2023.0924 星期日
夜更かしした割にはいつもと同じ時間に起きて、WhatsAppにスタンから昨日の写真がわさわさ送られてくるのを見る。この人は自分でも言っていたが「写真を撮るのが好き、セルフィーも好き」なのでやたら枚数があるのだけど、どう見ても失敗なのも送ってくるところが独特である。選ばないか普通。もしかして選んでこれなのか。今日は2時半にジョナサンと会うので、それまでに済ませておくことと言えば裕華國貨でパイナップルケーキ買うとかか?というわけで直ってない洗面台で顔を洗い、買い物バッグを持って出かける。この間もざっと売り場を見たけど、台湾の食品はもちろんパイナップルケーキだけではない上にフロアの3分の1ほどを占める陳列棚のあちこちに、自分の感覚では脈絡もなく種類の違うパイナップルケーキが置いてあったりしてどうしてまとめないのか不思議だが、加えてちょっといいな(候補)と思っていたものが再度見つけるのに苦労するというトラップ。全体像を把握するのにえらい時間がかかってしまった。パイナップルケーキだけでも高いものから安いものまで幅があるので最終的にはパッケージと値段で判断することになるが、自分は家族用に一つと自分用に一つ、あとちょっといい値段の醤油を買う。裕華國貨にはお茶コーナーもあって祁門紅茶の安い缶入りとかあったのだけど「二級」とかかなりグレードが低そうなので止めておいた。イマイズミコーイチは相当量のパイナップルケーキを買い込んでいる。レジの人は自分らが連れだと判ると、「合算でもいいので300ドル以上のレシートでお買い物券がもらえる」と教えてくれるが残念ながら2人分を合わせてもちょっと足りないのでまあいいや、とそのまま店を出た。
次はこの間も行った粥店でごはん。昼食時だけど日曜日なので空いている。ここ日本で言うと牛丼屋みたいなもんだと思うが、近所に学校があるみたいで平日はもっと混むようだ。自分は今日はお粥ではなくて肉入りの粽と炒麺を頼むことにする。粽は中華料理店でよくある、肉と黄身そぼろが餅米の塊の中に入っているやつで、炒麺はシンプルな醤油味で少し野菜も入っている。けっこう旨いし腹にたまるのでお粥よりしっかり食べたいときにはいいと思う。いつだったか忘れたけど夜の帰り道にお腹が空いて入った「24時間レストラン」のワンプレート飯はもう少しお値段が張ってた(不味くはなかったけど)。自分はすぐ近くのwellcomeに行きたくなってイマイズミコーイチには粥店で待っててもらって店を出る。家族への土産がマカオのアーモンドクッキーとパイナップルケーキだとどこに行ったのか判らないので(そういうことを気にする家族ではないが)恆香というメーカーの蜂巢雞蛋卷(エッグロール。「2021年モンドセレクション受賞」とどこかで聞いたような事が書いてある)の缶入りがちょっと割引価格で売っていたのでそれにする。菓子類で大荷物になったので一旦部屋に戻ってまだ時間はあるな、軽くパッキングの下準備をしよう。今回は日本から小さめの段ボール箱をいくつか持ってきていて、箱入りティーバッグとか潰れやすいものはそこに入れる。これまでも梱包用のエアパッキンはスーツケースに常備していて、割れ物はそれでいけたけど紙箱入りのお菓子とかはどうしてもダメージを受けるのでふと思いついて段ボールも持ってきてみて、これがけっこう使えることが判る。何より複数の箱を組み合わせて詰めるとスーツケースの中も整然とするのでよい。
道路上にはこんなお祝いの旗。半端な年数だと思ったら毎年やっているのだと。
しばらくスーツケースの中身をいじくり回してから部屋を出て地下鉄に乗る。今日の乗車はけっこう長くて港島線の終点「柴灣(ツァイワン)」駅まで行き、そこでジョナサンと待ち合わせだ。列車に揺られながら2023年現在、と昔の日本語ラップみたいな言葉が頭に浮かんでは消える。ジョナサンと最初に会ったのは2007年のこと。映画『初戀』の上映がまだ決まっていない頃に連絡をしてきたのだった。彼は香港を拠点に活動する非営利の映画配給組織を運営していて、過去作品も含めてhabakari-cinema+records作品の海外での上映業務を請け負いたいと言ってきた。アジアのインディー作品を流通させることで、相互作用で香港の映画界を活性化させたいと言っていたのを憶えている。2007年に香港レズビアン&ゲイ映画祭で『初戀』が上映されたとき、同じ年の一ヶ月後に『初戀』を彼が主催する映画祭で上映したとき、『初戀』がベルリン国際映画祭に行ったとき、続いて制作した映画『家族コンプリート』や『すべすべの秘法』などの作品が香港や台湾で上映される際などにはプロモーションなどいろいろ手伝ってもらったりもしたのだったが、どうもその後はお互いに求めることが噛み合わない感じの間柄になり、『伯林漂流』の時に彼に相談せずに香港レズビアン&ゲイ映画祭での上映を決めたところ軽く抗議めいたメールが来て(最初にした契約はもう期間が切れていたので法的な問題ではない)、彼との全てのやり取りを担当していた自分としてはもうさようならだなあ、と思ってけっこうそれっきりになっていたのだった。
彼とのやり取りは主にメールとfacebookで、自分がfacebookをあまり見なくなっていた時期に重なって彼の近況も自然と視界に入らなくなっていったのだったが、彼のパートナーだったヘンリーが亡くなったらしい、というのをイマイズミコーイチから聞いて改めてフィードを見てみるとどうもそのようだった。ヘンリーはジョナサンと会う時はたいてい一緒にいたし、見逃したとは言え知ったからにはお悔やみくらいは送らないと、とメッセージを書いたのだけど返事はなく、まあこれで本当に縁がなくなったのかなあと思っていた。自分の作品が香港で上映されると決まっても特に連絡するつもりはなかったのだけど、イマイズミコーイチはできるだけ旧知の人たちとは会いたい、とメッセージを送ってみたら今回はジョナサンからも返事が来たのだった。そして今この電車に乗っている自分らは、ヘンリーの墓所へと向かっているのである。ジョナサンからは相変わらず事細かく「駅直結のモール入口にあるパン屋の前で待ち合わせましょう、モール内には入らないでください」といった感じで待ち合わせ場所についての指定が来るのだが、自分らは何を間違えたかかなり早めに駅に着いてしまったので時間を潰すべくモール内に入り、階下に行こうとするがエスカレーターが止まっていてただの階段になっているところを歩いて降りる。台湾の天仁茗茶が出しているティーショップでミルクティーを買い(うむ、自分は香港式のコンデンスミルク入りの方が好きだな)、飲んでいたら約束の時間になった。指定パン屋の前で待っているとやがてジョナサンが来て「タクシーで行きましょう、山なので。」
ヘンリーとジョナサン、2007年11月24日 土曜日 22:47
炎天下のタクシー乗り場で車を拾い、山の上の方へと向かう。大した距離ではないけれどまだ暑いこの時期に登り坂は厳しいので、と言う。着いた建物の中をエレベータで上がり、立体駐車場のような密閉されていない空間に、コインロッカー状の「お墓」があるのだった。実際この中には遺灰が入っているそうなので、言ってみれば遺灰のロッカーである。ヘンリーと両親のボックスはかなり上の方にあり、背伸びしないと対面できない。「脚立はないんです」とジョナサンは笑う。「ヘンリーに話しかけてあげてください」なのでしばらくそうする。あまり具体的な話を書くのは控えるが、何年か闘病していたヘンリーが亡くなり、しばらくして彼のお母さんも亡くなったので、離婚していたお父さんは再婚して娘(ヘンリーの異母妹)がいるので彼女と相談の上で3人をここで一緒にすることにしたのだそうだ。「ここは吹きさらしなので、先々週のすごい台風で汚れてしまって、金文字を塗り直したんです」ジョナサンはその塗り直した文字を写真に取った。ここは宗教に関わらず入れるのだそうで、書いてある名前も日本の戒名みたいなものではなく、本名に続けて「〜の霊」にするのだ、と言う。「正直なところヘンリーの親戚は全然親身になってくれなくて」彼らの関係をどのくらい親類に伝えていたのかは聞かなかったが、あれこれ苦労してこういう形にした割には…という思いがジョナサンにはあるようだった。本当に何とも言いようがない。しばらく佇んでのち(日陰がなくてけっこう暑いのである)、帰りましょうとジョナサンが言う。ヘンリー、来るのが遅くなってごめんね。じゃあね。
下り坂なら大丈夫なので帰りは歩いて駅まで向かう。日差しが強くなければ緑が多くて気持ちのいい道かもしれない。ジョナサンは途中で「台風の時は木が倒れたりして大変だったんです。あと猪が出るのでそこに注意の張り紙があります」ってなんか神戸みたいだ。駅に着いたけどジョナサンは特に店を決めてはいなかったらしく、ご飯にしますか?と言う。自分らはまだそんなに空腹でなかったので、食べるなら甘いものがいいかなと言うと「じゃあ探しますね」と検索しだし、「この先に2軒ほどあるようです」と駅から離れて歩き出す。あれ、サイゼリヤがある。しばらく歩いて最初に見た店は閉まっていたので、道を渡ったもう1軒の甘味屋に入る。すごくたくさんのメニューがあるがそうだドリアンを食べてみよう、と思い立ちドリアンメニューの中でおすすめマークが付いているのを注文する。店の人が自分に向かって何か言うのでジョナサンに聞くと「これはドリアンだが本当にいいのか」と確認してます、とのこと。ちなみにジョナサンはドリアンは好きじゃないと言っていた。やってきたドリアン入りのデザートは冷凍物らしくてアイスのようだった。確かに独特の匂いがするが、味はそれほどきつくなくて美味しく完食できました。駅の方に戻ってファミレスみたいなところに入り、3人ともタイムサービスのパイナップルパン(メロンパンみたいなやつ、うまい)+飲み物セットを注文する。ジョナサンは最近始まった澳門クィア映画祭をサポートしているらしく、つい先日もマカオに滞在していたそうなので、自分が間違って買った香港発マカオ行きの片道チケット2枚、もし使えそうならあげると言うと、近々マカオの映像作家が香港に来ることになっていてその人の復路に使えると思う、ともらってくれたのでどうやら無駄にはならないようだ。駅でジョナサンと別れる。またね、とは言ったものの今後どういう関係になるのかはよく判らない。でも元気でね、また。
この辺りは全然写真を撮ってなかったので、デザインがかわいいマカオビール
電車で戻って佐敦で降りる。宿とは逆の尖沙咀方面へ少し歩いたところにあるビルの前でイマイズミコーイチの友人であるクリフォードと待ち合わせ。約束の時間にはちょっと早いのだけど宿に戻るほどでもない…という微妙な間が空いている。日が暮れたとは言え路上はまだ暑くひょっとすると蚊に喰われそうなのだが、待ち合わせで指定されたビルはレストランばかりが入っているような建物なので、中でウィンドウショッピング的に涼んだりもしづらい。夕飯はこの中のどれかでするつもりなのかな?と思っていたが、やがてやってきたクリフォード(多分自分はちゃんと会ったこと無いかも。ちなみにフラワーアーティストである)は中には入らず、「では」とそのビルの横をを回り込んだ裏道の方に歩き出すので付いていく。連れて行ってくれたのは夜でも飲茶ができる店、ということで「主に観光客向け、ということになるかもだけど以前入ったことがあって美味しかったから」とのこと。3人で席に付いて間もなく、クリフォードが呼んだ友人のトラヴィスもやってきた。彼は大学の先生で、その研究成果が学術書として出されているのだが、レイが監督した映画『叔・叔』はこの本に着想を得たものなのだそうだ。はじめましてのご挨拶をして、こちらは自己紹介として映画祭のプログラムを渡し、そして飲茶の注文はほぼ2人にお任せしてしまう。
クリフォードは柴犬を3匹飼っているそうで、それだけいると大変だろうと思うのだけど、聞いてみるとペット可の物件が少ないこととか、あとは暑いので一日中冷房を入れたままにしているとか昼間は散歩できないとか、やはり相応の苦労があるようだった。などと話していると點心が続々と運ばれてくる。一つの蒸籠に3〜4個入っているので、やはり飲茶は4人くらいでするのが一番色々食べられてたのしい。2人で飲茶するとなると食べる量の関係上、どうしても頼める品数が少なくなってしまう。トラヴィスは今年の1月に上智大学に講演で呼ばれて東京に行ったそうなのだけど「とにかく寒かった」と言っていた。新宿のゲイバーで撮った写真を見せてくれたのだけど、そこにはイマイズミコーイチの初監督作『憚り天使』にも出ているNAOさんが映っていたので、帰国したらフライヤーの画像を送ります、と約束する。それにしても出てくる點心はどれも美味しく、やがて朝に粥店で食べたのと見た目はそっくりな粽が出てきたけど味は別物と言えるくらい違う(こっちのほうがクドくない)ので、外側の葉っぱについたご飯粒まで残さず食べてしまった。かなり満腹です。あと途中クリフォードが写真を撮り始めたので自分も彼のスマートフォンの方に顔を向けるが、たいへん間の悪いことに熱々の小籠包を口に入れたところで(吐き出すわけにもいかず)撮り終わるまで我慢していたため、AirDropで送ってもらった写真の自分の顔は何だか妙な表情をしている。食べ終わって店を出て、駅に向かう途中でトラヴィスが「あそこに昔ゲイサウナがあったけど、もう閉店してしまった」とか「この近くにベアバーがあるので行ったら『トラヴィスの友人だ』と言えばいい」などと言う。友人だと名乗ると何が起きるのかは聞きませんでしたが。香港最後の夜は楽しかったですありがとう、と手を振って別れ、宿に戻る。明日は帰国だ。
目次
2023.0918 出発までと出発当日、香港到着
2023.0919 M+、『犬漏(SOLID)』上映
2023.0920 香港故宮文化博物館、ディック、映画1本
2023.0921 マカオ
2023.0922 エイドリアン、パトリック、映画2本
2023.0923 映画1本、映画祭クロージングパーティー
2023.0924 ジョナサン、クリフォード
2023.0925 帰国
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