20151024 Sonnabend
朝起きるとまたライナー氏からの手紙。「週末は泊まりで出かけるので日曜の朝に戻る。あと今日は"Time Change"なので気を付けてね」とのこと。ああサマータイム終了か、と寝ぼけた頭で理解する。昨日は比較的早くに寝た、のは今日の10時半からの上映に行くからですがそれは僕らが初めてこの映画祭に来た時に前作『ザ・テロリスト』という物凄い(どう凄いかは私の言語能力では到底お伝えできない)作品で知ったタイの、Thunska Pansittivorakul監督新作です。流石にこの時間では観客はまばら、映画祭スタッフもほぼ来てないのですが司会はユルゲン大先生です。「この映画祭では欧米の作品だけでなく、世界中から作品を紹介しようと…例えばアフリカであるとか…」と言っているのを聞きながらそう言えば今回はアジア圏の作品ってこれくらいかも(自分らの上映がないのはちょっと悔しいのですが)、それはそうとユルゲンが何か疲れてんなあこのMCも息切れがしている。昨日もばったり会って挨拶したら、いつものようにニコニコ「ハッロウ・ハッワユウ」とは言うもののやや力がなく、「大丈夫?」と訊くと「I'm OK.」だそうでそれはあんまりオーケーじゃないぞ(がんばれユルゲン)。この作品の監督としてクレジットされているのは3人らしいのですがうち2人が来てます、と紹介して上映が始まる。せっかくゲストアテンドなのにこんな人が来ない時間で気の毒ですが、一回目の上映は初日の夜だったようなのでそちらはもう少し入ったんだろうか。
"SPACE TIME" by Thunska Pansittivorakul, Harit Srikhao, Itdhi Phanmanee, 2015
監督は3人、とは言いつつ実質編集を行ったトゥンスカの作品ということになるのだろう。インターネットを通じて彼の元に連絡してきた若い男の子(二十歳前、写真学校に通っている)ハリットとじゃあ一緒に作品を作ろう、という話になって他にも何名かの若者とタイ国内を旅行しつつのドキュメンタリーですが印象としてはディープ修学旅行(セックスあり痴話喧嘩あり)というかの記録映像で、会話の字幕を追うだけでも大変なのですがそこにまた監督のモノローグのようなテキストがスーパーインポーズされるので途中で言葉を追うのは半ば放棄しました。比べても仕方ないのだけど『ザ・テロリスト』の方が自分は好き。上映後に会ったユルゲン(回復途中、というところ)にいきなり「あれは私がプロデュースしたんだけど、どうだった?」と訊かれたので「映像は美しいと思ったけれど、テキストが多すぎて混乱した」と正直に答えました(むろん多分タイ語が判れば全然印象が違うだろう)。さて次の上映がわりとすぐ、ですが隣のトルコ系スーパーで前に自分が買ったチョコレートバーを朝食代わりに2人とも買う。
スーパー入り口
"ALL YOURS(Je suis à toi)" by David Lambert, 2014
元々はこの時間帯で短編コンペのミーティングだったのだけど時間が空いたのでイマイズミコーイチが「これ、気になる」と言った長編を観ることにする。主演のNahuel Pérez Biscayartが去年のカルロ・ヴァリ国際映画祭で俳優賞を取ったらしい。彼が演じるルカスはアルゼンチンで売春をしており、インターネットのチャットコーナーで脱いだりしつつ「ここにはもう居たくない、友達もいないし家族もいないし金も無い。誰かお金と航空券を送ってくれたら、すぐキミの元に行く」などと言ってたら本当に引っかかった人がおり、それがヘンリーと言う名のベルギーのパン屋さん。地元では割と名士らしいヘンリーはもちろん「嫁に」ということでルカスを呼び寄せたわけですが(ヘンリーは全然クローゼットではないものの一応ルカスを「パン屋の見習い」ということにしてある)ルカスはゲイではなくヘンリーとのセックスも嫌々する、と言った程度で店の金をちょろまかしたり売り子の女性(子供あり)に粉かけたりするばかりでおっさんドリームは全然思い通りにならない。上映前の司会(が誰だったか、思い出せない)が言ったようにこれは「セックス・トラフィッキング」から始まる物語なので(従ってほぼ「ポルノ」ではない)おっさんドリームは叶わないわけでした。冒頭、空港での2人の出会いでヘンリーが「荷物は?」と訊くとルカスが「パスポート、僕(以上おわり)」と即答するシーンが好きでした。
"PRISON SYSTEM 4614" by Jan Soldat, 2015 + "MY DAY WITH TARNA" by Chris Caliman, 2012
ここで遅めの朝ごはんというか昼ごはんをまた昨日のパン屋で済ませ、イマイズミコーイチは次の上映(↑)を観ると言うのですが自分はパスして短編コンペのイマイズミコーイチ評を英訳することにする。と言うのもザーラ審査員からはメールで「19時より早く行くのは難しそうなので、自分のトップ5とその理由を書いて送ります。なので2人は早めに会って話し合っておいてください」と送られてきたため成る程、ではこちらも候補作をランク付けしておこう、と言うことになって日本語でメモを作成し、イマイズミコーイチが映画を観に行った後の映画館ラウンジで携帯(翻訳用)を片手にiPad miniに打ち込んでいく。ちゃんと使うのが去年のフィリピン以来であるため、なかなか英語が衰えております。ああ何か頭が充血した、とビールを買って呑みつつ何とか終わらせ、そこにクラウスが居たので「MIX COPENHAGENの人には会えた」と伝えてカタリーナに「北京で会った人に紹介されてMIX COPENHAGENの人にベルリンで会った」と言うと「そうね、パンフレットが置いてあるから知ってる。それにしても毎年すごくお金のかかってる感じの印刷よねえ(これは本当)」とデザイナーらしい事を言う。聞けばカタリーナは最初にこの映画祭にお客として来た時に手にしたパンフのデザインがあまりにもダサく、こんなんじゃいけない私がなんとかしたる、と志願してスタッフになった(そして現在に至る)との事でした。
イマイズミコーイチが戻って来たのでカタリーナ&ウーヴェに遊んでもらいつつラウンジで待っていると18時半位にイリスがやって来た。映画祭スタッフ席で打ち合わせを始める。事前の連絡では「お代は映画祭持ちでランチでしながら」とかいうことでしたが仕方がない。「ええと、多分あっという間に終わると思うわ」とイリスは言うのでザーラのメールにほぼ同意ということかな、と先ほど訳したイマイズミコーイチ審査員評をイリスに読んでもらう。実質3人が押す候補作は『HOUSEBOY』と『LAST CALL』の2つ。映画の完成度からすると1.『LAST CALL』で2.『HOUSEBOY』、と言うイマイズミコーイチと、ザーラ&イリスは1.『HOUSEBOY』2.『LAST CALL』で逆。ここらへんでザーラがやって来て合流、と思ったら何かけたたましい音がして何かが床に落ち、見るとザーラのパートナー氏が買ってきたボトルを落っことしてしまったようだ。「これは水だから、大丈夫」って何が大丈夫なのかよく判りませんが棒のように動かないパートナー氏にちょっとどいていただいて会議続行、ええと自分たちはあまり意識していませんでしたが『HOUSEBOY』を撮ったパンドラの英国ではいわゆる「変態行為」の描写を違法化する法が成立したそうでそれへの異議申し立てとしても評価する、との事でした(『HOUSEBOY』はスパンキングがテーマなのでこの法律に引っかかる)。『LAST CALL』はベルリンを舞台にした作品で、バーで飲んだくれている女性の意識に入り込む様々な様態のセックス、でイマイズミコーイチは(消去法ながら)これが一番いいと思うけど、でもその英国の新法についてのことも考えると『HOUSEBOY』でいいよ、とめでたく受賞作は決まる。したら『LAST CALL』はスペシャル・メンションにしましょう、とイリス&ザーラは講評をまとめにかかる(僕らは横で見てるだけ)。じゃあ決まりねお疲れ様でした、と記念写真を撮って自分らは次の上映へ。
会議中
"HOTHOUSE" by Jack Deveau, 1977
「Hand In Hand」の看板監督ジャック・デヴォーの長編。ゲストで来ているプロデューサー、ボブ・アルヴァレスの短編。ゲストのボブは自作短編についてヨーハンに訊かれると「まあ意味は無いわな、男の裸がいっぱい出てくるんだけど、これ以上言うより観たほうが早い」と飄々と言うので可笑しい。内容はジムでトレーニングしている5〜6人がその内セックスしだす、というまさに監督の言った通りの作品でした。長編の方は新居に友だちを招いてやっぱりどんどんセックスする、というもので若い頃のジョー・ダレッサンドロが出てくる、ということでしたが自分は彼の顔がよく判らないので多分、みんなで部屋で観てるポルノ映画に出てきたのがそうかな?(違うかも)というくらいのものでした。どちらの作品も、現在のいわゆる「ポルノ(ビデオ)」がやってる事に直結しているなあ、という感じなので髪型とか服装とか、どっちかというと風俗資料みたいに観てしまえます。ちょっと時間があるのでケバブ屋で夜ご飯、自分はいつものケバブにポメス・フリット(フライドポテト)を注文して非常に満足する。さすがドイツ、揚げたイモもうまい。ささっと平らげて劇場に戻る。
"NOVA DUBAI" by Gustavo Vinagre, 2014 + "THE BIG TEASE" by Yair Hochner, 2015
これはブラジル映画なので自分が観たい、それにヤイールの短編も併映だし、とイマイズミコーイチを誘ってみたプログラム。だもんで今回のヤイールはスタッフじゃなくてゲストです。前回観た短編はSamsung GALAXYで撮った、というのが(監督にとっては)一番のキモだったようなのですが今回は、と思ったらやっぱりSamsung GALAXYで撮ったのがアピールポイントだったので進歩がねえな、とは言いませんが「前作より上手くなってる」とイマイズミコーイチ。テルアビブの夜の路上で男の子がハッテンする、てな作品ですが音楽の良さにかなり助けられている気が(あとカメラが携帯なんで赤目になってる)。続くメインの『ノヴァ・ドゥバイ』は50分の中編ですがこれが凄い。監督のグスタヴォがほぼ本人として出てきますがフィクションです。キューバで映画を学んで帰国したグスタヴォが故郷サンパウロ郊外の実家に戻ってきたらそこは韓国資本(だったかな)による大規模開発でそこら中がほじくり返されており、それを眼にしたグスタヴォはセックスで抵抗することを決心する。男友達と一緒に工事現場のおっさんと工事現場で、または幼馴染のお父さんとボタ山でセックスしたり、歩道橋の上でオナニーして下を走ってる車に精液をバラ撒いたり、挙げ句の果ては住宅展示場に友達と見学に行って「見てくださいこの景色。我々はこれを『NOVA DUBAI(新しきドバイ)』と呼んでいます」などとセールストークをうっかりかましてしまった案内係(男)をレイプしたりなどの大暴れ。冷静に考えなくてもこれのどこが抵抗や、とは思いますがしかしめっぽう面白い。自分は途中グスタヴォと友達が路上でフッキング・アプリを見ながら「っかしこういうの(出会い系)つまんねえなあ『ポーラー・ベア(ホッキョクグマ)』って何だよ」「日本人、て事だろ」「それ違くね」というほぼ無意味な会話に爆笑しました。この友人役だけがプロのポルノ男優で他はほぼ持ち出しのインディーズ作品だそうでしたが、馬鹿馬鹿しさによって幾重にも取り巻かれたその中で、まさに眼前で失われつつある子供時代の風景への切実な哀惜が立ち上る異様な作品でした。金銅賞を差し上げる。
おもしろかったの
ああすごかった、とぷうぷう言いながらラウンジに戻る。今夜は恒例映画祭のメインパーティーですが朝から5プログラムも観たイマイズミコーイチはばてており「帰りたい…かな。ユルゲンが受付やってるのを見たい気もするけど」と言う。ラウンジにはカタリーナと初日に迎えに来てくれたコーラがおり、もしパーティーに行くならコーラが車で送ってくれると言う。「どうする?」と訊くと「…やっぱり帰る。無理そう」なので申し出は断り、劇場を後にする。ああヤイールが居る、イマイズミコーイチはちょっとだけ彼と話していたがとてとてとて、とこちらに戻ってくると「パーティーは行かない、と言ったら『キミは何とかアニマルなんだから来なくちゃ』とかごにょごにょ言われたけどよく判らなかった」だそうで何アニマルだろう、エコノミック・アニマルかな(古いな)。地下鉄の駅に行く。今はまだ日付が変わったばかりの0時半くらいですがこれが深夜3時になったら時計を一時間戻す、ということでサマータイムは終了ということのようで、もしかしたら電車は大晦日みたいにずっと走っているのかも知れない(なんか空気が違っている気がする)。乗り込んだ電車ではバンド(ウッドベースもいる)が演奏しながら投げ銭を集めていました。
2015.1021 北京からベルリンへ、映画祭1日目
2015.1022 映画祭2日目
2015.1023 映画祭3日目
2015.1024 映画祭4日目
2015.1025 映画祭5日目
2015.1026 ベルリンオフ1日目
2015.1027 ベルリンオフ2日目
2015.1028 ベルリンオフ3日目
2015.1029 北京経由の帰国
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