2010.1004 MON
4時間くらいしか寝ていないはずだが、何故か7時半に眼が覚めてしまう。いつもはイマイズミコーイチが先に起きている(らしいですが自分はひどく寝ているので本当のところは知りません)のにジェットラグの神様がどういう采配したのか判りませんが似たような事が以前(2年前のベルリン)でもあった、やっぱり最初の朝だったけどあの時は早朝にその辺を散歩をしたんだった、ので今回もシャワーを浴びてから散歩に行こう。ホテルを出て、昨日歩いたDAVIE st.とは反対側の道に行ってみる。平日だからもうお勤めの人は歩いているし、コーヒーショップとかは開店しているみたい。空は曇っているなあ、昨日のインタビュアー氏が「明日は曇りらしいですけど、その後は晴れる予報です。(滞在中はなるべく)天気が良いといいですね」と言っていたがその通り今日はくもり、でちょっと寒い。特に何をするという訳でもなくゴミ箱の写真を撮ったりしているのでやや不審人物だが、この街は東洋系の移民が多いらしいのでニホンジンであっても別に浮きはしません。
おはようのゴミ箱
外に居たのは30分もなかったと思う。部屋に戻るとイマイズミコーイチは眼を覚まして、「あさごはん…」と呟いている。いわゆる「ホテルの朝食」は付かない宿泊なのだがその代わり昨日も行ったラウンジで映画祭がゲストに軽食を出してくれるらしい。なので行きましょう、外のレストランでもまあ英語が通じれば何とかできるとは思うのですが今回は(も)極貧旅行なので出来るだけ。開けられたラウンジのドアをくぐるといきなりでかい人あり、Tony Rayns 大先生でした。大変えらい批評家の方ですが、僕らに取っては今の今まで「ベルリナーレ2008のジャパンブースで尻餅ついてテーブル壊してたおっさん」というだけの存在(まあその後も半年くらいは思い出す度に笑えたので充分という気もしますね)だったのですが、今回はバンクーバーの「Dragons and Tigers(中日と阪神)」セクションに推薦してくれたおかげさまで自分らはここにいるわけで、イマイズミコーイチは昨日から「『推薦してくれてありがとう』ってのはなんて言おう」と繰り返し英語の練習をしていたものでした。その甲斐あって多少口籠りつつも「ありがとう、ここに来られて本当にうれしい」とお礼言上するイマイズミコーイチ、「来てくれて嬉しい」と返すトニー、でもって「今年の中日阪神はゲイの監督もレズビアンの監督も来ていてクィア作家ばっかだよ」と。ほえ、とか言ってる僕らにトニーは冗談ぽく笑って「まあ朝飯を食べなさい。頼めばああと何てったっけ、そうそうワッフル(知ってる?)焼いてくれるよ」と言って席に戻った。
昨日酒のつまみが置いてあったテーブルにはお茶やらシリアルやら、詰め合わせセットにも入ってたジュースなどがあって、ああでも野菜がない、だが仕方ない、つうことでなるべく生鮮食品ぽいもの多めに、あとパンをトースターに突っ込みお茶を入れて…とかやっていたらスタッフの女性が「ワッフルはいかが?」と言ってくれたので自分は超ニコニコしながら(たぶん)「あい」と返事をする。焼きたてのワッフルを皿に乗せると彼女は「これが」とテーブルに置いてあった小瓶を大仰につまみ上げると「メープルシロップね、ご存知?」と言うなりそれをどばばばば、とかけてくださり「あとはバターだわね、好きなだけどうぞ」とあまりの僥倖に頭が白くなりかけている自分に渡してくれ、2皿ほど受け取ってふらふらと昨日と全く同じ場所に座って食す。とそこへ昨日お会いした日本人ボランティアのチヨさんが来た。おはようございます。同席して一緒にお茶を飲みながら取り留めも無くお話しした、はずなのだが内容はよく憶えていない。ふと見ると向こうの席レイモンドPと一緒にいる男性は韓国のジョッシュが言ってた「友達」なんじゃないのかなあどっかで見た写真と似てる、とチヨさんに言ってみると「聞いてきましょうか」と言ってくれて向こうの席に行き、何やら話をしている。しばらくしてこちらにやってきた彼はやはりシンガポールのBoo Junfengくんでした。彼の短編は以前日本で観た事があり、話してみると共通の知り合いが結構居たのでどうもどうも、今日は彼の上映があるようなので観に行きますね、と言ってまたあとで。
けっこう食った、せいかどうか眠くなってきた。寝ます。早起きした意味がほとんどないが、イマイズミコーイチもベッドに入ってしまったのでタイマーをセットし少し眼をつむる。あっという間に眠った。
で起きた。さっきのブーくんの上映は1時15分であるからもう少し時間がある、じゃあ早めに出よう、と支度をして外へ行くと雨が降っているあれれ。傘は持っているけどイマイズミコーイチは置いてきてしまったと言うので部屋へ取りに戻る。ホテル前の道に出てすぐ、ああそうだチヨさんに聞いた話を1つ思い出した「JAPADOG」の屋台。ベースはホットドッグですがソーセージ以外に入っている食材が「日本食」で例えば照り焼きとかはいいですけどよりによって大根おろしとかもあります。どうなんだそれは、とは思うものの1つ600〜900円くらいするのでとても買う気にはなれず眺めるのみ。昨夜も行ったDAVIE st.との交差点まで行ってから今日は反対に左へ曲がって、こっち側はあんまゲイストリートっぽくない。坂を下る感じで歩き、また「BLENZ」に入ってサモサとチャイを注文する。ネットつなぐ(大した用件はなし)。寒いのでつい長居してしまうが劇場はすぐ近くのはずだ。店を後にして最初の交差点から4ブロック先のSEYMOUR st.で左折、「Vancity Theatre」が見えてきた。ゲストパスに付いているバーコードをスキャンしてもらえば映画が観られる(紙チケットは発行されない)のですごく簡単。まだ客入れは始まっていないようだ。外のテーブル席にレイモンドPとブーくんがいるのでちょっと挨拶して、しばらくすると呼び込みが始まった。
これが
平日昼間なのであんまり混んでいない。のでどこに座っても良さそうなものであるが、一応遠慮して前の方へ。行った映画祭で映画を観るようになったのは実はあんまり最初からではなくて、海外に行き始めた頃はただ街の中を右往左往するだけか、あるいはスタッフに観光名所を連れ回してもらっていただけだったのだが、英語字幕があれば半分くらいは何とか理解できるようになってきたのもあり、なるべく観るようになった。これから始まる「Sandcastle(沙城)」はシンガポール映画、で言語は中国語(たぶん)。舞台は20年くらい前のシンガポールなのかな、高校生の男の子が主人公で、既に亡くなってしまった父親の、そして一緒に暮らす祖父母や母の過去とシンガポールの現代史が交錯する、と言うところまでは判りました。が、戦後シンガポール史およびそもそもシンガポール共和国自体がよく判っていないので8割くらいはつるつるつる、とお話が頭の中を流れて行き、見所としては何とも表情に乏しい主人公の微細な感情の揺れを観察する、というところで(途中さすがに飽きたが)ちょっと自分には歯が立たないタイプの作品でした。Q&Aのあとでロビーにブーくんが居たのでその辺を聞いてみると「彼は終始周りの環境に反応しているだけなんです、この映画はとても個人的な作品なので(と舞台挨拶でも言っていた)多分に自分を投影しているところがあり、僕もそういうタイプなので」と答えてくれて、まあ彼自身はそんなに無表情でもなかったが、プライヴェートでは違うのかもしれない。ブーくんは明日の朝シカゴかどっかに行ってしまうので僕らの映画は観られない、と言っていた。残念だけど(居たとしても来たかどうかは判りませんが)またの機会に。
さてイマイズミコーイチであるが、海外旅行の度に起こす胃腸の不調により現在猛烈に腹が下っている、と苦しそうな顔で言う。ホテル戻ろうか、と言っているとキムさんが来て「次は日本映画ですよ、監督も来ています」とそりゃ観るのよね、といった感じで教えてくれたのでどうしよう。イマイズミコーイチは「たぶん…だいじょうぶ…監督直々に『観てくださいね』とか言われちゃったからには…」と弱々しく答える。いつの間にそんな話を。ちょっとお茶でも飲みましょう、と劇場内の売店で緑茶を1つだけ買って犬のように直飲みするイマイズミコーイチ。客入れが始まったのでお茶の入った紙カップを大事そうに両手で持って(寒いらしい)また前の方に座った。監督挨拶に続き上映されたイメージフォ−ラム提供の(しかしこの映画祭はイメフォ経由の映画が大変多い)短編2本。続く「Icarus Under the Sun(白昼のイカロス)」、やっぱり日本映画に字幕は邪魔だなあ、と自分の事は棚上げして思う(英語の勉強にはなるかもしれない)。相変わらず具合の悪そうなイマイズミコーイチが観終わって一言「主演の女優さんはたいへん起爆力が、ががが」とつぶやいた。そうだね、でもそりゃ監督さんだよ。外に出て煙草を喫う。そこにいたトニーにインドネシアの出来事を話す。トニーはジョンの事を知っているので「それは本当か」と心配していた。「キリスト教であれイスラム教であれ、私は極端な団体はご免だ。どんな宗教であっても」とトニー。彼の後ろに広がる空は雨が上がって青色になっている。
雨上がりの劇場前
さて本格的にダメそうなイマイズミコーイチはトイレから戻ると少し落ち着いたようだったが「次の上映はとてもとてもむり」と言い、次も日本作品ですがまあ明日もあるし、と辞去してホテルへ向かう。昨日の散歩でどうも日本のようにいつでもどこでも酒が買える訳では無さそうだ、と見当をつけたのでホテルに併設のワインセラーに入ってみたら少しだけ、それも部屋のミニバーと同じビールがあったので6缶パックを買い、そういや時間的に夕方のラウンジ開催中だけど、どうする?と聞くと「そうだね少し食べといた方がいいかもしれない」とビールをリュックに詰め込んで、自分はやっぱりビールをもらい、イマイズミコーイチは白ワインなど飲んで大丈夫なのか、このまま寝るつもりか。今日は特に知り合いも居ないのでテーブル席に座って揚げ物などを食べていると向かいに座った白人男性がどうもこっちをチラチラ見ているので何だろう、と思っているとにやりと笑ってやにわに「『NAUGHTY BOYS』が面白かったので『家族コンプリート』も楽しみです」などと言いだす。「NAUGHTY BOYS」ってのはもう8年前の作品ですが、しかもその後2作品ほどあるんですけどそれをすっ飛ばしてくるこの人は何者だろう、と名刺をもらってみると名前はライアンといい、カナダでディストリビュートをやっているようでした。これはあれだ、と思って「この辺で入りやすいゲイバー知ってる?」といきなり聞くと「ああそれなら」とiPhone取り出して「ここ」と教えてくれたので自分が持っている地図にメモをする。ライアンにありがとうを言って、じゃあ今夜あたり行ってみましょうかね。
部屋に戻って小さい冷蔵庫から各種「商品」を取り出して同じ銘柄の(ただし元々のには若干違うマークが付いている)ビールを詰め込み、チェックアウトの時に精算されませんように、とせこく願をかける。イマイズミコーイチは眠り始めており、Vancityでの今日最後の上映は9時15分からなので、自分も目覚ましをかけて少し眠る。8時半にけたたましくベルが鳴って、いちおう起き上がるが結構キツい。イマイズミコーイチは「ごめん、まだ動けない」と言うので自分は少し迷ったが、起きられなくはないので一人で観に行く事にする。ここはカードキー式だけど、最近よくあるホテルみたいにキーで電源系統をオンオフするタイプではないので、キーを持ち出しても部屋の電気は消えないし。シャワーを浴びたら少しすっきりしたので着替えて、雨の放射冷却のせいなのかけっこう冷え込んだ歩道を歩く。結構ギリギリで劇場に着いて、すぐに席に座る。ラウンジでちょっとご挨拶したヴェトナムの Phan Dang Di 監督の「Don't Be Afraid, Bi! (Bi, Dung So!)」は何の前知識もなしに観たのですが、これがたいへん素晴らしい映画でした。質疑応答でも話題になりましたが作品全体に水のイメージが満ちて、それを媒介にして(登場人物の気付かないところで)それぞれが微妙に接続している、という感覚にしびれました。そして主人公の子役がとてもとてもよい。Q&Aではもちろん通訳さんも居ましたが、監督は英語の質問を通訳無しそのまま聞いて、回答はヴェトナム語で、と言うやり方をしておりこれが一番賢いかも、と思った。終わった後もなかなか監督は出て来なかったが、会場の外で少しだけ会えたので「とても良かったです」とだけ伝えてまたホテルに戻った。時刻は夜の11時。
夜のDAVIE st. 交差点
部屋に戻るとイマイズミコーイチは起きだしたところで、「寝ちゃった…」としょぼしょぼしている。どうしますかビールもあるし、今日はこのまま寝る?と聞くと「いや、ゲイバーを探しに行く」と言う。これから起きるつもりらしい。ならば、と自分は帰ってきた格好のまま再び出かける。今度はDAVIE st.との交差点を右へ、「セレブリティ」というクラブは昨日見つけたからいいとして、何人かから聞いた「PUMPJACK」と言うバーはどこなのか、さっきライアンにも教えてはもらったんだけどDAVIE st.のどっち側なのかも曖昧になってきた。道の裏側まで行って探してみるが見当たらないので仕方なく再度「BLENZ COFFEE」に入ってネットで検索する。するとごくごく近くである事が判ったのでイマイズミコーイチが「見てくる」と店を出て行った。しばらくして戻って来、「あった」と言うので行ってみる。なるほど何故見過ごしたのかは判る(他の店のようにでかく店名が書いていない+店内が暗くて営業中かどうか一見不明)ものの何度ここを通り過ごしたんだろうねえ、と言うくらいの近さではある。まだ営業中ではあったものの、覗いてみた感じではお客さんは3〜4組という感じだったので今日は止めよう、と言うことになって昨日と同じ店に入ってトルティーヤを注文し(かなりでかい)店内でもりもり食ってから部屋に戻り、ビールを空けておやすみなさい。
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2010.1007 バンクーバー発
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