20151023 Freitag

ちょっと早めに目を覚ますとイマイズミコーイチはまだ寝ているので外に出てちょっとだけ散歩、部屋の窓からいつも見える教会の周りを一周してみたらすべての歩道に犬の糞がありました。さて今日も昼間っからポルノを観に行くわけでありますが、Hermanplatz駅前広場には屋台がたくさんあるのでカリーヴルストでも喰ってみるか、と注文する。自分はソーセージ2本、イマイズミコーイチはソーセージ+ハンバーグみたいなのにしてどちらもフライドポテトが付いている。肉にはケチャップとカレー粉がかかるのですがポテトにはケチャップか?マヨネーズか?と訊かれてそっちもケチャップにしたらなんかもうケチャップの味しかしない。それでも速攻食べ終えて、ああそうだ結局T-mobileからSMSが来なくて定額ネット利用開始がうやむやになっているから、ちょっともう一度寄って訊いてくる、とイマイズミコーイチには外で待っててもらってこれで3度目のKARSTADTに入る。昨日のおっさんがいたのではありますが「ああ、君は昨日の」みたいな素振りは一切見せないので怯みつつ「ええと、ネット定額開通のSMSが来ない」と言うとおっさんは無表情のまま「では端末を見せなさい」と言うので渡す。しばらくいじっていたが「言語が日本語なので判らない。ドイツ語に変えて」と言う。言語設定で"Deutsch"にしてから渡すと「あれ、APNが消えてる」と言う。実は消しちゃったのは自分なのですが(したら自動的に読み込み直して開通メールが来るかも、と思って)それは伏せておき、黙って見ているとおっさんは昨日自分に入れさせた設定項目を今度は自分で入れている。ネットにつながった後で確認ページを開き、「もう定額適用になっている。ほら」と寄越すので見ると確かに500MBの棒グラフがちょっとだけ「使用済み」になっているのでじゃあなんでSMSが来なかったのか、と訊くとおっさん「時おり、届かない事がある」だそうでざけんじゃねえ、と思いましたが(そして「日本語に戻すのは自分でやって」と言われる)使える事が判ったので広場に戻る。


犬の糞教会(周囲が)

ぽつねんとコーヒーをすすっていたイマイズミコーイチに「かいつうかんりょう」と声を掛けて劇場に向かう。映画祭ラウンジでクラウスに「駅でカリーヴルスト食べてたね」とバレている。「んもう、声掛けてくれたらいいのに」とイマイズミコーイチは横でくねっているが皆さん忙しい、ところを済みませんがクラウスはゲスト関係をやってるみたいなので「MIX COPENHAGENの人って知ってる?」と訊くと「来ているのは知ってるが、今どこに居るのか判らない。会ったら知らせる」だそうでした。あ、テルアビブLGBT映画祭(TLVfest)ディレクターのヤイールが居るおはよう、と声をかけると「おはよう、調子はどう」とまあ普段からあんまり威勢のいい人ではないのでお互いローテンションな感じで会話は進む。彼がやってるTLVfest 2015のカタログがあったので見せたり、僕らは北京に行ってきたよ、と"Love Queer Cinema Week"のプログラムを見せると「中国作品を観たいな、映画祭と連絡取れるかな?」と言うので後でシャオガンを紹介してみよう。「自分の映画祭は資金難で、会場も縮小してしまっている。集客のためにコマーシャルな作品ばっかりやることになって良くない」とちょっとうんざりした顔をしているので今回は息抜きかな、彼の映画祭では『すべすべの秘法』は落とされたのですがまあ「コマーシャルな」作品じゃないしこういうのはご縁(僕らも大人になったもんだ)。ヤイールが「今日は何を観る?」と訊くので「もうすぐ始まる"A.K.A. FUCK"」と答えると「ああ、それは僕が司会する」司会、ってあんたスタッフなのか。という訳で今日のいっぱつめ。

"A.K.A. FUCK" by PVB, 2015
スタッフのヤイールさん司会で(と言うだけで自分らは笑えますが)上映が始まる。昨日の時もでしたが毎回カレンダーの宣伝をするのが義務らしくヤイールも「えーと映画祭10週年を記念して制作されたこの、ビューティフルなボーイズ&ガールズのヴィジュアル満載のカレンダーがカウンターで販売中…」などと超やる気のない感じで宣伝しているので更に笑う。「さてこの映画ですが、皆さんが知っている『ポルノ』とはまた違ったテイストの美しい作品です。ゆったりとお楽しみください」と締めて上映開始。映画は男の子のインタヴューというか映像とシンクロしていないモノローグで始まる。2人の男の子(20代)の紹介的なそれぞれのシーンに続き、その2人が部屋でセックスする、その光景をカメラは追っていく。全てのポルノビデオには当然演出(いかに観ている人を性的に興奮させるか、という計算)があり、例えば「生々しいリアルなファック」といった宣伝文句が付くようなものであってもいかに勃たせるか、という所に主眼がある以上ストーリーを設定したモノとさほど差は無い訳ですがこれとか、トラヴィス・マシューズの『In Thier Room』とかもそうだけどそうした「抜けまっせ」的な部分を極力排した後に残るもの、を捉えようとしている感じはある。それはその場の温度であったり、肌の感触であったり、2人の体が動く時に出る音であったり、他愛もない会話などだったりするのですが、これは「出来るだけエロく」撮る、というのとは全然別方向でかつ官能に訴えかけようという手法なのだなあ(映画だなあ)、と思うのでした。惜しいのはコンバートがうまくいってないのかすごく粗い画質だったことで、多分監督が出そうとした画質では無いんじゃないかというところ。上映後、イマイズミコーイチが「監督と話したいな」と言うのでちょっと声を掛けて「良かった、自分がやりたい事と通底するものを感じた」と伝えておりました。


監督名の「PVB」ってのは"pretty vacant boys"というプロジェクト名のようです。

ラウンジに戻ると知ってる顔が、2年前に来た時に宿を提供してくれたペトラがいる。おお、と抱き合ってまた来たよ〜、と。僕らが泊めてもらったのはこの劇場のすぐ近くで、バーだかカフェだかをオープンすべく工事中だったスペースなのですが、あれどうなった?と訊いたら彼女は「ええと、あの後オープンしたんだけど、もう閉めた。なかなか儲けが出なくって。今は別の借り主が使ってるはず」だそうで残念。ペトラはスマートフォンで写真を見せてくれて「『STARFUCKS CAFE』って名前だったの」などととんでもないことを言う(あ〜でもそりゃ「趣味の店」だわな、とちらっと思う)。「通りがかった人がぎょっとして立ち止まったりして楽しかったわ、アメリカ人観光客とかは面白がってくれたけど。まあいい経験だったわね」との事で全然めげてません。「映画祭には何度か来るからまた会えるわね、きっと」とバイバイして外に出る。ユルゲンがいたので「さっき観た『A.K.A. FUCK』は良かった」と言うと「あれは自分がプロデュースした」と言うのでさすが、と思いました。監督はフランス在住の人だそうです。次は1コマ飛ばすので時間があるから軽く昼飯でも、と前回の滞在時によく行っていたパン屋に行くことにする。ついでにペトラの店の跡地も近くのはずなので探してみよう。パン屋はすぐに見つかった。前より店(喫茶スペース)が小さくなっている。サンドイッチと、相変わらずうまいダージリン(今のところマイ・ベスト)を頼んでたらたら食べる。店を出てもう少し進むと確か泊まっていた場所(ペトラカフェ)が…ここかなあシャッター閉まってるけど、と確信が持てないので2年前の写真を呼び出して(facebookってべんり)確認すると確かにこれだ、あ〜あ〜、と思いつつ記念写真(の撮り甲斐がない)。

劇場に戻ると常駐のカタリーナ&ウーヴェ、相変わらず疲れているようだがカタリーナが「ああそうそう、あなたの紅茶はここにある」と言う。さっきのパン屋で飲んだ紅茶が余りに旨いのでどこかで買えないか、と2年前もKARSTADTなどで探したんだけど無かった、と彼らが今夏に東京に来た時に話したら「じゃあ調べてみる」と言ってくれ、メールで「どうも店頭販売は一箇所だけみたい、通販があるから買っておこうか?」とわざわざ自分らの来る日に合わせて注文しておいてくれたのでした。100gパックのダージリンを2種類、日本で買うとしても自分にはちょっと奮発した値段ですが、これで冬が終わるまでの紅茶は確保ということで。カタリーナも「ついでに緑茶を注文してみた」だそうでその分を除いて代金を渡し、鞄に入れる。ラウンジでだらだらしていると声を掛けられ、田亀源五郎さんにご紹介いただいたブルーノ・グミュンダー(出版社)のシメオンさんだった。「これから映画を見るんだけど、また後で」と言われるが僕らも1時間後スタートの上映を見るのですれ違ってしまう。まあ仕方ない、また次の機会に、ということで別れ、と今度は携帯が鳴る。出てみるとベルリン在住のますだいっこうさんからで、劇場にはすぐ行けるので時間があれば会いましょうか、と言ってくれる。次の上映までまだ1時間位あるので来ていただくことにする。外で煙草を喫っていると割とすぐにいっこうさんが見えた。「メール(SMS)送ってくれてたけど、自分の携帯は日本語対応じゃないので数字以外は全部文字化け」だったそうですみません。でもすごい可愛い端末、と言うと「でも超使いづらいのコレ」とぶうぶう言っているのが可笑しい。いっこうさんは2年前も『すべすべの秘法』を観に来てくださったのですがそれっきりになっていたのでご無沙汰でございます。聞けばユルゲンも関わっているシュー・リー・チェンのエキストラ募集の説明会を覗いてきたところ、とのことでした。中に入ってイマイズミコーイチの次のプロジェクトの事などいろいろ話す。とたまたま隣りに座っていた女の子が来ていたシャツがMIX COPENHAGENの柄だったのでもしかして、と声をかけると正解で北京でモルテンに紹介されたイワサです、と江戸の仇を長崎で討つみたいな(違うな)ご挨拶。


マイ・ベスト・ダージリン

"Berlin Porn" Shorts
おやまたペトラだハロー、「そう言えば前回、私の夫とは会ってたかしら?」と言うのだがお互いあやふやなので取り敢えず初めまして、で握手してペトラは何だか(スリーブレスのスクール服みたいなのに)着替えている。「これから『FUN PORN』を観るのよ」とか言いながら、気合の入ったことでございます(前回は「これから『フェティッシュ・ポルノ』を観るのよ」と言いながら真っ赤なルージュを引いていたのを忘れていないわたくし)。僕らは『BERLIN PORN』を観ます。いっこうさんとさようならをして劇場に入る。たまたま来ていたいっこうさんの知り合いの女の子(日本人)はキャンセル待ちになった、と言っていたので完売っぽい。でも短編集って関係者席で結構埋まっちゃうからな。そして途中で何度か止めてQ&Aをやるので時間が押す…あれれもしかしてこれ全部観ると次の上映に間に合わないんじゃないか。時計を見つつ計算するとやはり全部は無理そうだ、とイマイズミコーイチに言うと「じゃあ仕方がない、ギリギリまでいて次のQ&Aの時に出よう」と残り3本をスキップして、外へ。観られた中ではトランス短編の『HELLO TITTY』が楽しかった。犬役の男の子がすごく犬になっていてちょっと感動した(このプログラムにはもう一本、その名も『DOGFIGHT』という人間犬ものがあったのですがそれは結局あんまり、でした)。さて次は自分は初めて見る「Hand In Hand」制作のクラシック作品、怖くないといいけど、と祈りつつ。

"DRIVE" by Jack Deveau, 1974
司会はヨーハン。おそらくここ数年、主にアメリカの「クラシックゲイポルノ」の発掘をしているのは彼だ(本人はゲイじゃないと思うのだけど)。そしてゲストのボブ・アルヴァレス(今作の監督ジャック・デヴォーのパートナーで、プロデューサー)の挨拶がある(大変素敵なおじいさんである)。毎回シークレットで短編が併映されるのですが今回のは双眼鏡+電話での遠隔セックス、でこれがなかなか面白い。続いて長編『DRIVE』は広い意味だとSF、になるのかな。悪の女王(女装)とヒーロー(ゲイ)の戦いを軸にバンバン(ヒーローが)セックスするわけですね。無論こんな状況でセックスしてる場合か、というのもあるのですが最終的にセックスで悪に勝つ、という安定の結末。自分はどうしても音楽も気になるのですがこれがちょっと凄くて、もう今じゃ絶対作れないような音。テクノ黎明期、よりはやや時代が下りますが「こんな音が出来ちゃったんで使ったれ」という果敢な意志が感じられるトンチキなサウンドトラックのオンパレードでした。若干(自分には)怖いカットが有りましたがそこは眼をつぶってました。上映後のQ&Aに立ったボブ氏は悪役を演じた女装の人をえらく褒めていました。


おまけ:ペトラカフェ跡地の壁にあったもの

今日観る映画はこれでおしまい、時間は20時頃ですが今日は早めに帰ろう、とラウンジでカタリーナ&ウーヴェにそう言うと「フェスティバル・ラウンジには行った?今日までだから行ったら誰か居るかもよ」とまた別の「ラウンジ」があるようでした。検索すると駅からそんなに遠くないので余力があったら行ってみることにする。カタリーナはいたずらっぽく笑って「くれぐれもダークルームには行かないように、大変なことになるから」と送り出してくれた。今夜はちゃんと食べて帰ろうか、ケバブ@路上じゃなくて、とどちらからともなく言い出してじゃあ2年前に『すべすべの秘法』上映後に行ったイタリアンにしようか、と向かう。ええとサラダとペンネ・アラビアータとペスト(バジルソース)のニョッキと…頼んでパンも来るので結構な量になり、加えてまたビールを頼んでしまってもりもり喰う。ここに来るといつも食べ過ぎてしまう、とお値段も良心的なので。食べながら昨日の短編コンペの話になり、イマイズミコーイチ審査員は「なんか、コレだ!という1本が無くて、どうしても消去法になっちゃうんだよなあ、全短編から選んでいいんだったら昨日の『Hand In Hand』併映作なんだけど…」と悩んでいる。明日はその受賞作を決めるミーティングだ、と思ったらイリスからメールが来ている。「ザーラと相談しました。短編コンペのミーティングは明日の19時にしましょう」っておい、何を大幅にずらしとんじゃボケ、19時45分からの映画(Hand In Hand)のチケット取っちゃったぞ、と「午前~午後早めと思っていたので映画を入れてしまいましたがせめて18時になりませんでしょうか」と打ち返す。

満腹になって店を出て、せっかくなので劇場でない方の「フェスティバル・ラウンジ」に行ってみようかとグーグルマップを頼りに行ってみるとレインボウの描かれたバーみたいなのがあり、入ってみましたが残念ながら知り合いはおらず(お客さんはそれなりに)一巡しただけで帰ろうか、とここでイマイズミコーイチが「おしっこ…」とふらふら階下に行こうとしているので首根っこを摑まえて「そっちはダークルームだ!!!

2015.1021 北京からベルリンへ、映画祭1日目
2015.1022 映画祭2日目
2015.1023 映画祭3日目
2015.1024 映画祭4日目
2015.1025 映画祭5日目
2015.1026 ベルリンオフ1日目
2015.1027 ベルリンオフ2日目
2015.1028 ベルリンオフ3日目
2015.1029 北京経由の帰国

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