2010.0721 水
「おはようございます。朝食でもご一緒にいかがでしょう」という電話がハセガワさんよりあり、いや無かったかも知れませんがとにかく3人で食事をしているのであるが、そんなことより私にだけこの映画祭に来て一番の衝撃が地味に訪れていたのでした。誰も憶えちゃいないだろうが例の、パンの耳である。この日は妙に早めに食堂に達したため前日までと比べて食いもんが割と残っていた。自分は毎日食ってるパンの耳がいつも入れてあるトレイの所にまたしてもフラフラと引き寄せられて行き、眼にしたのだそこにベーコンが、山盛りにされているのを。そう、私が毎日嬉々として食っていたこのパンの耳は下の方のベーコンが水分でぐしゃぐしゃにならないように敷かれていた、要はキッチンペーパーの代わりだったのである(ベーコンがあらかた取られた後でヒーターに温められたパンがカリッとクリスピーに仕上がったものと思われる)。ああどんなに頑張ったって貧乏人は貧乏人、となけなしの上昇志向はもうすぐおしまいの卵アイスみたいにしぼんで行き、自分は言葉少なに朝食、どんな話をしたかはわし、忘れてしまったよ。
記憶は数時間飛んで(また寝たのか?)、次は昼飯。プログラマー大パクジン様主催による「今日の午後やるトークイベントの顔合わせ兼打ち合わせ」のお食事会です食ってばっか。ロビーで集まったのは「家族コンプリート」も含まれる「Forbbiden Zone」の4作品から監督3人。「All About My Father」のイ・サンウ監督と「A Serbian Film」のセルビア人監督(名前が読めなかった)、「I'll Never Die Alone」の監督さんは在アルゼンチンのため、映画祭も旅費が出せなかったそうで不在。それとパクジンのアシスタントというジーナと言う名の女の子、彼女とは何度かメールのやり取りをした事があったので初めまして、のご挨拶。全員揃うのを待つ間に何でか(僕らが日本人だからだろう)ジーナは小栗旬について話し始め、彼の上映が、というよりかは監督本人がいかに「素敵☆」だったかを熱っぽく語るのでこちらはどう反応していいやら判らずただうなずくのみ。「上映後の飲み会で小栗さんと隣になったんですけど、すっごい可愛くて、でも向こうは英語が喋れないし私は日本語が話せないし(しかも泥酔しているので)眼が合っても"Hi"とかそれだけなのが、もう〜悔しい〜」と言ったかと思うと「『シュアリー・サムデイ』観ました?(いや、観ようにもチケット売り切れで、と言いかけた自分を遮り)でも興味ないでしょうねあれ、青春映画だから」と勝手にどんどん進むのでまあいいや、とこういう時の自分の顔はどうせ世にも詰まらないという感じになっているはずですがいいんです。よかねえか。
全員揃ったので近くの焼き肉屋へ、毎度ながらイマイズミコーイチは食えませんが肉以外のものを焼きましょうかね。ここんちの肉はかなり細切れなので油断するとどんどん焦げる、ので昼から酒(何かの果実酒)飲んで黙々と食うのみ、一応ジンからはトークの説明があるのだがイマイズミコーイチにいい加減な同時通訳をしつつああそこも肉が焦げてる。席の配分が若干間違ったらしくセルビアさんと3人席になってしまったこちらの卓はあんまり盛り上がりませんでした(特に自分は決して観られない怖い映画を作った人だし下手に親しくなってもまずい、という意識が働いたのかどうか)。向こうの卓のジーナはあ、という感じで大判の映画祭カタログを取り出してイマイズミコーイチにサインしてください、のご要望でどうも会った人には全員もらうつもりらしかった。むろん小栗旬にも貰ったんであろう。胡麻の葉がうまいなあ。飲みきれなかった酒瓶に蓋をして部屋に持ち帰り(貧乏人はどこまでいっても)、再度ロビーに集まった。さてこれから「All About My Father+"Mega Talk"」、バスに乗り込む。
バス待ち
バスの中でパクジンが肌色の超ショートソックスを履いているのを発見してちょっと面白かったりしましたが会場はすぐ近くの「CGV7」なのであっという間に到着する。チケットをもらい、着いてすぐぐらいに「All About My Father」の上映が始まった。3人の監督による3本オムニバス、なのだがイ・サンウ監督以外の監督2人は彼の大学での生徒らしいので実質的には彼が「製作総指揮」という感じだと思う。3本ともタイトル通り「父について」の話、一本目は実は父親にレイプされている息子が後輩を連れて一時帰宅して(兵役中)起る悲劇、二本目は息子が連れてきた男の「婚約者」を好きになってしまうお父さん、3本目は行方不明になっている母親を捜索している「父」のそのまた「父」も「息子も」実は…というお話で、ちなみに主人公は全部イ・サンウ監督自身なもんで出ずっぱり。全て陰々滅々とした暗ぁ〜いお話ばかりでどこに救いがあるか、と言えば俳優としてのイ・サンウが面白い(特に酔っぱらい方が天才的に汚い)、という部分だけかも知れませんが、まあ映画には救いがないといけない、とか決まってる訳でもなし、エグさが割と原液のまま出てる(ように見える)という不穏な作品でした(イマイズミコーイチは気に入ったようだ)。
さて「これから少しお時間を頂きましてトークです」とアナウンスがあってけっこう立派なシンポジウム風の席が設けられ、パクジンプレゼンツ"Mega Talk 2_Colder than Film: Cruel Cinema of 21st Centry"が始まります。ちなみに"Mega Talk 1"は僕らが一昨日観た韓国製カンフー映画の監督さんをお迎えしてのトークショーだったもよう(見てえ)。さて「トークショーは韓国語と英語で提供されます」とパンフにあったのだがこれが自分にとっては誤算でした。何となく韓国語で喋ってから英語に訳されるのかな、と思っていたのだけれど考えてみたらトークショーでそんな事をしていたら話が止まりまくるので開始前に「英語同時通訳が必要な人はこちらへ」と集められてそこで通訳さんのお話を聞く、という事だったのですが自分は写真を撮るために一人離れた所に陣取ってしまい、今さら行こうにも「英語ゾーン」は既に割り込むスペースもない感じで埋まっており(そこに誰がいたのか、つえば例のハワイチームでしたアロハ)、その後の約1時間半で自分に理解できたのはイマイズミコーイチが日本語で喋ったときのみ、それも文脈がさっぱり判らないので自分はだんだん意識が混濁していって(自分だけほぼ判らない言葉が延々飛び交う中に90分くらい居りますと流石に置いてけぼり感がパネェっす)無意味に動画など撮って(別に動きはないので見返してみても面白くはなかった)いましたが後は何していたのか憶えていません。そう言えばダムタイプのアフタートークで似たような感覚を憶えたけど、あれもソウルだったな。
"Mega Talk"
トーク終わり。お疲れさまでした、とイマイズミコーイチ+イ・サンウの写真を撮ってからビルの外に出る。自分はおかしくなった頭の具合がなかなか戻らず何を聞かれても生返事なのでイマイズミコーイチは苛立ち始め、と少々気まずい感じになった所でアロハ、ブレント+ジェラルドのハワイチームが通りかかり少し話をする。ブレントは「ごめんね、結局君らの映画は観られなかったけど、プレビューを観るよ、どこかで上映できるといいと思う(「初戀」とかもついでに渡していたので)」と言ってくれて、未踏の北米はハワイからになったらそれはそれで楽しい。またね、他のみんな(おばはん含む)にもよろしくねマハロ、と手を振って別れた。おかげさまでやっと頭が現世に戻って来たのでアイス食いたいアイス、と地下のフードコートに向かう。何だったか忘れちゃいましたが「シャーベットなので、コーンには盛れません」と言われたのだけ憶えている。ホテルに戻る途中で見た空が本当にバカでかく開けているので、かなり爽快な気分になった。風が気持ちいい。
さてこれにて公式業務おしまい、明日帰るけど。今日はこれからジュンミや他の友達がソウルから来てくれるらしいので部屋で待つ。携帯にショートメッセージが入るので返信などをして取りあえずバラバラとホテルの部屋まで来てもらう事にする。まずはジュンミがやってきた。部屋に入るなり「ああ疲れた、いやあこの辺のホテルは連れ込みばっかりですねえ」とお部屋の査定をしてくれる。どうもプチョン、観光地ではないのでいわゆる非ラブホのホテルは本当に少ないらしくて、映画祭もゲストは全部このホテルともう1つのにまとめているようだった。韓国では連れ込みに普通に泊まったりするらしいので過去、僕らも散々各種モーテルに泊まらせていただきましたが特に不便は無かったし(あ、鍵がないというとこは少し困った)。ジュンミに続いてヨンソクが部屋に来た。ジュンミとは共通の友人が居るけど初対面。彼が昔ソウルに住んでいた時に一晩泊めてもらった事があり、その後も彼の初個展(画家)の際に偶然訪韓してたりなどしてけっこうご縁のある友人である。今は光州に住んでいるので映画は観に来られなかったのだけれど、今日だったら空いてる、つうことで来てくれた。更に遅れて今日もドンボムが来てくれて、さて夕飯でも。
サムゲタンすか、と一応言ってみる。誰に聞いても「やっぱ土俗村(ソウル)でしょう」と言うので旨いかどうかは判りませんが偶然歩き出して数歩で店が見つかったので入ってみる。「時間が少しかかるからその間に、だって」と茹でた丸ごとのジャガイモが出てきて塩付けて食す。やがて出てきたサムゲタンはやはり土俗村のとは違って米がうるち米で、でもって高麗人参がやたら入っている。途中ごぼうの薄切りみたいなのが出てきたので何だろ?と聞くがみんな何だかは判るんだけど説明が出来ないのでゼスチャー合戦でやっと「鹿かなんかの角」と言う事が判りました。さすが薬膳。「これは食べたもんかな?」とジュンミに聞くと「成分が出ているから食べなくてもいいんです私は体に良くてもまずいものは食べません」だそうで最初はありがたい感じで食べていた角も後から何枚も出てきたのでそのウチまあいっか、と残す。とにかく夏の滋養だねえ、と言ったら韓国では何日か前が日本の土用の丑の日よろしく「サムゲタン食べる日」だったそうでした。ちょっとタイムリー。食べ終わって店を出る時に5人が食べ終わったお皿が眼に入ったのですがこれがまた5人が5人とも違った食い散らかし方をしていて性格って出るね、と思った事でした。
路上にあったおそろしいイラスト、ヨンソクに教えたら爆笑してました
さてまだ時間も遅くないし、どっか別の店に行くか、と言うとドンボム「サムゲタンの後に冷たいものを飲むのは良くない」などと言い出しじゃあビールとかはダメなわけ、とお茶にしてみましょうかと少し離れた喫茶店に入るとこら待てドンボム、さっきお前冷たいもんダメって言ったじゃん何でアイスカフェオレとか頼んでんだよ。と行動に全く一貫性がないソウルLGBT映画祭ディレクターのドンボムが徐々に暴走を始め、というか主に彼のiPhoneが超トンチキ。「これがストレートを装うための平日用の壁紙で」と何やら女の子の写真が出てきたかと思うと「で、こっちが週末用」と半裸の男性モデル写真(アバクロ広告みたいなやつ)を出すのだが、つうかわざわざ切り替えなくたって猫とかにしときゃいいんじゃないの、と言ってみるのだが本人は切り替えたいらしい。イマイズミコーイチはイマイズミコーイチで自分もiPhone持ってるくせに壁紙が変えられると言う事もご存知でなく、ドンボムの珍妙な電話機に見入っている。んでもって「ゲイバーでの日本語会話・口説き方編」とかいうアプリなのか単なる翻訳テキストの寄せ集めなのか判りませんがこれがただ韓国のベタな(ほんとかよ)口説き文句を日本語に直訳しただけ、というおそろしい代物で正確に憶えておらないため具体的にお伝えできないのが残念ですが、これを日本のゲイバーで披露したら、まあ時と運が味方をすれば人気者にはなれるかもしれませんがモテはしないと思うよ、たぶん。
すっかりドンボム祭りになってしまいましたがヨンソクからは彼がもしかしたら日本で滞在制作で来られるかもしれない、と言う話を聞いて是非来てくれ、と言うと場所が京都か青森か後もういっこどこだったか忘れましたがとにかく東京近郊じゃないので取りあえず冬の青森は止めた方がいいかもよ、とだけ言って、でもどこに来ても会いに行きたいよ。3人ともそれぞれお互いよく知ってるという間柄でない割には楽しく会話をして、じゃあそろそろ解散しようか、みなさんありがとう、元気でね。戻った僕らはホテルの入り口で偶然クォンさんに会う。お仕事は終わりですか、と聞くと「そうですね、でもこれから飲み会で」ってたいへん。考えてみると直截的にはこの人がこの映画祭への「とっかかり」だったわけでちゃんとお礼もしていなかったし、こないだはピンチ(泥酔)を救ってもらったしでお世話になりっぱなしですいません。しかしいつ会っても平常心の顔の人だ。クォンさんと写真を撮らせてもらって、「じゃあ私は行きますがもし元気だったらその辺の店にいるので是非」とプログラマー様は去って行かれました。とそこへ大久保賢一さんが「やあ」とか言いながら通り過ぎて行き、大きい映画祭だけど(他に行く所がないため)みんなその辺にいる、ってのはいい映画祭だ。
部屋に戻った自分らは丸いジャグジーにお湯を張り(念の入った事にバブルバスをスイッチオンすると何ともたまらん感じに赤く光るのである。こういう下品さは大好きだ)、残っていたHoegaardenでお疲れさまでしたの乾杯をしていると携帯にメールが来てヨンソクからで、「今日は楽しかったね、今度はお酒を飲みたいね」とあってわちゃあ、オレも飲みたかったドンボムの言う事は無視して「チヂミ」にでも行けば良かった、と後悔が後に立つが仕方ない、次回は必ず日本のどこかで。結局18日以降会えなかったジョッシュには電話していろいろありがとう明日帰る、と短く話をしてからHoegaardenで酔っぱらった(このベルギービールは何故かかなり酔う)自分はベッドの上で転げ回りながら「チヂミに行こうよ今から」とダダをこねてイマイズミコーイチを困惑させていた、らしい。「でもそんなことしたら明日つらいから、止めとこうよ」と宥められていた、らしい。ので自分は赤いジャグジーでしょぼしょぼと入浴をして。
ジャグジー(注水まえ)
2010.0716 羽田発金浦行き
2010.0717 上映一回目
2010.0718 プチョンへ+短編集1本
2010.0719 インタビュー+長編3本
2010.0720 上映二回目+長編1本
2010.0721 長編1本+"Mega Talk"
2010.0722 長編1本+金浦発羽田行き