20151019 星期一
朝食は普段通り、で今日はこれからどうしようか、一応いつも前日に映画祭の上映作品をまず確認して予定を立てるのだけど今日のプログラムは何故か昨日のフランス文化会館で20時から一つだけ、ほぼお休みみたいなもんである。しかも作品はそんなに新しくないドキュメンタリー映画。それでも誰かに会えるかもしれないので会場には行くことにして、だとしても19時くらいまでどこにいてもいいわけで、昨日会ったモルテン&フランシスコは798芸術区に行くと言っていたし、スタッフもゲストも息抜きの日かもしれない。これはついに天安門?天安門かな?とイマイズミコーイチは隣で腕をパタパタさせているがそうね、ユニンにはこないだ「タクシー呼んで早朝の国旗掲揚を見るのが天安門広場観光の定番」と言われていたけどタクシー、なあ(特に帰り。直線距離だとホテルから近いのでタクシーがいいけど帰りは摑まんないだろう、で地下鉄で帰るとなると一駅か二駅乗っては乗り換えて、を三回くらいしないといけない)…と思ってでは天安門からそのまま故宮博物院(紫禁城)も行って、故宮の神武門からの駅からだったらあんまり乗り換えずに帰れるし、とまずはタクシー(毎度ながらあっさり摑まらない)で天安門へ、すごい渋滞しているので運転手さんは「天安門はこの先を左に行けばもうすぐだ、ここでいいか」と降ろされる。何か光景が6年前に自分が来た時の記憶と違うけど何だろう、と考えてすぐに気が付いた。前回は天安門広場から延々歩いて天安門に行ったのでしたが(暑かった…)今回は当然ながらいきなり天安門の前に通じる道で降ろされたのでした。右側遠方に霞むでかい花瓶みたいなものが見える広場を眺めながらイマイズミコーイチに「天安門広場にも行きたい?」と聞いてみると「うーんどうかな、何があるの?」と聞くのですが、何があると言われましても(毛沢東主席の遺骸ももう時間的に終わってるし)。
まあ門前に行きましょう、と思ったけど行列が全然進まない。どうもセキュリティーチェックをしているようだ。途中で何かアナウンスされて何だろ、と不安になるが誰も帰らないので大丈夫であろう。やっとゲートをくぐって門の前に出た。平日昼間だというのに結構な人出である。イマイズミコーイチは昨日の余韻でまた自撮り棒にちょっとだけ引っかかるが、それよりおなじみテンアンモン自体の方が面白い、と気づいたらしく毛主席肖像画の前で万歳ポーズを始める。写真を撮ってから門をくぐり(中で自撮り棒を売ってる)、遠くに紫禁城が見えてきた。何かお腹すいちゃった、とイマイズミコーイチは売店を覗いているが「菓子パンとか4個セットみたいなのしかない。そんなに要らない」とぶつぶつ文句を言っているのでじゃあ一つ引き取るから、とカップケーキみたいなのを買う。更に近づいて、やっと私は気がつきました今日が、月曜日だったという事を。ここは故宮「博物院」なので博物館扱いでお休みなんである。ちゃんと調べずに「休みの曜日なし」みたいな情報を鵜呑みにした私がバカでした。でもまあ今日しか無かったし、イマイズミコーイチが来たがってたのは天安門だし、自分はこないだ紫禁城は歩いたしね、と休みの日でなくては見られない「無人の紫禁城(入口)」を堪能する(負けおしみ)。
天安門(広場)。左端のが名物国旗かな
さて予定がだいぶ狂ってしまったのでどうしようか、と思うと左手の中山公園は開いている(有料ですが)。ナチュラルに割り込んできた女子学生3人組に続いてチケットを買い、中へ。明代から皇帝が五穀神と土地神に祈る場所であった、とのことでまあぐっと由緒正しい新宿御苑みたいなもんでしょうか。基本は公園なので(こないだの天壇みたいな古い建造物もあるにはある)人も少なければ何を見ると言う事もなく、ベンチに座ってカップケーキを食べたらやる事が無くなってしまった。ここはこれくらいで、と出て反対側へ、紫禁城の外堀に沿って歩いて行くとおそらく王府井(繁華街)に出るはずだ。じゃあだらだら歩いてどっかでお茶でもしよう、まだあんまりお腹も空いてないし(加えて「これが香港だったらあそこに行ってあれが食べたい、とか幾らでもあるけど北京はなあ、知らないし」とイマイズミコーイチ)途中食いもの屋や屋台はいろいろあるんだけどそんなに食べたいような感じでもないのでまずはメインストリート、銀座と原宿と浅草を全部突っ込んだみたいなところですがとにかく道幅の広い歩行者天国になっていて、いかにも観光客向けな感じ、自分はふとお茶屋を見つけてこういうところのは高いでしょうが、とちょっとだけ覗いてみる事にした。見る間に店員のおねいさんが寄ってきてセールスしてきますが皆さん「これはジャスミンティー」「これもジャスミンティー」「ジャスミン」しか言わないのでいや私はジャスミンは別に、と龍井などのサンプルに鼻を突っ込んで流石に高いのは格段にいい香りだけど冷静に考えると高すぎる、と買わずに店を出てまた放浪し始める。道を右手に曲がって、細い路地に入ると以前ここで逆切れした土産物屋のおばはんに袋小路でパンダのぬいぐるみ投げつけられた事があったなあ、と眺めるがその時の記憶とは違ってその先にも店は続いており、何とも今どきな感じでドローンがみちみち売っておりました。店と道の果てた所に一軒の雑貨屋があって、イマイズミコーイチが靴を物色している。「さっき表通りのでかい店で見たのと同じ靴なんだけど、安いかも」と唸っているとお店のおねいさんが出てきてセールストークを始める。2人はしばらく値段交渉をしていたが、やがて合意に達したらしく満足げな監督は靴を片手に、僕らは元の道へ。
大分疲れた、ちょっと暗くなってきたし冷えてきたし、ともう何でもいいのでお茶、と検索して大分来た道を戻りますがショッピングモールの中に喫茶店があると出た(もうほとんど御神籤みたいなもんである)のでそこに行ってみると大した事に本当にお店はあって、あれこの「一茶一坐」って渋谷にもあった台湾のカフェじゃないかな日本からは撤退しちゃったけど、と言っているとイマイズミコーイチは食い入るようにメニューを眺めつつ「あったかいミルクティーが飲みたい、でもこの何とかゼリー入りのしかホットが無い、でもゼリーをホットに入れたらまずそう」と逡巡している。店は空いているのでまあ入ろうよいい席が取り放題だよ、と大通りを見下ろす窓際の席にだらっと座って結局ゼリーは別添だったお茶、甘味などもいろいろ美味しそうなのだけど何故か腹が減ってない。ので二人でミルクティーを飲んだらもう終わってしまった。煙草が喫いたいねえ(できればこのまま、ここで)ですが無理なのでできるだけだらだらしてから店を出て帰ろうか。これまた最寄駅、というものが妙に遠いのでまたどんどん歩いて、マップだとこの辺なんだけど…あれ通り過ぎてるな(GPSはけっこういい加減、特に自分の方向が適当に出る)と見ると道の向い側に駅入口がある。きいいいい、と横断歩道じゃない所を渡って乗り込み、ホテルに戻る。
モールに5体ほどあったうさぎくん、これが一番かわいい
今夜観る映画の上映は昨夜の『すべすべの秘法』と全く同じ会場・時間なのでもう悩まず、ただやたら歩いてフランス文化会館に着く、とジェニーがいて「ああ、これ観るんですね」とチケットをくれた。お客さんは昨日よりさらに少ない感じ。本日唯一の上映作は『Paragraph 175(刑法175条)』というアメリカのドキュメンタリー長編で2000年にベルリン国際映画祭ではテディ賞受賞、監督のロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマンはあの『セルロイド・クローゼット』の監督ではないか(ちなみにナレーションはルパート・エヴァレット)。ナチス政権下の同性愛者弾圧の根拠となった刑法175条は1871年のドイツ統一時に制定されたものでその後は有名無実化していたものがナチスによって厳罰化され、やがて強制収容所に送られた同性愛者の多くが命を落としたが、その数少ない生存者(撮影された時点、おそらく1999年前後で僅かに十数名が知られているだけだったようだ)へのインタビューが映画の中心となっている。その「生存者」も15年前で既に80〜90代なので恐らく現在ではほぼ物故者となっているだろう。取材する制作陣が「こんな企画はもう手遅れなのではないか、遅すぎたのでは」と自問自答するシーンが出てくるが、ギリギリ間にあったのでは、と思わせる貴重な証言が残されている(そして皆さん60年も前の事をなんと事細かに憶えているのか、に戦慄する)。そして弾圧体制下の証言のみでは無くてその前の、「同性愛者の首都」だった頃のベルリンの雰囲気をも鮮やかに捉えている。明後日からベルリンに行く自分らとしては何か因縁めいたものを感じる作品でありました。日本では何度か映画祭で上映されたことはあるようですが。
ロビーに出るとユニンに会った。ジェニーは居なくなっていてユニンは「ああまたジェニーさんと大事な話をできなかった…」と言っているが何だろう。ああそうだ他人の事よりも自分もイマイズミコーイチ分の航空券代を貰う話をしないとだった…、とWeChatでジェニーにメッセージを送る。すぐ返事が来て「ごめんなさい忘れていました、もう一度金額を教えてもらえますか?」とのことだったので日本円で伝えると「人民元でいくらでしょう?」とのことなので今日のレートで計算して「端数は切り捨てでいいです」と返したら「端数は切り上げます」との事で太っ腹。会場にはポポが来ていた。あと友人らしい人に紹介される。「叶さん」ってユニンと同室の中国人監督と同姓だが別人、広州で同性愛者のための団体をやってる人で、会議のために北京に来ていたのが映画祭があるので帰りの飛行機を変更し、更に明日の叶明さんの上映がある、と知って更に滞在を延ばしたそうだ。人見知りをしない人で、「北京は好き?僕は好きじゃない」などといきなり言ってくる。そして僕らの上映の事は知らず「観たかったなあ」といういつものパターンである。HIV啓発の事業もやっているそうなのだけどあまり「ゲイ向け」にするといろいろ面倒なことになるので「全ての人を対象にした健康問題」の中にゲイ向け企画を入れるとスムーズ、なのだそうだ。「中国政府は表向きそういった(啓発)活動をやらない代わりに、こういった民間団体を支援してるみたいです」とユニン。
どうでもいいけど人民幣コンプリート
叶さんはこれから僕らのホテルに行って叶さんに会う(字で書くとややこしいな)のだと言う。僕ら夕ご飯どうしよう、昨日シャオガンが言っていた「ディナーかバーでも」と言うのは(案の定)本人がいないし、ユニンも食べてしまったと言うしまた昨日の轍を踏んでホテル付近も軒並み閉店(マクドナルドすら23時まで)かしら、と悩んでいるとポポが「ホテルの近くにコリアン・メキシカンのレストランがあるからユニンに教える」と言い出して何やら伝授している。コリアンメキシカンって何だろう、タコライスにキムチが乗ってるとか冷麺にサルサソースが入っているとかだろうか、別々のほうがいいと思うのだけど、と思うもののポポは割と食道楽っぽいのでまあそこに行ってみることにする。ポポにDVDありがとう、と言うと「いや、ホントは直截渡すなんだけど、いつもうっかり忘れちゃうので用心してユニンに託した。」と笑った。自転車で帰るポポを見送り、叶さん・ユニンとタクシーに乗ってホテルに戻って叶さんと別れ、3人で指定の店に…行くがそれらしいものがない。「地図だとこの辺なんですけど」とユニンは開いていた酒屋に突撃して店の人に聞いているが「ええと、確かにあるんですけど今日は休業みたいです」で月曜日。まあいいや通り沿いにまだやってる食堂があったからメニューを見てみよう、と確認していると店のあんちゃんが出てきて「入れ入れ」と言う。ここでいいです、と注文だけしてもらってユニンはホテルに戻る(今日はモルテン&フランシスコに付き合って798芸術区のはずがやはり月曜休業で別の場所に行ったそうだ。お疲れさま)。
イマイズミコーイチは炒飯、自分は鶏+野菜炒めぶっかけご飯みたいなのを頼んだのですが炒飯はまあ普通に旨い炒飯ではあるものの、自分のはメニュー写真と全く違い、鶏とジャガイモしか無い焦げ茶色のソースがかかっていて、喰ってみるとうむこれは、カレーライスですね(無論日本でカレーライスを頼んでこれが出てきたら「カレーじゃねえ」と言われること必至ですが、北京で出てきたらそうとしか言いようが無い)。全然不味くはないけどご飯が冷や飯なので、熱々のソースを混ぜて一気に食べないと味が落ちます。食べ終わって会計して、スーパー(これは開いている)でビール買って部屋に戻ろう。そう言えば初日だったかここを歩いていてユニンが「日本語の『XXちゃん』に当たる言い方って中国語だと名前の一文字を2回繰り返すか(パンダの名前みたいな感じか)又は『小(シャオ)』を付けるかです」と言っていた(ちなみにシャオガンの「シャオ」は「小」ではなくて別の字)のを思い出し、となると例の「小日本(シャオリーベン)」てのも別に怒ったりせず、「日本ちゃん」みたいなもんだと思っていればいいのかな、どうせ「カワイイ」ってのは得意な分野でしょうジャパン、と早合点なことを考えていた。明日は実質、北京での最終日。
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