2008.0212, tue_Pt.2
売り切れるとシールが上から貼られます
ジョンと別れ、ハイアットのゴールデンベアー・ラウンジに向かうと、まだ僕らのチームは誰も来ていない。受付のおねえさんが「作品名と時間を」と聞くので「Hatu-koi or First Love, 20:15」と答えるものの何でか通じずおねえさんは語気を強めて「だから、時間は?」と聞いてくるので往生する。「僕らは7時からここに入っていいと聞いてますけど…」と弱々しく答えるがお姉さんはますます語気荒く「だ か ら じ か ん は っ!!」理由が全く判らないがこれで4人目のドイツ人を怒らせてしまった。今日はそういう日なのか。困っているとマリアが来たので助かった、あのさ、と話しかけると彼女はかなり緊張した顔をして「ああやっと会えた、ちょっとちょっと」と面食らっている僕らを掴まえ、「トラブルなんです、上映テープに問題があるとの知らせが劇場から入りました」と言う。おいおい。よく聞くと、映画館で最終チェックをしたときに問題が見つかり、僕らが用意した上映用テープは使えないとの連絡が本番1時間前の今になって来て、詳しい状況はマリアも知らないようなのだが「代替の上映素材はありませんか、と言っています。直截担当者と話してもらえませんか」と携帯でどこかに電話を掛け、僕に寄越した。英語か…。
怯んでいるヒマもなくテクニカル担当者と話す羽目になり、やはり聞いたところでは上映テープはNG、バックアップがないなら「PREVIEW」の字が入ったサンプルDVDで上映するしかない、などと言っている。それは何としても避けなくてはいけない(イマイズミコーイチが自宅のMacで焼いたヤツだし)、と思いついたのはさっきジョンに渡したDVD、あれならまだマシだ。ちゃんとスタジオで作ったものだし、あれを一旦返してもらおう。マリアにその事を告げると「じゃあジョンを掴まえましょう、彼のことは私も知っている」と言って僕が教えたジョンの携帯番号に電話を掛けている。つながったようで、マリアは何か会話している。話し終えるとしみじみ、「ジョンはほんといい人だわ」とつぶやいた。「今から返してもらいに行きます。彼がここからちょっと離れたフリードリヒシュトラーセに行ってしまったのだけど、タクシーで行けば間に合うと思う」だそうなのでマリア、イマイズミコーイチと共にラウンジを出、とそこへテッペンくん、田口さんヒロくんが相次いでやってきた。一瞬迷ったものの自分はマリアに付いていくことにし、手短に事情を説明して4人にここで待っているように言って、さ、行こう。田口さん、監督をよろしく。
「初戀」プレミア上映招待券(の束)
タクシーを拾い、助手席に座ってるマリアに「で、テープは結局どうなっちゃったのかな」と聞くと「私にも詳細が判らないけれど壊れた、と聞いています」と済まなそうに言う。冷静に見えるけれどマリアも焦っているようで、「あ、私のファイルがない」とか「ペンがない」などと叫んだり、僕が渡したジョンの番号が書いてあるメモをくしゃくしゃにしてしまったりするので自分は、「ファイルとペンは僕がずっと持ってるよ、リラックス、マリア」と宥め、しかしどうしてこんな展開かねえ、と苦笑するしかない。夜の街を飛ばして川沿いの橋近くで車は止まり、「ちょっとジョンを捜してくるから待ってて」とマリアは車を降りて、しばらくすると遠目にどこかのお店からジョンが出てきたのが見えた。よかった。ジョンは車内の僕に笑って手を振り、自分も手を振り返した。ベルリンに関しては僕ら、どこまでも彼のお世話になる星らしい。とって返す車内でマリアは「ジョン、ほんとにいいひと」「ベルリナーレってとこはもう信じられない」「みんな(僕らのことです)優しい。これが松竹(山田洋次監督作「母べえ」配給)だったら殺されてる」の3つをかわるばんこに言ってました。大変だね…。
ラウンジに戻って4人と合流し、おそらく発狂しそうになっているはずのイマイズミコーイチに「取り戻してきたよ」と告げ急いで上映館に向かう。今日のプレミア上映はソニーセンター地下の「CineStar3」、劇場前にはかなりのお客さんが並んでいる。あ、マティアスが来ている。彼は僕に携帯を差し出し、「ドイツにいる間はこれを使ってね」と言う。簡単に使い方を教わり、ありがとう。「ごめん、今日は映画を観られないけれど、今度観に来る」まずはテクニカル担当者のアンドレ氏が説明をしてくれ、「直前テストでテープが止まり、デッキから出てこなくなりました。原因不明です。デッキを分解しテープを取り出しましたがこのテープを使うことは危険だと判断しました」次いでパノラマセクションの担当者(女性)が「テープに不具合はありますが、何とか再生は出来るようです。ただ万が一のことを考えてDVDを同時に走らせ、何かあったらそちらにスイッチします。また上映状態がベストでないことを事前にお客さんにはアナウンスします」だそうでここまで来たらもうはい、と言うしかない。いろいろ心配で間が持たないのでマリアに冗談で「今日は売り切れなんだよね、チケット欲しい人がいるかも知れないから招待券をここで売ってみたら?」と言ってみるとマリアは「そうね」と事も無げにチケットをカバンから取りだし人混みの中に行ってしまった。10分押しで開場が始まり、お客さんはどんどん中に入っていく。やがて帰ってきたマリアが「5枚売れたから40€ 」とちょっと得意げに言うので僕らはすげー、と大笑いする。マリア、オフィシャルダフ屋をする女。この40ユーロであとでビールでも飲も。自分はゴールデンベアー・ラウンジが堪能出来なかったのが惜しまれるが、まあ仕方ない。司会の男性がやってきて「最初の挨拶は監督だけでお願いします。終了後のQ&Aではみなさん出てください」との簡単な打ち合わせがあり、通訳さんにも案内されて僕らも劇場に入る。
入場風景
お客さんはあらかた入っている。司会に呼び込まれてイマイズミコーイチが短い挨拶をし、おそらく上映状態について話しているのだろう、司会がちょっと喋ってから上映が始まった。ドキドキもんである。冒頭は品質に問題ないように思えた。しかし後半、やや画質が悪くなったりコマが詰まったりするのでもしかしてDVDに変更したのかも。音に関してはちょっと許容範囲外のひずみ方で、聞いている自分としてはかなり辛い。今日はプレス試写を兼ねているせいか、容赦なく帰っていく人もかなりいたけど、お客さんが笑ったりしてくれているのでちょっと安心した。お願い、止まらないで。
なんとか上映終了。拍手が起き、司会者が再び登場してイマイズミコーイチを呼ぶ。彼が呼び込む形でヒロくん、テッペンくん、自分の順でスクリーンの前に立つ。田口さんはご本人の希望で舞台には出ずに客席から僕らの写真を撮ってくれている。それぞれが挨拶を済ませるとまず司会者が監督に質問をしてくる。さすが、と言うべきかいきなり「では質問のある方は?」「…」といった事態を避ける為のテクニックであろう。彼は英語で「まず、2人しかいないインディペンデントのプロダクションでこれだけの作品を作り上げたという事実は驚嘆に値する」と言ってくれた後で「この作品を作ろうと思った動機は何ですか?」と質問してきた。イマイズミコーイチは、まあこれはよくある質問ではあるのであまり考え込まずに「ゲイ映画というものが━特に日本では、ですが━とても数少なく、あったとしてもヘテロセクシュアルの製作者によるものだったりなどしてあまり自分が観て満足できるようなものが無かった。自分は最初から映画監督になろうと思っていたわけではないけれど、いつまで待っていても誰も作らないのであればじゃあ、自分で作ろうか、と思ったのが動機です」と答えるとお客さんと司会者から拍手。回答に拍手を貰ったのは初めてかもしれない。次いで「実際はどのくらいの期間をかけた、どんな現場だったんですか」との質問がやはり司会者から来た。これも今まで良く聞かれてきた質問なので割と詰まらず答えていたと思う。やがて会場からも質問が出たがいきなり日本語で来たのでちょっとびっくりする。後で聞いたらこの人は大阪で映画祭をやっている人のようでしたが、音楽について自分に質問をしてくれたので…他のお客さんにとってはどうでもいい内容かも、と思いつつも答える。
30分くらいQ&Aをしていただろうか、これまで参加した映画祭と違うのは「(出演者あるいはそこに立ってる)みなさんはゲイですか?」といった類の個人的なことに質問が無かったこと。ヨーロッパという土地柄と、これがL&G映画祭ではないことを考えれば当然かもしれないが。結局主演2人には質問が出なかったが最後に一言ずつ、と挨拶をして自分はセコくも「あの、日本からCD持ってきたので興味があったら声をかけてください」と弱気な宣伝をして(手売りならしていいと確認は取っていたので)Q&A終了。さっきの、質問をしてくれた最前列のお客さんと劇場内で話し込んでしまい気づくとほとんど誰もいない。外に出るとまだ次の上映があるのでそれを観に行く人はわ~っと帰っていき、そうでない人の中で話しかけてくれる人もいる。ユニジャパンの方が来てくださり、「大変だったねえ」と(テープのことを)労ってくれる。はい、しぬかとおもいました。
主演俳優二人、駅には体重計があったりなど、を発見の図
で、どういう約束だったのか忘れましたが(過労死バーで約束したっけ?)気付けば僕らはまたジョン・バダルと一緒におり、本日はご迷惑をお掛けしましたの挨拶などをマリア共々したりしている。ジョンは「今日はブルース・ラ・ブルースのプレミア記念パーティーがあるから一緒に行かない?」と言う。マリアはでかい真っ赤な招待券を5枚取り出しながら「会場はすっごく有名なゲイクラブだから行ってみたら?友達がとてもいいクラブだ、って言うので私も行きたいのだけど今夜は無理なの」と言う。じゃあ行こうか、と5人で決め、ジョンに付いて別の映画館前に行くとそこにはさっき再会したパク・ジンがいる。終わったよ~プレミア、と抱きつくと「どうだった?」と聞かれたので「テープ壊れた」と言うと真顔になり、「大丈夫?」と心配してくれる。「上映はキャンセルにはならなかったけどクオリティが充分でなくて、でもお客さんはいっぱい来てくれたよ」と告げるとちょっと安心したような顔をした。オールオッケー、と言えないのが悔しいが、仕方ない。ここで田口さんとヒロくんがジンを発見して驚愕して駆け寄ってくる。彼らもソウルで会っているが、それにしても半年以上振りのはず。こういうのをおもろいと感じてくれるといいのだけれど、取りあえずキャー、ですな。
韓国でよりあからさまに活き活きしているパク・ジンはおかしなハイテンションのまま、「ブルースのパーティーに行くのか、気を付けてねうへへへへへ」などと訳の判らないことを言いながらSバーンのポツダム広場駅に消えていった。残されたジョンと僕らはUバーンのポツダム広場駅から地下鉄に乗る。未だ使い方のよく判らない切符、5人分のがあるから往復すれば今買うより安いよね、と使ってしまうことにする。駅には改札は無し。切符はホームの手前にあるチェッカーで最初に乗る時に刻印を押すだけでその日いっぱい(翌日午前3時まで)は何度乗ってもいいのであるが、こりゃ無賃乗車するやつ居るね、と言っていたら抜き打ち検査があってもしばれると40€ (6,440円)の罰金を取られるそうです。小心者にはできないな。電車を一回乗り換え、着いた駅(名前忘れた)からちょっと歩く。やがてやってきたクラブは、表に面している店はカフェバーなのだがその「中を」突っ切って地下に降りていくと入り口がある、という初心者は絶対見つけられないような所にあるSchwuZというクラブ。今日が初日のブルース・ラ・ブルースの映画「OTTO」プレミア記念パーティーであるが現在それを映画館で上映中なので、関係者や観客の大半はまだ来ていない、のでガラッガラ。このほうがよい。
会場には映画のイメージで血まみれのベッドなどがあってなかなかよろしい。
この先かなり朦朧としてきたので箇条書きにします。
・香港L&G映画祭のヴィッキー・ホーに会う。キャー。
・インドネシアの映画祭の時にバリで会ったフランスの映画会社シャチョー、フィリップ・タスカに再会する。キャー。
・数年前ジャカルタで会ったドイツの映像作家に偶然出くわす。どわー。
・ヒロが急に突撃取材を始め、田口さんとコンビでパーティー客を激撮して回る。
ふらつきながらも写真は撮る
とにかく今日はいろんな人と一気に再会してしまったのですごかったねえ、さて帰ろうか、とジョンにさよならを言って例の出口にあるレストランまで行くと「あ、でもビール飲みたい」と誰かが言いだし、席に着いて自分はあれ?なんか目が回るぞ、とテーブルにうつぶせになったらそのまま起きあがれなくなってしまった。アルコールは一滴も飲んでいないのだけどこれは何だろう、後で気付いたら今日は朝飯以来何も食べていなかったので貧血だったのかも。しばらく記憶が飛んで、起きられるようになった自分は店の外で煙草をふかしていた。夜風が気持ちいい、が寒い。帰りたい、とうろうろしながらその辺の写真を撮ったりしたが誰も出てこないので店内に戻ると、ちょうど「そろそろ帰ろう」という感じだったらしくみんな席を立った。最後の力を振り絞ってタクシーの運転手さんに「イビスホテル、ポツダマー・プラッツ」と告げて走り出した車は存外あっという間にホテルまで僕らを送り届けてくれた。
[明日からの目標]:一日二食は食べること。
2008.0211 ベルリンへ
2008.0212 プレミアまで
2008.0212 プレミアから
2008.0213 オフ、撮影1件、被取材1件
2008.0214 上映二回目、Teddy Award
2008.0215 上映三回目、被取材1件
2008.0216 上映四回目
2008.0217 帰日