2010.1003 SUN

 日本とジャカルタが時差−2、ジャカルタと香港が時差+1、でもって香港とバンクーバーが時差ー16。旅行に出る前にエクセルで1時間ごとに区切った「行動予定表」を作ってみたら10月3日が41時間ほどあり、10月7日が9時間しか無くなってしまい当惑したものでした。本日ジャカルター香港ーバンクーバーと移動する予定の自分はもはやどこを基準にしたらいいのかよく判らないのですが現在地はジャカルタ:インドネシア共和国で午前6時。ホテルフォーミュラワンには数時間前に別れたばかりのブリギーダが来ており、僕らは多分寝ないで来ているだろう彼女が気の毒で仕方が無いがフロントでチェックアウトをしてタクシーに乗り込む。雲の多い空模様だ。早朝なので渋滞にも巻き込まれず、すいすいと車は道を空港まで進む。国際線ターミナルに到着して、お疲れさまでした帰ったらよく寝てね、あんた細っこいけどちゃんと食べるんだよドラえもんもいいけどさ、などとほとんど親戚のおばちゃんみたいなことを言ってブリギーダとはここで(バリには来ないそうなので)お別れ、これからしばらく2人ぼっち。


あんたはどこから

 香港行きのキャセイ・パシフィックのカウンターで発券し、国際線の空港使用料150,000ルピアを支払い(「革命」と赤い字が書かれた財布を取り出した自分に"nice wallet"と笑う係員)、ああそうだ今回はもっかいこれがあるから出入国だけでも総額8千円くらい払わないといけないのだ腹立つなあ、と「あの金で何が買えたか」を執念深く妄想しながら次、ほい次、と手続き自体はスムーズに進み、出発までだいぶ時間がありますのでスカルノハッタ空港はあんまり時間をつぶせるところがないのでいつもの喫茶店(半屋外かつwifiが使える)に入ると「本物のコピ・ルアック一杯千円」というのがありますが飲んでみる?とコーヒー好きのイマイズミコーイチに勧めたものの「いらない、普通のでいい」。自分は紅茶にしときます。ああそうだもう出しても良かろう、とさっきフロントで受け取ったFPIの「声明文」を(ジャパン・ファウンデーションは律儀に届けてくれたのである。ホテルのフロントはすっかり忘れていて「何か預かってない?」と聞くまで放置してた)封筒から取り出し、まあ全てインドネシア語だもんで詳細は判りませんが要はホモやレズはいかんということで余計なお世話。それを写真に撮ってSNSに投稿したりなどしていたら割と時間は過ぎて搭乗時間。どこから入ったんだかベンチには悠々と寝ている野良猫がおります。

 香港までは5時間くらい、眠ってしまったのでほとんど記憶がない。ここで3時間程待たないといけないのでジョナサンに電話してみる事にする。事務所の固定電話は応答無し、なので携帯にかけると出たが、何分話せるか判らないので「コインがあんまり無いので切れるかもしれん、しかも特に用は無い(ひどい人だ)。インドネシアではまあ色々あったが大して危い事は無かったこれからバンクーバーに行く」と一方的に話して電話を切った。スカルノハッタ空港では乗り継ぎ便の発券はされなかったのでエア・カナダのカウンターに行くと私用iPhoneをピロピロ鳴らしつつの対応業務をしてくださったおねいさんから「行く先は?目的は?ホテルは?そこの住所持ってます?」と矢継ぎ早に聞かれてお前は入国管理官か、と超むかつきましたが受け取ったチケットをよく見たら姓名が逆になっていました。なってましたが、も少しやさしくしてほしいの。腹減りましたなあ、どっかから雲丹あられみたいな匂いがする、と思ったら中華フードコートだったので粥+大根餅セットなどを食しつつ、ここもwifiにつながるのでどうでもいいYahoo!ニュースなどを見ていたらやっぱバッテリーはガンガン減るわ。さて自分は降機してからというもの何でか肛門が激烈に痛くなっておりこれはあれだ、放置すると痔になる上にこのあと12時間半くらいのフライトで身動きできず確実に悪化する、と薬を探しに出かける事にした。さすがに色んな店はあるがほとんどブランドショップで、あっても明からさまにぼったくってそうな「中華伝統薬」じゃあしかも効用がさっぱり判らん、と困っていると一軒だけマツキヨみたいなのがあったので探すとオロナインがあった。でもでかいのしかないなあ、家に帰ればあるんだし小指くらいのチューブでいいんだけど…としばらく迷ってオロナインは止め、要は消毒できればいいんだから、と1つ100円くらいの簡易アルコール消毒シートを買ってそのままトイレに入りこれまた強烈に沁みる痛みに耐えつつ肛門を消毒して、さて経験上あと数回これをやれば大丈夫、なはず(幸運を祈る)。


HALALマーク付きのえびせん

 次の飛行機でも眠ってしまったらしくて写真も記憶もあんまりありません。起き抜けにまだジャカルタ時間の腕時計を見てこれが午前なのか午後なのか悩むが、まあどっちでもいいやと「現地時間」に合わせる。香港を出たのが午後6時でバンクーバーに着いたのが午後2時半。飛行時間より時差の方が長いわけで、実にたわけたことである。さてわたくしにとってのバンクーバーと言えば織田信成公がオリンピック本番(しかもフリーでだよ)で靴紐を切った街でしかないのですが、我々に取っての靴紐とは一体なんなのか、などとぶつぶつ訳の判らない事を呟きながら入管に向かう。オリンピックのせいなのか空港内は軽くテーマパーク化してまして、なるほど「歴史・文化・無難」つうアピールポイントを押し進めて行くと結局だいたい先住民モチーフになってしまうわけですね、と巨大なトーテムを眺めながらやけに開けっぴろげな入国ブースに並ぶ。開口一番「なぜ来た」「私用です」「は?」「ホリデー」「だから用事は」「バンクーバー国際映画祭招聘だよこちとらは」「あらそ、隣の彼もそうなの?」といった感じで入管を抜けて(別に隠したいんではないのですがお金をもらっている訳じゃないので「仕事」と見なされると面倒くさいかしら、とこれまでいつも映画祭がどうしたとか言わなかったんでしたが流石にカナダ入管の「なぜ来た」にはカチンと来たのでこれからは用事を具体的に言ってみよう)、しかし初めてこの国に来た人間に向かって「何しに来た」というのはちょっとどうかと思いました。もう優しくされるのは諦めたのでせめて、頭ごなしにしないで欲しい。

 両替所で2人合わせて1万円だけ両替して、「ポルノDVDを所持している/NO」と微妙に嘘な税関申告書を素知らぬ顔をして渡してから出口へ行くと、映画祭からの出迎えの人が待っていてくれた。ピックアップまで日本の方と言うのは少し予想外でしたが迎えに来てくれたアキさんは「お疲れだったでしょう、車へどうぞ」と誘導してくれるので、「あの、煙草…」という機会を逃してしまった僕らは無煙のまま映画祭ロゴが貼られた乗用車に乗り込む。ドライバーはいかにもボランティア、という感じの白人のおじいさん。ジャカルタから来まして、と言うと2人ともよく判らないようだったが取りあえず身構えていた程には寒くない。これなら持って来た長袖だけで平気かな。空港から市街までは大して遠くなく、車はすぐに街中に入って起伏のある道を抜けて行く。空は曇っているがもちろんジャカルタのそれとは違う曇り、そしてどこがどうと上手く言えないのだけれどこれまで行ったどんな街とも少し違う景色。初めての北米大陸は西の端っこの方からスタートです。


ぶおお

 ホテルに到着した。ちなみにこんなとこですが入り口付近はクラシックな感じでした。チェックインしてからアキさんに案内されて3階にある映画祭事務局に向かうと、恒例ゲストパス+カタログ+各種つめあわせ(映画祭によってラインナップが違うので毎回面白いのだが、ここんちはほとんど食品)をいただき、渡された予定表を見ると今日はこのあとすぐにインタビューが入っている。「Gay Vancouver」とあるのでほう、と思って聞いてみるがアキさんもこれがどんな媒体なのか知らないようでした。雑誌かウェブか、どっちかだとは思うのだけれど。アキさんは「インタビューまであんまり時間がないですが、まずは部屋に行って少し休まれて、また戻って来ていただけますか、インタビューは通訳でキムさんと言う方が来ることになっています。」と言ってくれたので部屋に上がり、カードキーを差し込んで…あれれ開かない。何度か試してどうもゆっくり差し込む必要がある事が判る。部屋はとても素晴らしい事にツインベッドなのでよく眠れそうだ(イマイズミコーイチが)。やがてスーツケースを持って来てくれたので開けると何とも言えない匂いが立ち上って、ああ別の国に来たんだなあとインドネシアの事をすこし思った。みんな元気かな。

 シャワーを浴びて着替え、とにかく煙草だ、とフロントに聞くと「喫煙場所は外にしかありません」と言われて出てみるが見当たらないのでホテルの裏側の吸い殻が一杯落ちているところでこそこそ半日以上振りの煙を吹かしてからさっきの事務所に行く。ここでゲスト担当のテレサに会う。ああメールでは来る前に何度か、と言いかけてあれは台湾のテレサだったわと直前に気付き、「初めまして」。彼女も中国系っぽかったですが。小柄な女性で「困った事があったら何でも言ってくださいね」と笑顔を見せる。エア・カナダと空港が実に雑駁だった分だけあって映画祭での居心地の良さが際立つと言うものです。丁度他の日本人ゲストのみなさんも見えたのでご挨拶など。さて通訳のキムさん、というのでてっきり韓国の方かと思っていたらお名前が「Kimiyo」さんなのでキムさんが「ここにお湯とかいろいろあるからお茶でもコーヒーでも好きなものを」と言ってくれたので紅茶を頂く。でもってインタビューの準備ができました、と呼ばれたので自分は紅茶の入ったカップ&ソーサーを持ったままエレベーターに乗って自分らの部屋より上の階に向かう。入ると男性二人組がこんにちは、でインタビュー開始。「Gay Vancouver」はやはりポータルサイトで、一人がライターでもう一人がカメラマン。2人とも映画は未見とのことで映画の内容についてなどの質問が中心となる。映画祭でゲイの興味を引きそうなものを選んで取材している、との事でしたがこのあと驚異的な早さでインタビュー記事がアップされたのでした。インタビューが終わってイマイズミコーイチが「バンクーバーのゲイエリアってどの辺でしょう」と逆に質問すると「すぐそこです」と意外な答え、キムさんも知っているようで「そうね、あとで地図をあげましょう」と言っている。ふうん。


ラウンジ入り口(ただし閉店後)

 ここで冷静になってみると今は現地時間で18時。ジャカルタとの時差は15時間くらいなので向こうは既に10月4日の「朝の」9時、時差ボケなんだかどうだか、よく判らない。寝られるような気もするし、そうでもないような感じもする。キムさんが「長旅でお疲れだと思うけれど、いま丁度一階のラウンジが開いているからビールが飲めますよ、行きませんか」と誘ってくれる。びーる…、とふらふら付いて行くと奥にあるバーカウンターがある部屋は結構人でにぎわっている。そういや「毎日午後5〜7時はゲストのためのラウンジが開きます」と案内書にもあった。ワインやソフトドリンクなどもあるがビールはスポンサーらしい「STELLA ARTOIS(ステラ・アルトワ)」だけ、結構好きな銘柄なのでうれしい。お疲れさまでした、と軽く乾杯してソファに座り、キムさんに「そういえばトニー・レインズさんは来てますか」と聞く。ジョナサンによれば今回「家族コンプリート」をバンクーバー国際映画祭に推薦してくれたのは彼であり、「今年はあなたの映画を含めて2本だけなんです。これは結構ちょっとしたことです」とのことでしたが果たしているのやら。キムさんは「もちろん来ていますよ。今はここには居ないみたいね、煙草でも吸っているのかしらね」ということで探しに行ってみる事にする。さっきは見つけられなかった「喫煙所」は一応敷地内のすんごい小さな灰皿で、喫煙者はここで罰ゲームのように喫わないといけないのでした。結局トニーさんおらず、僕らはラウンジに戻ってスナックをいただきながらキムさん達とお話をする。キムさんは「もう20年くらいこの映画祭でボランティアしている」とのことで自分が生まれたくらいの頃にバンクーバーに来られたそうだ。他にも先ほどのアキさんや、ここでお会いしたアケミさんにチヨさんに、と日本人ボランティアは全員女性の方でしたがこんなに日本人がスタッフにいる映画祭は初めてだな。

 ああ香港のレイモンドPがおりますなお久しぶり、とか言ってたらラウンジタイム終わり、でけっこう酔った、と部屋に戻る。地図をもらってキムさんに教わったところによると「ゲイストリート」は本当に近くのようでしたがまだ早いよねきっと、ということで少し寝る事にする。映画祭お楽しみつめあわせセットをベッドの上にばらまいてみるとクッキーにチョコレートにジンジャーエールにジュースに謎の健康ドリンクに何故かポッキーが混ざっていたり、ととにかくお菓子ばっかなのが中々愉快だがイマイズミコーイチは中身よりも「バッグがしょぼい」と少し不満そうで、どうも2008年のベルリナーレ以降フェスティバルバッグに妙に期待するようになっておるらしく、まあ気持ちは判りますが自分はどんなカバンが来ても面白がってるだけです。ああそういやジャカルタでジョンがくれた今年のカンヌ映画祭バッグはなかなかちゃんとした造りで良かった(弟のキティが持っていたのを可愛いね、と言ったのを憶えてくれていたらしくて色違いのをくれた)が、わざわざここで使うのも気が引けるのでスーツケースにしまいっぱなしです。2時間くらいでいっか、とタイマーをセットしておやすみなさい。


内容物

 案の定2時間では起きられず、なんとか覚醒したのは22時近く、ああ出遅れております。ちょっと支度をして、リュックにMacBookを入れる。重いけど、ホテルのインターネットは24時間で1300円くらいするので4泊だと5千円くらい、ううむ高い。ということでその辺のコーヒーショップでお茶でも飲みながらちょろっとつなぐ方が、部屋でだらだらコンピュータに向かうよりも気分的にいいかな(滞在期間も短いし)と。ホテルを出て右へ。バンクーバー市は道が碁盤状なのでストリート名を確認しながら行けば初めてでも迷う事はあまり無い、と教わったのでどんどん進む。ホテルが面しているBURRARD st.と2ブロック先で交差するのがDAVIE st.で、ここから右に曲がるといわゆる「ゲイエリア」だが平日なのであんまり人通りはない。距離感が判らないのでどこまでどうなっているのか不明ながらそこら中にレインボウフラッグあり升。交差点から割とすぐのところにクラブが2つあり、これはどう見ても、なんだか大音量で音楽が外まで流れているのですぐに判りましたが今の我々には単身乗り込む胆力はない(はいりたいねえ、と平仮名でつぶやくのみ)。まあレストランとか以外は大体閉まってますが途中LGBT関連っぽい本屋を見かけたりしつつ歩き倒して海岸近くまで来てしまい、この先は違うようだ、と反対側の道に渡ってホテルの方に戻る。途中イマイズミコーイチが「あ」と指差すので見ると何か動物がいる、自分は初めての経験に一瞬現実感を失うがそれは4匹のアライグマだったのでした。野良かなあ、かわいいなあ。アライグマは割と歩道近くでうろうろしていて、さすがに近寄ると逃げるけどそんなに用心深くもない感じでした。

 最大の収穫が野良のアライグマ、というのが何ともしょぼいが体も冷えたので休憩にすることにする。確か京橋フィルムセンター向かいにもあったはずの「BLENZ COFFEE」はカナダのチェーンらしくてそこに入ってみる。コードをもらってwifiつながる。はあ、紅茶がうまい、とさっきのゲイバンクーバーのインタビューを見たりなどして明後日はお客さん来るかな、とぼんやり思う。しばらくカチャカチャやったのち、帰ろうかということになり自分はあんまりだけどイマイズミコーイチはおなか減ったと言うので途中のピタ&トルティーヤ店でラザニアを購入し、24時間営業らしいスーパーマーケットにもコンビニエンスストアにもお酒は置いてなかったので2Lのミネラルウォーターだけを買い、部屋に戻ってバカ高いミニバーからまあ本物のバーに入ったと思えば高くはない、と自分を納得させてビールを一本空け、ひとまずカナダには着いた、の乾杯。


あんたはどこへ


インドネシア・ジャカルタ編

2010.1003 ジャカルタ発香港経由バンクーバー行
2010.1004 長編3本
2010.1005 長編2本+「家族コンプリート」上映一回目
2010.1006 長編1本+「家族コンプリート」上映二回目
2010.1007 バンクーバー発

インドネシア・ジョグジャカルタ編