タイトル
2005.0605 Sun #3 再会続く、そして待ちぼうけと夜更かし。

 パレードゴール地点ではバンド演奏などの集会イベントが続いているのを横目に観客を突っ切って、ワイルドなバスで(三度ほど転倒しかける)弘大(ホンデ)へ向かう。弘大というのは芸大で、学生が多く日本で言うと渋谷や原宿みたいなところ、と説明されるが、裏原みたいな通りに食い物屋が多くある様は両方を足して割った感じである。ここで待ち合わせをしているセオは以前ソウルでQueer Film Festivalのディレクターをやっていた人で、今は大学で教えていたりして忙しいらしいが、今回「行きます」とメールを送ったら自分の事務所があるこの辺で会おう、と言ってくれた。ソンワンとももちろん親しいのだが、僕らと集まって会うのは3年ぶりくらいだろうか、ケンタッキーのあるビルの近くで待っているとやがてやってきた。隣に黒いワンピースを着た初対面の女の人がいて「奥さんかな」とイマイズミコーイチが言うのにどう言っていいもんやら、と取りあえず再会の挨拶をして、「さて」といった感じで歩き出す彼らの後を付いていくとしばらくして路地を入った飯屋に入った。時間は早いけど機内食以来口にしたのはポカリのみ、だったから注文もお任せのまま出てくるものを次々に食ってみる。恐らく茹でた豚の固まり肉スライスとキムチを塩漬け白菜で巻いて食べたり、あとは鶏鍋、米飯、そして大量のキムチ。近況報告、と言うよりはほぼくだらない話を延々しているとこれまた昔クィア映画祭でスタッフやってたジェーンが来る。セオが「彼は今年大学に入って一年生で、ヘテロになった」などとおかしな紹介の仕方をするので「それはそれは」としか言えずただへらへら笑って誤魔化した。「ヘテロになった」と言われても今は女の人と付き合っていると言うことだと思うのだけど。

08
イオンサプライ

 食後(奢ってもらってしまいました)その辺の中古レコード・CD屋に入ってみたらシャーデーのデビュー盤アナログがあり、別に全然珍しいものではないけどジャケットの真ん中よりやや下にハングルが二文字、マジックペンで書いてあって何だこれ、と聞くとソンワンは「木の名前」と素っ気なく言う。木?…どうして書くのか、と言う意味も込めた「何だこれ」だったのだが、レコードのジャケットに落書きする事には違和感を感じてないようだった。この辺では毎週日曜になると自分の作品を売る人達の店が出るそうで、Tシャツ、アクセサリー、などの通りの両端にずっと並んでいる。その途中の喫茶店でお茶にする。セオに「もう映画祭はやらないの?」と聞くとやや顔を曇らせ、「経済的に厳しいのと、今韓国ではインターネットで見られるゲイポルノが氾濫しているから、映画祭が必要とされていない」と言う。そうっすね、多分やらしいもの見たい、という人は来なくなるとは思うのだけど、逆にそういうのを見飽きた人が映画やズリネタでない映像作品を観たい、とやがて思うようになるんじゃないかなと思ったし、セオもまたやりたいみたいではあったから、来年とはいかなくても(僕らも出すモンがない)また来られるかな、と漠然と予感した。

06
こんなん撮るのもどうかと思うが、唯一目にした「反日」。

 そのまま歩いてCLUB O-TWOという、今夜のパーティー会場前まで行き、「明日の上映、見に来てね」と念押ししてセオ達と別れ、クラブの入り口でソンワンがパーティーの招待状をもらってきてくれた。で、大変申し訳ないのだが、このままパーティー会場に入らずに、一旦友達に会いに行きたいと言うと、ソンワンは一瞬微妙な表情をしたものの「判った」と言ってくれた。実は日本の友達二人が所属するグループが7日にソウル公演の為に滞在中なのだが、今日彼女たちに連絡が付き、「会えたらホテルで」と言われてるのだった。僕らはソンワンの携帯を連絡先として教えていたので(携帯レンタルしろよ)、付き合わされるソンワンにとっては疲れるばかりのスケジュールではあるが、どこまでも面倒見のいい彼は「オッケー行こう」と歩き出した。名前を頼りにタクシーで着いたホテルはさすがにラブホではなくて、そこかしこに彼女たちが参加するダンスフェスティバルのポスターが貼ってあって、もしかしてイベントで借り上げているのかも知れない。案の定というか、二人とも部屋に戻っておらず待つことしばし、ソンワンの携帯はクラブにいる友達から「いまどこ?」の呼びがひっきりなしに掛かるのでさすがに悪くて「後で向かうから、先に戻っていていいよ」と言うのだけれどソンワンは「一緒に待つよ、でも多分待っても当分帰って来ないと思うのだけど…」と会ったこともないのに言う(この判断は大変正しかったと、後日判明する)。やがて僕らも待つのに飽きて、フロントにメモを残して帰ることにした。ソンワンくん、無駄足でごめんなさい。

07
クラブ入り口前

  CLUB O-TWOに引き返すと、既にすごい人だかり、地下に降りてクロークに荷物を預けて覗いたフロアは凄い暑さと湿気で一瞬怯んだが、ソンワンはずんずん先へ行くので見失わないように付いていく。フロアの片側に一段高いソファ席があって、知り合いがいるらしいソンワンはそこからフロアを眺めたりしている。飲み物をもらい、たいところだったが「緑茶くれ」と言うとなんでか断られて、唯一確実にくれそうだったビールは、アルコールを飲みたくないのでパス、手ぶらでそこら辺を徘徊する。もらったフライヤーにはショウタイムとか書いてあったのだけど今はその時間ではないみたいでただみんな踊っている。一昨年の妙ちくりんなDJがひどく心に残っていて、ちょっと期待していたのだけれどここのDJプレイはソツがない、ってエラそうだな、ステージ上には上半身裸の男の子が一人いて踊ってるけど、この人は多分ゴーゴーじゃなくてノリのいいお客さんなんだと思う。ちょっといただけで結構満足してしまい、外へ出るソンワンに後続して通りで涼み、荷物を出してそのまま帰ることにする。タクシーを拾うために並んであるく、空港に来た時には平常だったソンワンの声が、今は可哀想なくらい枯れているのはほぼ、僕らに付き合ったせいなので、すまん。部屋に帰ると果たして鍵は開かず、閉める時に出てきた兄ちゃんをまた呼んで開けてもらう。結局この鍵は飾りであって開けも閉めもできないという事が判明、ま、ラブホテルで連泊したり始終出たり入ったりする客もあんまりいないのだろうが、英語もほとんど通じないフロント前にて毎回ジェスチャーで「これから出かけるから、鍵閉めて」とかやらないといけない僕らにはひどく不便なドアである。