2010.0717 土

(前日からの続き)
開映時間10分前になったので「そろそろ行きましょうか」とジン共々店を出る。「疲れたんでちょっと甘いものでも」食べにきたはずのジンは結局何も口にせずに僕らと話し続けた挙げ句、しかも5人分の請求書をスマートにさっ、と取ったかと思うとのったらのったら帰り支度をしている僕らを尻目に「僕らの」巨大かき氷ほかのお会計などしてくれていて申し訳ないやら惚れるやら、ごちそうさまです。こんなことならジン用の土産をリュックに入れておくんだった、今日会えるとは思ってなかったけど。市庁に戻る道すがらジンは「プチョンは映画祭以外ホントに何もないとこなんですねえ」と冗談めかして言い、まあでも映画祭があれば僕らは充分だよ、それにしてもこんな深夜なのに凄い数のスタッフがいるね、と言うと「そう、毎年毎年たくさんの若いボランティアが集まってくれて、いつも本当にすばらしく働いてくれる」と嬉しそうに言う。びしゃびしゃと水を跳ね上げながらさっきのホールに戻り、もちろんプログラマー様同行なのでチケットのない4人も問題なく入場して席に案内してもらい(最後列だったけど映画を見るのは問題なさそう)、しかしでかいホールだ。1000人規模、と聞いてたけどそんな感じ。ただし「映画館」ではないので印象としては有楽町朝日ホールでやる試写会、みたいなノリである。

今回の上映は「非公式出席」なので舞台挨拶はなし、のはずだったのだが上映前にジンが喋る+監督来てるとくればそら出るんでしょ?という事になし崩し的になってしまいイマイズミコーイチと自分は遥か前方の舞台袖に呼ばれ、もちろん通訳さんの用意などないので前回に引き続きその場でジュンミをスカウトして(本当にすいません、たかだか千円そこらのチケット代が浮いただけではぜんぜん割に合わないよ)、というかまあまあとか言いながら引っ張ってって壇上へ、ステージには保護用なのか照り返し防止なのか何だか判らない巨大な灰色のただの布が引いてあって普通に歩くだけでも滑ってこけそう、なのでへっぴり腰でよたよたとどうにか真ん中辺りまでたどり着いて、陽気なキャバレーの司会、といった風情の(褒めてるんです)ジンが盛り上げ型の挨拶をしている。いきなり通訳をやらされたにも関わらずジュンミは大体のところを同時通訳してくれて、この子は絶対優秀な通訳になる素質があると思うんだけどなあ「人前に出るの苦手です」というのがもったいない。のはともかくジンは「この映画(家族コンプリート)はまさしくファンタスティック映画祭に相応しい作品であって映画と監督をお迎えできた事は大変喜ばしい」といった紹介をしてくれ、マイクが回ってきてまずイマイズミコーイチが挨拶。お客さんは、流石にこの豪雨の中を深夜の上映に来るだけあって半端な映画好きではないらしく妙にノリが良い。次に自分の番でまあこういう時に喋る事などだいたい毎回おんなじなので内容は考えなくても適当に出てくるんだけど、「挨拶はなるべく現地の言葉で」と今回もええと何て言うんだっけか、と昼間にぶつぶつ言っていたイマイズミコーイチがこの事態を予期していなかったせいか日本語での挨拶になったので仕方ないバランスとって自分がやるか、と記憶を辿って「ヨロブン、アンニョンハセヨ」と最初だけ韓国語、今日のお客さんは沸点低めなのでけっこう受けて(あとで「やられた」とイマイズミコーイチに言われましたがこういうのは前世から決まっていたので仕方がないのですよ)まあ盛り上がったんでいいんじゃないでしょうかジュンミごめん。帰りも転ばないように、という事だけに神経を集中させてそろそろ歩いて退場、やれやれ。


今夜の3本立て(上映順は上から2・1・3)

僕らが最後列の席に戻ってもパクジンはまだ何か喋り続け、訳してくれたジュンミによれば例の「セルビアン・フィルム」が本当にキツいので注意、私はいま警告しましたからね後でなんじゃあこりゃあとか言って私に石を投げたりしてはいけませんよ、などと言っていたようだ。やがてジンはどこかへ消えて行き(今度こそ甘味にありつけるのだろうか)、1本目のアルゼンチン/スペイン合作映画「I'll Never Die Alone」が始まった。はずだったのだが最初は音が出ず、次は音は出たけど途中で止まり(お客さん歓声)、やや沈黙があったのち再度の上映で前クレジットが出切った辺りでまた止まり(お客さんまた歓声、なんで)、4度目くらいでやっと止まらなくなって何だろう低気圧のせいだろうか、と次の自分たちの上映に不安が芽生える。さてこの映画、最初に「実話を元にしたストーリー」というキャプションが出たのだけど、旅行帰りの4人の女性が偶然遭遇してしまった殺人事件の被害者を警察に運んだ事から犯人の男達に誘拐されておそろしい目にあう、というもので途中何度か映像を見られなくなりましたが最終的にはカタログにあった通りの"Bitter End"、なのだろうね、やっぱり。時々死体が生々しい以外は決して嫌いな映画ではありませんでしたが正直もっぺん見たいかと言われると、いいや…。作品の虚構空間(時空)にすんなりなじめない感じというか、意識をスクリーンに留めておけないタイミングが何度もあったのは、もしかして「実話による事実」部分と制作者のイマジネーション部分をうまく渾然とさせられていないんじゃないかもしかして。隣のイマイズミコーイチは、と聞いてみると彼は結構気に入ったようでした。一人だけ席が違うので遥か前方からとことこやってきたドンボムは「女の裸が一杯出てきて、うんざり」などという映画祭ディレクターとしてあるまじき発言をしておりました。

次の映画(家族コンプリート)までの間には少し時間が空いて休憩タイム、ここでスポンサーからおむすびと栄養ドリンク(すごい組み合わせ)の提供があります、とウチらはタダ観のくせにしっかり両方もらって、劇場の外で食す。小さなプラカップに入った丸いおむすびは具が唐辛子で味付けした野菜とかで、結構辛い。缶に入ったこの「DASH」という飲料は先に開けた誰かのを少し飲ませてもらったらまあ結構なお味、つうか冷えてないと厳しいかな、と自分は飲まずに持ち帰る事にする。しかし豪雨の中、数百人の人が深夜の市役所で配られたおむすびとかを食っている光景は「避難民」としか思えない。僕らは開映時間ギリギリまで煙草を喫って、さて本番の上映。僕らのテープは一発でかかり、まずは安心する。画質も音質もそんなに悪くないようだ(でもちょっと明るめかもしれない)。何度も観ているのと、深夜(2時過ぎ)なので音のチェック、とか思って眼を閉じたら眠ってしまったらしく(「プロデューサー」とか紹介されていたのにこの体たらく、最後列で良かった)眼を開けると話が大分進んでしまっている事数度、であせる。もちろんL&G映画祭ではないのでお客さんは「ゲイ映画」を観るために来ているのではないはずだが、それでも各所で受けているようなのでさすが「タフな映画ファン」という気がする。もちろん人によって大分違うはずですが、さっきの「I'll Never Die Alone」や、この先の「セルビアン・フィルム」とハードさの方向が違っている(はずな)ので案外余裕で観てるのかも。そうこうしているうちに終了、拍手ももらってありがとう、これにて「家族コンプリート」韓国プレミア終了。


さすがにいろいろ店じまい

さて帰ろうか、とまたの休憩時間に会場の外へ出る、ために階段に向かう通路に立っているとお客さん(女の子)に声をかけられ写真を、と言われる。少なくとも嫌いな作品だったら監督に声をかけるわけはないのでありがとう、パシャ。その後もロビーで日本語を話す男の子にサインを(イマイズミコーイチが)求められ、その子は「普通の人は好きじゃない(映画だ)と思いますが、僕は好きです」と率直な感想を言ってくれました。はははは。さて同行してくださいました皆様の感想ですがドンボム「非常に面白かった、来年SeLFFで是非」ジョッシュはファックシーンのいろいろが気になるようで何だか質問攻めにあいました。「私はハッピーな気分になれる映画が好きです」と言うていたジュンミは何と言っていたか、聞きそびれました。外は霧雨になっているのでとても蒸し暑く、こんな時間にタクシーは捕まるのか、一応走っているけど空車は少ないね、と何台かやり過ごし、まずはジュンミ(結構近いらしい)を乗せ、次にドンボム(これもそんなとお)、最後にジョッシュと僕らが乗り込んで深夜一路、ソウルへ戻った。ジョッシュはなんだか乾いた咳をしており、風邪を引き始めているかもしれない。早く家へ、と思っているとタクシーは道が空いているので快調に飛ばして帰宅(ひとんち)。いや〜お疲れさまでした皆様のご協力で何とか、とジョッシュにありがとうを言って、でも相変わらず咳をしているので手早くシャワーを浴び、到着早々に敷いてくれていた布団に潜り込んだらあっという間に眠ってしまった。

起きたら昼過ぎ、また結構雨が降っている。ジョッシュも起きている。調子はどう、と聞くと「正直、良くはない」という返事。でも用事がいくつかあるらしくて「出かけるけど、適当に過ごしていていいから。ビデオを見ても良いし、出かけても大丈夫」と言ってすごく軽装のまま(この人は鞄とかそういうものを持たない)どこかへ外出していき、またうつらうつらし始める自分ら。こういう展開は予想してたので、あんま時間を無駄にしているという感じもないな、ソウルはおまけですもんで。以後数時間は起きたり寝たり、へだらな午後を過ごしていましたがさすがに腹が減ったのでどっか食べに行こうか、韓国料理と言う感じでもないし、昨日歩いた道の角にハンバーガー屋があったよ、とそこへ行ってみる事にする。途中の、昨日お茶した通りに探していた雑貨屋「MMMG」を見つけた(今回来られなかった出演俳優のほたるさんにお使いを頼まれていた)ので入る、デザイン文房具が多い。ああこれだ、とご要望のあったストラップ(日本では買えないらしい)を買ってこれでお土産終了。さて夕方だけど朝ご飯。記憶の通りその道を突き当たって大通りに出る交差点の角に「KRAZE BURGERs」という店はあって、ノリとしては(あんなにアメリカンじゃないけど)フレッシュネスとか、そういう感じで多分チェーンだと思う。あ、Hoegaardenの瓶を頼もう、韓国は何でかこのビールが日本の半額くらいでコンビニにも普通あるので貧乏人は円高の勢いもあって韓国に来るたび4〜5日で半年分くらいのフーハーデンを呑んでおります。2人とも同じ「オリジナル」のハンバーガーを注文して、あと揚げたジャガイモ、どれもけっこううまい。


夕方の朝ご飯

食事は済んで、ほかに行く当ても無いのと雨なので家に戻る。ジョッシュは「4時くらいには一旦帰る」と言っていたのだが鍵が閉まっているので電話してみると「まだ戻れない、鍵は番号で開くから(前回のゲストハウスと同じハイテクキー)XXXXと押して…」と言われたそばからピピピピ、とやるとドアが開いた。またごろごろしだす僕ら。さてどうしょっか、勝手にDVDでも、と昨日ちょっと話題にしたなんだかやたら上半身裸スチール満載の「永久居留(Permanent Residence)」というタイトルのディスクをプレーヤー一体型のプロジェクターに入れ、壁に大画面で投影してみる。パッケージを見てようやく気付いたけどこれ、香港でもプチョンでも微妙に惜しいところで観られてない「アンフェタミン」の監督じゃんね、前作みたいだけど。昨日ジョッシュに「どうこれ?」と聞いてみたら「…裸がいっぱい出て来る」とだけ言ってたのだったがまさにその通りで、さすがに裸を出すため(だけ)に映画を作ってる、とは言いませんがシーン単位では裸イメージ先行なんじゃねえのけ、と思わざるを得ない箇所もけっこうあり、お話も全編通してそんな感じと言うか、作り手の「〜という事になっているんで、ねっ」てな感じの思い(込み)だけが常に実際の映像のかなり先をひた走ってしまっているというか、観ているこっちが落ち着く暇もなく話は数十年くらい進んで終わってしまい、最後の方なんてのは予定より早く打ち切りが決まってしまった連ドラの最終回みたいでした。

はて、とぼんやりしたのち、「イテウォンにでも行ってみるか」ということになったけど僕らだけでは行けるところはたかが知れているので、ソウルの友人ソンウォンに電話してみると「いまチョンノにいる、イテウォンは自分ちに近いから、行けたら合流する」とのこと、ジョッシュはまだ帰って来ないので電話してみると「いま友達とご飯、君らは出かけちゃって大丈夫だから」と言ってくれたので夜のシンサ(雨)をとぼとぼ歩き出す。最初は電車で行こうか、と言ってたのだけどいい加減に憶えた地図で歩いた先には駅らしいものはなく、仕方がないのでタクシーを拾う。入った事はないけど行けば何となく判る目印「ハミルトン・ホテル」の辺りで降ろしてもらって雨のイテウォン、人多い。先月行ったゲイバーのいっぱいある辺りはここの道を行って左手に上が…れないねこれ、あれ?と狭いエリアをうろうろしても見慣れた景色にはならず、大分間違った工事現場みたいな辺りにまで出張してみましたが新宿に着いたのはいいけど三丁目の末広亭付近に迷いこんでて二丁目にたどり着けない人みたいになっている。カンだけで1つ先の道に入ったらようやく見覚えのある辺りに出られましたがその時点で疲れてしまったのでごく初期に泊めてもらった友人の家(繁華街からちょっと入ったところにあった)を探したり、さすがに土曜で混んでるわ、とゲイバーを眺めて、でも混みすぎて全然入る気にならないので眺めるだけにし、湿気なのか汗なのか顔が濡れてるイマイズミコーイチが「おなかすいた」ということで大通りに出て、シンサにもあった「フライパン」というフライドチキンの店で一番注文の楽そうなチキンとサラダのセット、を頼んだら物凄い量が運ばれてきたのでビール片手に黙々と食す。自力では本当に大したところに行けない僕ら。

結局ソンウォンからも連絡がなかったのでまたタクシーに乗って帰る。運転手さんに「シンサドン(駅)」と言ったら「カンナム(江南)シンサ?」と聞き返されたのでよく判んないけど「はい」と答えて、そしたら全然判らないところで降ろされそうになったので持っていたジョッシュの住所を見せると車はそこからかなり回って、さっきの「KRAZE BURGERs」の通りに入ってくれ、目印のセブンイレブンで止まった。ほぼ霧雨の中を傘をささないで歩いて、深夜の帰宅。そ〜っとドアを開けるとジョッシュは横になっていたけど起きていて、咳き込みながら「どうだった〜かわいい子いた〜?」などと聞いてくるので「うん(チキン屋の店員がちょっくら)」と気の抜けた返事をして、本日おしまいおやすみなさい。


2010.0716 羽田発金浦行き
2010.0717 上映一回目
2010.0718 プチョンへ+短編集1本
2010.0719 インタビュー+長編3本
2010.0720 上映二回目+長編1本
2010.0721 長編1本+"Mega Talk"
2010.0722 長編1本+金浦発羽田行き