2005.0606 Mon 上映日は祝日、ややくもり
親切なソンワンは昨日の別れ際、「××ホテル(僕らの宿泊先)に行ってくれ」「Art Cube(上映会場)まで」と韓国語で書いたメモを作ってくれ、「タクシーに乗ったら見せればいい」と言ってくれた。ありがとう、と大変感謝しつつ彼の親切をさっぱり活かせない僕らは、会場は近そうだし、散歩がてら歩いていこうかとお昼頃ホテルを出発した。ホテルから大通りに出てそのまま真っ直ぐ、迷いようがない。日差しが強くて汗ばむ陽気の中、たらたらと歩いて通りかかったパン屋のサンドイッチが旨そうなんだが、後でいいやと通り過ぎ、上映会場「Art
Cube」のすぐ近くまで行く。ここでちっちゃいスーパーみたいなのがあったので入って、何でもあるけど何故か歯ブラシだけが無かったホテルの事を思い出して一番安いヤツを買った。
暑さにへばるわんこ。
それから会場へ、ここでは以前上映をしてもらった事があるので、判りにくい入り口にも慣れている。路上から地下へ、建物内部から更に下って地下二階がシアターだ。左手の奥まったとこに受付があって、物販とチケットもぎりが出ている。入場料は5000ウォン、スタッフに挨拶をすると僕らのチケットもくれるというので一般のお客さんを優先してくださいと言うと、残念ながら満席ではないので大丈夫だという。休日(今日は顕忠日という戦没者を慰霊する日だそうで韓国では祝日、だからだろうか軍服来た人が休暇っぽいかんじで彼女やお母さんと街を歩いていたり僕らのラブホにチェックインしてたりするのを見たので、この上映会に来てくれたら僕らすっげー燃えるんだが、と思ったもののそういう楽しい事はなかった)とは言え昼間2時半からの上映だからなあ、もう少しいい時間が良かったなあとうじうじしながらも指定席っぽいチケットを貰う。全部で77席あるらしい、こぢんまりしたシアター。お客さんはそれでもぱらぱらと来だしている、その中に知り合いの顔を見つけた。ここソウルに初めて来た時に知り合ったボリザル氏、30代、目下休刊中のゲイ雑誌(フリーペーパーだけど分厚い)の編集・出版をしていた人だ。最近はさっぱり音信不通だったのでどうなっているのかと思っていたら、昨年交通事故にあって4ヶ月入院していたらしいのだった。当人はメガネ掛けてひょろひょろっとした人であるが、日本で言うところのGメン系が大好きで、以前韓国に行くよ、と言ったら田亀源五郎の漫画を買ってきてくれと言われて持っていった事がある。その素晴らしくもくだらない情熱の燃やし方に、会うとなんだかなごむおっさんであるが、「この映画祭は本当にお客が少なくて」などと僕らの不安を煽るようなことを言いよる。さて日本の漫画を一万冊読んだオタクだ、という通訳さんと打ち合わせ無しのご挨拶をしたり、スタッフに「今回こそは最後までテープを回すように」と念押し、日本から持ってきたサントラCDに9000ウォンの値段を付けて並べたり(この価格はやや高め、とのこと。私家盤だから、だと思うのだけど)、HIVの予防キャンペーンでコンドーム配ってるブースを写真に撮ったりしていると、やがて開始時間になった。最終的に50人以上は入ってた。
映画祭の入り口前。
映画祭のディレクターが簡単な挨拶をして(始まる時には「あそこに監督が来ています」とか言わないでねお互い緊張するからと言ってあった)、スタートは問題なし、最初の作品になったところで初めて韓国語字幕が現れたが、ちょっとおどろく。英語字幕の上に薄いブルーのマットを引いて、その上に字幕を載せているのだ。デジタルマスターを取り込んで、加工して上映用テープを作ったらしいのだが、なんか作品の印象がかなり変わる、全部これだったらヤだな、と思っていると作品によってはマット無しで英語と並列になっている作品もあり、ルールがよく判らない。お客さんの反応は、結構日本での上映と似た感じで、特に意外という印象はなかった。#10が終わりちょっと気を抜いていた瞬間テープが切られ、場内は明かりが点いてしまった。ピギー。聞いてなかったのかぼけ、と自分は脱兎の如く外へ出て、その辺にいたスタッフの子を捕まえて「まだ終わりじゃない」と言うがこの人は日本語わからんので困っている、その内通訳さんを捕まえて「とにかく、なんとか、(息切れ)するように」と言うとようやく話が付いて、さっきのディレクター氏が再び壇上に立ち、なんやらお客さんに説明している。お客さんも苦笑しているが帰ってしまう人はほとんどいなくてそれには少し安心する。しばらくして始まった最後のシークエンス、実は出演してるのは自分で、あれだけ大騒ぎして上映させたのが自分の出演シーン1分間だけ、というのはなんか自分が僕が俺がオレホームページ絶賛公開中、の人みたいでたいへん落ち込む。ええいどうしてくれましょう。
片輪走行のごとき終わり方ではあったが上映は済み、そこでやっと「監督来てます」のアナウンス(まぬけ)に促されて最後部の席から衆人環視のなかのそのそと一旦外へ出てから舞台袖より再入場(超まぬけ)して、辛抱強いお客さんが拍手してくれる中をぽてぽてぽてと舞台へ出ていく。かっちょわりー。お客さんは大部分が残ってくれていてうれしい。「最初にこの映画のことを少し説明してください」という司会者のリクエストがあったので、挨拶と共にイマイズミコーイチと自分が一人ずつしゃべる。自分は少しやけくそな気持ちになっていたので、「さっきトラブって上映した最後の部分は、今回来てくれたお客さんだけが観られたパートです、ラッキー?」などと言ってまた苦笑をされて、泣いちゃおっかな、という気持ち。さて気を取り直して、と言うのもいつの間にか始まっていたQ&Aでいきなり音楽の質問が来たからで、それがまた考えたこともない「電子音楽を多用しているのは意図的か」ってな質問だったからで、散々頭をひねって「たまたまです」というもっともつまらない返事をして次の質問「音楽に統一性があると感じたが、意図的か」にも「(大雑把に言うと)結果的にそうなりました」などと答える。自分、ダメかもしれん。その後も、司会者からのも含めいくつか質問があった。
・監督はプロですか…「監督としてプロ、って人はほとんどいなくて、初めて映画撮ったという人が大半です」
・アニメを始め、編集技術が高度だと思いましたが…「本人の力量と、ソフトウェアのおかげだと思います」
・この作品を作った監督達は、映画制作で生計を立てようとしているグループなのか…「そういう感じじゃないです、とりあえず儲かってないし」
最後の質問は司会者から出たもので、どうも彼は「映画で一旗揚げてやる」みたいな集団をイメージしているらしく、実情とのギャップにどうも答えにくいのだが、ま、いいや。いつも必ずと言っていいほどある「漫画の影響云々」の質問は珍しく無かったが、考えてみりゃアニメも入っているのに漫画の影響もへったくれもないもんだな。
ここで今回持ってきた新しい「シンカンセン」の一短編(ラフカット)を上映。本当は質問前に全部つなげてやって欲しかったのだけど、上映機器の都合などで無理、と言われてこういう形での上映になる。
全て終えてからロビーでお客さんと話す、と昨日パレードで会った男子集団が来てくれてて買ってくれたサントラCDにサインしてくらはい、と言う。サインつうよかはメッセージカードのような内容をつらつら書いて、などしているとCD買ってくれた人はみんななんか書いて、と言うのでなんだかCD付きサイン色紙を売っていたごとき錯覚に陥るが、なんでもいいかとボールペン書き。合計売上4枚、このペースで3回の上映全てで売れたら完売した計算だがなあ。話しかけてくれたお客さんの中には在韓10年という日本の方もおり、「ネットで上映を知って韓国人の友達に教えたら、映画祭があること自体を知らないと言うので連れてきた」と言っていた。僕らのが決まったのは確かに間際だったけど、本当に宣伝したのかよ。後で通訳さんに「お客さんに結構モテてましたよ」と言われたイマイズミコーイチ、「直接言ってくれなきゃ」などとぶつぶつ呟いていた。外で煙草を吸っていると、通訳の女性と(もう一人ゲストで日本人監督が来ていて、その人の担当)が封筒を手渡しながら、「謝礼です、少なくて申し訳ないです」と言う。ひゅわ、謝礼や上映料が出ることなぞ滅多にないのでどういう顔して受け取ったらいいのか判らずまごつくが、ありがとうには違いないのでお礼言って受け取る。外と中を行ったり来たりしつつブースに置いてあるコンドームセットやパンフレットなどいろいろ貰ったりTシャツもらったり(もらってばっか)している内に、それまで一緒にいたボリザル氏が見えなくなり、えー帰ったのかよ、とまた中に戻って探すが見あたらない。先程さようならした映画祭のスタッフもまだいたんですかどうかしましたか、と言うので探してもらうがどこにも居ないので、こりゃしびれを切らして帰ったのであろうと諦め、自分らもホテルに戻ることにした。会場を出たところでおっさんと若い男の子が手をつないでいるのを見かけたが、あんまり爽やかな感じではなかった。爽やかならいいってもんでも無いんだけど。
サントラ売ってみました。
帰りも徒歩の途中、行きがけに見たパン屋で朝食、もとい昼飯にも遅い今日初めての食事。イートイン出来るパン屋で、旨そうだけど高い。サンドイッチとサラダ買い、お茶頼んで1000円くらいになってしまう。食後再び歩き出して本屋に寄り、韓国全図などを買い、その他ぶらぶら店内を歩く。日本でも女性誌におまけが付いている事は多いが、こちらのおまけはドスが利いていて、化粧品セットはまあ判るとして靴、ジップロック、押入れに入れる除湿剤とかが無理矢理くくってあって桁違い、思い切りがいい。ホテルに戻って荷物を置き、少し休んでまた外へ。公衆電話を見つける度にボリザル自宅へ掛けてみるが、留守電にもならない。本当は今夜会ってもっと話をしたかったのだけど無理かなと諦め、映画祭スタッフが今日のプログラムが終わった後でゲイバーで飲みましょう、と誘ってくれていたのに加わることにする。先程の通訳さんに電話をして時間と待ち合わせ場所を決めて、それまでの時間ホテルの近所で座り込んで何をするでもなくだらだら過ごす。蚊に食われる。
雑誌のおまけ、多分一冊だけ見本で出してるんだと思うけど
10時半頃、待ち合わせ場所のセブンイレブン前に行くと、既に女の人が二人座って待っていた。一人はさっきの通訳さん、も一人は会場で会ったスタッフ、歩き出すとすぐ他のスタッフも加わってお店へ向かったが、しばらく歩いたところで一人が携帯で話し始めてみんなでなにやら相談を始めて、急に来た道を戻り始めた。通訳さんに聞くと「行くつもりだった店がまだ開いていないので、別の所に行きましょう」と言う。着いた先は自分たちが以前泊まったホテルに妙に近い所にあるバーで、店内にはボックス席とカウンター席とある。一番入り口に近いボックス席に陣取って、「カッスー」というビールを飲みながら主にさっきの女子2人組と話す。映画祭のディレクターもいるんだが、彼は英語が話せない、と言うので自然とビアン2人との会話になるが、通訳じゃない子の方は会場で会った時と打って変わって良く喋り良く騒ぐ。彼女が好きだという広末涼子の近況を教えると、「イメージが壊れるから、もう止めて」と喚いてたいへんだった。滞在中、色んな人に聞いたがゲイ人気があるのはやっぱウォンビン、ということであった。新しい人もきっといっぱいいるのだろうけど、数年前に聞いたのと変わらんな。最初話をしていたビアン元カップル(書き忘れたがそういう関係だとさ)が帰ると、残ったスタッフそしてその友達、などでまた話し込む。こんどはいつの間にか日本語の出来る男の人が居て、「この辺り(鐘路)はやや年輩のゲイが来る傾向がある」などと教えてくれる。ようやっとディレクター氏とぼちぼち話を始めるが、この映画祭、会場がいままで無料レンタルできたのが今後有料になるので、来年以降の開催はあやしい、との事、しょわしょわ。
祝日休なのか何なのか聞きそびれたが、結局スタッフが最初に「連れて行く」と言っていたバーに移動することは無く、時間は深夜をかなり回り、飲み会はお開きとなった。自分たちは歩いてホテルに戻る途中さっきのセブンイレブンで夜食を買う事にし、自分はおむすびを買ってみたがパッケージからでは具がなんだかさっぱり判らないのであんまり辛そうじゃないヤツ、と勘で2つ選んだら、見事に両方とも激辛であった。