2023.1214 Donnerstag
寝すぎたせいか午前3時くらいに目覚めてしまい、起き出してヨーグルトの残りを食べる。メールやメッセージが来ているが、まだあまり頭が働かない。あ〜カタリーナからなんか来てる。「調子はどう?私は14日の上映には行けなそうで、もし良ければランチを一緒に」とのことで、自分は今の状態なら行けそうなので、とんでもない時間ではあるがその場でOKの返信をする。しばしまた眠って数時間後に起きるとカタリーナから返事が届いている。「では11時にハーマンプラッツのカフェで。」買ってあった林檎を食べてからイマイズミコーイチを起こして予定を説明し、支度をして出かける。ハーマンプラッツは4年前まで毎年通っていたポルノ映画祭会場の最寄駅なので慣れているので不安はない。カタリーナたちのアパートもこの近くだが、彼女に指定されたカフェは知らないところだ。地図だとこの辺のはずなんだけど…と大使館みたいな柵に囲まれた施設の中に経っている建物名を見ると「Kaffeebar Jacobi」とあってこれだ。敷地内に入るとキリスト教会みたいな感じで、裏手に回ると墓地が広がっている。なんだろうねここ、と話しているとカタリーナがやってきた。「ここは教会なの?」と聞くと「教会ではなくて、(キリスト教の)葬祭場と言うか…とにかく墓地として以外は今は使われていない」ものだそうでした。夏とかは屋外席が気持ちいいそうなのだけど、今日は寒いので中に入る。「お茶もコーヒーもおいしい。あとパニーニとかもある」自分は紅茶と、食べられそうな気がしたのでモッツァレラチーズとバジルのパニーニを頼み、イマイズミコーイチはコーヒーと「キムチ味」だというパニーニを注文(してくれたのはカタリーナ)。「パンが温まったら持ってきてくれるから席で待っててね。」
「ピンク・レディー」という品種名の林檎
ウーヴェの調子はまだあまり良くないそうで、とにかく咳が出るので自分らに会って話すのは止めたほうがいいと判断したという。「11〜12月のベルリンは天気が悪くて灰色で、みんな病気か鬱になる」とカタリーナ。じゃあ自分の体調不良も現地に馴染んだ結果ということだろうか、と前に田口弘樹さんから「イワサくんはトルコスーパーにいると紛れちゃって見つからなくなるねえ」とか言われた事を思い出したけど多分違う。カタリーナは明日の早朝に自転車でデンマークに向かうそうで、その準備があるため今夜の上映に来るのは断念したとのこと。「本当に申し訳ないのだけど、有給の消化とかいろいろ考えると明日出発がベストな日程で」とすまながるので大丈夫だよ、と言いつつ自転車でデンマークというのはすごい、と詳細を聞くとデンマークには友人が住んでいて、ベルリンのクリスマス時期は天候が悪くて騒がしくてうんざりなので今年は脱出してそちらで過ごすことにしたのだと言う。しかも目的地はコペンハーゲンとかではなくてユトランド半島にあるもっと北の街だそうだけど、ドイツ国内を自転車で北上して海に出たらフェリーに乗ってデンマークに渡り、そこを自転車で横断してもっかいフェリー、更に自転車に乗って「一日5時間くらいのペースで北上すれば着くはず」とか渡り鳥みたいなことを言っている。体調が回復すればウーヴェは電車で行って合流して、帰路は電車でベルリンに戻る予定だそうな。「ウーヴェは週末には良くなると思うので、連絡を取りあって会えそうか聞いてみて」とのことで了解です。さてパニーニがやってきた。
さっくりした軽めのパンにオリーブオイルがしみたサンドイッチを口に入れる。2日ぶりくらいに炭水化物を食べてるような気がするが大丈夫かも、おいしい。イマイズミコーイチのキムチ味は「キムチではないね」だそうですが不味くはないようだ。ウィーンでの話とかいろいろしていてふとイスラエルによるガザ侵攻の話になったのだけど、カタリーナの意見としては「やはりハマスが元凶である」というのが大前提としてあるらしく、もちろんそうは言わないけれどその理屈を突き詰めるとガザの人たちが被っている惨状もハマスを支持したことの結果、ということになってしまわないかと思う。自分の英語力の不足もあってうまく説明はできなかったけれど、この問題に関してはかなり認識にズレがあるなあと(一昨日に会ったアンドレスとの対比もあって)思い、ここに来る途中のKleistpark駅構内の券売機にマジックペンで書かれた「Free Gaza」のことも思い出していた。店を出て、自分らはカールシュタット(デパート)に寄って家族にお土産を買うよ、と言うとカタリーナは「じゃあ私はトイレットペーパーを買うから途中まで一緒に」と付き合ってくれる。クリスマス催事コーナー中でカタリーナが「これはおいしい、これはいまいち」とか的確にビシバシ教えてくれるのがおかしい。地下の食品売り場に行ってここでお別れだ。どうか無事のサイクリングを、と言って別れる。
ベルリンに毎年行っていた頃はいつもここでシュトレンを買って実家に持っていったものでした。今はその実家に寄せてもらっているので帰省ではなく帰宅土産ではあるがドレスデンの、黒い紙箱のやつを買う。売り場ではシュトレンは一つの島にまとめられているのに対し、いくつもの冷蔵ケースの「上」にパネトーネとパンドーロが雑然と乗せられているのは何か扱いが違うなと思いますが、日本では輸入物としても見ない「Bauli」というメーカーのもので、大小様々なピンク色の箱が売り場を一層浮ついた感じにしている。イマイズミコーイチはそっちのほうに関心を引かれたようで、500gサイズのパネトーネとパンドーロを次々とカゴに入れている。しかも「シュトレンとパネトーネって同じようなものじゃない?」という間違ったところから話を始めようとするので自分は困り、「取り敢えずパネトーネ類はイタリアのものですが、それでいいの?」と聞くと「でもほら、シュトレンとパネトーネって同じようなものじゃない?」のループが始まる。やがて「これはイワサくんのお母さんに」とパネトーネを一つ買ってくれてしまったのでありがたくいただく。
シュトレン1㌔
家に戻り、まだ本調子じゃないので用心して部屋で休み、そろそろと準備を始める。上映は20時からなのだけどポポからは18時に劇場近くのレストランで食事をしようと言われている。その「劇場近辺」はベルリンでも行ったことのない辺りで、地図で見る限りテーゲル空港からはそんなに遠くないかも、という感じではあるが何か観光名所があるみたいでもないし、ライナーさんに聞いても「東ベルリンだね」と間違ったこと(実際は旧西ベルリン側)を言うくらいで、地元の人が知らないのでは自分らが何も知らなくても仕方がない。行き方もよく判らないのでBVG APPの言う通りに近くまではSバーンのS1で最寄り駅から一本、そこからバス…なのだがこれがなかなか来なくてちょっと遅刻してしまう。あとで判ったことだが鉄道で一番近い駅まで来ればそこから劇場までは歩ける距離でした。指定のトルコレストランに入ると窓側の席にポポともう一人、英国でQueer Eastというアジアのクィア作品にフォーカスした映画祭(映画上映だけじゃないみたいだけど)を主催しているイー・ワンが待っていた。開口一番ポポは体調は大丈夫?と心配してくれるので100%ではないけど前よりマシになったよ、と答える。そしてついに会えたイーと初めましてのご挨拶。Queer Eastは去年『犬漏』を上映してくれた映画祭で、今回ポポは彼らと協働しているので『犬漏』も上映するのはとてもいいアイディア、と言ってくれたのだった。イーには日本から持ってきた自分らのDVDと冬季限定ポッキーを渡す。彼は台湾出身なので袋を開けて「あ、ポッキーだ」と笑顔を見せる。
ポポは「ここの店は大皿料理が有名なんだけど、それを頼んでみんなで食べるのでいい?」と言うのでお任せにする。メニューの写真で見る限り各種肉と野菜がグリルされている料理のようなので、自分もイマイズミコーイチも何かは食べられるだろう。ポポがやっている上映シリーズ「COMRADES I LOVE YOU」は今回で2回めで、ポポからは最初タイ出身でノンバイナリーの監督と一緒にプログラミングをやっていると聞いていたのだったけど、その人は今タイに戻っていて不在、前回の上映時はポポは中国に戻っていたので立ち会ってない、ということだったので一回ごとにメインプログラマーを交代してやる体制なのかもしれない。今回は3日間にかけて北京クィア映画祭の創設者でもある崔子恩監督の作品や、先月日本でも上映されたシュー・リー・チェン監督の新作も上映される予定で、今日の自分らの作品が初日のプログラムとなる。イーが今年のQueer Eastのプログラムをくれたのでパラパラめくっていると自分らがサンフランシスコで観てすごく面白かったフィリピン映画『About Us But Not About Us』をやっているのでさすが、と思ったり、彼が古い日本映画のことを実によく知っているのに驚いたけど、多分その国に生まれ育った人にとっての盲点みたいな感じで視界に入りづらいタイプの作品があるのだろう。映画の話ではないけど、さっきまで会っていたカタリーナから「イワサは私たちの知らないベルリンをよく知っている」と言われたのもそういうことだろうと思う。
料理が運ばれてきた。写真に違わず骨付き牛・鶏・ミンチのケバブに青唐辛子(辛い)などが山盛りで、下にはスチームライスがあるのが嬉しい。パンもサラダもたくさんあるので、自分は用心しつつ普段よりよく噛んで食べる(うまい)。特段この後の打ち合わせ的な話にはならず雑談ばかりだったが、ウィーンのヤヴスが「自分は8つ映画祭をやっている」とか言ってた、と言うと2人が驚いて「何だそれは、映画祭エンパイアでも築くつもりなのか?」と言ったり、今夜テディ賞を作ったヴィーランド・シュペックが来る予定、と言ったらイーは「僕はヨーロッパの映画祭に詳しくなくて知らない…」てな反応で面白かったり、あと香港に続きここでも今年の日本(のクィア)映画では是枝裕和監督の『怪物』が良かった、という話題になるのが順当だと思うけれど興味深い。今年のQueer Eastでは日本作品は『裸足で鳴らしてみせろ』を上映したそうなのだけど、自分は観てないので何とも言えないのが残念。あらかた食べ終わってイマイズミコーイチがトルコ式コーヒーを頼み、自分は水を飲み干してからレストランを出て(劇場のおごり、ということでご馳走になってしまいました)上映会場へ向かう。劇場はレストランからはすぐ近くのところだった。なかなかカッコいい外観である。
SİNEMA TRANSTOPIA入口
中に入るとテーブルと椅子が置かれたカフェスペースになっていて、向かって左手の奥にはバーカウンターと劇場への入り口がある。既にけっこう人がいるが、既に中で待っていたあきこさんが「これ」と胃薬を渡してくれる。手持ちの胃腸薬が無くなりそうだったのでお願いして薬局で買ってきてもらったのだった。お手間をおかけしてすみません。カフェ席を見ると…おおヴィーランドが来ている。イマイズミコーイチはもうかなり舞い上がってしまって「サインペンサインペン」と自分に言う。DVDにサインを貰っている間にヴィーランドと一緒に居た映像作家のマイケル(2015年の北京以来のはずである)に来場のお礼を言い、これまた久しぶりのソフィー(2008年にベルリン国際映画祭でアテンドしてくれた)と再会する。ベルリン在住で俳優のますだいっこうさん、中国出身アーティストでやはりベルリン在住のマスク・ミン、とこれまでのようにポルノ映画祭に行けば自然に会えていた顔ぶれとは違う友人と会うことができて嬉しい。そしてヨーハン、最初期からのポルノ映画祭のプログラマーで、数年前に映画祭を抜けてしまったけど今はどこかの映画館のプログラマーをしているそうなのだけど来てくれたのだった。みなさんありがとう、とか言っていたら入場が始まった。
ポポが軽く自分らと作品の紹介をしてくれて、劇場のCMに続いて上映が始まる。客席は満席とはいかなかったが7割くらい埋まってるかな。最初は『すべすべの秘法』。実は事前にメールで連絡した時にヴィーランドからは『犬漏』だけ観るので『すべすべの秘法』の間に話そうか?と言われていたのだけど、しばらく経ってもヴィーランドが動く様子がないので自分らもそのまま劇場に残る。自分は途中で抜けて『犬漏』の上映開始に合わせて戻る。『すべすべの秘法』の時はちょっと音が良くなくてあと映像が時々飛ぶような気がする。ずっと観ていたイマイズミコーイチも同じような印象だそうで「映写チェックさせてもらえばよかった」と言っている。ただ『犬漏』は音はちょっと想定と違う鳴り方をしている(中音域が妙に弱い感じ)という問題はあるものの映像は飛ばないのでこの違いは何だろう。質的にパーフェクトではないが途中で止まったりはしなかったので良しとする。客席に知り合いが多いという点を差し引いても反応は悪くないと思う。上映が終わり、改めてポポが自分らを紹介してくれて壇上に呼び込む。椅子に腰掛けてQ&A開始。
最初はポポが質問して自分らが答えるという鼎談形式で進む。ポポは観客の代理、といった感じで映画が出来上がった経緯やどうやって俳優を決めたのか、などの質問で話を引き出していく。実はこの時自分は喋ると音が頭の中でワンワン反響する症状(飛行機とか高速エレベータに乗った時になりがちなあれ)が出てしまっていて、そんな状態でイマイズミコーイチの通訳と自分の答えを英語に…という作業をこなすためにかなり頭がヒートしてしまい(申し訳ないが酷い英語だったと思う)、どんな話だったのか全部は思い出せないのだけど、ただ自分の作品に関して「過去に起きたある出来事(この場合は地震)についてお互いの経験を語り合うというのは、セックスと同じく束の間お互いを近づける行為でもあるので」などと話しながら自分でもああそうか、と気づけたのは収穫でありました。もしかしたらその場で一番納得していたのは自分だったかも知れない。観客からの質問コーナーではマスク・ミンからピンク映画及び薔薇族映画についての質問があってイマイズミコーイチが答えていた。時間が来たのでもしまだ聞きたいことがあればロビーで声をかけてください、と言ってQ&A終了、ありがとうございました。
Q&A中。しかし自分はどうしてこういう時に脚が大開きになるのか
当然ながら知り合いだらけであるのでロビーではあちこち飛び回って挨拶回りみたいになってしまったが、あきこさんが連れてきてくれた日本人の友人が『犬漏』の共演者を知っていたり、マイケルの連れのこれまた日本人が「『犬漏』面白かったです」と言ってくれたりした。マイケルは「2作ともとても好きだ。あとはこんな劇場がベルリンにあるのを知らなかったのが不覚」と言っていて、どうもこのシアターは(この場所に移転してきてまだ1年半、と聞いたけど)観客の開拓が課題なのかもしれない。マイケルと話していたヴィーランドもニコニコしながら「おめでとう」と言ってくれる。ありがとう、ベルリナーレで初めて会ってから15年、ヴィーランドに自作を観てもらえた事は今年のハイライトの一つになりました。そして彼が上映後にくれたメールには「(『すべすべの秘法』も『犬漏』も)とても誠実で、クリシェや偽りの感情がなくて感動的だった。クィアシネマのランドマークだ。おめでとう。」とあり、こんなにも力づけてくれる言葉を受け取るのは、また久しくなかったことでした。ヴィーランドは帰る前にポポやイーに挨拶していたのだけど、こうやって次の世代に種子の核のようなものが受け継がれていくのだろう。ソフィーも久しぶりにヴィーランドに挨拶できて嬉しそうで、ああそうだクリスマス時期だからね、とチョコレートをくれた。自分がたまたま持っていた日本のキットカット抹茶味1パックをソフィーに渡すと「あげたのよりだいぶいいものをもらってしまった」と冗談めかして笑い、「子どもたちが喜ぶ」と言ってくれた。来てくれてありがとう、またね。最後まで残ってくれたヨーハンは「とても良かった。何よりも君たちがまたベルリンに来てくれて嬉しい」と言って帰っていった。具体的な事は書かないけれど彼はパンデミック中にかなり大変な経験をしていて、最近やっと立ち直ってきたところだと聞いた、とイマイズミコーイチは言っていた。
喉が渇いたのでバーカウンターの人になにか飲むものを…と言ったらビールが出てきて、「監督には劇場からおごり」と太っ腹なので大丈夫かなあと思いつつ飲んだらこれがうまい。うむでも半分で止めておこう、と残りはイマイズミコーイチに飲んでもらって、そろそろ深夜0時を回ったので帰らないと。劇場を出たら2セント硬貨が落ちていたので拾う。ポポたちと最寄り駅のヴェディングまで歩き、電車に乗り込む。付いていっただけなのでルートを憶えていないがポポは「夜遅くて君らの最寄り駅まで行く電車がもう無いから、ズュートクロイツ駅(ウィーンに行く前にポポと会った駅)まで一緒に行く、君らにはそこから家まで車を手配するから住所を教えて」と言うのでまあ最悪歩いても帰れるとは思うのだけど、彼もゲストを上映終了後に行方不明にしたくないだろう、と今夜はありがたくお受けする。ズュートクロイツ駅に着くとたぶんウーバーみたいなライドシェアの車が待っていて、ポポは「代金は払ってあるから着いたらそのまま降りて」とどこまでも気が回るのでした。車はすぐに家に着いて、ポポからは「着いたかな?」というメッセージが来たので大丈夫、帰宅したよありがとうの返事をする。本日は実に充実していましたが自分は就寝後にまた吐いてしまい、これは2セント拾ったからかビール飲んだからか、原因はどっちでありましょう。
2023.1215 Freitag
体調が逆戻り…というほどではないもののまだ元のようにはなっていないということが判ったので自分は残っていたピンク・レディーという林檎を食べ、昼くらいまで休む。今日は13時にユルゲンの家に行く約束をしている。ユルゲンがメールで知らせてきたSchönhauser Alleeという駅はこれまた知らない駅だが、調べるとここから一本、S1線でGesundbrunnen駅まで行ってS41線に乗り換えて一駅だそうな。ちなみに同じ乗換駅からS41線の反対方向に一駅行くと劇場最寄りのヴェディング駅なので、つまりユルゲン宅の最寄り駅から劇場の最寄り駅まではわずか2駅。ただし今日の上映は20時からなのでユルゲンに会ってから直行するとすごく時間が空いてしまうから一旦戻るけど。駅を出るとかすかに雨が降ってる感じ。駅付近は店が多くてにぎやかで、建物も比較的新しいものが多いように見える。駅から10分くらい歩いて教えられた住所のところに行くと団地みたいな建物があって、その脇にモノリスみたいな呼び鈴板だけが立っていてそこにユルゲンの名前があったので押してみると「いま行く」と聞き慣れた声がした。しかし呼び鈴はあるけどどこが出入り口かが判らない、つうかどれがユルゲンが住んでいる建物なのかも不明。やがてユルゲンが奥の裏庭みたいなところから「やあ」とか言いながらトコトコ出てきたのでそれだけでおかしいが、もちろん同時に非常にうれしい。4月に北千住で上映会をやった時にzoomでアフタートークに出てもらって、打ち合わせも含めて2回オンラインでは話したけど他のベルリンの皆さんと同じように実際には会うのは4年ぶりである。「いま部屋に掃除の人が入っているのでランチに行こう。近所にベトナムレストランがある。」
さてユルゲン言うところの「ベトナムレストラン」の店名は「BATU PATTAYA」でどう考えてもベトナムじゃないけど、シックな内装の店内で席についてメニューを見るとフォーもあり、そして寿司もある。カレーみたいなものもある(「味噌汁もある」とユルゲン。)ベルリンでは本当にベトナム料理&寿司という営業形態をよく見るのだけど、この2つがなぜ一緒になってるのか?の理由はそう言えば誰からも聞いたことがなくて、誰も不思議だと思ってないのかも知れない。自分は鶏肉のフォーなら食べられそうな気がするのでそれを、ユルゲンも同じものを頼み、イマイズミコーイチはランチメニューのカレーを注文する。お互いの近況報告を始めるが、家が劇場からこれだけ近いところなのにユルゲンが昨日の上映に来られなかったのは、ひとえに仕事で多忙だったからによる。今はベルリン国際映画祭のためにドキュメンタリー作品の一次選考として毎日膨大な作品を見ているそうなのだが、自分らの滞在中に休みなのは今日くらいなので時間を取ってくれたのだった。「ベルリナーレはディレクターが変わってから毎年作品数を絞るようになってきていて、以前と比べるとかなり狭き門になっている」とユルゲン。でも応募作品が減ったわけではないから選考はもっと大変だよねきっと。そして今の場所に引越してきた理由についてはちょっと残念な経緯があり、自分らも会ったことがある、15年も一緒に暮らしてきた女友達の精神状態が悪くなってしまい、ユルゲンもいろいろサポートを試みたらしいのだけどやがて限界が来て彼女の持ち家であるアパートをを出ざるを得なかったそうだ。「今ベルリンで家を探すのは大変なのだけど、今のところが見つかって良かったと思う。あと友だちは前より落ち着いていて、今も月に何度か会いに行っている」そうでひとまず事態は治まっているようだ。
料理が運ばれてきた。以前ベルリンで食べたフォーはスープが薄くて具に人参とか入っている超イマイチなものだったのだけど、これはおいしい。そして鶏肉がものすごくたくさん入っているのでイマイズミコーイチに少し食べてもらう。ユルゲンはフォーに追加で頼んだらしい白飯を投入してフォークとスプーンで食べている。自分の短編がウィーンで受賞した事をユルゲンはとても喜んでくれ、そして映画祭ディレクターのヤヴスがいくつも新しい映画祭を立ち上げていて今度はパリポルノ映画祭だそうな、と伝えると溜息を付いて「それはあんまり良くないと思うがなあ」と首を横に振りながら言う。ポルノ映画祭としてはユルゲンが創設したベルリンポルノ映画祭が先輩格というかパイオニアで、後発でウィーンポルノ映画祭を始めたヤヴスはベルリンの常連でもあるので当然ベルリンポルノ映画祭みたいな成果を他の都市でも、ということなのだろうが、傍目にも一人で映画祭をやりすぎだし、ユルゲンはパリとウィーンで両方やるのはねえ、と自分らにはよくわからない理由でうまくないと思っているようだった。そんなユルゲンは最近ベルリンポルノ映画祭のディレクターから退き、今はプログラマーの一人として参加しているそうだ。「少しづつ仕事を減らそうと思っている」というのは寂しくもあるけれど、ユルゲンがこなしてきた異常なハードワークの片鱗を知っている身としては、彼が休めるのであればそれに越したことはないと思う。「自分はもう歳だし健康上の問題もあるから、もう長距離のフライトはできない。だから日本みたいに遠い国には行けない」と言いながらユルゲンは90年代に日本に行ったときの思い出話を楽しそうにしてくれるのでしたが、それは自分らにとっても外国のような「日本」の話でした。あと妹さんがブラジルに住んでいるのだけどそこまで飛行機で行くのも厳しい、と言うのでじゃあ船旅にしたら?と適当な提案をしてみたところ「それは名案だ、気に入った」と笑ってくれました。ランチというには随分と長っ尻でしたが店もそれほど混んでなくて追い出されもせず、イマイズミコーイチがベトナムコーヒーを最後に頼んでお開きとなった。貴重な休日を使って会ってくれてユルゲンありがとう、日本から持ってきたグリコの「BITTE(抹茶味)」を渡してさようなら。今度はいつになるか正直わからないけど、また必ず。
ユルゲンと我々とベトナム料理&スシバー「パッタヤー」
さっきも書いたがここから劇場までは多分15分くらいで行けるくらいの距離なのだけど、今から行っても20時までやることがなく、かと言ってどこか(美術館とか)に行くには半端な時間なので部屋に戻る。駅からの帰り道にEDEKAに寄って土産にする菓子類を物色する。イマイズミコーイチは毎回買っているライプニッツのチョコレートビスケットを今回も大変な量で買い込んでいるが、自分は今回食あたりなのであまり自分用に買いたい気持ちが出ない。まあ4年前までは毎年バカみたいにチョコレートを買っていたのでこういう年もあっていいでしょう。と思ったけど考えてみたら今回も既にトルコスーパーでピスタチオチョコレートをバカみたいに買ってました。
時間になったので劇場に向かう。今日の上映作は60年前に作られた香港映画『梁山伯與祝英台』という劇映画で、中華圏では誰でも知っているような有名な民話だそうですが、あらすじはある女性が男装して男だけ通える学校に行ったら親友ができ、彼を密かに好きになるが自分が女だとは明かさないまま家に帰ったところ親が決めた男と結婚させられそうになり、真相を知った親友が訪ねてくるが結ばれることなく男は病気になって死に、女も男の墓穴に身を投げる、という悲恋もの。ただこの映画で混乱するのは相手役の「男」も女優が演じており、級友たちも半分くらいは女優が演じていて「男の中に(実は)女がひとり」に全然なっていないところでした。これは上映後のポポ&イーのアフタートークでもはっきりとした理由は判らない、という感じでしたが昔の作品だからなあ、今となっては「ええええ?」みたいな理由なのではないかとも思いました。今回はスペシャルゲストでハンブルクからチャイニーズ・オペラのパーカッションを教えているというXinghan Renさんがいくつか楽器を叩いてみせてくれて、これがすごく良かった。惜しむらくは観客がとても少なかったことで、やはり劇場の存在がまだまだ知られていないせいかも。上映もいい内容だったのにそれがすごくもったいなかった。
Xinghan Renさんとイマイズミコーイチ
帰宅すると中から犬が吠えている。着いた初日も預かり犬がいて、自分らがウィーンから戻った時にはもういなかったのでしたが、また別の犬を預かっているという。ライナーさん宅にはいつも飼い犬がいて、前回(2019年)にもウディくんという子がいたのだけど死んでしまい、それ以来犬は飼っていないようだったのでしたが恐らく用事がある時にお互いの犬を預け合うような、犬を飼っている人のサークルみたいなの経由で来ているんじゃないかと思う。今日いたのはボニーという名前のメス、これがまたよく吠える。ライナーさんの家で会う犬は大抵小型犬でものすごく吠え、そして大抵ほとんど懐いてくれないという共通点がある。今日のボニーもずっと吠えていて、ライナーさんが「ボニー!!」と叱るとちょっと黙るけどまたこちらがちょっとでも動くとばうばうばう(「ボニー!!」)。しかしあれだ、犬が吠える→ライナーさんが叱るのを久しぶりに聞いて、今回の滞在には何かが足りないような気がしていたのはコレだったのかもしれない、と思ったことでした。ばうばうばう。
目次
2023.1206-07 ベルリンまで/ベルリンからウィーン
2023.1208-09 美術館、『犬漏(SOLID)』上映/美術館2つ、映画祭クロージング
2023.1210-11 各自ウィーン観光/ベルリンへ
2023.1212-13 ノーレンドルフ彷徨/体調不良でヘロヘロくん
2023.1214-15 『すべすべの秘法』+『犬漏(SOLID)』上映/ユルゲン、映画1本
2023.1216-17 一人遠足、映画1本、最後にカラオケ/一人散策
2023.1218-19 イスタンブール乗り換えで帰国
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