2007.0607, thu
ソウルに行くのが6回目、ということはこの7年間で5回韓国語圏に行っているわけであるが、相変わらずハングルは文字に見えず、そろそろいかんのではないかと思っていたら、幸運にも日本に来ている韓国人の友人Jが「行く直前に短期集中韓国語講座をやってあげる」と言って、出発一週間前にホントにウチで個人授業をしてくれた。おかげさまで(彼女の教え方がまた超上手)時間を掛ければどう発音すればいいのか判るくらいまでにはなって、あと7日間で毎日練習すればいいやね、とか思っているウチに出発当日、もちろん毎日やってる訳がない。だって準備が。
などと言い訳しながら2年前、無駄に大枚はたいたゼロハリバートンのスーツケースに荷物をスカスカと詰め、翌朝7時に起床、朝食を取ってからイマイズミコーイチに電話をすると明らかに今起きた声で、大丈夫なんかい、と聞くと「大丈夫じゃない」という返事、でも来られないとちょっと困るので「とにかくパスポートと現金さえあればいいからさ」などと言って電話を切るが、もし本当にパスポートと現金しか持ってこなかったらどうしよう、とやや不安になる。
今回は京成スカイライナーで成田まで行くことにしているので、イマイズミコーイチともう一人、映画『初戀』のスチルカメラマンT氏とは日暮里で待ち合わせ、先に自分が行って切符を買うことになっている。あとも一人、主演のHくんも参加なのだけど、彼は仕事の都合で僕らより一日遅れて一人で来ることになっている。日暮里に着いて、ネット予約していた切符を買おうと思ったら事前に思いこんでいた方式とは違い、乗車券を買って入って中でライナー券を買うのだった。他の2人はまだ来ていないが、発車15分前を過ぎると自動キャンセルされるので先に3人分のライナー券を買う。ホームに降りて乗車位置で待っているとT氏より電話、どうも自分とは違う入り口から入ったらしい。「とにかく乗車券を買って入って、×号車乗り場まで来て下さい」とお願いする。イマイズミコーイチは同行の模様、で安心する。
しつこく何かに注意を喚起していました
結局成田エクスプレスと大体同じ場所に着くので、そこからはまあいつもと同じ一連の手続、発券して荷物預けて、なのだが今回はほぼ同時期にソウルでダンス公演を行うK氏が僕らより30分だけ遅い飛行機で同日発つので会いに行く。しかし自分らの大韓航空と彼のアシアナ航空は北ウイング(大韓)と南ウイング(アシアナ)の端と端なので、えらいこと歩かないといけない。初めて行く南ウイングには訳の判らない巨大なオブジェがあって何だコレ、とか言っているウチに一人大荷物のK氏がカウンターに並んでいるのを見つける。ちょっとだけ話をして、自分たちの搭乗時間が迫ってきたのでバイバイをして、手荷物検査と出国審査に向かうが、手荷物検査にやたら時間がかかり、しかもイミグレ混んでるし。実は僕らの便を含めた3本に限っては、出国審査をして出たすぐ脇で韓国の入国手続もしてくれる(理由不明)そうで、それが「出発の30分前」と書いてあったけどもう間に合わねないねえ、とか言いながら出てみると、非常に簡素な机と椅子に3人ばかし係員の人が居て、パスポートと搭乗券を出したらあっさり手続をしてくれたのだった。しかしこれをやっておくと韓国のイミグレを通らなくて良くなるのだろうか、じゃどこ通らされるんだ、と思いながらも入国カードにスタンプを押してもらう。実は自分のパスポート、いつだったか忘れたけど韓国に行ったときのイミグレで先頭の写真の隣ページ(新しいICパスポートでは最後)、外務大臣印が印刷されている真上に押す、という非常に挑戦的な出入国審査を受けたことがありました。韓国だけや、そんなことすんの。
南ウィングの「何だおまえは」
機内食は、と言うと焼き肉&ご飯で、イマイズミコーイチはブロック肉が食えないので仕方なく隣に座った自分に肉をくれるので、自分のだけ山盛り。食後、座席に付いているテレビでパンダやカピパラやダチョウなど出演のドキュメンタリー番組を観て大喜びしているイマイズミコーイチを横目に見ながらうとうとしたりしていたら2時間半くらいでインチョン国際空港に着いてしまった。近ぇ。
事前審査の効果は良く判らないものの、あっさり入国審査・税関・荷物のターンテーブルと通過して、バスに乗る前に一服してから両替、と見てみると、知ってはいたけどウォンのレートが上がっている。つうか日本円、下がりすぎだろう。数年前に行ったときには円1に対してほぼウォン10だったけど、その次は9でいまは7.4。後で聞いたら韓国に大量に円を落とした人たち(韓流ファンの方々のことです、もちろん)のせいだそうで、おばはん許すまじ。どこも似たり寄ったりなレートなので、取りあえず1万円だけ替えて、これまた値上がりしているリムジンバス(8000ウォン)に乗って会場へ。最初は「空港まで迎えに行きます」と言っていた映画祭も、非常にスタッフ不足で「会場まで自力で来てもらえないでしょうか」と伝えてきたので、だいじょーぶ、と教えてもらった路線のバスを探して乗り込む。
しばらくは田園風景というか何もない光景が続いていたが、やがて市街に出る。驚いたことにこれまでは記号にしか見えなかったハングルが、なんとなく文字として発音を求めてくる。じゃあ片っ端から読んでみよう、と道路標識とかに挑戦してみるが、あっという間に通り過ぎてしまうので最初の一文字しか読めない。
「マ」「カム」「イ」「パル」「ドン」…などと一人でぶつぶつつぶやいていたら一時間弱で最寄りの鐘路2街(ジョンノイガ)バス停に着いてしまった。映画祭会場の場所を確認して、でも今行くと丁度上映入れ替えをしているはずだからどっかでお茶して遅れて行こう、と喫茶店に入る。しかし喫煙席が4・5階(なんでそんな上まで店があるんだよ)なので、ひぃひぃ言いながらスーツケースを持って階段で(なんでエレベータがないんだよ)上がりやでやで、と席に座り込む。しかし何というか、ここが新宿3丁目だと言われても「あ、そうなん?」で済ましてしまいそうなくらいに外国に来たという実感がナシ。加えてT氏の携帯が国際ローミング出来るので、「あ~メール来た~」とか言ってるし、ますます実感が湧かない。バラバラに収納していた各種お土産を持参の紙袋へ3つに詰め直し、しかも映画祭への土産が坂角総本舗のさくさく日記(海老&帆立)やら鶴屋吉信の有平糖とかなので、いよいよ地方のじいさんばあさんに会いに行く孫、のごときものに成り果てる。
韓国一発目、雨降りそう
会場となるソウルアートシネマは隣の鐘路3街(ジョンノサムガ)にあり、以前行った事はあるのだけどいまいち現在地との位置関係が判らず、何度も地図をひっくり返したりしながら方向を推測し、タプゴル公園の脇を抜けて歩いていくと、やがて建物が見えてきた。3つの映画館が入っているビルで、ソウルアートシネマはその内のひとつ。エレベータで4階まで上がると非常にもったいない感じに広い屋上風中庭に出る。未だに建物の構造が良く判らないが、どうも中心に3階までしかない建物を挟んで周囲に更に高いビルを配置してジョイントしたというかんじ。しかしこの広大なスペースを喫煙所以外に使っていないというのは果たしていいのか、って余計なお世話ですね。予定通り上映中で閑散としたロビーに行ってみると、スタッフがいち早く僕らを見つけて来てくれる。男の子二人。片方の子がややクセのある発音の英語で自己紹介をしてくれる。その彼、Dくんは明日到着の主演Hくんを空港まで迎えに行くそうなので、僕もなるべくスムーズに行くように説明をする。この劇場では昔からの友人SくんとRくんが働いているので(まあ偶然というか必然というか)、今日はいるのかね、と言っていたらあっさり出てきたのでここだけ瞬間的に人格を変えて「キャー」とか言いながら抱擁など。普段は音信不通に近くても、会えば一気に「どーよ最近」のノリになれるのが古い友人のいいところで、ロビーのテーブルに着いておひさしぶり、で早速仕事の話ですが、を始める。東京でやりとりをしていた段階で、劇場の掲示板にA3サイズのポスターを貼りましょう、から始まって最終的にはポストカードセットを作って売ろう、という事にまで発展し、デザインから印刷までの話の間に立ってくれていた
Rくんに途中連絡取れなくなるという事態になりつつも最終的には3日でポストカード5種セットが250セット完成(しかも超低料金)という素晴らしい仕事っぷり、しかも既にブースで売ってた。Sくんからは料金が安いから、色がちゃんと出るかちょっと心配なんだけど、と言われていたので覚悟していたけれど、なかなかどうして立派な葉書セットじゃないですか、と嬉しくなって、その場で持参したCD(サントラも売るつもりで持ってきた)のおまけ用に袋詰めを始める。映画祭の方でも数十部をパックしてくれていたのだけど、全部の袋はないのでイマイズミコーイチが持参した袋に詰めるから、裸の葉書を下さい、と言ったら何故か一種類だけ2倍以上あり、何で?と聞いてもSくんもRくんも「さあ、印刷所が間違えたみたいです」と言うばかりで全く要領を得ないのだが、何をどう間違えるとこんなに余分が出来るんだろう、と可笑しい。
8階からの眺めはよろしく、大人は喫煙
映画祭スタッフDくんが「ホテルまで送ります」と言うので、再会もそこそこに一時間くらいで会場を後にして、帰るというSくんと路上で別れてタクシーで近くのホテルに向かう。ホントにすぐ近く、地下鉄だったら一駅だ。Dくんは「これから戻って次の回のもぎりをしないといけない」と言うのでチェックインだけしてもらって帰ることになっているのだが、見えてきた「ホテル」はありゃ~、随分立派じゃないですか。これまでは全て日本で言うとラブホテルだったので、ただただびっくりする。毎回のラブホテルもなかなか味わい深く、全然問題なかったのだったが、どうも今回の映画祭ディレクターは割ときちんとスタンダードな「映画祭」運営を心がけているようで、恐縮しつつもそれはそれで嬉しい心遣い。部屋も、まず鍵が赤外線リモコンのオートロックだし(鍵すらないところに泊まったことがあります)、4人用とは言え広いし、有料だけどキッチンも付いていていわゆるウィークリーマンションとか、そういった感じ。さっき会えなかった映画祭ディレクターPJ氏が夜には会場に戻ってくると言うので、ドアの前で別れ際Dくんに「夜また会場に行く」と伝え、部屋に荷物を置いて外の喫煙所(部屋は禁煙なのです)で一服してから、身軽になってホテル近くのカッチエエ市場を通り抜け、ふらふらと駅へ向かった。最寄り駅は乙支路4街(ェウジロサガ)、これまた料金が上がっている(初乗り1000ウォン)地下鉄に乗って一駅、会場近くに出た。特にすることも無いのではあるが小腹が減ったのでその辺にある店でギムパブ(韓国風海苔巻き、もちろん酢飯ではない)を買って行こう、と全くハングルだけの店に入るがもう見当はついているので「ギムパブジュセヨ(海苔巻きください)、イ(2)」と店の入り口にいたおっさんに言ってみる、ホントは味がいろいろあるんだけど確かめようもないし、おっさんも「あいよ」とか言って作り置きしてある海苔巻きに胡麻油を塗って切ってからアルミホイルに包んでくれるのでまあいいや、と思っていたらいきなり店の外から酔っぱらいらしいおっさんがぬう、と顔を突っ込み、僕らを見て「イルボン(日本)?」とか言いながら通訳しようとしてくれたのだが、既にほぼ解決していたのでありがたくお引き取りいただき、無事に海苔巻き2本を買い(一本1000ウォン、安い)、隣のファミリーマートでお茶を買って会場に向かった。
市場を抜けるとき、乾物の匂いが強くする
ソウルアートシネマに着くとまだ上映中、なのでロビーでさっき買った海苔巻きを食べる。うまい。日本ではあんまり気軽に買えないので、ここぞとばかりに食らいつく、麦茶も飲んでちょっと一息。やがてDくんが「ディレクターのPJは今日来られなくなってしまったので会えない。電話がつながっているので話してみて」と言ってくる。げ、英語で電話って苦手なんだよ、と思いながらも3人の中では自分しか話す人がいないので仕方なくDくんの携帯に耳を当てると、「ハ~イ」とか言ってなんだか向こうで話している姿が眼に浮かぶような(まだ会ったこと無いけど)トーンのご機嫌ボイスが飛び込んでくるのでこちらも無理矢理「ハ~イ」モードでお話しする。「会えなくてごめんなさい、他の映画祭の仕事が終わらなくて」「明日お会いしましょう」「部屋は気に入りましたか」などと矢継ぎ早に言ってくるので「オールオッケーです」「ノープロブレム」「ベリーグー」などと明らかに相手より相当レベルの低い英語力で何とかこなし、切り際が良く分かんなかったので「ア~」とか言いながらDくんに電話を返してしまったが、なんか忙しい人らしい。でもま、頼れそうな方ではあった。
劇場事務所にまだ残っていたRくんと屋上で煙草を喫いながら話をして、僕らの通訳が決まっていないらしい事を言われたので、「じゃあホントにいなかったらRがやってよ」と言ったのだけれど、「いや、私は何と言いますか、人前で喋るのに恐怖感がありまして」「私は劇場を守らないと」などと辞退し続けるのでそれ以上は強く言えず、もし英語になったらどうしよう、と不安を憶えながらも仕方ないので未解決のまま帰ることにした。最後にDくんに「明日朝の上映回を観たいので、チケットを手配してもらえる?」とお願いをしてから、ホテルでパッキングするために葉書を全部受け取って辞去した。
Rくんは残業中でしかも前日朝まで飲んでたらしくて疲れてるみたいだし、映画祭スタッフは異様に少なくてしかもまだ上映が終わってないし、で僕らは3人だけになってしまったが、まあ何とかなるだろう、と晩飯を食べに行く。仁寺洞(インサドン)という骨董街の辺りを歩き、狭い路地を無理矢理通ろうとする三輪バイクにたまげながらも安国(アングック)駅近くのメシ屋に入ってビビンパブに冷麺にテールスープにHiteビール、という実にミーハーなオーダーをし、でもフツーに旨いので閉店過ぎて誰もいなくなるまでそこにいて、それから仁寺洞の伝統喫茶に移ってまたお茶、自分は蓮茶を頼んでみた。隣では日本人らしい女の人が一人、延々携帯で身の上相談のようなことを受けており、またしても在韓国という意識が遠のく。そこでも閉店過ぎてもいたのだが流石に眠くなったので帰ることにし、終電はまだだけどタクシーに乗るか、と思ったら全然止まってくれないのでもう歩くべえ、と清渓川(川を潰した高速道路だったところをまた川に戻した、というのでちょっと話題になったところ)を越えてたらたら歩くが、道は意外に遠く、右手に持った葉書セットが段々重くなってくる。やっとこさホテルに着いて、交代でシャワーを浴びながら葉書セットを袋詰め、150セット弱が出来あがり、さてどのくらい売れるかな。案の定、例の一種類だけものすごく余るが、「それだけ2枚入れたらどうかな」という自分の提案はあっさり却下された。明日は主演Hくんも来て最初の上映だ。しかしトイレで用を足そうと脇に掲示された「注意事項(韓日英併記)」には「トイレットぺーぺーは便器に流さないでゴミ箱に捨ててください」「インターネットはロビーのビジネスセンターで使えます」「キッチン使用は有料です」などとあり、なんで大事なことを全部トイレだけにまとめて書いてあるのだろう、と思った。トイレットぺーぺー云々は判るけど、ちなみに韓国の水道は水圧が低いので、流すと詰まるとのこと。
内職の夜
2007.0607 訪韓
2007.0608 第一回上映
2007.0609 第二回上映
2007.0610 クロージング
2007.0611 帰日