2010.0406 星期二

 集合は午前11時、油麻地にあるほたるさん宿泊所のロビー。ジン太くんも遅れずにやってきて、やっぱり香港人はまだ来ていない。まあいいやそのうち来るだろう、とソファーに座って待つ。とほたるさんがやってきたので更に待つ。香港人来ない。まあいいやそのうち来るだろう、と自分はエレベーターで上がってトイレを借り、戻ってくるとイマイズミコーイチは外で煙草を吹かしている。香港人まだ来ない。まあいいやそのうち(略。この間近くの喫茶と言うかレストランで朝食にパンとか食いました。)というわけでジョナサン+ヘンリーと連れ立って駅に向かう。ジョナサンは最初は駅の改札で待ち合わせましょうとか言ってたんだけど、さすがに何かをうっかりしたらえらいことなので(僕らだったら初めて東京に来た人に「じゃあ赤坂見附の2番出口で」とはあんまり言いたくない)何とか押し切ってホテルにしたのだった。どうも「時間の節約」の発想が違うようなのだが無事に集合できたのでそれはいいとして、地下鉄をちょこちょこ乗り換えて(車内の路線図を見たら僕らの降りる駅の一つ先で線路が二股に分かれて片方が破線になっておりそこには「馬場」という駅があって何これ、と聞くと「競馬場、レースがあるときだけ走る」そうです)「沙田」駅で降りる。そういや前回(2007年末)僕ら来たね、ここ。なんかでかいモールがあってユニクロか無印良品が新規オープンしてたなあ、と何とも微妙な想い出を反芻してみるが今回は郊外型ショッピングセンターが目的地ではない。


待ち合わせ場所からネーザンロードに向く

 本日なぜ我々はここへ来たか。話せば長い(うそ)ので端折りますが要はほたるさんの強いご希望によりここにあるとかいう(在香港の人に聞いてみても「知らない」「へえ〜そんなもんがねえ」「聞いた事はあるけど…」と言う人が大多数)「仏像がいっぱいあるお寺」なのでした。ほたるさんは仏像マニア(恐らくみうらじゅん的な)で仏像に会いに一人でミャンマーくんだりまで行く人なので初めての香港、つうことで「どこ行きたい、とかある?」と聞いても「えっ…なんだろう別にこれといって…」と何故か引け気味な人が多い中でも彼女はよどみなく「あ、萬佛寺ってとこ。場所はよくわかんないんだけど香港にあるって聞いた。あとでかい大仏」と明快に即答するので楽と言えば楽、腰がくだけるといえばそれもまたそう。ちなみに「でかい大仏」ってのは空港のある大嶼山(ランタオ島)にどかんとあるのでちょっとまあ後回し、ということで今年の遠足は沙田萬佛寺です。副食は500円以内で持ってこい。

 駅の外では頭のおかしい(としか思えない)西欧人が珍妙な格好でパフォーマンスをしているのを遠目に見ながらいきなり山のふもとにたどり着く。観光地というよりは住宅地のような感じ、お寺と言っても日本のよか配色が派手だ。でもここはまだ入り口、ただ売店(お供え物とか花とか売ってる)などがあるだけなので登らないといけない。途中にも何やら講堂のようなものがあって何かの法要をしてました。中までずかずか入り込んでみてしまいましたが謎だったのは祭壇に大量のミネラルウォーターが積み上げてあった事で、何だろうこの宗派は。坊さんはまあ坊さんっぽかったが。更に登って(大した事は無い)道が細くなっているあたりで振り返るとイマイズミコーイチが顔を歪めて息を切らしているので先生、こんな高尾山よりイージーな「山」で高山病になってどうするんですか、と励ましてみるが「何か、もうね…」と既にバテている。ほたるさんは何かを(何か、って言やそりゃ「ぶつぞうのけはい」でしょうが)感じるのか不断あまり見た事の無い真剣な顔をしている。ジン太くんは、と言えば写真撮影に余念がなく、あ冒頭で書き忘れましたが田口さんは夜の上映まで別行動で不参加なのでメンバーはあとわし、ジョナサンとヘンリーの6人での遠足。聞いたところでは今は日本で言うところのお彼岸のようなものだったらしいのでしたが「本来の日が平日だったので、来られなかった人が今日(休日)に来てるんです」とのこと。さて更に5分くらい歩いたところで何かが見えてきた。金色のものが。


のものが(接写)。

 萬佛寺、と言うからには一万体あるのであるかもしれない。嘘かも知れない。取りあえずいっぱい、参道(山道)の両脇に間隔を置いて基本は人のような金色の像が並んでいる。「仏像」もあるけど坊さんぽいのも多いかの、よくもまあこれだけこさえたね、と思うがなんか自分の思う「敬虔」というのとはかなり違う感じの思い入れがみなぎっているようだ。ほたるさん既に写真を撮りつつ最後尾、一体一体撮っているので全然進まないが自分は全体が面白いのでまあ適当に流しながらさささと登って行く。ここが本堂なんだろうか、開けた場所に出て見渡すとまたもう極彩色、何だこの色遣い。罰当たりだとは思いますが「景観破壊」「山をきれいに」「仕事は手を抜かない」といった標語が頭の中でパレードを始め、以後の叙述はしばらく(中略)としたいんです本当は。できれば通りすがりだったことにして指差して何だあれ、で済ませて本日は夜の上映の項に移れればあっという間に今日の記は終わるのですが現実はみっちり登山をしてしまったのでそうはいかない。そういや同日同時刻の田口さん、お元気?さて一応お堂も塔もあるが無論「ここ法隆寺はその昔…」といった枯れた風味などは微塵も無く、基本色はピンク、白、そして金(何て事)。しかもそこら中で工事中だし。塔のぼって〜、お堂見て〜、仏像見て〜、拝んで(る人はそういや僕ら一行には一人も居ませんでした。みんな写真撮りまくるだけ)だったような記憶が混濁しております。あまりにほたるさんがそこら中をかけずり回って写真撮っているのでヘンリーかジョナサンが「彼女は仏教徒か?」と聞くのでしたが「さあ、多分違うんじゃん」と答えるしか無く。ジン太くんは折々「仏像とほたる」を撮ってあげており、年齢的には夫婦かカップルが妥当なところではあるものの全くそうは見えずさすが親子(役)。


のわあああああ

 本堂より更に上方の山にはまだ何か金色のものがちらちらあるのが見えるのだが、ほたるさんは目先のトンチキに気を取られて気付いていないらしい、ので自分はなるべく関知していない振りで「いや〜凄かったですね(そろそろ降りてみつ豆でも)」とか言おうと思っていた矢先、ジョナサンが「では上に行きましょうまだまだあります」とこれまで来た事も無いくせに仕切り出してあ〜あ、って程の落胆は別にないですが、やっぱ登るのね、いいっすよどこまでも行きましょう。ここは仏教施設ではあるがどんな感じで習合しているのか、中国の神様コンプリート60干支像というもんもあり要は必ず大昔の人が勝手に決めてくださった「自分の神様像」もあるのでしたが大して関心も信心もない自分は一応ふうんこれがねえ、と確認はした記憶はあるもののどんなお姿だったか3分で記憶喪失し、まだまだ登って豪快にハズした現代アートのような金ぴか羅漢に四阿に、心霊写真がいくらでも撮れそうな廃墟(多分「(ホームレス)寝泊まり禁止」の意味だと思うんですが直訳すると英語で"ピクニック不許可"の掲示があって笑う)に納骨堂、台座にプレートだけあって肝心の像が無いもの(斜面を転げ落ちたか?)などなど盛り沢山、しびれるような間抜け美。登るところまで登ったので後は降りるだけ、ではあるがもちろんタダで帰してくれるわけも無くここにも延々金色の像が左右に並んでおり、子供の肝試しにはさぞいいだろうと思うものの自分が香港の子供で無くて良かったと心底思った事でした。ジョナサン+ヘンリーと自分が先頭をすたすた歩き、他の3人はすぐに見えなくなるので(最後尾はメンバー唯一の女性に決まっていますが)僕らは度々立ち止まって待つ、というのがいけなかったのかジョナサンが答えに困る超プライヴェートな質問(俺に聞くんじゃねぇという類いの)をどんどんしてくるのに閉口しつつやっと降り切って、さてご飯ご飯、厄落とし、ではなくて。


ひやあああああ

 戻ってもまだくるくるぱあの西洋人が公演している駅近くのショッピングモールにある「北京上海料理店」で昼ご飯を食べ、電車に乗って油麻地に戻り、僕らも過去に上映した事のあるブロードウェイ・シネマテークという映画館併設のブックショップを少し覗いて、その近所にあるスーパーで醤油とレトルト中華の素と職場へ土産の適当な菓子を買い、外で待っているジョナサンと連れ立ってほたるさんをホテルに送り、朝方彼らが持ってきて彼女の部屋に預けさせてもらっていた「家族コンプリート」のポスターやプレスシートを受け取って自分らはタクシー(だったかなあ)でWホテルに戻った(と一文で書きましたがこれで4時間経過してます。自分だってやればできる)。

 部屋には田口さんも戻って来て、今夜の上映の支度。イマイズミコーイチはシャワーの後のバスローブ姿のままベッドとベッドの間にはまりこんでぐったりしており、介護をする「孫」のジン太くんに談笑する田口さんとジョナサン、寝こける自分、微妙に素敵な夜景。着付けを終え、ロビーに降りるとそこには着物姿のほたるさんが待っていた。おうつくしい、って自分は和服の事はよく知らないのでどう褒めたらいいのか判りませんが 、喜ぶジョナサンと記念写真を撮ってさしあげる(でもブレた)。さて部屋でも散々説明された、というか揉めたのがここから会場への行き方で、毎度の事ながらジョナサンが「ここから会場へはタクシーですが、全員は一台に乗れないので分乗しなくてはいけません。片方には私、もう片方はイワサさんに乗っていただきたいのですが注意しなくてはいけないのはどの海底トンネルを通るかという事で、新旧二つあるのですが新しい方は料金が高く、旧い方は混む可能性があります。運転手は新しい方で行きたがるかもしれませんが映画祭は高いトンネルを通った分の料金は出してくれません。あ、必ず領収書を貰ってくださいね現地で映画祭に精算してもらいます、でも旧い方だと混んで間に合わないかもしれませんああどうしましょうかでもお金が出ない、やっぱりもし運転手が新しい方へ行こうとしたらですね…」と一人でフィーバーしているので(最初のうちは"Tunnel"という単語が聞き取れず、いったい何の話をしているのかすら判らなかった)傍で聞いていた田口さんが「いや、君らから散々聞いていたけど今日一日で彼と付き合う大変さが判った」と笑いながら言うのでお願い、僕らの3年間を1日で理解しないで。


的士

 結論から言いますとタクシーは何事も無く旧いトンネル経由で時間通りに会場に到着しレシートも貰い、ジョナサン経由で精算もしてもらってもしかして香港には案ずるより産むが易しという諺はないのかしら、と小姑のような厭味を胸中で反復練習しながら既にいらしていた藤岡さんと会場の外で合流する。外のベンチで煙草を吹かしていると、観に来てくれたらしいお客さんが近寄ってきて話しかけられたり写真撮られたりしている。まあここでは落ち着かないでしょうから、と中に入って今日の会場である香港アートセンターの「agnis b cinema!」は2000年に僕らの最初の作品「憚り天使」の上映もしたところで、ハバカリシネマ+レコーズ全作品上映もやったし何か縁があるなあ、というか10年がぐるっとひとまわり、またここへやってきた。客入れより先に入っていいというので壁も座席も真っ赤なシアターに入る。田口さんが記念の集合写真を撮ってくださったりしてやがてお客さんが入ってきた。見知った顔もちらほら、「今日のMCはジェイコブ・ウォンです」とジョナサンがささやき、この映画祭での最後の上映が始まる。

 MCジェイコブ、この映画を香港国際映画祭に呼んでくれた張本人であるが彼が舞台に立ち、「ご来場ありがとう、この映画祭も今日で最後です。さて本日はこの作品の監督をお招きしています、」と言ったところまでは良かったのだがここで何か妙な間が空いて「イマイズミ…(一瞬苦しそうな顔になり)キヨシ!」

 ズンドコ!!!

 …というよりは強いて言えばリアルタイムで見てていまだに憶えている加山雄三が紅白初出場の少年隊『仮面舞踏会』を『仮面ライダー』と叫んでしまった件(1986年)あたりを私は思い浮かべましたが、まあそれは置く。何にせよ11年目のハバカリシネマは多難な幕開け、という気がしないでもないがこのくらいの事で心を揺らしてはならない、と(揺らしているのは自分だけかも知れないが)前回と同様に監督に呼び込まれて全員ご挨拶、そして上映開始。一昨日の画質があんまりだったので心配していたが、ここのシステムとの相性は悪くないみたい。音もあまり意外な鳴り方をしてないし、と安心して106分が過ぎていく。やっぱりお客さんが笑う箇所は自分とは全然違っておもしろい。中文字幕は付いておらず英語だけだがみんな判るんだねえ、とちょっと思った。さて質疑応答。前回と同じく監督に質問が集中するのでえらいこと喋っている。内容については翌日ちょっとジョナサンと議論になったのでここでは割愛して、しかし藤岡さんの惚れ惚れするような本業の通訳ぶりに自分は聞き入っておりました。時間になって外へ出、自分は前回と全く同じく尿意を催してトイレで放尿したのちロビーへ出て、来てくれた在香港のTさん達とお話をする。昨日東京から戻ってきたそうで、東京に居た間にも自分参加のグループ展においでいただいたりしたのだが本当にありがとうございます。日本人でこれを見たのはまだ数名ですよ、と無意味な付加価値を付けてからあ、一緒にご飯でも食べませんか、と誘ってみる。お連れ様は翌日お仕事との事で帰途に付き、香港L&G映画祭での「初戀」上映時に知り合ったエイドリアン共々ちょっと移動。


これ。

 入ったレストラン(ファミレスっぽいかんじの)で長いテーブルに付き、僕ら5人とジョナサン+ヘンリー+藤岡さん+Tさん+エイドリアンでお疲れさまでしたの会。何飲みましょうかアルコールは…無いのね、と主に田口さんとほたるさんがやや凹んでいるがまあまずは食いましょう、とめいめいカレーやら何やらを頼み、自分はチキンとライス、インディカ米がうまいなあ。席が長いせいで遠くの人とはお話ができず、甘いアイスティーも尽きた、とふと見ると田口さんが何かを堪えているようなお顔をしているのでどうしましたか、と聞くと押し殺した声で「ビール」と発語するのでヤバいヤバい、とジョナサンにあ、食べ終わったからどっか別のところ行きませんかお酒を飲みたい人もちらほら居るみたいだし、と告げると彼は本当に虚を突かれたような顔をして無言のままアイハブノーアイディア、と答えるので自分は仕方なく振り返り、エイドリアンとTさんあたりに向かって「河岸変えようぜ、俺ら酒呑みてぇし」と言い、他の皆様にいかがなもんでございましょう、とお伺いすると相変わらず動作を停止しているジョナサン以外は「いっすよ」ということなのでエイドリアンのナビにより近場のゲイバーへ、向かいました。田口さん、アルコール到達までもう少しなんでどうか辛抱してください。

 「ゲイバー」でだけどほたるさん藤岡さんも入れるかな、とちょっと心配していたのだが別に問題なく入れてくれ、一番奥のソファ席に陣取ってやっとこさビールにありつく。ジョナサンは、と見ると「生まれて初めてゲイバーに来ました」ということなのであらあら大変人生一年生。これまでは僕らもジョナサン達と一緒に酒を飲めなくても全く問題はなかったのだが今回のメンバーでは禁酒はちと厳しい。ありがたい事に煙草も喫えるので(一応屋内は全面禁煙だがここは「ま、そゆことで」になってるらしく灰皿もある)人心地、カラオケが五月蝿いのを除いては大変よろしいでした。藤岡さんが鋭くも「ヘンリーはいつもと違った顔を今ちょっと見せてますね」と言い、さてはジョナサンの知らないところで何かしてやがるな、などとたいへん楽しくお話をしてしばし、遅いのでそろそろ散開しましょうか、皆様本日は本当にありがとうございました。ウチらは明日帰国しちゃいますがどうかお元気で、と今日ここでお別れになるTさん+エイドリアンにさようならをして…に先立って明日のご飯の事でジョナサンと小規模な大もめを繰り広げつつ(待ち合わせ方法を決めるだけで一騒動)タクシーに乗り込む。香港でこういう一夜を過ごせた事は、実はあんまりないのでした。


バブルの塔

 部屋に戻ってイマイズミコーイチは割とすぐに寝てしまい、自分は身の回りの細々をざっと片付けてからシャワーを浴び、まだまだあるビールを一本呑んでから煙草喫いたいな、下に行ってきますと田口さんに告げると 「僕も行く」ということなので連れ立ってアフターアワーズ直前のクラブみたいなホテルの入り口付近で相変わらず湿気の多い空気の中での煙、指圧の心は唐心。



2010.0403 香港へ
2010.0404 上映一回目
2010.0405 インタビューなど
2010.0406 遠足+上映二回目
2010.0407 成田へ