2014.0515 THU

朝ごはんは6時~10時の間に1階のレストランで、ということなので日付の入ったバウチャーを片手にふらふら降りていく。エレベーター内にはレストランの看板メニューが写真入りで掲載されているが、イマイズミコーイチは食い入るようにそれを吟味し始め、でもまあこれは夕食メニューだから、とは言いつつその後もチェックアウトの日まで毎回エレベーターに乗る度に体ごと壁に向かったまま「クメール・カレー…」などと呆然と呟くのでした。レストランに入ると誰もおらず、バウチャーを渡して席についてメニューを見る。クメール式と西洋式(いわゆるコンチネンタル・ブレックファースト)が選べるがクメール式の麺を頼むことにする。イマイズミコーイチはビーフン、自分は黄色い麺にしてみました。一緒に頼んだフルーツジュースは果汁100%ではないのでちょっと…でしたが麺はうまかったです。フォーとも違うあっさりしたスープ。

食後はまた部屋に戻ってずっと寝ていました。
今日はまだ観光とか止めておこう(暑いし)。


「眺めのよい部屋」

で時間はあっという間に6時くらいになり、夕飯を食ってから会場に行こう、とまたレストランで食事。イマイズミコーイチはエレベーター内で研究していた「魚のスープ(クメール風)」セットメニューを頼み、自分はこのビーフ・ロックラックと言うのにしてみよう。あとビール。ロックラックは牛肉を醤油などで焼いたものにライムと塩胡椒を混ぜたソースをかけて食べる料理のことを言うらしいがうまい。イマイズミコーイチは自分の料理について「おいしいんだけど、白飯のおかずとしてはちょっと物足りない」と言っていた。

怠惰な事にこれが今日初めての外出になるのですが6時45分くらいにホテルを出て7時前に会場に着く(徒歩)。今日はカンボジアのレズビアンに焦点を当てたドキュメンタリー短編3本の上映がある。会場には灯りに寄ってくる虫を狙ってヤモリがわらわら出てきていてうれしい。さて上映開始。

"NO MATTER WHO WE ARE" Prum Veasna
複数のカップルの、出会いから現在までを本人や家族へのインタビューで構成したもの。双方の家族にも受け入れられまったく問題なし、なカップルもあれば病身の「妻」を抱え一人で家計を支える、といったちょっとこれはどうにかならないかという厳しい状況にあるカップルの姿も映し出される。

"TWO GIRLS AGAINST THE RAIN" Sao Sopheak
ニコの奥さんの監督作で一昨年のベルリン国際映画祭で上映されたもの。クメール・ルージュ政権下の強制労働と集団生活をさせられる中で出会い、紆余曲折を経て今も一緒に暮らす50台のレズビアンカップル。最初は拒絶されていた家族や近所の人からも段々と(なし崩し的に)受け入れられている様が描かれる。というかカンボジアでこの御年まで良くぞ生き延びて、という姿に打たれるのみ。

"DAUGHTER AND THE PALMAE BLOSSOMS" Polen Ly
双方の両親に恋人と別れさせられ、結婚を強要された女性が家出をして新しい恋人と「結婚」するまでのドキュメント。


やもりくん(ともだち)

上映後にSaoとPolenの2監督がQ&Aに立つ。印象的だったのは「全ての映画の中で『夫』『妻』とわざわざキャプションを入れていたけれど、あれはどういった意図なのでしょうか、呼び分ける必要があるのですか?」という質問。自分もちょっとそう思っていたので。どっちの監督が答えたのか忘れましたが「観れば判ると思うのですが男女の夫婦のような役割分担をしているので、ああ表現するのが自然だと思いました」とのこと。どうなんだろう、本人たちがどう呼ばれたがっているのかは直接訊いてみたい。

上映が終わって監督にあいさつする。サオ(ニコ妻)とは昨日会ったね、ともう一人のポレン監督はまだ若い男性。カフェでビールを飲みながら話だす。何かご飯頼んでるなあ。「カンボジアではご飯はみんなで分けて食べるから、ほら」とサオは言ってくれるのだが飯はさっき食ったし、と一匙だけいただき、ああでもビール飲んでいたらフレンチフライが欲しくなってきた、と注文してしまう。「まだカンボジア料理をちゃんと食べてないの?じゃあ明日ランチを一緒にしましょう。ホテルは近いの?じゃあ明日の12時半にここで待ち合わせましょう」とサオはどんどん予定を決めてくれる。彼女は自分らが日本でどんな風に自主映画を作っているのか聞くと、カンボジアでの映画制作の様子を教えてくれた。「劇映画は大変で、撮る前に脚本をお役所に届けないといけないので大抵検閲でずたずたになっちゃう(最近インドネシアもこんなことを始めていなかったか)、あとヌードはだめなのでセクシュアルなシーンがある映画は外国映画でも公開できない」と横から「この場所(Meta House)は政府から資金をもらっていないからそうした上映の規制はないけど」とニコ。あと自分が音楽を作ってる、というとすごく驚いたようで、「カンボジアのいわゆるコンテンポラリー音楽を作っているミュージシャンって皆無なの。J-POPやK-POPのコピー音楽みたいのを仕事としてやってる人はいるけど。今日の一本目の短編の曲も60年代のカンボジアン・ポップスだけど、結局それ以降に作られたもので使えるものが無いのよね。でも私はいま作られている映画に付けられる音源が60~70年代前半くらいまでしかないのは不自然だと思う。だからいつも苦労する。自分でも作り方を勉強してるけど、なかなか難しい。」…またポルポトか。クメール・ルージュ以前の系譜に直截つながらないとしても、そろそろ独自な音楽が出てくる時期なんじゃないかと外国人は勝手なことを考えていた。


ソムダッチュプリヤバロムニアット・ノロドム・シハモニ国王

「今の国王はゲイなの、フランスが長かったから」とサオは何度も繰り返す。フランスだから、と言う表現は短絡的に過ぎるがまあ、そう言うことですね。ただそれは必ずしも国民に好意的に受け取られておらず、国王が国権を完全に掌握できていないとも。また前国王シハヌークは同性愛者への支援を表明していたが、差別を禁じる法案は棚上げになったままだとのこと、とこれは今日観た短編の中でそんなキャプションがあった。国王が性的少数者にも寛容もしくは寛大である分にはよいが、国王そのものが性的少数者である、となると話は別なのであるだろうか。政治家がカムアウトしても問題ない国はいくつかあるけれど、国王がカムアウトできる王国、は実現がより困難でもあるだろう。「王様は伝統の担い手であるべき、と未だに国民の大多数は思っているから」とサオ。それでもシハモニは独身を通しているらしい(そして検索して見つかる彼の写真はどれも、どうも眼が笑っていないように見える)。お誕生日おめでとうございます、陛下。極東から来たサルは陛下の余生が平安である事を祈ります。その他下らない話をつらつらして、土産の羊羹を喰わせたりして(サオは結構気に入ったみたい、ポレンは「おいしい」とか言いつつあんまり進まないので微妙かも)からそろそろ帰ろうか、明日12時半にここで、と別れてまたスーパー寄ってから部屋に戻る。あ、明日は『すべすべの秘法』の上映だわ。


2014.0514 出国、プノンペン1日目
2014.0515 プノンペン2日目
2014.0516 プノンペン3日目、『すべすべの秘法』上映
2014.0517 プノンペン4日目
2014.0518 プノンペン5日目
2014.0519 プノンペン→シェムリアップ1日目
2014.0520 シェムリアップ2日目
2014.0521 シェムリアップ3日目
2014.0522 シェムリアップ4日目、帰国