2023.0621 WED

2011年のこと、自分らはベルリンポルノ映画祭というところから呼ばれてドイツに行った。その後2019年までほぼ毎年この映画祭に通うようになるその最初の年だが、そこでトラヴィス・マシューズというアメリカの映像作家とその作品に出会った。彼の特集プログラムがあったのである。会ったのはその時のみだったが、その後もごくたまにメールをやりとりしたり、映画祭で新作を観たりしていた。2017年に長編『Discreet』をベルリン国際映画祭で発表して以降は何本か短編を発表しただけで音沙汰がなく、SNSも更新しなくなって最近どうしているのかなあと思っていたのであるが、今回サンフランシスコに行くとなった時にそうだトラヴィスがいるかもしれない、とメールをしたところ返事が来て会うことになった。残念ながら16日の上映には仕事があって来られないとのことだったが、彼の職場や自宅にほど近いヘイト・アシュベリー(Haight-Ashbury)にあるゲイバーで16時に、ということで話がまとまった。「ヘイト・アシュベリーの事を知ってるか判らないけど、1967年のサマー・オブ・ラブの発祥の地で、今もレコード店や書店、ヴィンテージの古着屋とかあるから、ちょっと早めに来て散策するのも楽しいかもしれない」と書いてきたので約束の時間より3時間ほど早く行くことにした。地図で見るとカストロ地区からもそんなに遠そうではないし、ピートとディエゴに聞くと「歩いて行けるよ」ということだった。

出掛けに映画祭のパビリオンに寄る。イマイズミコーイチはここで出されるケーキが気に入ったらしく毎回食べている。飲み物をもらって席に座ると、ちょっと離れたテーブルにプログラマーのジョーがプログラムディレクターのアンジェラと話しながら飯を食っているのが見えた。映画の上映のMCとしては客席から何度も見ているのだけど、いつも忙しそうで話す機会がなかった。自分が聞きたいのは彼がどうやって自作短編『犬漏(SOLID)』について知ったのか、という事だけなのだけど、もう憶えてないかもしれない…と思いつつ比較的ヒマそうな今を狙って話しかけてみる。案の定すぐには思い出せないようだったが(そらそうだ)、横から「彼の仕事はリサーチで、様々なルートから作品情報を得たりするので…」とアンジェラが助け舟を出す。ジョーはそれでもしばし考えていて「ああそうだ、確かトラヴィス・マシューズが今泉監督の作品について教えてくれたことがあって、それで君らのウェブサイトを見ていて『SOLID』を知ったんだと思う。トラヴィスは友達で、色々助けてくれてる。」というちょっと予想外の回答でした。教えてくれてありがとう、そのトラヴィスに今から会いに行くのれす、とジョーに告げてパビリオンを後にした。やはり偶然は必然というかだなあ。

マーケット・ストリートを横断してカストロ通りを直進、いきなり果てしない登り坂が見えてきたのでげんなりするがこれを超えないといけない。電動自転車がほしい…と思いながら登るとそこからは比較的平坦で、普通の住宅地といった感じの一帯を通る。ヘイト通りで左折してしばらく歩くと左手に公園が見えてきた。「ブエナ・ビスタ・パーク」と言うからには良い眺めであるのだろう、とちょっと登って休憩にする。イマイズミコーイチは既に疲労が極まっているのか、全く違う花を見ては「パンジー」などと言っている。公園は丘になっていてなかなか頂上が見えないため途中で降りて元の道に戻る。この辺はまだ住宅街だ。もう少し先に進むとトラヴィスが言っていたような店が連なるエリアになってきた。最初に目についた「アナキスト・コレクティヴ・ブックストア」に入り、レジの下が「全部2ドルの古本」コーナーになっていたので、「Latin American Art」という分厚い美術書(付いてた値札は4ドルだったけど)を買っていきなり荷物が重くなる。古着屋もいくつか入ってみるがだいたい高い。イマイズミコーイチはその中でBurmaというブランドのポリエステル製でシースルー生地のシャツ(デッドストック)にひっかかり、散々悩んでいるが「とりあえず他の店も見てから」と言って保留。

通りを更に先に進んでゴールデンゲートパーク(トラヴィスの職場がある)に突き当たる手前辺りに大きなレコードショップ「アメーバ・ミュージック」がある。万引き防止対策でバッグを入り口で預けてから入った店内は広大で、レコード・CD・本・DVD・ブルーレイ・VHSビデオにレーザーディスクまである。あとターンテーブルとかTシャツとかグッズ類。絶対見きれないしトラヴィスとの約束の時間も迫っているのでざっと見るだけになってしまったが、ここは楽しい。中古CD1ドルみたいなのもたくさんある一方で、欲しくなるようなものは大抵それなりのお値段ではあるので「掘り出し物」を見つけるには数時間は居ないといけないと思う。結局2人して何も買わずに出ることになったが、20年くらい前は(規模はともかく)こんな店がいっぱいあったよなあ、と思ったりもしました。さて待ち合わせに指定されたバーに行くにはさっき来た道をかなり戻らないといけない。相変わらずサンフランシスコの道は、スマートフォン上の地図で見ると近そうなんだけど実際は歩いても歩いてもさっぱり進まない。あと勝手にマイル表示になるのはどうにかならんのか。


Amoeba Music(でかい)

トラヴィス言うところの「この辺で唯一のゲイバー」であるTRAXの前に着いた。道に面した席に座ったトラヴィスの姿が外から見えた瞬間うれしくて2メートルほど駆け出すチームハバカリ。そういやこの店は「ID見せろ」とか言われなかったな。仕事を終えたトラヴィスは既にビールを飲んでいる。自分らのビールも注文してくれて、堰を切ったように話し出す。いつぶりなのか、というと自分の記憶では結局2011年にベルリンで会って以来になるはずなのだがトラヴィスは「その後にニューヨークで会わなかったっけ?」とかあやふやで、いやニューヨーク行ったこと無いからそれはないよ、と言っておきましたがまあ別にいいや、いま会えてるし。彼は今は広大なゴールデンゲートパーク内にあるナショナル・エイズ・メモリアル・グローヴという施設で庭師の仕事をしている。「これまでの人生で最も健康的な仕事をしている。すごく早起きしないといけない事を除けば完璧だよ。」と言って笑うトラヴィスは、確かに歳は取ったけど元気そうで安心した。映画は撮ってないの、とイマイズミコーイチが聞くと「アイディアを書き留めたりとかはしてるけど、今は撮っていない。映画制作というものがあまりに不健康なので、今の自分はやりたくないんだ」それなら仕方がない、でもいつかまたトラヴィスの映画を観られる日を待ってる、くらいはいいかな?

以下とりとめもなく、トラヴィスとの会話。「サンフランシスコの治安がヤバい、っていう動画とかは、保守派がリベラルの牙城的なサンフランシスコを攻撃するために針小棒大に拡散してる事が多いから、あんまり真に受けないほうがいい」「さっきWhatsAppでブエナビスタパークに居る、って言ってたけど、あそこ以前は超ワイルドなハッテン場だったんだよ。木の葉で寝床が作ってあったり」「ウィード(大麻)を試したいならチョコレートがいいと思う。効果もマイルドだし」「プライドパレードは企業パレードになっちゃったんでつまらない。金曜日のトランスマーチとか、土曜のダイクマーチのほうがずっと面白いよ」「映画祭もそういうところがある。ジョーはそれでも頑張ってるけど…」「(大沼二郎の話をしたところ)日系人強制収容について、自分が子供の頃は全く学校でも教わらなかった。この国はそういうところがある。」などなど。自分らは2011年にトラヴィスに会い、翌2012年にジョアンと会ってるのだけど、その二人がいま結婚してるというのはなかなか面白くて、柄にもなく馴れ初め話とかを聞いてしまいましたが、トラヴィスが当時のことを「すっごくロマンティックだったんだよ〜」とニコニコしながら話すのを聞いているととにかく幸せなのが一番、と思えてくるのでした。トラヴィスにも昆布茶をあげたのだけど(海藻スープだと思って使って、と言った)パッケージの説明文が日本語だけなので、グーグル翻訳APPで日本語テキストをカメラにかざして英訳して見せたらトラヴィスは「そんな機能があるの!?」と本気で驚いていた。君のiPhoneでもできると思うけど、知らん人は知らんのね…。

朝が早くてもう眠くなってきたからそろそろ家に帰る、というトラヴィス。「時間があるなら僕の職場を君たちに見せたいんだけど、もうヒマな日がないかな?」そしたら明日かなあ、ピートの家を出てホテルに移る日だけど映画の予定は夜からだし3時くらいまでなら時間はある、と言うと「じゃあ12時に来てくれたら昼休みに庭を案内するよ。」ということで2日連続でトラヴィスに会うことになりました。バーを出て帰り道、「古着屋は見た?」と訊かれたので「いくつか入ったけど、良さげな店は高いね」と言うと「安いのはここ」とGoodwillのリサイクルショップを教えてくれる。まあ例えれば原宿にあるブックオフみたいなもんではあるが。あとは気になる外観の店を指差すと「あそこは高い」「面白いものがいっぱいあるけど、ものすごい高い」などと的確に教えてくれる地元民。もうすぐ19時をすぎるので、大体の店は閉店のようだ。明日時間があれば寄ってみよう。


ブエナビスタパーク入り口

検索するともう少し近い道があるようなので、帰りはそっちを使ってみる。このルートはマーケット・ストリートを通らないのでほぼ住宅街。今日観る映画が終わってからだと閉店時間に間に合わないので、先にセイフウェイに寄って夕飯(冷食)を買っておく。ブリトーが8個も入った巨大な袋をピート宅の冷凍庫に入れさせてもらってからカストロ劇場へ、今日はこのベルギー映画『The Lost Boys』1本のみ。ベルギーの少年矯正施設を舞台に、収容者の少年が出会って親密になる話なのですが、カミングアウトどうしよう問題や、自分がゲイである事への煩悶などは出てこない。それらとはまた別のコンクリフトを描きたかった、とアフタートークでの監督。確かにそんな感じでした。作品としてそれほど似ているわけではないけれどこの映画、最近観た是枝裕和監督の『怪物』と対比させて考えてみると、確かに欧州社会の意識みたいなものはだいぶ変化してきていて、それが作られる作品にも反映されるのだ…と思わざるを得なかった。

帰宅して冷凍ブリトー(予想外なことにけっこう辛い)を半分食べてから部屋でパッキングをする。ここに泊めてもらうのも今夜で最後だ。夕飯を食べている時にディエゴがやってきて「明日は会えないかもしれないのでサヨナラを」と言ってくれるのだけど、少なくとも金曜日の映画を観る時に一緒になるのでもう少し先延ばしにしてもらう。パッキングと言っても飛行機用ほどに完璧にする必要もないのであっという間に終了し、明日はまた似たような遠足。

2023.0622 THU

8時起床。普段よりは早起きできたのでまだディエゴも家におり、4人で記念撮影をさせてもらう。昨日の残りのブリトーを食べ、ついでにポテトチップの残りを食べているとバーボンが(サクサク?)みたいな感じでやってくるけどあげません。こういう日々も今日で最後なんだなあ、と思うとちょっとシミジミしてしまう。ピートに「SFMOMAには金曜日に行きたい」と伝えると「オーケー、じゃあ現地で13時に会うのでいいかな?」と言ってくれて最後まで面倒見のいいホストである。10時前に家を出て昨日の帰り道を逆方向に、またヘイト・アシュベリーへと向かう。ちなみにトラヴィスに「ヘイト(Haight)ってどういう意味なの?」と聞いたところ「人の名前にちなんでいる。そして発音は"Hate"と全く同じ」と教えてくれた。約束の正午前に楽々間に合いそうなのはいいんだけど、逆に早すぎて大抵11時開店の各種お店はまだ開いてないというジレンマ。じゃあ先にゴールデンゲートパークに行きましょう、とアメーバ・ミュージックも通り過ぎて広大な公園の端っこでいきなり休憩する。

移動再開。とにかくでかいので、道を間違えるとあらぬところに出てしまいそうになる。それにしても広いのによく整備されている。途中の子供用遊具が置いてある一帯には回転木馬まであったりする。「あのニワトリに乗りたい…」とつぶやくイマイズミコーイチ。さらに歩くと、芝生の競技場で両端に別れた複数の人々がボールを転がす競技みたいなものをしているのに出くわしたのだが、見てもさっぱりルールが判らない。「ボールがどう転がっても誰もあまり嬉しそうでも残念そうでもないねえ」などと言い合っていると、自分らの会話の内容を察したのか同じベンチに座っていたおじさんが「標的である小さくて白い玉のどれだけ近くに止められるかを競うんだ」と教えてくれた。競技場には「サンフランシスコ・ローン・ボウリング・クラブ」という看板があり、この競技は日本では「ローンボウルズ」と呼ばれているものらしかった。ちなみにこのクラブは1901年設立で120年以上の歴史があるとのこと。世界にはいろんな未知の娯楽がある。

正午より大分早くナショナル・エイズ・メモリアル・グローヴに着いてしまった。細い道を森の中へ進むと、途中で木がガサガサ揺れているのに気がついた。見るとリスが木の芽(実かも)を食べている。そっと近づいたら逃げなかったのでしばし観察していたが、やがて大声で会話しながら歩いてきた人の気配で逃げてしまった。もう少し歩いてその先で休憩する。鳥のさえずりと風にそよぐ葉擦れの音に包まれて、石製ベンチに座ったイマイズミコーイチはすぐにうとうとし始めるが、今日は薄曇りで寒いので現地で買った古着のコートの真価発揮である。自分はその辺を見て回るが、そこら中に石に刻まれた名前があり、どうもエイズで亡くなった人の名前と寄附した人と両方あるみたいだ。時間になったのでイマイズミコーイチを起こして入り口で待つ。やがて作業車に乗ったトラヴィスが颯爽とやってきた。作業着カッコイイですね先輩。車を停めたトラヴィスはいきなり利用客に道を聞かれている。やあやあ2日連続で会いに来ましたよ。

「じゃあ行こうか」とトラヴィスは園内を案内してくれる。とは言えどっからどこまでが域内なのか自分らには境界が判らないが。しかし空気が良くて静かでいいところだね、と言うと「でしょ?」とちょっと自慢げに笑う。ブエナビスタパークにもあった「もしコヨーテに出会ったら」の掲示を見て「よく見るの?」と訊くと「けっこう見るけど、そんなに危険ということでもない。基本的に臆病だし、適切に接すれば問題はないよ」だそうでした。トラヴィスは自分の昼休みを潰して案内してくれているのであまり時間がない筈だが、仕事場の外に連れて行ってくれて他の施設も説明してくれる。「あの大きな科学アカデミーの展示は素晴らしいよ。入場料がちょっと高いんだけど。」そうか、今回はもうじっくり博物館を見られる暇は無さそうで残念だ。トラヴィスとイマイズミコーイチはそこにあった売店でアイスクリームを買って食べている。その向かいにはデ・ヤング美術館という現代美術館があるが、そこの展望台は無料で登れるので行ってみたら、と言う。トラヴィスは美術館の中に入って係の人にエレベータの場所を聞いてくれ、確かに無料で入れるけど事情を知らないとチケット買わずに入っていいとはとても思えないようなところに登り口はありました。「じゃあここで。もし日本に行く時には君らに一番に知らせるよ」と言い残して、素敵な作業着姿のトラヴィスは帰っていきました。またね。


ナショナル・エイズ・メモリアル・グローヴの説明として、これ以上のものはないだろう。

エレベータで頂上まで上って展望台に付く。一応美術館の施設内なので申し訳程度に売店コーナーがあるが、それ以外はあまり商売っ気もない空間である。特に解説パネルなどがあるわけでもないので、スマートフォンの地図であっち方面にあれが、と確認する感じですがいい眺め。天気が悪いので遠くは霞んでいるけど。展望台から降りて公園内を歩き、家に帰ることにする。ともかく広すぎて歩いて踏破できそうにはない(園内をシャトルバスが運行していた)が明るくて気持ちのいい空間で、ここで昼寝したい、とイマイズミコーイチ。途中ヘイト・アシュベリーでイマイズミコーイチは昨日迷っていたスケスケシャツを購入、「カルバンクラインの中古コートより高かった…」だそうです。家に戻るとピートはおらず、さっき「コーヒー買いにちょっと出てくる」というメッセージがあったのだけどまだ戻ってないようだ。すぐに動けるように荷物をまとめてバーボンくんと最後のひととき、最後まで吠えない子であった。ピートが戻って来たのでそろそろ行きます、と告げる。初対面の人間を一週間も快く泊めてくれてありがとう、初めてのサンフランシスコではとても安心して過ごせました。しかしゴミの分別は最後まで判らなかったなあ。明後日また会うのでそれほどさようなら感はないのだけど、この部屋とはお別れだ。じゃあねバーボン、元気でね。

ウーバーを呼んでホテルに向かう。渡航前に映画祭がピートの家をホームステイ先として紹介してくれた時、残りのホテル滞在については自費になるが、トラベル担当が何かしら情報を提供できると思うので詳しくはそちらから連絡します、と言われて待っていたものの連絡は来ず、ようやく一度「当映画祭はヒルトンと提携しているのでヒルトン系の2つのホテルがゲスト用として使えます」とだけメールが来て、ではそのホテルを映画祭を通じて予約すると割引になりますか、その場合はいくらですか?と質問をしたものの全く返事が来ず、出発までの日が迫ってきたので仕方がない、その「提携ホテル」近くのエリアならそれほど問題はないだろう、映画祭会場からは遠くなるけどパレードの通過ルートには近くなる、と土地勘が全くない中で候補を絞り込み(だから現地の担当に助言をもらいたかったのだけど)、朝食付きで妥当な値段…というのはほぼ一択だったのでそこを4泊予約した。自分がホテルを取ってから数日して映画祭から「トラベル担当は急遽退職することになった。ついては私が引き継いで云々」という目眩のするようなメールが来て、やっと映画祭提携ホテルの値段が判りましたが、自分らが取ったホテルよりも高い値段だったので惜しいこともありませんでした。

着いたのはランドマークのユニオンスクエア(実物を見てみたら何ということはない公園)からもそれほど遠くない場所にある小さなホテルで、周囲は急な坂と高層ビルばかり、何というか目黒あたりから日本橋にワープしてしまったような感じである。こりゃセイフウェイみたいのは無さそうだぞ…と地図で「スーパーマーケット」検索すると一応あるみたいなので後で行ってみよう。まずは問題なくチェックインして、荷物を運んでくれるドアマンにチップ、みたいのを想定してましたがだれも運ぼうとする人は居ないのでそれも問題無し。部屋は思ったより広くてベッドもキングサイズなので充分である。ただコーヒーマシーンはあるのに電気ポットがなく、持参のティーバッグでお茶が淹れられない。荷物を置いてからさっき検索して見つけた「スーパー」に行ってみる。予想した通り小さめの商店ではあるが、一通りのものは揃っている。高いけど。ここでパンと鶏ハム、チーズを買って部屋で夕飯にすることにする。ホテルから見えるところにもう一軒あったのでそこにも寄ってみるが値段は更に高く、残りの食生活はホテルの朝食に全面的に依存することになりそうである。


環境激変

夜からロキシーで映画を観るのだけど、昨日までとは違って歩いてはいけない距離なので遂に公共交通機関を使う日が来た。サンフランシスコにたくさんある電車やバスなどを乗る時に必要になるのが「クリッパー」という交通ICカードなのですが、これが発行に3ドルかかる(デポジットではない)とか駅のマシンでのチャージが面倒そうとかけっこうハードルが高く、一番簡単なのはiPhoneのウォレットに予め搭載されているクリッパーにApplePayでチャージして使う方法で、これならプラスチックカードを発行せずに使えるのだけど、確認したらイマイズミコーイチのiPhoneは古いモデルなのでその機能がなく、いずれにせよ1枚は物理カードを入手しないといけないことが判ったのが昨日。ああでもないこうでもないと悩んでいたらディエゴが「ウチに何枚か余ってるんじゃない?」とピートに言うと彼はクリッパーカードを2枚持ってきて、「これを使っていい。いくら残ってるかは判らないんだけど」ということでありがたくお借りしていたのでした。後にカードに記載されている番号に電話して12桁のシリアル番号を入力すると音声で残高を案内してくれることが判ったので、自分の携帯から電話してみる(通話無制限プランが唯一役に立った瞬間)と片方はほぼ0、もう一枚は20ドルくらい残っているそうなので残高がない方に20ドルチャージすればだいたい同じ額で使い始められることがわかった。ピートは使用後にカードを返してくれとは言わなかったけど、今度会う時に20ドルを現金で渡すことにする。

部屋でさっきのパンをサンドイッチにして食べてから出かける。駅に行く途中でWalgreensというドラッグストアに寄って、クリッパーカードにチャージする。レジでカードを渡して希望チャージ額を言うだけなので、駅設置のマシーンより簡単。なのだがレジがものすごく並んでいる。この店は一応食品も置いてあるようなので、イマイズミコーイチに列に並んでもらって自分は店内を見て回るが、結論としてはさっき食べた自作サンドイッチ方式が一番安いということになりました。チャージは問題なく済んで、地下にある駅からゲートにクリッパーカードをタッチさせてホームに入り電車に乗る。初めての街では仕方のないことだけど乗り場と方向がさっぱり判らないので、駅員さんに携帯で行き先を見せてどこから乗ればいいか教えてもらう。映画館までは4駅くらいなのだけど片道3ドル。これを地下鉄の初乗り運賃だと考えればやはり日本より高いよな。車内では次に停まる駅名もが電光表示されるのでそれほど不安は感じない。着いた駅は劇場のすぐ近くで、あまり歩かなくて済んでよかった。

今日の1本目は映画祭で観る11プログラム目になる『Playland』という長編だが、これが特大ヒットでした面白いのなんの。ボストンにかつて実在したクィア・バー「Playland」に捧げた幻想劇…とでも言えばいいのか。予定調和な展開をことごとく裏切りながら無駄なカット無し、というミラクル。上映後のQ&Aで監督は、アメリカのクィア・ヒストリーを語る上で必ずしも真っ先に名前が上がるわけではないボストンという街にもどれだけの歴史があるのかを掘り起こすことから始めた、と話していたが、ボストンはおろかアメリカの歴史も大して知らない自分が見落としている部分が膨大にあるのだろうと思いつつ、それでもそんな「部外者」がこれだけのめりこめてしまう映像が息切れもせず90分続くというのはえらいことである。小心なので滅多にやらないことではあるが、トークの後に会場に残っていた監督に突撃して「映画、良かったです。意味はさっぱり判りませんでしたが超面白かったです」などと口走る自分。監督は「そうね、ある種のムードが伝わることが重要だから、それでいい」と言ってくれました。しかし収穫であった。併映のポルトガル短編は悪い意味でさっぱり判らなかったけど。


『Playland』予告編。

今日はあと1本。4Kレストア版のフランス製ゲイ成人向け映画のクラシック作品『Le beau mec』、1979年作品。しかし仏語音声に(しかも主人公の声だけに)英語ボイスをオーバーダブして字幕は無し、という謎なヴァージョンでした。内容は、ポルノとしてはオーソドックスな部分が多くてそこは機能的に優れているんだろうと思いつつ、映画としてすごく面白いわけでもない、という微妙なものでしたがこの上映回はちょっとベルリンポルノ映画祭の雰囲気を思い出させてくれて、よかった。ともあれ映画祭最終日までの2日間はこんな感じで映画祭に通う必要がある。

目次
〜2023.0614  出発までと出発当日、サンフランシスコ到着
2023.0615-16 映画1本/『犬漏(SOLID)』上映+ひみつのラウンジ
2023.0617-18 GLBT博物館+SESSAライヴ/アジア美術館+映画2本
2023.0619-20 映画2本+TTさん/映画4本
2023.0621-22 トラヴィスその1+映画1本/トラヴィスその2+引越し+映画2本
2023.0623-24 SFMOMA+映画1本+プライド・キックオフ・パーティー/中華街+映画3本(映画祭クロージング)
2023.0625-28 サンフランシスコ・プライドパレード/帰国

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