきなり物売りが来るけど相手にしてはいけない。もし何かお土産を買いたかったら帰りに売店で買うこと」と注意するので判った、と返事をして降りるとホントになんかヘンな民芸品を持った人が来た。遠くには売り物の帽子を8枚くらい重ねて被った2人組とかいるぞ。土曜だからか既にかなりの人、団体多し。門のはじっこに建物があって、ここがチケットセンター兼入り口のようである。「外国人は100,100インドネシアルピア」と書いてあるのだがその余分な100ルピアは何だかよく判らないものの100,000ルピア札一枚+小銭一枚で入場である。しばらくは公園みたいな中をたらたら歩く、なんか野外ステージみたいなのでライブのリハをやってるなあ、とそこへいきなり山が出現する。世界遺産(…しかし暑い)ボロブドゥールである。まず石段を上がる、といきなり広大な平地にどっかーんとレリーフ&仏像+石の塊が積み上がっている。すげえ、と見とれるが日が照っている。ボロブドゥールは上からみると正方形をした段ピラミッドのような構造になっているので、少し登って一周し、また登って一周、といった形で徐々に登っていく。リサは「一番いいのは裸足で石の感触を確かめながら、瞑想しつつ登る事だ」とナミさんに言ったそうだ。うむ、そうしたかったが今は人が多すぎるな。
パノラマで撮ってみました
なんか首の無い仏像が多いなあ、と思っていたらディオンが「頭部だけ盗まれている。オークションで売るやつがいるんだ」と言う。ジャカルタの博物館でもあからさまに盗まれてる展示品があったけど、仏像の首を切る人はその時どんな気分なんだろうか。気温は日向と日陰では全然違い、度々影で座り込む。涼しいところから日の当たったレリーフを見るのはとてもいい。最下部でディオンがあからさまに新しくはめ込まれたのっぺらぼうの部分を指し、「ここにはとてもエロティックでクィアなレリーフがあったのだが、展示するのはよろしくないという事で隠されてしまった」だそうでした残念。遺跡の下の方はレリーフ壁と仏像がぐるりとしているエリア、前後に登り口があるのだが階段の傾斜はかなり急だ。ディオンの言ったように昨夜雨が降ったらしくて、浸食を防ぐ為なのか石と石との間に挟まれた金属板から水滴がぽたぽた落ちてくる。子供が多いけど、社会科見学かなあと思っていたらセバスチャンが囲まれている。何じゃらほい、と思って見ているとディオンが「授業の一環で、遺跡を見に来た外国人に英語でインタビューしましょう、という趣旨らしい」、まあセバスチャンわかりやすいもんね。僕らは微妙なところだね、と思っていたら自分の所にも男の子が3人来てしまった。テープレコーダー片手に「地球温暖化についてどう思いますか?」などと聞かれてしまって悶絶する。逆に君いくつ?と聞いたら「16歳」ってことで日本で言うと高校生か。
中腹に腰掛け、やっと解放されたセバスチャンも加わってしばし休憩。「そういや昨日ニーノに『初戀』のインドネシア語タイトルを聞いたんだけど"Cinta Pertama"だってさ」と言うと日本語が分かる3人はみんな笑い出し、?という顔をしているディオンとセバスチャンにリサが何だか詳細な解説をしているがやがてみんな笑い出し、「チンコ」「きんたま」「キンタマーニ」などと超低レベルなトピックでゲラゲラ笑う。どう考えてもワールド・ヘリテッジの宗教遺跡で嫁入り前の娘(リサ)が得々と喋るようなものではないが。
「さてお嬢さん方(セバスチャンを除く)、行きますよ」とディオンが引率して更に上へ。上部はレリーフが一切無くなり、仏像を納めたハンドベル状のストゥーパがぐるりとしている。ストゥーパには格子状に穴が開いていてそこからお釈迦様が見え、「この穴から仏像の手に触ると願い事が叶うそうです」という事なのでイマイズミコーイチは縁日つかみ取りみたいに必死になって手を伸ばしているが「とどかない…」と本気でしょげている、のであそこのは簡単に触れるよ、と自分は半分くらい壊れてしまって露仏になってるのを指差し、2人で触ってみる。ああラク、大願成就。頂上を仰ぎ見れば格子窓のない巨大なハンドベルが鎮座ましましており、すごくありがたいような、すごく間抜けなような、じゃあやっぱありがたいんかな、という事で拝んでみました。何より上から見渡す景色が素晴らしい。遠くに高い山が見えるのでみんなで指さしていたらイマイズミコーイチ、「あれがニーノんち?(ニーノの家は山の中にある、と聞いていたのだ)」とヌけた事を言うのでみんなで「ニーノー!」と呼んでみましたが当然返事はありませんでした。
このなかにおしゃかさまがいます
"Ladies (except for Sebastian), here we go."とこれがネタになりつつあるディオンに連れられて降りる。どこをどう歩いたのか(途中観光客が象に乗っているのを見た記憶が。道路側になぎ倒されている樹があったがこれは明らかに…)僕らは博物館に入っており、巨大な船の展示などを見ているが、途中ディオンが室内に迷い込んだ蜂がガラス戸に止まっているのを写真(iPhoneで)に撮っている。さっきもちらっと見せてもらったけど写真上手いよね。あとで聞いたら携帯で撮る写真コンテストで一等賞を取ったことがある、と言っていた。ちなみに何を撮ったの?と聞いたら「トランスジェンダーの人を撮って"Where is ADAM?"ってタイトルにした」のだそうでした。賞品はiBookだったそうですが、「弟にあげた」ですと。
博物館を出るとディオン、路上で売っている飲み物を示して「椰子汁から取れた砂糖を水に溶かしたものだけれど、飲んでみる?」とビニールに入った薄茶色の液体(氷入り)をみんなに買ってくれた。甘くておいしい。「これを一週間くらい放っておくとお酒になる」だそうでしたが何となく酒になったものの味も想像出来ました。「あれ車、どこに停めたっけかなあ」と呟いているディオンを先頭に売店エリアを抜け、最後まで付いてくる物売りの人をかわして駐車場へ、車を空けると一応日陰に停めておいたにも関わらず車内の空気がものすごく熱い。さすがにちょっと厳しいので扉を全解放して風を通す。熱帯の太陽おそるべし。
「ニーノから電話だ、昼飯準備して待ってるって」という事なので一路どこだか知らないが彼の家のある「山」へと向かう。途中通った橋の下では川辺で何かを拾っている人が居るので「何をしているの?」ディオンに聞いたら「建材にする石を拾っている」のだそうでした。途中ディオンは「ショートカットしま~す」と山道に突っ込み、「あ、そうだ」とか言って道の脇にある売店に止まった。「ここで売っている果物を食べてみなよ、台湾人の友達は気に入って5キロも買っていったよ」と見るとあ、バリの空港で売っていた謎の実に似てるね。あの時は遠目で「栗か?」と言っていたのだが多分これだな。形はイチジク状で真っ黒、「これはSalak(サラック)と言う。こうやって皮を剥くと」とディオンは蛇皮のような外皮をめくり、するとニンニクのように数個が固まった白い果肉が現れた。かすかにエグみのある臭いがする。食べてみると水気はあまりなくて、噛むと甘い、フルーツガムのような味がする。食感としては生のナッツというか、そんな感じ。イマイズミコーイチとナミさんは「あんまり好きじゃないなあ」というが自分は割と気に入ったので「うまい」と言うとディオン、「そうか」と笑って草で編んだカゴに入った一塊りを買って「一週間くらいは持つから」と僕にくれた。ありがとう。
既に敷地内
30~40分くらい走ったのだろうか、「もうすぐだよ」とディオンが言う頃にはもう人家もまばらで、椰子のような木が道の脇に生い茂っている。「あ、あれがさっき買ったサラックの木」と教えてくれる。自分は起伏の激しいドライブでさっき飲んだ椰子砂糖水がすでに胃の中で発酵しつつあります。くるしい。そろそろ勘弁かなあ、と思っていたら幸い車は遮断機のある門の前で左折し、片側が田圃の細い道をゆるゆる走ってやがて止まった。「着いたよ」え、じゃさっきの遮断機からもうニーノ宅の敷地か。瓦葺きの屋根の、人が2人通れるくらいの門の両脇には人の背丈くらいある優美な日傘が差してあり、中をちょっと覗くとその先に家が「ずうっと」続いていて先端が見通せない。あ~あ~またでっかいねえ、と自分たちは感動してるんだか呆れてるんだか判らない感嘆詞を漏らし、しばしぼんやり広大な敷地(水田と畑)を眺め、とそこへこの家のボンボン登場で「いらっしゃ~い」だってコラ。
中に上がるとまたすごくて、いきなり大きな池が作ってあるのだがこれが海水、クマノミとか居ますよ海こさえてます。反対側の部屋にはガムランとゴングが並んでいてそのまま舞踊が出来そうな広さ。近づいてきた毛の固まりにあ、むく犬、と手を出したら「う~」とか唸ってどこかへ行ってしまいました。ここで坊々ニーノは「おとうさんとおかあさん」と言ってご両親を紹介してくれる。初めましてすいません、日本からお昼ご飯ご馳走になりに来ました、とあくまでにこやかなお二人にご挨拶して、坊々を先頭にキッチンを横切り、また室内の池(睡蓮咲いてた)を渡す橋を抜け、リビングに着くとその先にはプールがあるのでした。プールがあるのは前から聞いていて知っていたけど、それにしたってなあ。プールの先には更に一段低い庭があって、別の犬が2匹放し飼いにされている。ここでやっと「家は」終わり、土地の有効活用のために3階建て、とかそういうセコい発想ではなくて高低差を使って横に延ばしたほぼ平屋ですが、うへえ、という面積である。あ、パスカル(昨日来てくれたフランス人)がいる。おはよう。リビングで飲み物を作ってプールサイドに持ってきてくれたニーノは「おいでやす」といった感じで乾杯。ディオンが「素晴らしいセックスに」とか訳の判らない事を言い、おかしいなあ自分のジンセーにはこういう局面は訪れないはずだが、と訝しがりながらもカクテルグラスでマティーニなんぞを飲んでいる。
いるか…
「食事の前に泳ぎなよ、食後だとダルくなるから」とニーノは大量の水着(しましまの男性用ビキニとかあった)とタオルを持ってきて、僕らは自前のを持ってきているのでそれぞれバスルームで着替えて、真っ青なタイル張りのプールに入った。水は案外冷たい。「(水深)2メートルしかないよ」と言うのだが2メートルで充分です。先着2名様はビニールボートかイルカのどちらかを使えますが、このイルカが難しくて、バランス感覚の悪い自分は何度乗ってもひっくり返ってしまって他の人の失笑を買っていました。その横をボートに乗ったリサが「ラク~」とか言いながら通り過ぎていくので日本人3人は大笑いでした。プールと庭を隔てる塀の上で陽に当たっていたらディオンが「そのまま芝生に降りて」と言うので近寄ってきた犬と遊んでいたらなんだかやたら写真を撮られてしまいました。こっちの二匹はなつっこくて、知らない人が来たので興奮したのかそこら中を駆けずり回ってました。
「ごはんだよ」と呼ぶので水着にシャツのままキッチンへ向かう。総勢8名で食卓に付いて、突撃隣のひるごはん(インドネシア編)。ニーノのお母さんが大皿に乗った料理を渡してくれる。肉は一切なくて、焼いた魚を香辛料とココナッツミルクで味付けしたもの、豆の煮込み、テンペ、厚揚げ、野菜…というかハーブのような緑のもの、そして自分が大好きなタイ米。まだ4月ですが夏休みに親戚の家へ遊びに来たような食卓です。「だいたいウチの周りで穫れたもの」だそうでいただきます。どれもこれもとてもおいしいです、おかあさんありがとう。と言うとニーノが通訳してくれ、お母さんは笑っていた。こういう家庭で育つとこんな屈託のない小僧が出来あがるわけね、と非常に納得がいったことでした。食事中ここの家の飼い猫が(「タイガー」と呼ばれていた)隙あらば膝の上に乗ってくるので、でもあげられないよ~、と椅子に座ったまましばし立ち往生。
ごはんごはん
ごちそうさまでした、日本から菓子折でも持ってくるべきだったかとちらっと思ったもののデザートにバナナまでいただいてしまい、皮を灰皿にして一服してからお片づけ。流しのガラス戸に迷い込んできていた蝶がいたのでそっと捕まえて外に放す。食卓に面した窓の外には濃いピンクの紗が掛けてあって、風で揺れるたびに室内の色彩が変わるのでした。
しばらくしてニーノとディオンは映画祭のイベント(「マッチョ・トーク」とかいう)があるので先に出ると言い、「しばらくここでゆっくりしていてもいいし、どこか行きたいところがあればパスカルに頼んで連れていってもらえばいい。クロージングフィルムの上映に来てくれればまた会えるから、合流してそのままクロージングパーティーに行こう」と言う。諒解、じゃあね。ニーノは大量の荷物を持ってディオンと出発し、僕らはプールサイドに戻ってしばらく犬と遊んだりしていたが、そろそろお暇いたしましょう、とご両親に再度お礼を言って辞去した。年齢的には大日本帝国占領時代を知っているのか微妙な世代ではあると思うのだが(お父さんはちょっとだけ日本語を知っていた)、おもてなしに感謝いたします。また。
さて僕らはどうしようか、ブランバナン(大きなヒンドゥー寺院遺跡)も行けなくはないけど、ちょっと休みたいかな、と思ってパスカルに聞いてみると「ブランバナンは最近の大地震で倒壊があっていま修復中だから、行けるんだけど外しか見られないよ」とのことでじゃあやっぱこのままホテルに戻ろう、ということにした。パスカルはフランス生まれなのだけど若い時に国外へ出てアジアを周り、ジョグジャカルタに数年住んで働いた後にインドのマドラスに滞在していたのが最近またジョグジャに戻ってきたのだそう、という話は彼が車の中でナミさんと話しているのを何となく聞いていたのを後で整理して教えてもらったのだけれど「ポールといいディオンといい面白い人がいっぱい居るねえ」と感嘆していた。楽しんでくれているようなので、僕らもちょっと安心。
わんこ、バイバイ。
ホテルに着いてパスカルにお礼を言って別れ(彼が書いた本をもらった)、僕らはちょっと寝ます。あっという間に時間は過ぎ、起き出した僕らはタクシーを呼んでもらって3人でクロージングの会場「LIP」へ。ニーノは相変わらず忙しそうだがちょっと捕まえて「映画祭のポスターとパンフ、持ち帰り用に少しもらえる?」とお願いする。「判った、ちょっと待ってて」とどこかへ消えたニーノはパンフを10冊ほど持ってきて、「これくらいでいい?ポスターは後で渡す」と調達してきてくれた。ありがとう。さてクロージング・フィルムは韓国のオムニバス「カメリア・プロジェクト」。去年韓国で会ったイソン・ヒイル監督作も含まれているので観たいと思っていたのだが全体的に暗くて重い。カメリア(椿)が共通した題材なのだが、モチーフとしても隠喩としてもあんまうまいこと使われてないなあ、というかんじ。暗いのは別に悪いことじゃないけど…。クロージング上映ってなんかお祭りっぽいのかと思っていたらそうでもなかった。最後にスタッフ紹介があって10名足らずのメインスタッフがスクリーンの前に並び、観客から拍手をもらっていた。おつかれさま。
外に出て、喉が渇いたなんか飲みたいと思ったがどうやらすぐに移動らしい。ニーノが「車でまずクロージング・パーティー会場の近くまで行くよ」と言うのだがパンフレットの裏表紙が告知広告になっているクロージング・パーティーはどこかのクラブで大々的にやるらしい。"Prom Night"などと題されているがプロムってアメリカの卒業パーティーのことだっけ、「ドレスコード:プロム」とか書いてあるけど、プロムなカッコってどんなだ、謝恩会とは違うよね。とそこへニーノが来て、「パーティーは11時からだけどまだ時間があるから、クラブ近くのレストランに行こう。そこで食事でもして待ってて。僕はホームで着替えて準備してからまた来る」「ホーム」というのが誰のだかわからないが、家に一旦帰るなら僕らどっかで時間をつぶして直截クラブに行ってもいいよ、と言うとニーノはイマイズミコーイチの下駄を指差し「あ~、でも僕が同行しないと入れてもらえないと思う」、今夜のドレスコードでは下駄はアウトのようでした。
スタッフ挨拶
車内でニーノに「ジョグジャってクラブはたくさんあるの?」と聞くと「いっぱいあるけど、いいのは5つ。ゲイナイトは月イチで僕らがオーガナイズしている」とのこと。ふうん、レズビアンイベントもあるの?と聞いてみたら「残念ながらレズビアンシーンはまだとてもアンダーグラウンド」だそうでした。さてレストラン到着。「じゃあここで待っていてくれる?」とニーノはどこかへ行ってしまい、残された僕らは夕飯、とメニューをのぞき込む。ここは洋食屋のようでハンバーガーにピザにパスタか、よっしゃ、とイマイズミコーイチは写真にあったハンバーガーを頼んでみたが「すみません、今日はハンバーガーバンズが終わってしまってもう出せないんです」つうことで似たようなサンドイッチでいいや。
やがてニーノが戻ってきた。また妙に派手な柄のシャツを着ている。彼一番のお気に入りシャツだそうで、しかも何だかいい匂いがしている。自分は堪えきれずに「このこぞうはいいにおいがしてるよ」とイマイズミコーイチに言うとニーノはすかさず「いま僕の事でなんか言ったでしょ」と言うのでナミさんが訳しておしまいになり、それを聞いたディレクター様はうれしそうに「ありがと」と言った。可愛いなあもう。彼は残務処理、といった感じで大量の紙幣を数えたりしているが、ふと首に掛けていたパス(写真入り、もちろん着ているのはこのシャツ)を外して僕に渡し、「これ、あげる」と言うので普段誰にもサインを求めない自分も調子に乗って「じゃ、ここにオートグラフをくらはい」とサインしてもらってTERIMA KASIH(ありがとう)。いろいろ話をしているうちにニーノは今年の1月にタイのチェンマイで行われたILGA(International Lesbian and Gay Association)アジア会議で上川あやさんに会ったそうで、「すごくきれいですごくパワフルな人だった」と言っていたが、それは僕らも知ってます。
「行くよん」とニーノは言って(カバンを席に置き忘れかけたりしつつ)車に乗ってクラブ「HUGO'S REBORN」へ、赤い照明のエントランスから階下に降りて、何重かのドアを開けるとものすごく天井が高くて広々としたクラブ、中央にバーカウンターがある。その両翼にフロアがあって、もう一方の方側には一段高くなったシートがある。そこへ案内されると映画祭の関係者やら協賛の方やらいて紹介されるが薄暗いのでいまいち顔を覚えられない。赤いシャツが従業員みたいだが白いシャツの人も居るなあ。シートに座り、僕らから見て正面のバーカウンター越しにはステージが見え、ドラムセットが置かれている。ライブあり舛、かな。すでにかなりの人出でニーノはあっちに行ったりこっちに行ったりで忙しそうなので、僕らは来ていたパスカル達と踊ったり。割とすぐにドラァグショーや従業員ショー(バーカウンターの上で踊る)などあって、やがてドラァグ2人がステージに登場、インドネシア語でなにやらMCを始めた。
入場スタンプ
あ、と思ったらリサが来た。「セバスチャンは疲れて寝ている」そうで単品、リサが隣に座って、これから「キング&クィーンコンテスト」らしいのだが要は女の子の「キング」と男の子の「クィーン」を決めるのだと。まずクィーンズ、次いでキングスが呼び込まれて、どういう手順か不明だがカップルに組み合わされてバーカウンターの「上」を練り歩く。全組がそれをやったあとで最終的に観客の拍手が多かった組に賞が与えられるようでした。その他ゴーゴー男子2名+女子2名によるパフォーマンスもありましたがしかし男の子、動かないねえ。一応上までは脱いでましたが女の子がこれでもかとくねるのに比べると「突っ立ってるだけ」に見えてしまう。これまで見た数少ないインドネシアでのゴーゴーボーイのサービス度はバリ>ジョグジャ>ジャカルタという感じですが果たして全国水準はどのあたり。
気が付けばディオンが来ている。さっきニーノが「彼は疲れてホテルで寝ている」と言っていたが(明らかに僕らへの接待のせいだ)大丈夫?案外元気そうな彼にナミさんが「今日のお礼で一杯おごるよ」と約束していたのだがどうやら注文したらしい。しかしこの広いクラブでオーダー取るのは大変だな。ややあって、飲み物が来たようなのだがナミさんが店員やらニーノやらを交えて延々何事か話し合っている。どうしたの?と聞いても「大丈夫」としか言わないが、どうしたんだろう。しばらく遊んでいたが曲があんまし好きなのではなかったせいもあって(イマイズミコーイチは「EW&Fとかがいい…」とつぶやいていた)ちょっと疲れて、そろそろ帰ることにした。リサも「あんまり長くは居られないかな、寝たい」と言うことなのでニーノを探して「ホテルに帰るね」と告げると「判った、僕は酔っぱらっているのでタクシーでもいい?」と言いながら一緒に外へ出た。僕らは明日いっぱい滞在するが、ニーノとは今日でお別れだ。何でかって言うと明日の早朝から彼氏を追ってオーストラリアに6週間の休暇だからで、セイリングとかやるらしい。「明日から6週間ノーメール・ノーケータイ、読みたい本も積み上がっているし」と嬉しそうに言っていた。
駐車場で最後のお別れ、あ、ダヤックくんがいる。ハロー。クロージングパーティーといい、映画祭の「祭」の部分もこんなにきっちりやっていることを見届けられたので僕らもとても嬉しい。今度はいつ会えるか判らないけど、その日まで元気で。取りあえず海に落っこちないように。でもニーノとのお別れは毎回「じゃ、また明後日」みたいな感じで出来るので何よりだ。お気に入りのシャツにいい匂いのディレクターくんを抱きしめて、最後に記念写真(これがまたすごい出来で…)を撮ったら僕らはタクシーに乗り込み、どっちがどっちを見送るのか、手を振った後ですぐ誰かに捕まって話しかけられたニーノがあっちを向いた瞬間に車は出発して彼の姿は見えなくなった。
ちょっと人魂が飛びすぎですが、記念写真
車中ではリサとナミさんがさっきの顛末を話してくれたのだが、どうやらディオンにおごったお酒が勝手にダブルになってしまっていたらしく、「何でこんなに高いのか」ということで揉めていたようでした。リサも「私が頼んだバーボンも信じられないくらいの値段だったよ、あの店は基本的にビール以外は無茶苦茶高い」だそうでナミさんは「私は今日までの買い物の中でさっきのお酒だけが唯一の無駄遣い、自分が許せない。しかもディオンは飲み過ぎで吐いちゃうし(という事のようでした。あ~あ)」とぶつぶつ言っている。「ブラック・マーケットだったら今日のあたしのバーボン一杯で一本買えるよ」とリサが言うのでブラックマーケットって何、と聞いたら「密輸品を売るところ」だそうで町中の酒屋は小さなデューティーフリーだとのことのようでした。部屋に戻ってシャワーを浴びましたが、クラブで押されたスタンプはなかなか落ちませんでした。
2008.0423 バリ経由ジョグジャ行き
2008.0424 上映一日目
2008.0425 上映二日目
2008.0426 ボロブドゥールほか
2008.0427 布まみれ、帰国