2014.1210 Miyerkules
朝食アゲイン、私はついにお湯を発見した。テーブル上ではなくて角っこのウォーターサーバーからお湯も出るのでした。自分は嬉々としてティーカップにティーバッグを入れ(て取り出さず)、真っ黒な紅茶をそのまま飲む(喉風邪に効く筈)とそこへジェルが「同席してもいいですか」とやってきたどうぞどうぞ。ジェルは開口一番「昨夜はゲイバーに行ったそうですね、どうでしたか?」と笑う。何だろうこのホテルをチェックアウトするときに有料ビデオ観ましたね、とか言われたような感じ。「ええとたいへんインプレッシヴで」としか言いようがないが、ジェルは聞いているのかいないのか「日本にはああいう店は無いんですか?」と昨夜同行したタイの監督ティティパンと同じ質問をしてくるので「基本的に、無い(おおっぴらにやったら違法なので)ことになっております」と答える。「でもああいうボーイのおちんちんってすっごい大きいですよね。『ホントに同じフィリピン人なの!?』って思いますもん」とジェルは飯をばくばく食いながら言う。「で、話は変わるんですけど日本のゲイビデオでゴーグルした人がよく出てきますけどあれは何でですか」「マサキ・コーと言う人は知ってます」「ニックにあなたからのお土産のゲイ雑誌をもらったんですけど、すごいですね」などと矢継ぎ早に言うのでこっちのフォークを動かす手は止まりっぱなしである。かつジェルはとりわけ日本のボーイズ・ラブが好きらしくいろいろ聞いてくるので「明日君が空港に迎えに行くアキコ・ミゾグチは何と偶然にもボーイズラブの専門家だから、僕よりもっと詳しく話が聞けると思うよ」と逃げてみましたミゾグチさんごめんなさい。
さて途中からスウェーデンから来たと言うゲスト男性(ビルという名のおっさん)が同席した。非常に良く喋るがどうも映画監督ではないようで、じゃ何か、と言うと聞いた範囲では「アクティヴィスト」としか思えない感じで何か世界各地で活動しているみたい。「10時半からのセミナーには行くか?」と訊くので何だっけそれ、とプログラムを確認してみると今日から3日間は朝のコマで連続トークセッションみたいなのをやるようですが映画を観るのなら兎も角、全編英語であの寒い劇場に2時間くらい居るのはぞっとしないので「どうかなあ」と誤摩化してまあ13時からの短編集に行けばいいか、と腹を決める。そして朝食で会ったほぼ全てのインターナショナルゲストの皆さんに「昨夜はゲイバー、行ったんだって?(ニヤニヤ)」と言われるのでした。悔しかったらあんたも来れば良かったのに。かるく打ちのめされつつ部屋に戻ってぐだぐだして(微妙にWiFiが弱くてベッドに寝っ転がって、だと切れる。廊下に近づくと入るんだけど、信号は入ってもネットにつながらなかったりする)、昨日もらった映画祭グッズをひろげたりしまったりしていたらそろそろ時間。
ポスターTシャツカタログその他いろいろ
13時からの短編集は結局何をやるのかいまいち判らない(プログラムには「短編作品」としてまとめられているだけなので)ので劇場に向かうがやはり判らない。さすがにこの時間帯は空いてるかな、と思うがその前のセミナーが押しているらしくまだ始まってない。しばらく近辺をうろうろして戻り、流石に人はまばらな昼の上映開始。カンボジアのレズビアンドキュメンタリー(これはプノンペンで観て、監督くんにも会いましたがヤツは僕らの上映に「行くよ!」とか調子のいい事を言いつつ来なかったので2てん)とベトナムのトランスもの、とオーストラリアのレズビアン(たぶん)ドラマで、最後がどうもさっきのスウェーデン人の作品みたいなのだけどショートフィルムと言うよりはプロモーションビデオだな、今はキエフでなんかやってるみたい。みたい、って。しかしこの作品はプログラムにもないしさっきのおっさんもステージに出てくるわけでもない不思議な扱いでした。そして更に驚いた事に、2時間半も枠が取ってあるのにこの4本(1時間程度)でこのプログラムはお仕舞いなのでした。この映画祭は全ての時間割が毎日同じで、判りやすいと言えばそうなのですが運用が弾力的すぎてこの後も、オンタイムに行っても映画がなかなか始まらなかったりするのでした。残念ながら「新たな発見」は無し。
次に観る上映は18時なので4時間くらいある。イマイズミコーイチは日本で髪を切ってくれば良かった頭がボサボサだよ、としきりにこぼすのでじゃあここで刈ってみたら?きっと日本より安いよ、と適当に言ってみると何だか本気にしたらしく「床屋を探す」と言いだしていた。さっきホテルでジェルに訊いたところ「そこの通りをずっと下って何たらかんたら」との返事だったんだけど迷子になりそうだったのでモールにもあるであろう、と案内所で尋ねて教えてもらったのはいわゆるおされなヘアサロンで、ガラス張りの外から見るとガラガラっぽいのですぐできますか、と聞いてみると「ええと、男性をカットできる人が19時まで空いていないので予約はそれ以降です、それか明日」だと言う。ううむ、とプログラムを確認してみると18時からの映画が1時間程度だから、終わってQ&Aを見ずに直行すれば19時半で間に合うかな、と判断して予約する。ちょっとお茶でもしようか、と何故か「東京」とか書いてあるミルクティーの店でものすごく甘いタピオカ入りアイスティーを飲み、イマイズミコーイチはこれまた何故かタコ焼を注文して喰ったりなんぞしておる。自分は例の"SUPERSURF50"がさっきの上映中に切れたお知らせを確認して、改めて"SUPERSURF200"を申し込んだ。これにて一件落着。
で、あと自分は初めて行った国の地図を買うのが趣味なので(そして前回のカンボジアでは忘れた)本屋を探すが見当たらない。案内所で訊いてみると「近くだとナショナル・ブックスという書店がXXにあって、あとフリー・ブックトというお店も地下に」と怒濤のようにインフォームされるので「ナショナル」と言うからには国の地図くらいあるだろう、と行ってみると確かに理想的なウォールマップはあった。ありましたが但し現品限りでえらいボロボロのしか無くお店の人に新しいものは無いですか、と訊くと「無いんです。これだったら半額にしますけど」と言われて流石に半額でも最終手段的、と止めてもう一軒の店に行ってみる。ここで店員に聞くと「シティマップはありますが、国全体のはありません」と地図コーナーを案内される。が、ふと隣の棚の再下段を見るとさっきの店で現品しかなかった例のウォールマップ在庫が普通に陳列されているではないか。笑いをかみ殺しつつさっきの店員に会計してもらおうかと思いましたが彼は電話中でレジを打ってくれず、地図あったよ、とは伝えられませんでした。ホテルに戻ってイマイズミコーイチは速攻で寝てしまい、自分はさっき買った地図をベッドに広げてニタニタしたりしている。「新品」なのだけど相当長期間店晒しになっていたようで外装ビニール袋は煤けている。レジでもスキャンした価格と値札が半額くらい違うので奥で確認してたけど、まあ滅多に売れるもんではないのでしょう。ともあれ私はでっかいのが買えたので非常に満足である。寝る。
でかい
起きる。17時半にホテルを出て…でも劇場まで10分くらいしかかからないのだけど、会場に入って映画が始まるのを待つ…のだがこういう時に限って映画が始まらない。司会のディンディが「監督の大事なゲストが到着しておらず」ってアナウンスするのもどうなのかと思うが結局30分くらい押しで始まったこれから観る映画はゲストで来ているフィリピン系アメリカ人監督PJ・ラヴァルのドキュメンタリー"Before You Know It"で50代以上の「ゲイ・シニア」3人が登場する。妻に先立たれ、未だ親族にはクローゼットなままの白人男性(女装が趣味)、テキサスで長年ゲイバーを経営してきた名物ママ、NYはハーレムのブラック・コミュニティの中で黒人ゲイとして活動するアクティヴィスト、という全く場所もライフヒストリーも違う3人の現在が同時進行する。字幕のない英語作品なのでなかなか厳しいのだけど、年をとればとる程「ゲイ」でひとくくりにできない様相を示してくるのだな、と言う事は判った。上映が終わってQ&A、とさっきのスウェーデン親父が突撃質問、「素晴らしい作品に感謝したいが、一つ言いたい事がある。何故あのクローゼットな爺さんを取材した時に『とっととカムアウトしろ、そして残り少ない人生を楽しめ』とケツを引っぱたかなかったのか」えええええ、な質問であるが(本編を観れば対象と悶着しながら撮影してくスタイルじゃないのは判るだろうに)この無茶振りにPJはどう答えるんだろう、と興味深く聞こうとしていると自分らの席にスタッフの子がやって来た。顔は何となく見覚えがあるけど初めて話す子だ。
「ええと急なのですが、これからケソンシティプライドの代表がインターナショナルゲストを招いてディナーがありますので一緒に来てもらえますか」「え、今すか?」「今です」散髪はどうなるの、という事をこの子に言ってもなあ、と思いつつ劇場の外へ出る。とそこにチャムが居たので「あの、これから夕食って本当?」「ええ、もう車が待ってます」「7時半から散髪の予約しちゃったんだけど」「前払いでした?」「いえ」「じゃ、飛ばしちゃって全然オッケーですよ」ってポイントはそういう事ではないのですが僕らも押しが弱いので諦めて付いて行く。質疑応答真っ最中のPJは兎も角として、「インターナショナルゲスト」も全員が居るわけではないジョンはどこ。でも次に上映するカンボジアの監督ヴァナとおかあさんも招集されてるのでどうすんでしょう。バンは混雑する道を疾走して目的地に着いた。のは「SAISAKI」と書いてある「ジャパニーズ・レストラン」ですがサイサキ、って何だろう(「幸先が良い」のサイ/サキ?)。店に入るとブッフェ形式の広大な食堂の奥に映画祭&プライド関係者が陣取っており、みんなワシワシ喰っておる。ここは唯一の日本人ゲストとして是非お味の判定を、とかそう言うことは全く期待されていないのはすぐに判ったので気楽なもんですがそもそも韓国料理なども混ざっており(料理の前に国旗が付いているので誰でも判る)、自分が見たところでは恐らくコリアンメニューの方が旨い。ということで飯碗に米を盛って上に焼き肉を乗せて丼飯を作ったりする(これがフィリピン的に下品な食べ方なのかどうかは知りませんが)。席に戻るとイマイズミコーイチは「メンチカツ、って書いてあったのに取ってみたらトンカツだったんで、これ食べて」とウスラトンカチな事を言っておる。
ヴァナの2本目はこれ
店全体がとにかく賑やかなので「関係者と会食」という感じは全く無く、めいめいが近くの人と話をしながらどんどん食べて、なので何で今ここで急遽お食事会なのか最後まで判りませんでしたが向かいに座っているヴァナが「そろそろ戻りたい、自分の上映に立ち会わなくちゃ」と至極当然な事を言うので自分らも便乗する事にした。店を出ると映画祭のバンがまだ来ていないのでまずヴァナとお母さんがタクシーで先発し、割とすぐに来たバンに乗って自分らも会場に戻る。劇場に入ると魂消た事にPJがまだ質疑応答をしていた(1時間以上やってたことになる)。自分らは狐につままれたような気持ちになって、果たしてさっき食べた海老天他はリアルなんだろうか、と1時間前と同じ辺りのシートに身を沈めると、今度は割と時間通りに映画が始まった。彼の作品はドキュメンタリーが2本。一本目はミドルエイジになったMtFセックスワーカーを撮った"KARMA"、家族に受け入れられずに家を出て、首都プノンペンで売春をしながら生計を立てていた主人公はやがてHIVに感染する。今は同じくセックスワーカーをしている年下のトランスの子と猫と一緒に暮らしながらあまり仕事もできずに日々を暮らしている。二本目の"LIFE UNDER THE RED LIGHT"はもう少し若い、20代後半のMtFトランスと言うのか女装の子と言うのか(もうこの辺りになると自分には正確に表現できない)がファッションデザイナー兼モデル兼セックスワーカーをしつつの自分を語るドキュメンタリー。どちらも生温いジャパニーズからすれば苛烈と言うにはあまりに日常的な苛烈、監督もカンボジア人として見慣れた光景なのでしょうが(もちろん問題意識があるから撮っている)非常に淡々と映すのでそれが非常に迫って来る。ただ一本目の上映中にトラブルが起き(映像が止まってしまい)あああああ、と思っているとやがて再開されたのですが何か違う。映像が妙に高画質になっていて字幕のフォントも違う。自分は一瞬これが二本目か、と思いましたがやはりさっきの続き、なんだこれは。
と自分がざわざわしているうちに上映は終わってしまい、質疑応答が始まった。どうしようか、少し聞いて行こうかと話しているとジョンから携帯にメールが来た。「今どこ?友達と夕飯を食べに行くけど一緒に行く?」ああそうだったそんな話もしていたからさっきの「日本料理店」ではセーブしていたんだった、とヴァナには申し訳ないのだけど中座して会場の外に出る。劇場の外にはジョンが居た。今日はもしかして初めて会うのかも、「ハイ」「今日は何してたの」「打ち合わせ」「僕らはいきなり拉致られてジャパニーズレストランに行って帰って」「???自分もその時劇場に居たんだけど、見つからなかったみたいだね」などと話をしながらモールの外に出る。「車で来ている筈なんだけど…」とタクシー待ちの列を追い越して車止めの辺りをうろうろしていると「あ、いた」お迎えの車が滑り込んで来た。運転席には眼鏡を掛けた中華系っぽい男性が居て、ジョンのフィリピンの友人のようだ。かるく初めまして、の挨拶をしたのち車は走り出す。アランと言う名のその友人はどうも映画関係の人らしく、助手席に座ったジョンとずっとそんな話をしている。道は結構空いてるなあ、と思うが結構遠くに来たんじゃないかな、と携帯で地図を見ると現在地は既にケソンではなくほぼ真南のどこかで、マニラ(南西方面)でもない。やがて着いた所には広場一面にテントが張られた屋台村で、ジョンによると「好きなものを選んで買えて、しかも安い」だそうでとにかく白いテントにライトが煌煌と光って美しい。車止めてくるね、とアランはどこかへ消え、ジョンと自分らは一足先に場内に入って敷地の一番端っこに席を確保する。「自分はここで彼を待ってるから、先に行っていいよ」とジョンは言ってくれるのでわ~い、と駆け出す僕ら。全部が全部フィリピン料理ではなくてピザとかケバブとかもあるなあ、イマイズミコーイチは「どうしよう…自分が食べられるかどうか判断付かないものがおいしそう…」と微妙な感じで悩んでいると、駐車場から帰ってきたアランが「そこのフルーツシェイクはすごいおいしいから飲んでみたら」と教えてくれたのでではそのマンゴーだけで2つ作ってください、と注文する。シロップもあまり入れない感じでマンゴーと氷、あとで気付いたが透明なゼリーが少し入っていて確かにすごくおいしい。ニコニコしながら戻ると「それだけ?」と2人に笑われるが「まずこれ飲んでるから、買ってくれば」と送りだす。
夜食市場
結局のところ全員そんなに空腹でもなかったようでアランがスパイシー肉炒め、ジョンがソーセージに焼唐黍、自分がフライドチキン+ライスでイマイズミコーイチは散々迷って白飯のオムライスに野菜炒めをかけたようなものを食べる。あとキャッサバの餅みたいなの(甘さ控えめ)とこれは本当に米の餅にココナッツと黒砂糖(激甘い)デザートなど。で、ここは結局どこですか、とアランに聞くとケソン市の隣の「マンダルーヨン市」だとのこと。ここのフード広場はとても有名で、曜日は忘れたけど週に3日、朝の5時までやっているそうだ。何でもあるけどお酒はないねえ、と言うとアランは「多分近くのお店でビール買ってくる方が安いから、売れないんだと思う」そして4人でDCPって悩ましいね、と言う話をして(「でも一度作っちゃえば後はコピーだけだから扱いがラク」とジョン、「フィリピンだったらまだ安く作れるかも10000円くらいで」とアラン)そうですか、でも今回はBlu-rayでいいや。そろそろ帰ろうか、と車に乗り込む。外は全然暑くないけど駐車場は流石に熱気が籠っている。今来た道を戻る車中でジョンは「マニラもジャカルタみたいに渋滞がひどくて移動がままならない。ジャカルタの人は『ジャカルタよりも悪い』とかいってあんまりマニラに来たがらないけど、自分の印象ではまあ、同じだね」ホテルまで送ってもらってアランにお礼を言ってバイバイ、ホテルにはまだゲストやスタッフが幾人か居る。あ、明日はミゾグチさんのお迎えよろしくね、彼女は現地で使える携帯を持っているから何かあったら架けてみて、とロビーで会ったジェルに言うと「では番号を教えておいてもらえますか、あともしあれば顔写真もください」とか言い出すのでおいこらミゾグチさんの番号は昨日われの携帯に送ったやんけ「ありがとう!!!グッナイ!!!」とか返事を速攻で寄越したのはどこのどいつじゃぼけ。と言いたかったのでしたがこの子はこういう子(でそのうちどっかに行っちゃった)。自分は敗北感に打ちのめされつつミゾグチさんのfecebookページから勝手に取ってきたプロフ写真に現地番号を再度添えてジェルに送信、するとすかさず "Thanks Iwasa, Good night! :)" みたいな返事が来たんです。来たんです、って宇能鴻一郎か。
2014.1208 1日目:到着
2014.1209 2日目
2014.1210 3日目
2014.1211 4日目
2014.1212 5日目:『すべすべの秘法』上映
2014.1213 6日目:ケソン・プライド・マーチ
2014.1214 7日目
2014.1215 8日目:帰国