20030923TUE hongkongjakarta

 この日も結構早めに出なくてはならない。7時から出る朝食はサービスなのでジュースでも、と思って行くと結構人が来ている。メインは東南アジアからの観光客という感じ。ホテルにありがちの、パン、味の抜けたハムやソーセージ、水っぽいスクランブルエッグといった中にご当地もの中華粥もあり、普段は朝飯食べないのにかなりの量を食べてしまう。チェックアウトの際に復路で寄る27日の分も取る事にして聞くと部屋は空いてるが全額入れて行け、と言う。デポジットから戻ってきたお釣りと併せてなんとか足りたので、全額払って27日を予約する。今度お湯が出なかったら部屋を替えてもらおう。
 香港は、これまで行ったどの都市より空港から市街が便利だ。しかし空港線と地下鉄の運賃の差が、どんなに安い乗り換えをしても6倍以上っていうのはボりすぎではないのか。車内にいる赤い制服着たお姉さんもやる事なさそうだしなあ。頑丈なスーツケースを持っていないのと、荷物がターンテーブルからがたんがたん出て来るのを待つのがイヤなのとで荷物はいつも全部持ち込む。逆に言うと持ち運べるくらいの荷造りにしかしないのだが、今回はジャカルタへの土産で妙に重い。日本酒とか止めとけば良かったかなあ。イマイズミコーイチは文明堂のカステラ(本人が好き)とかりんとう(本人は食わない)を買っていたのだが、機内の気圧のせいで密封してあるカステラが膨らんだり縮んだりしてるのを見つけて大騒ぎしていた。ちなみにかりんとうは現地に着いたら暑さで癒着していたそうだ。飛行機は飛ぶ。ぶ〜ん。

 予定通りにスカルノハッタ国際空港に着く。なんか降りてから外に出るまでが異様に短い。イミグレもなんだか薄暗くて、地方の駅の(それも自動でない)改札みたい。外に出るとぐるりとゲートを取り囲むように出迎えの人がいるので、二手に分れてお迎えを探す事にする。日本ではこれから行くQ! Film festivalのディレクター、ジョン・バダルという人とメールをやり取りしていたのだが、最後のメールには「誰かを迎えに寄越します」とあっただけなのけでどんな人が来ているのやら判らない、と探すと割とすぐ、僕らの名前を書いた紙を持った痩せ型の男性がこちらを見ている。近寄って挨拶をして、すでにどこに行ったのやら見えなくなったイマイズミコーイチを探すためにちょっと待ってて、と言い、戻ってきたイマイズミコーイチと2人で改めてご挨拶。「まずは市内に出て、宿に行きましょう」と言うので結構早足な彼に着いて行きつつ「あの、すいませんがお名前は」と聞くと「ジョンです」ですと。これがディレクターなのだった。失礼しました。後で聞いたら、ちょうど僕らと入れ違いでジャカルタを発ったゲストを送りに来た帰りだったのだそうだ。


飛行場から市中に向かうタクシーの中からいっぱつめ

 タクシーを拾って空港を出るとすぐなんとも熱帯な景色になる。飛行機の窓から見ていてある程度は伺えたのだが、やはり赤道を越えたのだと実感する。道路のすぐそばに沼地みたいな水溜りがあって、雨が降ったら溢れそうだ。タクシーは、この後延々悩まされる事になるのだがおそらく車内が禁煙でないせいなんだろう、かなり苦手な匂いがして幼稚園時代からの乗り物酔いが誘発されそうになる。そう言えば煙草くさい車に乗るのも久しぶりだ。気を紛らわす為にジョンにいろいろ話し掛けたりしつつ、外を見ると地理がさっぱり判らないながらかなり市中の中心部に向かっているようだ。30分位で降りて、「パラマホテル」と書いてある白い建物に着く。新築の民宿、という感じ。一歩入るとなんか芳香剤を撒いてるような異様にいい匂いがする。ジョンが「フロントで待っているからシャワーを浴びるなりしてきなさい、準備ができたら近所に両替に行って、それから今日の上映会場に行きましょう」と言うので鍵をもらってエレベータに乗り、部屋に入る。天井が高くていい部屋だ。まずはお湯が出るか確認。オッケー問題無し。空調も効く。フロントに戻ってジョンにやたらかさ張るお土産を渡して(食べ物ばっかし)、歩いてすぐの所にあるデパートへ。両替所で取りあえず1万円替える。65万インドネシアルピアになる。最高額紙幣が10万ルピアなのでそんな札束にはならないけど、ここでは1円が65ルピア、現地の値段は100で割って1.54を掛けると大体日本円に換算できる計算。ここでまたタクシーを拾って今日の上映会場へ。着いたのは「CEMARA6」というギャラリー、レストランなどを併せた民俗建築風のステキな建物で、失礼ながら東京ディズニーランドの魅惑のチキルームとか連想してしまいました。もちろんあんないかにも取って付けたような感じじゃなくて、ちゃんと内実もある感じでしたけど。同時開催の「Nice Boy」と題された写真展を見る。別にゲイ関連じゃないようだったけど、さまざまな家族の集合写真はそれなりに興味深かった。

中庭のカフェっぽい所に腰掛けて、いろんなスタッフに紹介される。みんな名刺くれるので持って来た即席の自分の名刺が、日本じゃ全然使わないのにどんどん減っていく。この映画祭は合計8つの会場を使って映画の上映を始め写真展、ディスカッション、朗読会、絵画展などを同時進行でやっていくというイベントらしい。メインの映画上映は10日間くらいだけど、その他全日程含めると1ヶ月。しかも映画の上映は無料。「なんで?」と聞くと、会場が一ケ所だけだと行きづらいとこにいるお客さんが来ない事と、お金を取って上映するとなると政府の検閲を受けなくてはならず、そうすると作品によっては「問題箇所」を削除したりしなくてはならなくなり、それを避ける為に無料なのだと教えてくれた。「お金は無いんだけど」とジョンは困ったように笑った。今回で第2回なのだが、初回はもっと規模も小さかったそうだ。ジョンは今年のベルリン映画祭でテディー賞(セクシャルマイノリティー部門)の審査員をしていたそうで、その他国内で記事を書いたり、その他にもいろいろ活動しているらしい。取りあえず僕より全然英語が達者な人で良かった。
 しばらくして同じテーブルに座ったフェーくんという男の人が飯を食いだしたので、しばらく取り留めも無い話をしたりちょっとインドネシア語を教わったりしてたのだが、鞄をごそごそしていたイマイズミコーイチがフェーくんに「これってまだ使える?」と古いルピア紙幣を見せた。彼が17年くらい前にバリ島行った時に残して来たお金で、合計で15000ルピアくらい、使えたとしても300円にもならないくらいだけど、いつかまたインドネシアに行く時の為に(保管中に臭くなってきたので洗濯までして)取っておいたのなのだけど、フェーはしげしげと眺めたのち「使えない」との鑑定結果。イマイズミコーイチの落胆っぷりもかなりだったが、フェーも結構受けたようで、他のスタッフ呼んで見せるしまつ。「コレクターズアイテムだから、取って置きなさい」だって。日本だったら例えば戦前の紙幣を「使えるか」と見せられたようなものなんだろうか。ちなみにこの先も、何かというとこの紙幣の事を言われ続けたのだった。


「CEMARA6」の内部。この上が上映会場。

 今日は近場の会場を回ろう、とジョンとフェーとまたタクシーに乗る。道は渋滞しているのだが、車が止まるといろんな物売りがやって来る。新聞売りとかも来る。もちろん買いはしないのだがフェーは見出しを見て「ふんふん」とか言っている。立ち読みが営業に来るってのはすごい国だ。この日まず行ったのは「フランス文化センター」という所。小さめのホールで、HIVのパンフレットとかを配っていた。その後行ったのは「Goethe-Institut」という大きな施設。映画祭の事務所もここにあり、細長い4畳半くらいの部屋を見せてもらう。今年のポスターやらTシャツやらジョン達が出す予定のCDーRのゲイ雑誌やらその他いろいろもらう。ここは300人くらい入る大きなホールがあって、僕らの映画も最終日にやる。今日は7時から最初に行ったギャラリーでの上映なので戻って、開場を待つ。時間になってもなかなか始まらないが、「道が渋滞してて客の到着が遅れているので開始を遅らせている」との事。なんと観客想いな。ここは公称60席。映画開始後5分くらい音声がヘンに延びたようになってしまってやきもきするが、何かの拍子に正常に戻る。その後はなんとか無事に進んだが、エンドクレジットが始まると会場の電気が付けられてしまってその後にエピローグがあるのに、と慌てる。なんとかまた明かりを消してもらったが、翌日も別の会場でこれをやられたのだった。
 上映後、質疑応答。全3回の上映を通じてよく聞かれたのは
 ・製作にどのくらい日数が掛かったか
 ・これは何作目の作品か
 ・役者はプロなのか
 ・これまでどこで上映されたか、日本では劇場公開されたのか
 という辺りか。面白かった質問としては「DVで撮影したのは、それぞれのキャラクターにフォーカシングする為なのか」「マンガの影響を受けているか(カット割りなど)」「音楽は流行のものを意図的に使ったか」とか。あと人づてに聞いた話では「日本の家って狭いんだね」とか「どうしてあんなきれいなトイレがハッテン場になっているのか」という感想があったらしくて面白かった。まあ全体的に笑ってもらえたし、良かった。やはり占い婆ぁが一番受けてました。


一人乗りタクシー。素人には多分無理。

 ニ階にある上映会場から降りて、一階部分の受付でお客さんを見送り、中庭でお茶をもらって休憩。この中庭、小さい池とかあるせいか(ナマズがいた)、やたら蚊が多くて食われまくる。蚊除けスプレー持って来たのだが、夜寝る時に使う事しか考えてなくてホテルに置いて来てしまった。ここで残っていた観客の若い子や、今夜通訳をしてくれた女の人(日本人、ジャカルタで文化交流の仕事をしている)とかと話をしているとそのうちお客さんもあらかた帰って、ジョンが夕飯食べに行こうと言ってくれる。そういや香港からの飛行機での機内食以来何も食べていなかったのだった。それにしては腹は減ってないな。スタッフがどこにしようかと話しているが、「魚介類の屋台とかでもいいか?」と言うのでなんでも良いのでついて行く事にする。通訳のSさんが「こういう所が一番おいしいんですけど、体調が悪かったり疲れていたりすると中る事もあるので気を付けて下さい」と言う。具体的には氷と生野菜だそうなんだけれど、氷は放っておくとどんどん飲み物に溶けていくし、野菜は、サラダとかでない限りどこまでが火が通っているのか判別しづらい事もあって結局わりと食べてしまう。まあ明日になれば判るんだし。茹でた海老をソースに付けて食べたり、川魚を丸焼きにしたもの、野菜炒めいろいろ、それをタイ米と食べる。一皿でけっこういっぱいだったのにジョンに「お代りは?」と聞かれてつい頼む。でも食ってしまう。うまい。どれも結構油が使ってあるけどそんなしつこくなくて、味は甘いと辛いと醤油味という感じ。それが混ざっている。
 「明日はどうする?」と聞かれ、バリ島に行けなかった事を思い出しイマイズミコーイチが「泳ぎたい」などと答える。海パン持って来ているし。ジョン始めスタッフは笑いながらも「じゃあジャカルタのホテルのプールに行こう。明日迎えに行く」と言ってくれる。タクシーでホテルまで送ってくれて、その日はシャワー浴びてすぐに寝た。


ペーパーではなく水で洗う、ホントの水洗便所。