2014.1211 Huwebes

今日も終了時間ギリギリで(というか一応朝食は10時まで、となってはいるのだけどそれを過ぎてもみんなだらだらと飲み食いしており、食い物もいきなり片づけられたりはしない)ロビーに行くとそこにはジョンが居たので一緒に朝ご飯を食べる。今日も朝はセミナーだけどジョンも行かないと言うし、自分らもだな。ジョンはプログラムを眺めつつ「今日1時からの映画は観た事ある?無かったら観たら、すごくいいフィリピン映画だから」と言うのでそれには行くことにした。映画祭ではできるだけ映画を観る(タダですし)事にしているが、残念ながら今回一番関心のあったフィリピン映画は何故か自分らが帰国する15日と翌16日に集中しておりほとんど観られない。そもそも最初の話では映画祭は12月9日~14日で開催予定ですので8日~15日で来てください、と言われていたのだったが、おそらく上映作品がプログラムに収まりきらなくなったため間際になって2日延ばしたのであろう。でも大体のインターナショナル・ゲストのスケジュール(航空券など)はすでに8日~15日で手配してしまった都合上海外ゲストの作品をエクストラの2日間でやるわけにはいかず、従って最後の2日はフィリピン映画ばかり、になったと思われる(判っていれば映画祭の最後まで滞在を延ばしたのに、と悔しい)。


会場へ行く途中にある「ヒロシトラック」

ジョンはマニラに行ってまたミーティングだと言う。自分らはモールに行って、劇場のすぐ横のヘアサロン(があるのに昨夜になって気付いたのである)で予約が出来るか聞いてみる。「大丈夫ですよ、何時からにしましょうか?」映画が時間通りに始まったとして、かつ上映トラブルも無くて、とか考え出すと何時から大丈夫なのかよく判らなくなるけどまあ15時かな、と予約をして映画“ANG PAGDADALAGA NI MAXIMO OLIVEROS(邦題:マキシモは花ざかり)”を観る。日本公開当時ばっちり観逃した作品なのですが、もう10年前の映画なのか。マキシモ(・オリヴェロス)、とは主人公の少年の名前、彼はスラム街に父、兄2人と住んでおり(しかしこの4人はお互いさっぱり似ていないのにちゃんと「家族」に見えるのが何気にすごい)母親は既に故人。設定では12歳のマキシモは、まあなんと言いますかレディーボーイ予備軍なのかそこまでは行かない感じなのか微妙ですが一家の中では「母親代わりに家事をこなす娘」的なポジションで、それでも別段「男らしくしろ」とかは言われず暮らしているわけですがそんな彼が地域を担当する若い警官に恋をして…というお話。ジョンの言うとおり「良い映画」でしたがラストシーンのいっこ手前がどうしてこういう展開になるのか、よく判らんでした(何かカットされてるか?)。さて散髪だ(イマイズミコーイチの)。

予約していた店で名前を告げ、別に混んでもいなかったのですぐに順番が来た。隣に居て逐次通訳しないといけないのかなあ、それも迷惑だよな(お店の人に)と何となく思ってましたが「女性美容師:どんな感じにしましょ」「イマイズミコーイチ:ベーリー・ショート」だけで済んでしまったので自分は待合のソファーでスマートフォンに没頭している振りをして髪を刈られる監督を(美容師さんは写さないように)撮影してみました。あっという間に文字通り「丸刈りに毛が生えた程度」のごく普通の仕上がりになってお代は400ペソ(1100円くらい)だったかな、日本で美容院に入ったと思えば全然安い。自分はいい加減な勘でヘアカットのお国柄は襟足の処理に出ると思っているので(以前リスボンで刈られたイマイズミコーイチの襟足は新選組旗の如くダンダラで、笑った)見てみましたが、残念ながらそんなに特徴的でもなかったので、街の床屋さんだったら違ったかもしれない。外で一服して記念写真を撮ってみましたが、至極満足そうな顔で呆けているのですっきりして、良かったね。そう言えば予定ではミゾグチさんはもうマニラ空港に着いているはずですがジェルと会えたかな、と彼の携帯にメッセージを送ってみるが、しばらく待っても返事は無し。


さんぱつ

散髪は予想外にすぐ終わってしまったので、もう始まってるけど次の映画も観てみるか、と劇場の前に行ったら何か空気が不穏である、つうかニックが怒鳴り散らしているのですが誰を、と見ると昨日僕らを劇場からディナーに呼び出しに来たエミューみたいな男の子(どうでもいいけどこの子は恐らく短パンに、上は太ももの付け根までまで隠れるでかいTシャツ、という格好なのでまるで80年代のお色気女の子グラビアみたいで、それはどうでもいいのですがこの冷房のきつい劇場でよく平気だね、と思っていた)で、向かいのポップコーン売り場のおねえさんまで「何ごと」と注目しているほどの激昂ぶり、でニックの怒号の端々を聞いてみると「何故いなかった」「持ち場を離れるんじゃない」「私はそのためにお前に金を払って(スタッフはボランティアではない事をここで確認、まあ予算はあるみたいだし)」「フリーチケット」などと言っている。何だろうなあでも映画は観られるかしら、とインターナショナルゲストはごく呑気な感じでトランスお姉さんスタッフに「入ってい?」と訊くと彼女は「ごめんなさいね(ハイ見ないでね~)」みたいな苦笑を浮かべて入れてくれた。相変わらず寒いシアター3ではマレーシア映画だ、と言う事くらいしか前知識が無い“DALAM BOTOL”を上映中。

自分らが着席したのとほぼ同時に、さっきの叱られていた子が出てきてアナウンスを始めたのでようやく事情が判明する。「皆様、大変申し訳ありませんが手違いにより英語字幕のないヴァージョンで上映してしまっております」「視聴を止めて帰られる方にはお好きな別の回のチケットを差し上げます」おそらく上映が開始時に上映の担当者だったこの子がチェックを怠り、または上映前のアナウンスだけしてどっかに行ってしまい→お客さんからの申告で字幕なし上映が判明→ニック激怒(しかしあの子も最後まで謝んなかったねえ、とイマイズミコーイチ)という事のようでした。それにしても何故、とは思いますが流石にマレー語のみで理解できる人はほとんどいないだろうから映画祭としては大失態でありますね、自分らはどうしようか、英語字幕でも完璧に判るわけじゃないけどマレー語は手も足も出ないねえ、と言っているとおいこら画面上にDVDの字幕選択メニューが出てきて(字幕なし再生モードやったんかい)しかも[→1. MALAY]を選ぼうとしているので違うそっちやない、と気を揉んでいるとようやく[→2. ENGLISH]を選びやがって英語字幕が出ました(今回で既に何度目かですが「大丈夫かこの映画祭」)。

で、見逃した部分をカタログ紹介文などから補うと、最初は男2人のゲイカップルとして付き合っていた片方が「でも本当は女として愛されたいのです」てな事を思っていきなり性転換手術をしてしまい(え?)【ここまでを観逃した】結果振られ(そうね)、男の姿に戻って実家の方で付き合いのある家の女性と結婚を決意(えええええ)というどうしてこんなにまずい方へまずい方へ、というストーリーでして、これが実際に起こりうる話なのだとしたらマレーシアのリアルは非常に厳しい、と日本人としては言うほかはなく、東南アジア圏におけるトランスとゲイの関係と言うか区分というか言葉の意味とかも何だかかなり違うとしか思えませんです。是非ともフィリピン人オーディエンスの感想を聞いてみたいところでしたがニックはさっきまで激高していたし、どちらかというとトランスではなくてゲイの子に聞いてみたいのですが話の出来そうな人が見当たらない(不完全燃焼)。また外へ喫煙しに行くと初めて現地携帯が鳴った。しかし登録していた誰の番号でもないので間違いかな、と一応出てみると女性の声で「チャニだよ〜」と日本語が、あ〜あんたか番号が言ってたんと違ごとるやないか、と言うと「ごめん、これ別の番号」チャニは自分の働く会社で数年前まで働いていたフィリピン人で、今は帰国しているのでもし時間があったら会おうね、と言っていたのだった。「今夜は時間ある?」と言うのだが出来れば明日の上映に来て欲しいのだけどどう?と逆に提案すると「判った、行けると思う」ということで現地でお客さん一人確保。


雪は降らない土地だと思うのですが、クリスマスなので

相変わらずミゾグチさん情報は来ず。で、スタッフがやってきて「今夜はこれからディナーの招待があるのでここに居てください」…またディナーか、つうかどうしてこんなに行き当たりばったりなのか(事前にはかなりきっちりした予定表が来ていたのだけど特に「XX主催のランチとかディナー」のスケジュールがほぼ変更になってるしかも当日変更)と思うものの、どうも市長など多忙な人のスケジュール及び初日の台風でいろいろ玉突きになっているらしかった。仕方ない、でも本当は18時からの“CALL ME KUCHU”が観たいんだけど、とイマイズミコーイチに言うと「イワサくんが観たいんなら付き合うけど、でもご飯なんでしょ?」それはそうなのですが日本でも見逃したし監督も来てるし、ご飯は別にいいんじゃない?とぐじぐじ思っていると他のゲストがシアターに入って行くのが見えたのでスタッフに「あれディナーは?」と訊くと「あ、キャンセルになりましたゲストがみんなこの映画を観るそうなんで」ってそれをオレにも言ってくれよ。ああそうだ明日の上映に友達が来てくれるのだけど招待券出せる?とさっきのトランスお姉さんスタッフに訊くと「勿論。友達には会場でアタシにアプローチするように言って(彼女は実際に"Please tell her to approach me"って、わたしに言ったんです)」との事なので「失礼ながら、君の名は?」「クロエよ、C-H-L-O-E」この人は有能だ、と安心してシアターに入る。ゲストなので、かどうか知りませんが映画の缶バッヂをくれたのでうれしい。

タイトルの「KUCHU」はおそらくウガンダで「Queer」に近い意味合いで使われている言葉なのだと思うのだけど、映画はウガンダで初めてオープンリー・ゲイとして活動していたデヴィド・カトと仲間達の活動を追うところから始まる。折しもウガンダでは国の議会に反同性愛法案が提出され、しかも可決の可能性が出て来た。それと呼応するように現地のタブロイド紙『ローリング・ストーン(アメリカの同タイトル誌とは関係がない)』が「ウガンダのゲイ、レズビアンの実名リスト」を顔写真入りで特集しだした事からデヴィドは雑誌に対して訴訟を起こす。何故こうした法案が持ち上がったのか、何故こうも性的少数者の人権が容易く踏みにじられるのか、という背景を映画は冷静かつ適切なショットを重ねて説明して行く。行く先は全く明るいとは思えない状況下であっても、ごく凡庸でもある彼らの日常の些細なスケッチや、秘密裏ではあっても同性カップルの9周年おめでとうパーティの映像、そうしたアンダーカレントな映像が続くかのように思えた矢先の2011年1月26日、デヴィド・カトはヘイトクライムによって殺害される。この先はもう機会があったら観てくれ、としか言いようが無いのですが激烈に煮えくり返る無常観、ただし生き残った者の人生は続く。Q&Aで監督に「もしデヴィド・カトが殺されなかったら、この映画はどんな結末になっていたのでしょうか」という質問がされた時、自分の頭はちょっと無いくらいの怒りで真っ白に沸騰していた(ので彼女が何と答えたか聞いてなかった)。
ん な こ と 誰 が 判 る か ボ ケ。


"CALL ME KUCHU"

で、ちょっと頭が混乱したまま劇場の外に出た。ああ携帯にジェルからメッセージが来てる、「ミゾグチさんをホテルまで送り届けたので連絡したのですが、電話がつながりませんでした。ミゾグチさんは今ホテルにいますが、これからボクが迎えに行って劇場まで連れて行きます」との事でここで待っていればいいようだ。ジョンも居たので少し話をする。「KUCHU」共同監督のマリカは色んな人に囲まれているので話をしたいのだけど後にしよう、と思っていると通路の向こうからミゾグチさんの顔が近づいてくるのが見えた。来た来た来た来た、と手を振ってお疲れさまですどもどもどもども、と超ジャパニーズライクにお辞儀のしまくりである。ミゾグチさんは去年川口市のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で通訳をされたのでジョンとも会っているが、この4人で会うのは勿論初めてで、しかもジョン以外の3人は初フィリピン、となればまずはフィリピン料理で乾杯でしょう、と移動する事にする。ミゾグチさんにここまで問題は無かったですか、と訊くと「まあ大体は、でも空港からホテルまでが渋滞で3時間以上かかった」そうで「でも迎えに来たジェルが挨拶もそこそこにボーイズラブの話をして来たので(どう考えても私のせいですな)車中でも退屈はしないで済みました、まあ途中寝たり起きたりガイドブックの地図で現在地を確認したりもしつつ」だそうで自分らの時はあれでも空いていた方なのですね。ジョンは「このモールにはもう一軒おいしいフィリピン料理店があると教わったんだけど、店名を忘れた…」と案内所で訊いているがどうも前回行った「Abe」以外に特にお勧めはなかったようで「また『Abe』でいい?」と言う。自分はあのピンクのスープがまた食べたいのでオフコース、と勝手に即答してまるっきりモールを一周する形で今ふたたびの「アベ」に還る。

今日はやや遅い時間(21時台)なので入店待ちの人もおらず、でも人気店なので屋内で4人座れるテーブルは埋まってしまっているので屋外でも良いですか、と巨大な扇風機の真下の席を案内される、隣のテーブルはたいへん盛り上がっていて喧しいが食後に騒いでいるだけのようなのでそのうち帰るであろう、と注文を(スープ!!!)一人一品頼んでみんなで食べようか、と結局前回と同じようなお献立になりましたが自分は充分満足です。ジョンは昔からスリムな人だけど最近腹が出て来たらしく「夜は米を食べないように、って思ってるんだけど…」と言いつつバンブーライスを控えめに食べている(残りを全部かっさらうわたくし)。スープも旨く、あと何だっけ若いマンゴーのサラダとか頼んだね、ただ時間が遅かったので頼んだものが軒並み「すんまへん、さいぜん終わってしまいましてん」だったりもしつつ高級店だけあって外れ無しなので後はまた黒ビールなどを頂きつつデザートまで頼んだりしつつ、大騒ぎしていた真後ろの席はいつの間にかいなくなっており、少し静かになったと思っていたらもう一つ向こうのテーブルで「Happy Birthday to You」を歌いだした(店のサーヴィス)ので最初はそりゃおめでとう、と思っていたのでしたが何だか知らないけど今日は3人くらい「バースデイ・ガール」が居るようでさすがに15分間にあっちこっちで3回も歌われると「家でやれ!!!!!」と怒鳴りつけたくはなるのでした。しかしスープ(「シニガン」と言うらしい)が旨い、と自分は忘れないように写真を撮っておいた。そろそろラストオーダーです、と言われたのでアルコールだけ追加してだらだらと過ごす。


「Abe」の外

歩いてホテルに戻る。ロビーにヴァナがいたので昨日の上映トラブルってあれ何で?と訊くと「判らない、元々は新しいヴァージョンで上映するはずだったんだけど、何故か古いヴァージョンで上映されてしまってしかも止まって、再開した時は今度は新ヴァージョンでもう何が何だか。上映前に映写チェックをして、その時は問題なかったのに」と恐ろしい事を言う。明日はチェックをちゃんとさせてもらおう、と心に決めた。ミゾグチさんは部屋(ちなみに自分らの隣のアンジェリーナ・ジョリー・ルーム)に戻ると言う。スタッフもゲストも三々五々といなくなって、最後にさっきの"CALL ME KUCHU"の監督マリカがいたので映画はとにかく良かった(内容的に「良かった」と言っていいものかだけど)とにかく凄かったよ、と伝えたらポストカードをくれました。「日本では有志が上映を企画してくれてるって聞いてる。もっと日本の人にも観て欲しい」と。さて明日は『すべすべの秘法』の上映だ。

2014.1208 1日目:到着
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2014.1210 3日目
2014.1211 4日目
2014.1212 5日目:『すべすべの秘法』上映
2014.1213 6日目:ケソン・プライド・マーチ
2014.1214 7日目
2014.1215 8日目:帰国