20151017 星期六
前日に聞いておいたところによると朝食はレストランで7時〜9時まで、えっ2時間だけ?とは思いつつ早起きしてレストランに…それはどこだ。「餐厅(Restaurant)↑」という看板の指す方向には袋小路があるばかりなので仕方なくロビーに行って確認すると(英語は通じないが気合いで訊く)どうも全く反対方向で、もしかしたら食堂の場所が変わったのかしれない。案の定シンプルな「糖朝」みたいな食堂ですがこれまた英語の通じないおねいさんに気合いで部屋番号を伝え、ご飯を盛って席に着こうとするとメイビー知り合いの欧米人が一人で飯を食っているのを発見した。昨日見たプログラムで名前を見つけてあら久しぶり、と思っていたドイツのMichael Brynntrup氏、ただし彼に初めて会ったのはドイツではなくて2004年のインドネシア、ジャカルタのQ! Film Festivalで、その後2008年のベルリン国際映画祭のテディ賞の会場でも会った。まあただそれだけであるので向こうも果たして本当に「思い出した」のかどうかは怪しいもんですが一応「再会」という事にして一緒に朝飯を食う。やがてユニンも来たので4人でごはん。話してみるとお互いとも相手の作品を見られないスケジュールだという事が判りあああ、という感じですがまあ仕方ない。やがてもう一人、非モンゴロイドのゲストっぽい人が来た。マイケルは知り合いらしく「フランシスコ」と紹介してくれる。聞けばチリからのゲストで、しかも住んでいるのは首都ではないのでまずサンティアゴまでバスで10時間…に始まる壮大な旅を経て北京に来たとの事でした。彼の短編は今日のオープニングに先立つ午後に上映があるそうでした。
飯はうまい。中華も洋食もあるので2食分くらい喰い(次にいつ食べられるのか判らないので海外では朝食はしっかり)、ナイフを取ってくるのが面倒なので箸でパンにバターを塗っているとマイケルが驚いたように「アジアではそうやるのか」と聞くので余程「ええ」と答えてやろうかと思いましたが「いや、自分がものぐさなだけです」。みんな昼14時からの短編集に行くけど朝飯のために早起きしたので昼寝する、とまた部屋に散っていき、外でタバコを吸って(部屋は禁煙)携帯の天気予報を見ると晴れマークに横破線が入っていてなんだこれ、と思ったら「靄のかかった晴れ」だそうで北京の大気汚染は結構日常と化しておる。さて寝ないと、と思ったら日本からメール。なんとも間の悪いことによりによって昨日ショップから『初戀』DVDの注文をお願いします、というのが来てしまっていてどうしよう取引を切られるかも、と思いつつすみません30日まで日本に居ません、と返したのの返事でしたが「では気長にお待ちします」という寛大なお返事でした。ああ良かった…というか帰国したらすぐに発送しなくては(そして忘れそう)とスケジュール帳に記載して、やっと寝られる。
名物猫
グダグダと起きてロビーに向かう。さっきのマイケルにフランシスコ、あとボランティアスタッフらしい女の子が二人。映画祭オフィシャルバッグとTシャツ(無理を言ってサイズをXSに換えてもらう)、そしてロゴ入りマスクという超頓知の効いたグッズをもらう。まだゲストがいるらしくてしばし待つ。やがて来たのは香港からのゲストでグリーンという男の子、イマイズミコーイチは香港Jから「知り合いが北京に行きます」と言われていたそうだがそれが彼なのだった。ユニンもやってきたので出発して通りでタクシーを捕まえようとするがなかなか止まってくれない。「反対側の方がいいのでは」とユニンが一人で道を渡り(もちろん横断歩道ではないところを)姿が見えなくなってしまった、とボランティアの子がこちら側で1台捕まえたので、ひとまずユニンは行方不明のまま僕ら以外のゲストを乗せて車は行ってしまった(ユニン、どこまで行ったのだ)。ややあって向こうでユニンがタクシーを拾ったらしく僕らを呼んでいるのでおっかなびっくり道を渡り、僕らとグリーン、ユニンの4人でタクシーに乗り込んだ。助手席に座ったユニンと運ちゃんはず〜〜〜っと何やら話しているのでグリーンに「2人は何を話してるの?」と訊くと「何というか、政治の話とかですね」だそうでこの運ちゃんは何者だ(話す間中、車外へとしょっちゅう華麗に痰を吐いてるので僕らはほとんど惚れそうになる)。後でユニンに聞いたら「大気汚染が酷い、とぶりぶり怒っていました」との事でした。そうだね今日はちょっと空気が良くないかも。
車はどこかの団地みたいな所に到着した。ここに上映会場があるの?と訊くと「そうです。あくまでこっそりやっているのでこういったところの方が借りやすい」だそうで本当に色んな苦労があるのね。スタッフについて行くと小さいスーパーに突入するのですごい秘密基地みたいだね、と思っていたらそこはただ突っ切っただけでやがて団地の境界にある門(電気ロック式)を通って外に出てしまった。あれあれあれ、と言ってると「まずはランチを」と言うのですが上映開始まで1時間もないけど大丈夫だろうか、と韓国ファッション専門店らしい派手な店の横を入っていくつかレストランがある中を入ったのは一見何料理だかよく分からない店ですが窓に近い席にゲスト5人にスタッフ2人、ゲストでもスタッフでもないが一番働いているユニン1人の総勢8名で座ってここは焼き小籠包が看板メニューなのでそれにしましょう早いし時間がないし、とか映画祭スタッフが言ってる傍からフランシスコやマイケルは普通に時間のかかりそうなものを注文し出しており、スタッフはスタッフでそのメニュー解説をしてあげたり「小籠包は何個食べますか」などと初めて食べる人間には判断のつかない事を自分らに聞いてきたり、つうあたりからするとこのボランティアちゃん2名は経験が浅いと見た(勝手の判ってないゲストに決めさせると収拾がつかなくなるので接待慣れしている人の場合は予め全部お膳立てして時間など諸々を計算をした上で、逸脱しない程度にゲストに希望を聞く)が、後で聞いたらうち1人は「今年初めてボランティアで参加しました」てなことで正解くん。事情を知る人によると「ボランティアは大半が学生で毎年入れかわっちゃうんで、ノウハウが引き継がれなくて大変」とこれまたどこかで聞いたような話でした。
映画祭バッグ持って移動中
焼小籠包は大変旨い(蒸したのより食べやすいし)のでしたが時間的には既に短編集の上映が始まっておりますな、あ、スタートが遅れてるの?それにしてもグリーンとフランシスコは自作の上映があるというのに大丈夫なのか、と思っているとやっとみなさんが食べ終わったのでさっきの門を戻って会場に向かう。「ポポさんはこの上映には来ないそうです、メインのスタッフはほぼ今夜のオープニングイベントの会場に詰めているそうで」とユニンが言うのでそういや崔さんっているの?と訊くと「ええと、いまアメリカ」という意表をついた近況でえ、いないの?「WeChatに投稿していたところではいまシアトルとか、何とか。本格的にアメリカに移住するようです」って崔さん英語はあんまり話せない人だったと思うんだけれども。「明日北京に来るとか、そういう可能性は」「無いでしょうね」という事で崔さん用に持ってきた虎屋の羊羹などは自動的に映画祭メインスタッフに行く事決定、まあいいですけど。まんま団地というか高層マンションのエレベーターを上がって最上階なのかな、多分どこかの団体が借りて運営しているコミュニティーセンターみたいなところだけど、上映は始まっている。いきなり若い男の子がマッサージ店みたいなところで男とセックスしているシーンが映っているのでほら言わんこっちゃ無い(最初から観たいぞ)、と思いますが仕方が無い。それにしても劇場では無いので後ろの席だと字幕がほとんどちゃんと見えません。
途中からになってしまったこの短編(と言っても44分)を含めて作品は9本で結構なボリューム。だいたいフィクションで2本だけドキュメンタリー。最初の一本目は台湾、あとは香港(グリーン)、ドイツ、カナダ、中国、チリ(フランシスコ)あと監督は中国人なんだけどベルリン撮影とかまたはアメリカ制作とか、かなり多彩です。グリーンの作品はメディアミックス(古いな)つうんですか、ゲイの息子を亡くした母親が息子の死婚の相手として生きてるゲイの男の子の家に押しかけるのだがそこにTVレポーターもやってきて…てな作品なのだけどうむむこれはあんまり好みではない(どうも「ショウ」的な歌や踊りが入ると私は引く)。フランシスコの作品は男女のカップルの女の子が道端で自分を襲ってきた男をぶちのめして何故か彼氏と一緒に自宅に運び込む、という冷静に考えるとLGBTのどれでも無い感じもするけれど、個人的にはこれが一番好きでした。あと中国の短編はスイミングプールで監視員にキス(人工呼吸)してもらうために溺れてみようかどうしようか、と悩む男の子の話でしたが、最後の最後になってとあるデートアプリの提供アナウンスがどーん、と入ってあれあれあれこれCMなの?と思ってしまいました。上映後のQ&Aはその中国短編の監督とグリーンとフランシスコ、あと最後にやった台湾のブッチのドキュメンタリーを撮った女性監督の4人。質問も回答も中国語・英語に二重に訳しているので自分は途中で訳が分からなくなって中座して隣のサロンスペースでトイレを借り、ベランダが喫煙スペースになっているので何故か置いてある未開封の韓国風カップ麺を眺めながら一服して戻ってややするとQ&Aはお仕舞い、さて次のオープニングイベントへ。
Q&A、別にお客さんが一人しかいなかったのでは無いのですが
気がつくとユニンが男の子と日本語で話しているのでどなた、と訊くと「大学(日本)の後輩です。日本人」らしくてその名をホウジョウくんという彼はノンケらしかったが「中国における映画祭を研究テーマにしているので来ました」との事。オープニングイベントにも行くというので4人で連れ立って歩き出す。他のゲストとははぐれてしまったがまあいいでしょう。「渋滞しているから電車の方がいいです」と地下鉄に乗り込んで、ああそうだ中国は駅に入る前にセキュリティーチェックで荷物をコンベアに入れるんだった、と思い出す。かなり混雑した車内でホウジョウくんと話すと彼は研究の一環で北京であった女性映画祭の取材もしたらしく、とある日本人映画監督(特に名前は秘す)のアテンドをしたようですがイマイズミコーイチは彼女の映画が嫌いなので口を極めて罵倒しておりました。北京の女性映画祭は2つあるらしくてもう一つのは前回のスタッフだった友人ヤンヤンが主催らしい、と聞いてそういや彼女は映画祭に来ないの?とユニンに訊くと「あっそうだ、ヤンヤンは今ちょうど東京に旅行中ですよ」って崔さんといい何なんだ(今回の僕らにはポポしか旧知の人がいないらしい)。さて数駅乗って駅には着きましたが、迷わず会場であるブリティッシュ・カウンシルにたどり着ける自信がある人が誰もいないらしく、めいめい(私を含む)がスマートフォンで検索して大体この辺なんだけど…という辺りには来ましたがこれ、ホテルだよ。仕方がないので近くの、これまたホテルなんだか複合ビルなんだか判らないビルのインフォで訊くと「ここの4階」ということなので適当に業務用エレベーターみたいなので上がってみるが4階には止まらず、3階で降りるがここはオフィスみたいなのがあるだけ、あっ階段があるね、とドアを開けて登ってみるが今度は開かない。嫌な予感がして戻ってみると入ってきたドアは自動ロックがかかっており僕らは軽くビル内で迷子になっております。
とにかく戻るべし、と階段を駆け下り、何とか元のフロアに戻るとやっと一般用のエレベーターがあった。これならまあ少なくともロックアウトはされまい、と乗り込むがどこにも場所の名前が表示されてないので本当にここの4階かなあ、と4人でまごまごしていると女の子が一人乗ってきたので自分は「あの、もしかして映画祭に行かれますか?」と「日本語で」聞いてみるが無論通じる訳はないので困惑顔の彼女にユニンが慌てて中国語で訊き直すと「そうです」って事で一安心。やっと会場に着いて映画祭のポスターを目にして自分らは嬉々として記念撮影をしているが気がつくとセレモニーは始まっており、手前の受付スペースではボランティアスタッフらしい集団がミーティングをしておる。やべえ静かにしないと、とすいませんの顔をスタッフの女の子にすると彼女は僕らを手招きして、「会場はあっち」と指示してくれる。隣の会議室みたいなスペースは超満員、廊下から見るとスタッフが挨拶しているのでどうしたもんか、前から入るか後ろから入るか、まあ前から入っちゃえ、とすぐ近くに一席だけあったのでイマイズミコーイチはそこに座り、自分はどうするかなあ、とステージをチラ、と見るとポポが居て、「そこ、空いてる」みたいにしているので奥の一席に座る。
スタッフ挨拶中
しばらくして残りのゲストも到着したらしいがもう席はない。五月雨式にゲスト紹介(数が多いのでも前には出ずその場で立ってご挨拶)があり、その後5人らしいメインスタッフ(知ってる顔はポポだけ、あと昼の短編の司会をしていた男の子がいる)が勢ぞろいして挨拶、そのあと「Beijing Queer Chorus」の皆さんによるパフォーマンスがあって、いよいよオープニング上映、作品はホン・カウ監督の『追憶と、踊りながら』でして監督も来ているのでスピーチがあり(彼は中国系カンボジア人として生まれて英国に移住して育った人らしく「自分の中国語はあれなので英語で」ご挨拶)、ここで映画を観ない人は退出して席替え、自分は東京で観ているのでいい席じゃなくても、と眼前で席を取られてしまい困っている人に席を譲ってイマイズミコーイチの隣の床に座る。スクリーンはあまり大きくはないが、中国語+英語字幕が付いているので助かる。『夜来香』が流れる中を映画が始まる。大好きな映画なのでうれしい、としばらくして自分はトイレに行きたくなってきた。席を移動しておいてよかったなあ、と思いつつそろそろと廊下に出て用を足し、隣の受付を除くとポポがいたのでよしこのタイミングで土産を渡してしまおう上映後は混乱するだろうから、と会場に戻って荷物を取ってきて、また退出する。やあやあ、とポポと抱き合って、あと渡航前にメールのやり取りをしていたジェニーにご挨拶。土産の菓子などを渡してしばし話し込む。ポポはなんかスマートになってました。
映画はまだ続いているのでしばらくして戻り、ラストを見届ける。この作品は中国語・英語間の「言語の壁」が一つの大事な要素なので北京で見るというのがまた感慨深い。以前観たときにこの作品は英語も中国語も判る人が一番楽しめるよなあ、と思っていたので。上映後、自分は日本から持ってきたこの映画のチラシを持って監督にちょっと話しかける。チラシを見せて聞いてみると監督は日本公開時に邦題を決めたときには何にも聞いていなかったらしく、"Danicing with Memories"みたいな意味です、と言うと「ふうん、まあいいけど」という反応でしたが原題『Lilting(轻轻摇晃)』とはかなりニュアンスが違うのでここでも言語の壁が。あんまりやらない事ですが監督と(チラシと)写真を撮ってもらってありがとうございました、いいオープニングでした。会場の奥ではレセプション開始時に振る舞われたらしい軽食やドリンク散在しているのをちょっと羨ましく眺めながら、何故かグリーンが昼も食った焼小籠包をくれたのでまりまり喰らい付く。イマイズミコーイチと一緒にポポに会いに行って、これからみんなでバーに移動して呑むよ、と言われる。会場の外に出てゲスト一団はボランティアの女の子に付いていくがあれ、ユニンがいない。彼女に電話してもらうと「友達(ホウジョウくんか?)と一緒に会場を離れちゃったんですが後でバーに来ます」だそうで移動する。結局タクシーが来ないので歩いて行きましょう、と靄のかかった北京の夜を散歩する。
NIGHTWALKING
フランシスコに「(今日の上映)どうだった?」と漠然とした質問をしてみると「短編も長編も、良かったんだけど何か前向きな作品が少なくて、映画祭のカラーなのかオリエンタルの(という言葉を使うあたりが「初めてアジアに来た」という感じがして面白い)クィア映画ってこういうのが主流なのか、判らないけど…」と言っていた。まあ欧米作品も前向きなものばかりでもないですが(それこそ彼の出身地チリの作品で今年のベルリン国際でテディ短編賞を取った『サン・クリストバル』なんかも田舎町の抑圧、と淡々と描いていた作品だった。ちなみにフランシスコの地元近くで撮られた作品だそう)、日本を含むアジアのクィア作品を覆っているある種の悲劇性みたいなものにそうじゃない流れを入れたいと思って自分らは作っている、と伝えると「そうか、それはいい」と言ってくれた。明日の上映に来てね。途中で自分は一分硬貨(100分の1元、日本円で20銭くらいか)を拾い、ボランティアの子に見せると「ああ、もうそれを使うことはありません。ユニンも見たことない、って言うと思いますよ」だそうでマジか、結構ピカピカだけどなあ。しばらく歩いてバーに着いた。けっこうでかい。店に入るとポポがいて、「ビール呑むならトークンをあげる」とビールの描かれた小さな紙片をくれた。わーい、とカウンターに行く…前にユニンどうしたかな、とメッセージしてみると「もうすぐ着きます」てな返事で外で待っているとやがてやってきた。お疲れ様です乾杯しよう。
カウンターでユニンに聞いてもらったところによるとトークンは35元(700円弱)以下のビールなら何でもいいようで、40種類くらいあるメニューから買えそうなのを適当に選んで乾杯、いやあ楽しい。喫煙スペースは外なので一服しているとでかい欧米人が居たので挨拶する。モルテンという名前の彼はMIX COPENHAGEN(デンマークのクィア映画祭)の人で、今回プログラムを持ってきたとの事でしたがあれコペンハーゲンの人だったら3年前にテルアビブで会ったよ、と名前を告げると彼は嬉しそうに「おー、彼は親友だよ」と笑う。モルテンに明日の上映に来てね、と言う事とこの映画祭のあとはベルリンポルノ映画祭に行くんだ、と伝えると彼は眼を丸くして「そうなんだ、ウチの映画祭からもスタッフが行くから、ベルリンで会ったらいい」と言ってくれる。こういうのがあるから万難を排してでも映画祭には行かないとなんだよなあ、とすこし胸が焦げる。気がつくとさっきのオープニングイベントで見かけた映画祭メインスタッフで一番長身のメガネの男性(名前が判らない)が居たので呼んでくれてありがとう、と言うと「こちらこそ来てくれて嬉しい。ありがとう」と乾杯する。彼(名前が…)は「君らが『初戀』を上映した時に僕はスタッフをしていたので憶えているよ」と言ってくれたので当方はすみません、初めましてという事で。映画祭はどう、と聞くと「まあジェニーと僕には昨日公安から電話がきたりもしたんでちょっと用心してるけど、概ね大丈夫かな」との事。その後はしばし下らない話をして彼が一旦引っ込んだ隙にユニンにこっそり「今更だけど彼は何て名前?」と訊くと「彼?シャオガン」との事で反射的に「何だかシャワ浣みたいな名前やな」という風にして憶えたのは本人には内緒です。
これはただの呑み会なので皆さん適当に帰るらしく、ポポにまたトークンをもらってしまったのでもう一杯呑んだら出ようか、と言っているとイマイズミコーイチが「しかし明日の上映の集客をすべく自分らも行動せねば」と言い出す。映画祭は常に監視されているので公に情報は出せず(さっきのシャオガン曰く「"Beijing Queer Film Festival"という名前はもう知られているのでより情報を見えにくくするためにイベント名を"Love Queer Cinema Week"に変えた」だそうでこれでやっと直前に名前が変わった理由が判った)、個人的にメールを回すか口コミしかないので僕らが観に来て欲しい「ゲイ・アクティヴィズムとかに関係してないそこら辺のホモの子」には情報は届いていないだろう、そんな彼らに伝達するにはゲイクラブしかない、今日は土曜日だし自主的に営業するのだ、と前回自分が(その時イマイズミコーイチは具合が悪くて宿で休んでいた)行った事のある「Destination」つうクラブに行こう、という事になり、ユニンも「そこ、聞いた事はあるんですけど行った事ないから見てみたい」てな事でみなさんにさようならをしてタクシーに乗り込む。イマイズミコーイチが危機感を抱いているのには理由があって、映画祭会場は複数なので裏番組がある場合があるのだが明日の『すべすべの秘法』の上映時間帯に台湾製劇映画の上映があり、しかも若手主演俳優(まあ、芸能人ですわな)がゲストで来てるので「そらみんなそっちに行くわ」とイマイズミコーイチは怒っていたが改めてプログラムを見たユニンも「ホントだ、何でこんな組み合わせにしたんでしょうね」と首をひねっている。しかしクラブで営業(と書くと歌謡ショーみたい)なんて自力で出来んのか、チラシは持って来たけどさ。
デスティネーション
地図で見ると店はここからそんなに遠くないようだ(とは言えスケールが判ってないのでそうでもないのかも)。タクシーの運転手さんも別にそれはどこだ、などとは言わずユニンと「この辺?」みたいな話をしているが唯一6年前に来たことのある自分もどんな感じの通りにあったのか覚えていない、と思ったら見えてきた。あ、あれですその名も「目的地(と漢字で併記してある)」。建物は、何と言うか外観は体育館みたいなものを想像されたい、というかひょっとすると本当にそういった中古物件を改装してるのかも知れないという気もする。ゲートは狭く開けてあって荷物チェックをしている。先に入ろうとしたイマイズミコーイチが「水はダメだって」と戻ってくる。午後の上映からオープニングセレモニーなどなど、映画祭の人がその都度水をくれるのでホテルに持って帰ろうかと(部屋のボトル水はお茶淹れたりとかですぐ無くなっちゃうので)3人で5本くらい未開封の水を持っているのを全部捨てるのは惜しい、どこかに隠しておいて帰りに引き揚げよう、と建物前のスロープを囲ってある柵の陰に爆弾テロよろしくこっそりと並べる(一人60元、日本円で1,200円の入場料を払って入るゲイクラブを目前にして総額10元、200円程度の事で何を延々合議しているのかと言う気もしますけれども)。
やっと中に入る。前庭みたいな広いスペースにはテーブル席が作ってあってオープンカフェみたいだが、更にその手前のただの空き地にも人がみっちりである。スタンプを押されて(ただしゲートの外へ一旦出たら入れない。建物と敷地内の出入りのみ可)建物内へ、これはほぼ記憶通りで長い廊下の左右にバー、ダンスフロアがあって大音響かつ流石にサタデーナイトだけあってフロアも満杯、スモークが何故か真正面に直撃するので息が。これは明日の営業どころではないので逃げ出して2階に向かう。また幾つかに仕切られた部屋はソファ席になっていて前回はどう見ても接待、な中年夫妻などがいましたが今回は居ませんでした(あ、ちなみに女性もいたので男性限定ではないようですが、女性だけでも入れるのかは不明)。しばらくだらだらと座っていたがここもまあ知り合い同士がだべっているだけなので映画の宣伝は無理っぽいな。総括いたしますと3年前に行った台湾のゲイクラブとあんまり変わらないかな、という何のひねりも無い印象でした。外のカフェスペースに避難してドリンクチケットでビールをもらい(冷静に考えるとさっきのバーで散々呑んだわな)3人で端っこの席で話し込む。テーマは何でか「こういうクラブって、やっぱ馴染めない」と仰せのユニンくんの目下の恋愛の展望について、でしたが詳細は割愛しますもののおっさん達はユニンの幸せを願っていますよ(明日の営業の事はほぼ放棄したので誰もそれには触れず)。さ、だいたい眺めたので帰ろうか隠しておいた水を…あれ、無いぞ撤去されておる。かくして自分らの目的地行きはすべての目的を果たせずに泡雪のように消えたのでした。明日は恐らく後にも先にもこれ一回だけの『すべすべの秘法』中国初公開です。
デスティネーションの外で販売中
2015.1016 北京へ
2015.1017 映画祭オープニング
2015.1018 『すべすべの秘法』上映
2015.1019 ちょろっと観光したりなど
2015.1020 北京最終日
ベルリンポルノ映画祭編へ