2007.0609, sat
起きたら正午、気が付くと鐘が鳴っている。この付近には鐘路(ジョンノ)、鐘閣(ジョングァック)など「鐘」の付く地名があるが、これはどこかで鐘をついているのか、あるいはテープなのかは知らない。知らないけど何とも形容しがたい響きが続いて、ある種の映画の中で鳴っているかのような音響、フィクショナル。自分は全身を耳にしたいくらいの思いで半開きの窓から身を乗り出して眼をつむり聴覚を研ぎ澄ます。丁度今頃の昨日、自分は映画を観ていたのでこれを聴き逃したのだった。もしこの鐘の音を聴いて育ったなら、きっと自分の感受性はどこか違ったものだったろうと思う。でも非日常の中でこれに出会うことが出来たのは幸いだったと言わなくてはならない。夜更かしはしたものの遅起きなので、ぼんやりしながらも支度を始める。雲は出ているが、妙にいい天気だ。
ホテル目の前の公園脇、じっと見ているとパースペクティヴが狂ってきます
今日はこれから大学路(デハンノ)に行く。映画祭スタッフSや日本滞在中の友人Jの旧友でもあり、4年前にソウルへ来たときに部屋を提供してくれたYS(画家)がそこで初めての個展をしているから。
彼のことはその時の日記にほんの少し書いているのだけど、実を言うとそんなに良くは知らず、後になって日本で、JからYSがどんな人かを聞かされて大体の所を知ったのだった。今回ソウルに着いて早々にSから「YSが個展をやっている」とポストカードをもらって、じゃあ今日行ってみよう、と地下鉄で最寄りの恵化(ヘイファ)駅に向かう。実はダンサーK氏の公演もここで、ポストカードの地図を見ながら歩いていたらその劇場が先に見つかってしまった。あ、前回ダムタイプを観に来たとこじゃん。これで明日はバッチリ、と気をよくしてハングルしか書いてない地図をためつすがめつしながら結構日差しの強い中を歩いてみたが、どうも良く判らない。行き過ぎかなあ、これ以上進むと地図と全然合わなくなっちゃうんだけど、とカンだけで戻ることにする。しかし今日は駅周辺でデモをやっておりうるさい、つうかマイク持った女の人が壇上で歌い出した(上手い)んですけど。警官というか機動隊みたいな人たちもいっぱい居て、なんか落ち着かない。そんな中Hくんはバス停にあったお茶かなんかの広告にひっかかり、若い男性タレントがこれでもか、というブリブリ顔でお茶を2本頬に寄せている写真を「可愛い可愛い」とはしゃいで写真を取り出す始末、なので自分はそのHくん込みで看板を撮影。
見ても全然判りませんでしたがこのモデルはピだそうです。…って言われても何ともねぇ…
ううむ、この道を曲がるのかも、とあまり根拠のない理由で、でも自信のなさは面に出さないようにして「みなさんこっちです(多分)」と他の3人を誘導する。ドラゴンアッシュソウルツアーのポスターがある通りを抜け、また右に曲がって歩いていくと、やがて「新人紹介、YS:Blow Up」という文字が印刷された白い大きな垂れ幕を見つけた。ここだ。
ギャラリーは一階がカフェ、階段を上がって二階が展示スペース。時間が早いせいか他には誰もいない。YSの姿も見当たらない。そこにいたギャラリーのおねいさんに「YSくんはいますか」と聞いてみたが、「今日は来ないんです」と申し訳なさそうに言うのであ、じゃいいですいいです、とお礼をして、絵を観ることにする。以前彼の家に泊まったときに貼ってあったのは鉛筆画に水彩で着色みたいなもので、今ここに展示してあるのは油彩、画風が変わったのかどうか全然判断できないのだけれど、輪郭をきっちり描かない手法で表された対象物が、キャンバスからまっすぐ立ち上がってくる。色彩は決して強くはなく、むしろ溶け込むように隣り合った色と調和しているけれど、全体の中に置かれるとそれらの色が始めからそこにあったかのように絡み合い、室内で風に吹かれているかのように空気を送ってくる(とここまで書いて初めて気付いたのだが、そもそも展覧会のタイトルが「ブロウ・アップ=強風」でしたわ)。自分は一つの風景画の前で動けなくなってしまった。来て(来られて)良かったにゃあ、と心底思いました。
しばらくするとさっきのおねいさんが話しかけてきて、「いまYSさんに電話したんですけど、明日なら来るそうです」と教えてくれるので、じゃあK氏の公演ついでにまた寄ったら会えるかもね、とわざわざどうもありがとう、を彼女に言ってノートに名前を書いて帰ることにした。しかしギャラリーの床は一部アクリル張りになっていて下のカフェが丸見え。上の僕らは面白いけど、下でお茶飲んでる人は落ち着かないんじゃないだろうか。
この近辺で一番笑った落書き(は羽根と"HONDA"の赤線だけです、念のため)、素晴らしい。
手抜きとしてはかなりハイレベルな効率の良さです
おなか減ったね、それもパン食いたいパン、とイマイズミコーイチが言うので、学校の多いこの辺ならそういう喫茶もあるんじゃない?と探し、最初に当たりを付けたコーヒーショップでちと可愛らしい店員さんに「食べるものはある?」と聞いたら「すいませんチーズケーキしかありません」というので止め、もうちょっと駅の方に坂を下ると(あ~この辺りはダムタイプ観た後で深夜、Jとうろうろしたな)、「art book cafe」とかいうものがあり、すぐ先には「HOF(何と訳したらいいのか、ま、ビールジョッキのサインが出てます)」もあるのでT氏に「やっぱビール…ですかね?」と聞くが「いや、ここでいいよ」と言うので入り、窓際の席に陣取ってメニューを見る。店内にはワインボトルとアートブックがそこら中にあるが、ビールは無いもよう、そして本はすべてTASCHENなのでもしかしてタッシェンの店か、と後でナプキンに書かれたハングル2文字を読んでみたらそれは「タッ/シェン」なのだった。注文をして、煙草喫いながら待っていたら、向かいに座ったT氏がふるふる震えながら笑い出す。だいじょぶですか、何か壁にヘンなものでもありましたか、と言ってもはかばかしい答えは返ってこず、自分の顔を見てはまたふるふるふる。どうしたのかなあ、疲れているかな?と再度「どうしました?」と尋ねるとようよう口を開いて僕にカメラを向け「いや、あまりに、無防備な…」などと言うのだがシャッターを押しもせず、三度目のふるふるふる。どうも僕の顔があまりに抜けているのを見てスイッチが入ったらしかった。T氏は結局写真は撮らないで(あら残念)カメラを下げ、「ようやく酔いが醒めた」と仰せになる。なんだ、まだ酔ってたんかい。やがて来た超うまいサンドイッチを囓りながら上映までの計画を(また時間が半端なのだが)相談し、どうせ地下鉄の乗り換えで東大門(ドンデムン)を通るから途中下車して、ちょっと見ていきましょうかと言うことになり、食べ終わって店を出た。しかし閲覧できる本のセレクションが偏っており、ウチらのテーブル近くにあったのは中国のプロパガンダアートの本一冊と交通事故写真集二冊(同じもの、大破した車から死体がはみだしてるのとか)で、どうにも軽くお茶しながら見るようなものではない。ヘンなの。
肉屋。見りゃわかるか
ドンデムン、以前来たときには改修工事中で門全体を巨大な布で覆ってそこに門の原寸大の写真をプリントする、という思い切った事をしていた非常に心潤む想い出があったのだが、さすがに2年経って来てみれば覆いは除去されて、でもまだはじっこは工事中だった。おつかれさまです。人混みを抜け、露店の中をのろのろ歩く、全然進まないのは人出とまあ僕らがいちいち商品に引っ掛かっているからだが、気が付けばHくんはTシャツ買っていた。元々は以前ヅラ(撮影用)を買ったウルトラファンキービルディングを案内したかったのだけれど、そこに到達する前に時間切れ、今更ながらで観光案内所にて地図などをもらい、会場最寄り駅まで戻ることにする。帰りすがらの露店食べ物屋からは「オニーサンオニーサン、ヤキソバチヂミ、ポルノ」とかいう声が聞こえ、さて最後の「ポルノ」ってのは何と聞き違えたんだかワレは。
ドンデムン近く、晴れると暑い
鐘路3街に戻り、このまま行けば上映には余裕で間に合うのだけれど、その前に寄りたいところがある。このKQCFの主要な構成団体でもあり、韓国における主にゲイ男性向けのHIV啓発活動をしているiSHAP(ivan[イヴァン=gay] Stop HIV/AIDS Project)の事務所がこの近くにあって、この時期ゲイのアマチュア写真家による展覧会をここでやっている事を渡韓前に知り、それなら是非観たい、と行くことにしていた。来てからその展覧会やiSHAPの事を現地の人に聞いてみたら「あ、それなら近いよ。表にロッテリアが入ってるビルの二階にある」と誰かに言われたので、KQCF総合プログラムに載っている地図はものすごく略されているけど(ハングルのみ)自力で行けるでしょう、と気楽に駅を出て、とにかくこの通りのどこかに入り口があるはず、と探すが、まずそのロッテリアがない。なんか自分の記憶の中ではあったような気がしていたのだが妄想か。何度往復しても表から見える看板もないし、もしかして場所を間違えているのか、と一本裏通りに入ってまた往復、でも地図が正しいならここまで行っては行き過ぎという箇所でまた挫折する。Hくんとその辺の店に入って突撃道案内(をしてください)とかやってみるが、「判りません」と言われあっさり引き下がり、また裏通りに戻ってその辺で煙草喫ってるサラリーマンに聞いてみるが、この人はまあ親切な人で男の裸やコンドーム画像も満載のパンフレットを取り出して話しかけてくる暑さにやられた(日差しがきつかった…)おかしな日本人にも引くことなく一緒に地図を見てくれたが、残念ながら英語がほとんど通じなくて彼の韓国語と身振り手振りからは「この先、そう遠くないところにある」という御託宣みたいな事のみしか判らなかった。最後の悪あがき、ともう一度表通りに出て(既に汗だく)、最初から何となく気になっていたレッドクロスの看板の出ている所ビルの前で足を止め、赤十字だか献血センターだか判らないけどそういうとこなら知ってるかも、聞いてみようと入った瞬間「iSHAP(8階)」の表札が見えた。誰だよロッテリアの二階、なんてガセを教えたど阿呆は、と後で聞いてみたら以前はホントにロッテリアもありiSHAPもそこの二階にあったのだそうだが、現在地に移転したとのことだった。
さてエレベータで8階に上がり(パルチンイムニダ)、開放してある扉を入ると、ちょっとしたギャラリースペースのような所にまず受付カウンターがあり、スタッフの男の子が迎えてくれる。韓国語ながら「『初戀』の方ですよね、記帳してもらえますか」と言っているらしいことは判ったのでもしかして昨日見に来てくれたのかも、と思いつつもその先のコミュニケイトが出来ない。困っているとイマイズミコーイチが来室者の中に昨日会った女の子を見つけ、「彼女は英語が出来たよ、通訳してもらおうよ」と言う、なので僕は初対面だったのだが「お願いできる?」と聞くと「もちろん」と言ってくれ、彼女を介して会話が始まった。ここに来ることを考えて、日本のレインボーリングやLiving Together、aktaにdistaなど集められるだけの資料を新宿aktaスタッフに提供してもらって一抱え、日本から持ってきたのだったがまずそれを渡し、パンフレットやグッズの説明をしていく。ここは日本のakta他の啓発センターとは違い、週末限定であるが検査も行っているそうで、同様にいろいろ印刷物やグッズを作っている。じゃあ日本に持っていきたいのでまとめてもらえますか、と聞くと「じゃあ準備しますので、写真展を観ていってください」と言われ、ああそうそう写真展観に来たんだった、と思い出す。点数はそんなに多くない。作家は5人だったかな。結局時間が無くてじっくり観られなかったのだけど、対象への、また表現への欲望とでも言うのか、そういったものが絡み合った力がダイレクトに出ている写真もあり、なかなかイカしていた、があそこで迷わなければもっときちんと観られたかと思うとちと悔しい。ここでしばらく休んでいく、というT氏とHくんをiSHAPに残し、僕とイマイズミコーイチは劇場に向かうことにした。帰りがけに何故か燻製玉子をもらいましたが、みんなに配っているんだろうか。iSHAPには4台のパソコンがあって、利用率はかなり高かったがそれぞれの利用者同士はあまり話もせず、黙々と自分の作業をしていた、ように見えた。実は交流しているのかもしれなかったけど、例えば隣同士でチャットしてたらそれはそれで不気味ではある。
この日の撮影ではないのですが、劇場近くで飼われていた人なつっこいチビ
アートシネマまで早足&駆け足で向かって開映10分前、Dくんは僕らを見つけるなり「ticket SOLD OUT(チケットが完売です)」と言う。マジすか、昨日の回より動きがいいとは聞いていたけど、とても嬉しい。ロビーでは会場スタッフSくんにSくんのお友達(日本語が堪能な欧米人)を紹介されたり、Rくんが出てきたりKさんがまた来てくれたりGさんが「観に来たよ~」とか声を掛けてきてくれたり、でなんだかどの人にも慌ただしく挨拶だけしているうちに時間になってしまった、さてこれから2回目の上映が始まる。PJは今日は来られないので、代わりの司会者の方と僕らの名前と役職を確認したりして、開映時間の6時を過ぎてから僕らは昨日と同じく最前列に陣取る。暗くてよく判らないけれど、一般販売しない最前3列を除いてはほぼ埋まっている、ように見えた。昨日は舞い上がっていて全然意識になかったのだけれど、例のスクリーン上の看板はきちんと引き上げられているのに気付いた、ああ良かった。映画は既に始まっており、さすがに昨日よりはお客さんの反応が判りやすい。とある出演者(仮にSKくんとする)は出てくるだけで笑いを取っていたが、彼がポテポテ走るというか歩くたびにくすくす、場内から笑いがもれる。最初から暖まってくれていると言うことなのでとても気が楽になる。さすがに自分たちの作ったもので泣きはしなかったけどうん、なかなか言い映画ではないですか、なんて。終了30分前くらいになってT氏Hくんも会場に入ってきて(やっぱりiSHAPで玉子をもらっていた)、通訳Yくんの姿が見えないのがちょっと気がかりだったのだけど、やがて映画は無事最後まで走り終えた、拍手を。
気が付けば、実は今日も後ろで観ていてくれてたらしいYくんが側に来ている。壇上から自分たちを呼ぶ声を聞いて、では行きましょうか、とステージ左側の小さな階段を上る。司会者は僕らを紹介した後、どうも「さてここに上がったみなさんが、まずは韓国語で挨拶をしてくれるそうです」と言ったらしく(推測)よけいな事を(推測)と思いながらもお客さんが歓声を上げているので顔を引きつらせたまま、イマイズミコーイチからご挨拶、「オヌル_ワジュソソ_カムサハムニダ(今日は観に来てくれてありがとうございます)」ひゅ~。Hくん挨拶(今回はカンペ無し、立派)。ひゅうううう~、の大拍手。で自分は最後の一文、「ジョヌン_イ_ヨンファ_エソ_ウマグル_マンドロスムニダ(この映画で音楽を担当しました)」でまた引っかかり思わず「マンドロスムニダ」を「モンドグロッソ(何でだよ)」とか言いそうになりやや失敗。まあいいですが、やっぱカタカナ音だけで覚えるのには限界が。
Q&Aになり、質問は昨日とかぶるものもあり、例の「みなさんゲイですか?」の質問がまた出たのでめいめいが「ゲイです」と答えると通訳を待たずに3連続で爆笑されたり、とまあ非常に楽しく質疑応答をさせていただきました。憶えている限りでは
・「韓国と日本、どちらがゲイにとってすみやすいですか?」という難しい質問が出、イマイズミコーイチは「韓国の状況は判らないけれど、それぞれに良いところも悪いところもあるだろうし、人によって合う/合わないも絶対あるから一概には言えないです。東京もまあ、いいですよ」と答える。
・昨日と同様、辞書的な意味合いでの「はつこい」というのとは違う展開の話でしたが、やっぱりこれは「初戀」というタイトルでいいのですか?と聞かれる。
・同性婚について、またセクシュアル・マイノリティの孤立について取り上げていますが、どちらを重視して作りましたか?と言う質問が女性から(彼女は同性婚の出来る国に行って結婚する計画がある、と言ってから質問をした。)出たのでイマイズミコーイチ「どちらに力点がある訳ではありませんが同性婚について言えば、自分の欲求として結婚したいとは思っていないけれど、したくてもできない人たちの希望が叶えられるようになって欲しい、とは思っています」と回答する。この人はとてもたくさんの質問をしてくれた。
サイン会盛況
さて時間切れになって外に出る、とスタッフが「サインコーナーを作るのでそこへ行ってもらえますか?」と言う。昨日突発的なサイン大会になってしまったので、次回上映の客入れの妨げにならないように、という配慮だと思う。イマイズミコーイチとHくん用に机が2つ、椅子も二つ。僕はいいよ、と遠慮したが通訳Yくんが席を用意してくれ、既に入り口をはみ出してサイン待ちの人が並び背後の売店には人が行ってない、ので自分の席にはポストカードとサントラCDを置いてみたりしましたが並んでる人は大抵もうどっちか持ってるし、売れやしませんでした。一人だけ彼女連れの男の子がタオルかなんかに書いてくれ、と言ってきたけどあとは大体ポストカード、たまにCD。 昨日と違ってこうシステマティックにはい次、というのだとサインして「ありがとう」を言うとか握手するとかそれだけにしかならなくて、ホントは感想を聞きたいのだけれどそれは無理っぽい。やっと最後の人にサインをし終えた時には既に次の上映は始まっていて、ロビーはすぐにひっそりと静かになった。
これで2回の上映は終わり、なかなかではなかったですか、と言い合って、ポストカードとCDはこれで引き揚げることにする。もう売れないだろうし。スタッフにそれを伝え、残数確認と売上精算をお願いして待っていると、さっきの司会者が売店の向かいのブースに座っている。ちゃんと聞いたら彼がiSHAPの代表で、じゃあさっき僕らが事務所に置いてきた資料の説明をしておこうか、なんかやっぱちゃんと通じていないようだし、とYくんに通訳を頼んでお話をする。彼は日本にも似たような団体があることは知っていて(何年か前に行ったことあります、と言っていた)、資料を後で見ます、と言ってくれた。とここでHくんが急に自分が働いている雑誌(Hくんは編集者)でiSHAPの事を記事にしたいから、もし時間があればここで取材をさせてもらいたいという。あ、それはいいかもね、向こうもこちらの希望に応じてくれたのでロビーにてHくんインタビュアーT氏写真Yくん通訳、の取材が始まる。Hくんはさっきまでのゲスト主演俳優モードはオフにしていきなり仕事の顔、げに熱心なり。
Hくん仕事中。僕らは遊んでいました
さて僕らは、と言えばやや虚脱したままふらふら喫煙したりサイダー買って飲んだりしてました。やがてスタッフが委託販売物の精算を終え、残商品と売上金を渡してくれる。ポストカードもCDも充分な売れ行き、少なくとも観客の6分の1くらいの人は何かしら買ってくれたのではないのだろうか。ポストカードの印刷代(Rくんが建て替えてくれていた)を払ってもまだお釣りが来るし、ポストカードも残ったからこの先も使えるし、でこちらも成功でした。自分は冗談で「こんなに円が安いんだから、出来るだけウォンを稼いで帰らないと」とか言っていたのだけどそれも半分実現したくらいの純益、ベリグー。
Hくんの取材作業も終わって、ご飯食べに行こうか葉書の売上でおごちゃっる、とイマイズミコーイチが言うのでスタッフに挨拶をして上映テープを受取り、Yくんも連れだって5人で近くのお店に入る。韓国在住Kさんから、土曜はこの辺の屋台がゲイばっかりになるので呑みましょう、と言われてすっかりこのまま屋台に行くつもりだったのだが、Yくんが「でも屋台だとご飯というよりつまみしか出ないから、先に軽くでもちゃんと食べておきませんか」とアドバイスしてくれるので、じゃあパジョン(ネギ[=パ]焼き、「チヂミ」は方言だそう)を食おう、と案内してもらう(何から何まで申し訳ない)。そう言えば大学路のタッシェン喫茶のサンドイッチ以来何も食べていない。ちょっと歩いてインサドンの、レストランが集まっている辺りでYくんは立ち止まり向かい合わせになった2軒の間に立って「内装の違い以外は同じようなものですけど、どっちがいいですか?」と聞くのでここはHくんに決めてもらおう、と判断を任せるとHくんしばし「う~ん」と悩んで「こっち?」と左手の店を指さすのででは、とぞろぞろ入っていった。
店の奥の、座敷になっているところに靴を脱いで上がり5人、あ~やでやで終わったねえ、とビールで乾杯をする。キムチパジョンと海鮮パジョン、あとドングリ豆腐のサラダみたいなの、それとやっぱマッコルリのみたい、と自分は言ってYくんも「パジョンだとマッコルリ、ってのはけっこう定番の組み合わせです」とか言うのでほんなら、と注文を出す。まずはパジョンうまい。お好み焼きは厚くてふわふわでも美味しいけど、パジョンは薄めで周縁がカリッとなるくらいのがよろしいですね。キムチパジョンは案の定辛くて、熱さと相まっておいしく舌に沁みましたが、もしかして辛味って味覚じゃないんだっけか。やがて、瓶に入ったマッコルリが来たのでYくんが茶碗に注ぎ分けてくれる。つめたくて、僅かに発泡している。初めて韓国に来て呑んだのと同じくらいおいしい。甘酒みたいなものを想像して気が進まなかった感じのHくんもちょっと口を付けてから、「あ、飲みやすい」と割と気に入ったようで、よかった。
ここ数日Yくんには随分一緒にいてもらっているけれど、彼個人については学生だ、って事以外あまり聞いてはいなかった。一応オフィシャルにはお仕事終わり、なので割と友人モードで話を聞かせてもらったり、韓国の上下関係ルールとか、兵役があることも大きいんだろうけどやっぱり大分感覚が違うんだね、とかいろいろ。Yくんはまだ二十歳そこそこだけどアタマには知識もきっちり入っていて回転も速いし、何より生半可なことには動じない(ように見える)というのは取りあえず通訳向きではないだろうか。個人的な話もしてくれたけど高校時代は風紀委員だったそうで(「でも僕が一番悪いことしてたんですけど」と言ってちょっと笑った。コワ)、正直なところこの人が風紀委員やってる高校でなくて良かった、とちょっと思いました。歳が全然違うけど、ウチとこの母校は風紀グダグダだったけど、もし彼に睨まれたら自分はきっと速攻で降参します。
青いネオンのが劇場が入っているビルです
約束通りここはイマイズミコーイチがおごってくれて、ごちそうさまでした、さて呑みに行くか(いつから自分がそんな酒浸りになったのか、判らない)と公衆電話からKさんに連絡をする。途中Yくんに替わってもらって場所の見当を付け、会場からもそんなに離れていない店にたどり着く。店の外にはKさんがいて、「いまG-voice(ゲイコーラス、今日は僕らの上映とばっちりバッティングしてのコンサートやってた)の打ち上げ中なんです。あ、I監督(昨日観た映画『No Regret』の。前日の日記で実名出してるけどここは他とのバランスを取るためにイニシアルとする)も来ていますよ」と言う。続けてKさん、「I監督に『日本からあなたの映画が好きで会いたい、と言っている映画監督(イマイズミコーイチのこと)が来てます』と伝えたら『え、僕のことを好きな人が、日本から?』と目下勘違いをしています」などと言うのであ~あ、と思ったがおそらく相手は酔っぱらい、どうしようも無いだろう。意を決してものすごい混んでいる狭い店内に入ると主演俳優Hくんを見つけた人たちが大歓声を上げ、そのまま何故か「なんか歌え(さすがコーラスグループ)」というリクエストが出て、気が付けばこれまた何故かHくんは「キューティーハニー」を歌っており、ある種ものすごい絵ヅラではある。訳がわからん展開早い。
自分がどうして席に着けたのが理解できない程の混みようではあったけれど、とりあえずどうもどうもトーキョーカラうぉんヲカセギニキマシタ、とか何とか言って色んな人と名刺交換、今回の旅行では何年かぶりで名刺がどんどん無くなっていく。中には前回ゲイバーで会ったことがある人もおり、あらららお元気でしたか、とかやっていたらマジ久しぶりお元気でしたか、と言うべきおっさんがぬう、と出てきた。彼、Mは言ってみればゲイ業界の実業家であって最初に会ったときにはバーをやっており、今はインターネットのサイト運営をしているらしい。前々回くらいの渡韓時には家に泊めてもらったこともある。全然変わらんね、と言ったら「君は随分キャラクターが変わった」と言われるがまあ、酔ってますから。Mにはここでいきなり取材を申し込まれ、それでまた後で一騒動起こることになるのだが、それは後回し、それよかIはどこだ、と探すと、居た(と言っても自分は顔を知らない。以前会ったはず、とイマイズミコーイチは言うのだが記憶に無し)。店内があまりに騒然としているので外に出てもらって映画が良かったです、という事と、『初戀』のプレビューDVDを持ってきたので観て欲しい、と言うことを伝え、会えて嬉しいです、と一緒に写真を撮ってもらったりした。店内には前日に僕らをインタビューした『No Regret』プロデューサーPK(スケスケスカートでコンサートの司会、後で聞いたら3回衣装替えをしたらしい。アホか)ももちろん居たが、昨日とは打って変わってなんというか、明らかに活き活きとして店内を駆けずり回って(不可能なはずだが)いる。やはり自分らしいのが一番ですよ、と分別くさいことをぼんやり思った。
一軒目を出たとこ、エヴリイヴァンオンザロード
この店ではこれでお開き、次に行くから、とメンバーは支度を始め、出口で会費を徴収しているので僕らも多少呑んだけど、お会計は?と聞いたら「君らはいい」と言うことなのでありがたくご馳走になり、さて自分たちはこれからどうしようか、と思っているとI監督が「これから次の店に行くけど、行かない?」と誘ってくれるので瞬時にエンドレス確実な展開を予期はしたけれど自分はヘラヘラしたまま「オフコース」とか答えて、あ、でも僕らちょっと遅れそうだけど(Mが他のメンバー掴まえてまだなんだかんだ言ってる)どうやって店まで行ったらいい?と聞くとI監督、日本語で「Kさ~ん」と日本人Kさんを馬鹿でかい声出して呼ぶ、いかんこの人も相当酔っている、こんばんは、時刻は0時を回りまして翌10日、この先待ってるズブロッカ、ではなくて多分、眞露。
2007.0607 訪韓
2007.0608 第一回上映
2007.0609 第二回上映
2007.0610 クロージング
2007.0611 帰日