2008.1105 quarta
起きてみると快晴、とても静かだ。イマイズミコーイチは既に起き出していて「なんかものすごく早く眼が覚めちゃった」そうで寝ている僕の写真を撮ったりしていたそうだが、自慢じゃないが大変寝相の悪い自分は旅行の度にすごい格好で寝ている写真が増えていく。まあ今回のは毛布はかけていたので良しとする。朝ご飯は10時半までだと言うので一階のロビーを出て外に入り口があるカフェに入る。「あさごはん券」じゃなかったカードキーを見せて席に着くが、顔を見ただけでは他のお客さんが何人なのか全く判らない。果物をもりもり食べてお茶を見てみると表記がポルトガル語なので種類がよく判らない。"chá"が「茶」なのは知ってるが果たして紅茶なのかこれは、と黒いパッケージのティーバッグにお湯を注ぎ、飲んでみるとお茶のようではあるが明らかに飲み慣れた紅茶とは味が違う。各テーブルの上にはどうみてもベビーオイルにしか見えないパッケージ(男女が笑顔の写真付き)の透明な液体が乗っているが、「カロリー0」と書いてあるところを見るとダイエット甘味料かもしれない。
"Bom dia."(おはよう)
今回の旅行は全くビーチリゾートではないのだがブラジルは真夏だと思い込んで水着は持ってきているので、屋上にあるプールで泳ぐことにする。本当は春だけど。上がってみると誰もおらず、ついでにタオルとかも無いので部屋から取ってきて、水に手をつけたイマイズミコーイチが「とても冷たいです」と困っている。陽が差すと暑いんだけど、ここらへんがやっぱり春、でも入ってみましょう、と水浴び。この最上階には会議室があり、何やら会議をしていた人が休憩時間らしくて続々プール際に出てきたのだが、そんな中で水着になる私たち。今泳ぐのがどのくらい非常識なのか判らないものの、プールだって閉めてないし、泳いでないけどパンツ一丁で陽に当たる人が後から一人来たので許容範囲であろう。しかし水が冷たい。ここはビルの14階なので見晴しはいい。浅いプールの中から見上げた空はやっぱりどうも夏ではありませんでした。
一時間ほど過ごして部屋に戻ってからシャワーを浴び、しばらくしたらフロントから電話、「お友達が見えましたが、部屋に行ってもいいかと言ってます」ということなので「大丈夫です」と返事をするとやがてネイがやってきた。付けていたテレビでニュースをやっているのをちらっと見て「オバマ、勝ったね」と言った。今日はブラジルのLGBT映画祭"Mix Brasil"スタッフと会う約束があって、一緒につきあってもらうことにしている。この映画祭はこれまでの映画を全て上映してくれているのだが毎回行けないので(遠いし、残念ながら渡航費は出せないと言われていたので)、今回サンパウロに寄るなら事務所があるし、会えるかもと日本を出る前から連絡をしていたのだが昨日最終的に担当者と約束ができて、「一週間後に映画祭が始まるので忙しいけれど、一緒にランチならできるよ」と言ってもらえた。
最寄りのBrigadeiro駅からこのRamal-Paulista線の終点Vila Madalena駅まで5駅、途中大量の綿あめを持ったおっさん(車内販売)を見かけたりしつつエスカレーターで地上へ。「ブラジルでは誰も片側を歩いて登らないから寄らなくていい」そうでその代わりか、結構スピードが速い。昨日の電話だと「駅を出てすぐ、黄色い家があるからそこ」と言うので見回すと確かに黄色い家が一軒見えるが、なんか民家みたいだなあ…ネイがいつものように雑誌スタンドの人に聞いているが番地からするとやっぱりそこみたい。近寄ってみると小さいアパートのようではある。こにゃにゃちは、などと言いながらベルを押すと「どうぞ〜」と誰かの声がして鍵が開く音がした。
地下鉄、奥がわたあめ
今回連絡を取っていたマイケルは昨年『初戀』を上映した時の担当で、映画祭自体はサンパウロ以外の都市にも巡回するのだが『初戀』はサンパウロだけだった。メガネをかけた若い男性が出てきたのでどうもどうも、と言うとこれがマイケルなのでした。「どうぞオフィスへ」というので奥にある一室に案内してくれる。そんなに大きくない部屋にデスクが2つ、4面ある壁のうち2面が棚で、そこにはテープやら何やらが積んである。向かって左がマイケルのデスク、右のには女性が座っており「ようこそ」と握手してくれた。詳しく聞かなかったがこのスージーさんの方が古いスタッフのようで、彼女は今年のベルリンにも行ったと言うから僕らも同じところ(店)にいたかもしれなかった。
挨拶をして、みなさんたいへんお忙しいところを来てはみましたが特に用事は無いんです、などと言うわけにはいかないのでええと、あっそうだ10年前にこの映画祭で上映した時のパンフレットだけ頂いてないんですが余ってたら貰えますか、とまた面倒なことを言ってみるとスージーさん、「ここに一部あるんだけどこれは資料用だから…」と床にあったダンボールを開け、「二階から引っ越したばかりなので全然整理できてなくて、あらこんなところからノートパソコンが。マイケル、これそこに置いて」となかなか現場が混乱していたので「じゃあその資料用のコピーでいいので」と言うとスージー、インクジェットの複合機でコピーを取ってくれた。ありがとう。
マイケルが「近くにベジタリアンレストランがあるけど、そこでいい?」と昼食に誘ってくれる。行きましょう、と4人で日陰が全然ない道路を歩く。ちょっと歩いて入った店は、ブッフェ形式ですが全部野菜。今日は水曜日なのでフェジョアーダ(黒豆と肉の煮込)を食べる日、で黒豆はあったが肉が入ってない。ネイが「これは贋物、ブラジリアで本物を食べて」と笑う。でもみんなおいしそうだよ。半分屋外の席について飲み物を頼み、マイケルはどうもブラジル人ぽくないなあ、と思って聞いてみたらアメリカ生まれオーストラリア育ちだそうでした。なんかいくつかの映画祭を経験して現在ブラジルにいるらしい。一週間後にはサンパウロで映画祭が始まるのでたいへんいそがしい、ようだ。お邪魔してすいません。映画祭の準備はどう?と聞くと「映画祭はいくつものイベントのうちの一つだから、なかなかたいへん。ウェブサイトのスペースも充分じゃないし、そこは改善していきたいと思う」。とそこへイマイズミコーイチが「あ、そういや去年のパンフレットの表紙はサムライが対決しているシルエットのイラストだったけど、あれはなんで?」と聞くとマイケル、「去年はアジアを特集したし、刀を打ち合わせるというのはチ○コを擦り合わせる動作の隠喩なので…」と初めてあの謎な表紙の意味が解りました。
この店には後からスージーが映画祭のプロデューサーという男性を連れて来てご飯を食べていた。2回おかわりしたし、そろそろ行こうかなと席を立った僕らに紹介をしてくれて、「次回作も待っていますよ」と言われたので「たぶん来年末です…」と弱々しく返事をしてお別れをした。事務所に戻ってマイケルがさっき探してもらった10年前のパンフがあったらしい、と倉庫を再捜索してくれたが結局出てこず、「ごめん、やっぱり無いみたい」だそうなのでコピーがあるからいいよ、と片付けを手伝い、じゃあまたね、映画祭が無事にオープンしますように、と一緒に写真を撮ってもらってからお別れをした。ネイが「以前Mix Brasilのディレクターをしていたアンドレさん(いまは"Junior"というゲイ雑誌の編集長)の事務所がここの二階にあるみたい、さっき声をかけたから来ると思う」と言うのでちょっと待っていたが降りてくる気配は無く、やがてさっき別れたはずのスージーまで戻ってきて「ハイ」などと言われてしまったので帰ろうか、帰りましゅ。
歩き出す。まだ序の口
さてここから大失敗が始まる。ホテルを出る前にネイに頼んで明日のブラジリア行きで乗るTAM航空へのリコンファームを頼んだのだがなぜか電話が通じず、ガイドブックで見ると住所がConsolaçãoになっていたのでじゃあConsolação駅で降りて通り沿いに歩けば着くね、行ってみようと帰りの地下鉄を途中下車して歩き出したらなんか現在地が'Consolação 20XX-13XX'ですがTAM航空の住所は200番台、どれだけ先か、とそこへネイが「もしかしたらすっごい先かも」と追い討ちをかけるように言う。途中でかい墓地が道の向こうに見えたり(金持ちだけが入れるらしい)して40分くらい歩いたのか、やっとそれらしい番地になってきたがこのビルかなあ、外からは判らないけどと入ってみるとなんか違う。ネイが係のおじさんに聞いてくれ、苦笑しながら帰ってきて開口一番「そのガイドブックうそつき。もう何年も前に引っ越したって」がちょーん。まあ座ろうか、というわけでビルの前に腰を下ろして一服、途中僕のところには「火ィ貸してくれにいちゃん」というくわえ煙草のおっさんが来たりしつつ、ネイがもう一度TAM航空にかけてくれる。と今度はつながり、途中まで話をしていたら切れてしまった。「携帯のカード買わなきゃ」というネイに悪いので、じゃあホテルに戻って部屋からかけようと提案する。「そうだね、さっき聞いたところまでだと君の明日のチケットはサンパウロ発サンフランシスコ行だ、とか言っていたから確認しないと」
サンフランシスコ?
何だそれは、とホテルへ向かうタクシーの中で幾度となく疑問がぐるぐる回るが自分ははるばるサンパウロまでは来てサンフランシスコに飛ばされてしまうの?やめたほうがいいと思うけどなあそういうのは。呆然としながら部屋に戻ってネイ様に再度お電話していただくとちゃんとつながり(出掛けのは何だったんだ、昼休みか?)電話を切ったネイ、「大丈夫だって、サンフランシスコというのはオペレーターの勘違い(すごい勘違い)ついでに東京までの全部の飛行機もリコンファームしたからそれも平気」ありがとう、ございます。ほんとうに。
15ヘアル握りしめて、タクシー車中
無意味な散歩のおかげで大分時間を食ってしまったが、MASP(サンパウロ美術館)に行きましょう、とパウリスタ通りに出る。そういえばサンパウロのゲイパレードってどんな感じ?と聞くと「今年は300万人くらい参加した。この通りから出発したんだけど、パウリスタ大通りを使えるイベントはメーデーとGLBTパレードだけ」だそうで後で動画とか検索したらものごっついことになっていましたが今年は5月25日だったそうです。話しながらMASPの前まで来るとなんか閑散としている。遠目で見るとチケットカウンターが閉まっているような…いやな予感がして行ってみると「開館は18時まで、ただし入場は17時まで」でいま17時05分、惜しい。惜しいので手前の広場でネイと記念写真を撮ったりしてみました。
さてまだ明るいしどうしましょう。まだ明るいというのにここから割と近いらしい、という理由によりイマイズミコーイチは「セックスショップに行きたい…」と目を潤ませている。傾きかけた強烈な日差しに向かって歩きながら「僕は昔から本当にセックスショップが好きで(中略)、セックスショップに行ければ後は(後略)」と訥々と語るのでじゃあさ、とネイについていくとやがてあっここは昼間に大失敗行進を始めてしまったConsolação通り、さっきここを曲がりさえしなきゃ、とちらっと思うがまあいいやMASPほかを観にまたサンパウロに来なさい、ということなんだろうと思い直す。大通りには穴が2つ開いており、立体交差になっている下の道路(そこらじゅうにグラフィティが描いてある)が見える交差点を横切り、ショップの入っているビルに至る。
サンパウロ・グラフィティ(市公認)
寂れたデパートのような外観の店に入ると、店内はそんなに広くなく、商品もそんなに無い。何か足りないような気がするのでしばらく考えると、雑誌が一切ないのだった。ゲイコーナーは奥のようで、DVDサンプルが壁一面に飾ってあるけどこれをどうするのかなと思ったら好きなのを選んで更に奥の個室ビデオ(ハッテン場)で見るのでした。イマイズミコーイチがふらふらと個室を覗いてみたらおっさんが一人付いて来てしまったので困った、と言っていた。何も買わずに割とすぐ外へ、もちろんまだ明るい。ちょっとですね、つかれました、足が、喉がかわきましたたたた、つうのでお茶飲みたいです。ネイは「ゲイが集まるカフェがあるよ。夜は、だけど」と大通りから引っ込んだところをさっきと反対方向に戻って歩道に席を張り出した喫茶店にてお茶、アイスカフェオレ、レモンティーをそれぞれ頼み、しばらく歩きたくなかったので一杯でずいぶん話し込んでしまった。クラブやサウナのチラシがあったので貰ってきましたが、来月マドンナさん来伯公演だそうでプロモーションイベントのとかありました。途中今回の旅行で持ってきたDATを初めて取り出しテーブルに置いて録音開始。何が録れるかな。
DATを回したまま歩き出しパウリスタ大通り、朝ホテルを出た時に見かけた古本&中古CDショップを覗いてみるがここも閉店で、今日はそういう日かも。「本とCDだったらショッピングモールにあるからそっちはどうかな」とネイは相変わらず超有能で、道のどん突きにある巨大なショッピングモールというかデパート、中に入った自分は何故かジャカルタ西武を思い出してしまいましたが何もかもお高そうです。まあ本とCDであればよかろ、と手前が本屋で奥がCD&DVDというショップに入る。自分は初めて見たけど本のバーコードをかざすと値段が出る端末が各所に設置してあって、これはなかなかべんり。CDコーナーのにかざすと値段だけじゃなくて全曲が数十秒試聴できる。旧音源の再発はもしかしたら日本の方が充実しているかもしれないのでもっと新しいのを探してみる。いちいち聴いていると時間がすぐ経ってしまいます。値段はとても安いもの(新品500円くらい)から日本並み(2500円くらい)までいろいろ。イマイズミコーイチはアートブックコーナーで昨日ビエンナーレの売店で見かけた本を探していたが無くて「買っときゃ良かった…」と焦っている。結局CDは買わずに件のゲイ雑誌"Junior"とブラジル全図(行った国では現地語の地図を探すのが習慣です)を買っておしまい。そろそろ帰ろうか、明日は朝が早いから。
販売の一例(エロ、あり枡)
モールを出てネイは「こういう所の方が安全だし、一日中遊べるから週末は家族連れでいっぱいになっちゃうんだよ」と教えてくれた。さっきの本屋では売っていなかったゲイ雑誌(エロビデオディスク付き)を買うべく雑誌スタンドに入り、「どれも同じようだから何でもいいんだけど、VCDは再生できないかもしれないからなあ」とイマイズミコーイチはたくさんある(バックナンバー含む)雑誌というか申し訳程度に紙が挟まっていて一応「雑誌」として売っているらしいビニールパックを取っ替え引っ替えしている。自分は何だかのどが痛くなってきたのでホールズを買い(50円)口に放り込んだ。以後の旅でもこのホールズには散々お世話になる事になるのだった。
帰り道にかるく食べて帰ろうか、もどるとダルいし、とすっかり暗くなってしまった夜道を歩き、ホテル近くのパン屋兼カフェ兼バーのような店に入ってハンバーガー「全乗せ」を3人とも注文、あとビール。オーダーして暫くするとお店の人がネイに何やら言い、「ハンバーガーバンズが1個しかないので、残りはフランスパンでいいかと言ってる」と言うのでぼうっとして話を聞いていなかったらしいイマイズミコーイチに「ハンバーガーバンズとフランスパン、どっちがいい?」と聞くと「バンズ」と即答したので僕らがフランスパンで頼むことにした。テレビでは歌謡ショーのようなものをやっていて賑々しいが「この人はいまブラジルでとても人気がある人」と歌っている中年男性を指してネイは言う。「ジャンルで言うとなんて音楽?」とイマイズミコーイチが聞いたが何だったのか、聞いた事の無いものですぐに忘れてしまった。
「ハンバーガー」が来た。フランスパンでもうまいっすよ。速攻で食い終わり会計を済ませてホテルに戻った。結局このキッチンは何一つ使えなかったねえ、残念もうちょっと長くいられたら果物を切ったりする余裕はあったかも(包丁が無いか)、でもいい部屋だったし値段も手ごろ(一人一泊4500円くらい)だからまた泊まってもいいな。「この辺のホテルは高いんじゃない?」と地元民ネイは言っていたが確かに調べた時に他のところはかなり値が張っていたから、ここで正解でした、たぶん。ネイはホテルで明日のタクシーの交渉をしてくれる。行きに乗った空港手配のタクシーを呼ぶよりホテルと契約しているタクシーの方が安いかも、と聞いている。今夜ここにいる運転手さんは明朝にはいないので、フロントデスクに言っておけば同じ会社の別の人が待っていてくれるから、それに乗れば定額で空港の国内線乗り場まで送って行ってくれる。もちろんネイが手配してくれたわけで至れり尽くせり。
テレビ塔にもさようなら
部屋に上がってちょっと話をして、ネイとはこれでお別れしなくてはいけない。彼は二週間くらいしたらサンパウロを離れ、一か月バイーア(東北部)で働くそうだ。「クリスマスには(兼マドンナ観に)帰って来るけど、向こうの仕事が良かったら一年くらいいると思う。そしたらバイーアにも来て」うん、と最後にタイマーで3人の写真を撮って、初日に渡すはずだったお土産セット(栗きんとんとか)を持ったネイにホテルのロビーでバイバイ、の抱擁をしてから手を振った。ありがとう、君がいなかったらどうなっていたことか、のサンパウロでしたがつき合ってくれて本当に感謝しています。バイーアでもどうか元気で。
戻って荷造り。大した買い物をしたわけでもないのに妙にスーツケースに収まりません。仕方が無いのでパンデイロは手提げ袋に入れてみましたが旅はまだ1/3だというのに先が思いやられます。イマイズミコーイチは今回「どうでもいい服を持ってきて一回着たら捨てていく」計画だそうですがその効果はまだ現れていないようで、ほぼ現状維持とのこと。
2008.1103 ミラノへ
2008.1104 サンパウロへ
2008.1105 サンパウロで
2008.1106 ブラジリアへ、上映一回目
2008.1107 ブラジリアで、上映二回目
2008.1108 ブラジリアで、上映三回目
2008.1109 ブラジリアで、クロージング
2008.1110 ローマへ、帰日