2023.0623 FRI

起きて食堂(本来はバーである)に向かう。キーや名前のチェックとかは何もなしで入れるけどまあ小さいホテルだし、客の顔は把握してるんだろうと思う。ビュッフェ形式の朝食はパンが5〜6種類、シリアル、オートミール、おかずっぽいのはベーコンと卵、あとは揚げたジャガイモくらいかな、サラダ的なものはないので唯一それに近いオレンジとリンゴ(丸のまま)をかじる。飲み物はオレンジジュースに牛乳、コーヒー、あと紅茶のティーバッグがあって自分がスーパーで買ったやつよりおいしいのは良かった。朝にしっかり食べて午後〜夜は軽く済ませられるようにしたいけど、食いだめして気持ち悪くなっても本末転倒なので、こっそり食パンとベーコン+卵でサンドイッチを作って紙ナプキンに包む。まあこれ、誰かがトースターに入れたまま放置されてたパンで作ったんだから残飯処理みたいなもんで、と内心言い訳しつつお弁当。野菜が食べたいなあ、とは思うものの美味しい朝食なのでここで正解だったかな、と思う。

今日は夜遅くまで予定が入っているのであまり無理せず、朝食後は部屋で仮眠を取ることにする。自分は軽くシャワーを浴びようとして、浴室の照明が点かないことに気が付いた。バスルームのスイッチは一つしかなく、洗面所の明かりは点くが、バスタブの上にある照明は暗いままなので恐らく切れている。フロントに降りてその旨を伝え、あと電気ポットの貸出があればお願いしたいことを伝える。「色々なご要望があるので対応できるかお約束できませんが」と言いつつ電気ポットはすぐに届けられ、次いで浴室照明の修理の人も来てくれて直ったので恐らくここはいいホテル。ピートから「約束の時間を遅らせて13時半でもいいかな?」というメッセージが入ったので了解、と返信する。今日はSFMOMA(サンフランシスコ近代美術館)に行くのですが、このホテルからだと歩いて行ける距離なので引越後のほうが良かろう、という理由からこの日にしたのでした。


こんな部屋(使用済)

2時間ほど寝てから起き出して、カバンにお弁当をしのばせる。同じくサンドイッチをいくつか作って持ち戻っていたイマイズミコーイチは、さっき朝食を山のように食べたせいか「まあいいか持ってかなくて」と言う。美術館までの道は高層ビルばかりのビジネス街&高級ブランドの入ったショッピング街という感じですが、普通にレインボウ・フラッグが国旗や州旗と並んではためいているのが東京との違い。ホテルから坂を下ってマーケット・ストリートを横断し、美術館に着くまでが15分くらいか、充分歩けます。到着したけどピートの姿は見えない。考えてみたら待ち合わせ場所をちゃんと決めていなかったので、到着メッセージを送ろうと思ったら先に向こうが「2階のチケット売り場の前辺りにいる」と書いてきたので、慌ててミュージアムショップに行ってしまったイマイズミコーイチを呼び戻して館内に入る。ピートは既に3人分の無料チケットを取ってくれていて、シール式になったチケットを「服のどこか見えるところに貼って」使うのでした。しかし無料チケットがバンバン出せる会員ってお金持ちっぽいな。自分はなるべく卑屈な顔にならないように気をつけつつ(何でこのタイミングなんだろう)20ドル札を出してピートに「クリッパーの残高がちょうどのこれくらいだったんで…」と渡す。ピートはちょっと虚を衝かれたような顔をした後、「うん?」とかいう感じで受け取ってくれました。

最上階から展示を観て回る。残念ながら最近ここが購入したことがニュースになっていた中銀カプセルタワーはまだ展示されていなかったけど、面白いものが山のようにある。中でもRagnar Kjartanssonというアイスランドの作家によるビデオインスタレーション『The Visitors』は結局最後まで観てしまった。ピートは何度も「君たちは観たいものを自由に観て、僕は付いていくから」と言ってくれるのだけど、きっと何回も来ているだろうし、またいつでも来られる人なので「ありがとう、でももし別行動が良かったら気にせず離脱してね」と伝える。ここはフェリックス・ゴンザレス=トレス作品がたくさん展示してあってうれしい。写真の特集展示も良くて、時間がいくらあっても足りないボリューム。やがてピートは「じゃあ僕はここで。また後で会おう」と帰っていった。今日は6時からの映画をディエゴ共々観ることになっている。イマイズミコーイチも「僕は大体観たので、下で休憩してるね。ゆっくり観てていいから」と階下へ消えていき、結局自分が一番堪能しているような気がするが、しかしいろいろ持ってるなあこの美術館。さり気なくダリとかマティス、ブラックやオキーフ、ロスコ、リキテンスタイン、ウォーホル、ポロックとかぞろぞろ置いてある。

これで、一通り、観終わった、はず、と、アジア美術館の時と同じく息切れしているような気がするが、一階に行くと巨大なクッションの上でイマイズミコーイチが寝ていた。もうすぐ5時の閉館時間が迫っている。最後に1階にある、最近修復が終わったらしいディエゴ・リベラの大壁画『Pan American Unity』を二人で観る。そういえばピートの家にはフリーダ・カーロのグッズがたくさんあったなあ。監視の人が「まもなく閉館です」と言っているがギリギリまで観てから壁画の近くにある出口ドアを開けて外へ出た。3時間半くらい居たことになるのか。自分は急に空腹を覚えたのでカバンの中からサンドイッチを取り出して空気がひんやりしてきた路上で食べる。イマイズミコーイチは「やっぱり僕もお弁当を持ってくればよかった…」とか案の定なことを言っているが、でも今日は映画の後に夕飯を一緒に、とピートとディエゴが言ってたから、ちょっと辛抱すれば少なくとも帰宅前までには何か食べられるよ、と駅に向かって電車に乗り、ロキシー劇場へと向かう。


Pan American Unity: A Mural by Diego Rivera, 1940

今日唯一観る1本はジョアン・ペドロ・ロドリゲス監督のポルトガル作品『鬼火』でMCはジョー。去年の東京国際映画祭で観ている(しかも監督にも会えた)のだけど、もっかい観たくてチケットを取ってあった。セリフも何となく憶えているので、今回は字幕以外のところが観られる。潔い映画だなあ、という印象は変わらず、そしてこの作品ではメインじゃないけど「ゲイと老い」という題材ってこういうふうにも描けるよね、と思ったりもしました。しかし50年経った未来の世界でもまだ何かの感染症が蔓延していて人はフェイスシールドしている、という設定は去年観たときはギャグだと思ったけど、今だとあながちありえない未来じゃないな…と思うようにもなっている。ジョーによるとこの映画は隣りにあるロキシーのミニシアターで劇場公開される予定だそうでめでたい。併映作のフランス短編も妙な感じで良い取り合わせでしたです。劇場を出ると昨日の大傑作『Playland』の監督がいたので「どうでした?」と訊くと「素晴らしかった」ということだったので何だか嬉しい。トラヴィスも一昨日に会った時に観に来ると言っていたのだけど居なかったので、疲れて寝ていたのでありましょうか。

ピート&ディエゴと合流し、二人が予め決めていたらしいピザレストランに着いたのだが、何だかすごく並んでいる。店員さんに訊くと下手すると1時間くらい待っちゃうかも、とのことで別の店を探す。「何が食べたい?」と訊かれるが「日本食以外」と答えて失笑される。でも自分は本当に大抵のものはうまいと言って喰えてしまう人間だし、ヴェジタリアンの二人が頼むものならイマイズミコーイチは安心して食べられるし、でここはお任せにしたいところである。ただ前に彼らが行ったという「ヴェジタリアン用寿司レストラン」の話を聞いたけどあまり想像がつきませんでした。「この店でいいかな?」と入ったレストランは中東小皿料理のレストランで、いいんじゃないでしょうか自分はファラフェル食べたい。奥の半屋外みたいな席について頼んだパレスティナのIPAビールはとても美味しかったけど、また飲めることなんてあるんだろうか…などと考えてしまいふと、そろそろ旅の終りが近づいているのだな、と思った。ご飯は大変おいしく、一切の肉がなくても充分というか野菜をもりもり食えてたいへん結構です。割り勘にしたお会計もたいへん結構な額でしたが、よく考えたらこれが唯一の外食なのでいい事にしましょう。

家に戻る二人になんとなく付いて歩いて…というのも自分らはこの後に映画祭の「プライド・キックオフ・パーティー」というものに行くのですが会場の場所がよく判らないので、取り敢えずマーケット・ストリートまで出れば行きやすいのでは?てな程度の理由からです。ところがイマイズミコーイチがトイレに行きたくなってしまい「あの、すみませんがトイレを貸していただけないでしょうか」とお願いしてピート宅再び、ついでにバーボンくんとも再会、つうか憶えてる?「明日友人を呼んでパーティーをするんで、もう全然様子が違うんだけど」と言いながら通してくれた元「僕らの部屋」は確かに様変わりしており、ついでに無人のリビングではスイッチを切り忘れたらしく照明が音楽に合わせてパカパカ光ってましたが、ピートは冗談めかして「バーボンが一人でパーティーしてた」などと言っておりました。存分に放尿したのでお暇しよう…と見るとピートはバーボンにハーネスを付けていてこれから散歩らしいので一緒に出て、家に残るディエゴとはこれが最後かも、じゃあね、と言うと"See you later.(またあとで)"と言われたのでまあパレードもあるし、明日のパーティーにも「よかったら寄ってね」とか言われてるのでこっちも"See ya!"とか言って手を振る。そしてバーボンくんは家を出るなりいきなりおしっこしている。


シャー

やがて夜道でピート&バーボンとも別れ、電車を調べて乗り込む。マーケット・ストリートの地下を並走する路線のようだ。自分らの降車駅では大量の人が降りていくがどうも目的地が同じ集団なのではないかと思う。地図も見つつ、向かう方向が同じなので何となく付いていくとやはり会場のドラァグバー「オアシス」に着いた。入場待ちの列が伸びている。映画祭から事前に届いたメールには「年齢確認が大変厳格でチケットだけでは入場できません。必ずIDを持参してください」とあり、今回ばかりはマイ・グレイト・マイナンバーカードではお茶を濁せない気がするのでチームハバカリはパスポートを持参しています。カバンのチェックや身体検査も入念にされるので、作業としては空港での出入国とあまり変わりません。もちろんチェックする人は大変フレンドリー、という違いはありますが。中に入ると一階にはラウンジとフロアがあり、二階へ行く階段は人でごった返しているので後で登ってみることにしてまずはフロアで踊っていると、やがてショーが始まった。パフォーマンス中にドル札(基本は1ドル札みたい。20ドル札を渡した人がクィーンに「あら〜〜お釣りで10ドル、返したほうがいい?」とかイジられてた)が飛び交うのでやはりチップ文化だなあ、と思う。観客から差し出されるチップを受け取るか/無視して投げさせるままにするか、とかにもクィーンの個性が出る。そしてパフォーマンス後にモップを持った人が出てきて床のお札を回収するところまでがルーティン。全貌はflickrの写真アルバムでどうぞ。あと進行役のクィーンが「まるでパンデミック前みたいね」とか言っていて、似たような言い回しはこれ以外のところでも聞いたので、米国でも「今年がコロナ禍明け」という認識なのかもしれない。まあ考えてみれば入国制限が撤廃されたのって先月だしね。

ショーが終わって二階に上がってみると屋上で、こちらも人でごった返している。ただあんまり知ってる顔はないな…あ、ジョーが居た。ごく紋切りな挨拶として"How are you?"と言ったところ「疲れている」と答えるので笑ってしまったがあと1日なのでがんばってくれ。『鬼火』はよかったよ、と言うと嬉しそうで「クィア映画祭での上映はウチが初めてなんだ。監督も呼ぼうと思ってたんだけど実現しなくって」とのこと。階下に降りてフロアに戻ると、やがて次のショーが始まった。今回主演作が公開されたアラスカさんが「最近は映画の製作側が『ドラァグクィーン絡みのネタはちょっと物議を醸すから』とか及び腰になりがちだけどね、でもドラァグなんて昔っからコントラヴァーシャルなんだよボケナス!!!!」などとシャウトして大歓声を浴びてました。すると「ハイ」と後ろから声をかけられたので振り向くとディエゴだった。おえあ、さっきの"See you later."はこれのことだったか(自分はちゃんと聞いてなかったらしい)。更に向こうにはピートも居て「こっち」と手招きする。よく判らないまま付いていくと何故かVIPエリアに入っていくので、???状態のまま係の人に押し止められるチームハバカリ。「あ、彼らは連れなんで」とピートが言うと入れてもらえた。VIPルームだからビールでも何でも好きなものを飲んで、と言われて実はさっきの夕飯代を払って現金紙幣がゼロになっていた自分は大変ありがたくおこぼれにあずかる。しかしこの人は映画祭関係者の「上の方」とやたら友達っぽかったり優先入場していたりと謎の大物感というか太客感を醸し出していて最後まで面白い。ちなみにピートはイマイズミコーイチとほぼ同い年で、笑い声が大塚隆史さんにとても良く似ています。ビールを飲んでから四人でフロアに出てまたひとしきり踊り、やがて「帰るね」と言うので自分らもそろそろ、と一緒に店を出る。結果的にこれがピート&ディエゴと会った最後になったけど、最後まで楽しく過ごせたので何よりでした。


2023.0624 SAT

今日は映画祭の最終日、カストロ劇場で2本観ることにしている。最初の映画が15時半なので、朝食を食べてからチャイナタウンへ観光に出かける。ホテルからの距離はSFMOMAよりも近い。ホテルが面しているブッシュ・ストリートに東洋風の門があって、そこから登っていくのがチャイナタウンのメインストリート。この英語との混ざり具合は香港みたいだなあ、と思いながら歩いていく。商店は観光客向けの土産物店かレストランが多く、あとは中国食品店ではそれこそ香港や台湾で嗅ぎ慣れた匂いがします。結局自分のものは何も買わなかったけど、イマイズミコーイチがおかしくてならない、といった感じで「いまパン屋で『ワンダラー』とか言ってパンを値切ろうとしてた人が居た」だそうです。値切れるもんなの、パンって?ここにあるレストランのどれかで食事できたら面白かったなあ、とはちょっと思ったけどまあ香港に行けばいいですかね。

来た道を戻って駅に向かい、電車に乗ってカストロへ、2両しかない車内はものすごい混んでいる(そしてほとんどマスクしてない)。車内で地図を確認していた自分は、現在地点が予定のルートからどんどん外れていることに気が付いた。理由は判らないけど何かが違うようなので次の駅で降りると眼の前にあったのはミッション・ドローレス・パーク、今日のダイクマーチの出発地点ではないか。ああそうかダイクマーチはカストロを通るはずなので今日は電車が通常通りに走っていないのかもしれない。遠目に見える公園は大変な人出で賑わっているが、時間がないので歩いてカストロ劇場に向かう。ロキシーでの上映は昨日で終わりで、最終日の今日はカストロ劇場でだけになる。1本目はアメリカ作品『Hidden Master: The Legacy of George Platt Lynes』は1930〜40年代に活躍したファッション・フォトグラファー、ジョージ・プラット・ラインス(1907~1955)についてのドキュメンタリー。ゲイであり、メールヌード写真も数多く撮った彼の作品の中でも特にホモエロティックな作品は公にされることなく、また本人も流出による影響を怖れたため、親交のあった「キンゼイ報告」のアルフレッド・キンゼイにそうした作品を託し、長らくインディアナ大学にあるキンゼイ研究所に保管されていた。そうした作品の特質もあって、彼の作家としての全容を語ることが忌避された結果、現在では「埋もれた」写真家となってしまっているのではないか、と上映後のQ&Aで監督は語っていた。

映画祭パビリオンに寄ってビールをもらい、外に出てみるとちょうどダイクマーチがマーケット・ストリートからカストロ通りに入ってくるところだった。歩道と車道の垣根はほぼ無いに等しく、出入り自由な感じだ。道を曲がった角ではブラスバンドが延々と演奏しているのに合わせてみんな踊っている。たのしい。昨日のトランスマーチはどんなだったのかな。劇場に戻って2本目、アメリカの劇映画『Our Son』。ギリギリで入ったため席が一番うしろの端っこしか無かったがそれでも充分観やすくて、やはりここはいい劇場なんだと思う。自分は席すらなくて床に直座りしてましたが、見かねたのかご親切などなたかがどこからか椅子を持ってきてくれました。映画はルーク・エヴァンスとビリー・ポーターのカップルが離婚して、子どもの親権をめぐって裁判沙汰になる…という話。離婚と親権問題、という話になると異性婚でも同性婚でもそれほど違いはないのだな…という辺りがけっこう面白かったのだけど、やはり他の観客が爆笑していた箇所が理解できなかったとかあったので日本字幕付きで公開してほしい。

再度パビリオンに戻るとケイトがいたので、最終回の上映とセットになっているセレモニーが観たいのだけど、既に15プログラム分のチケットを買ってしまったので最終回のチケットが買えない、と相談する。ケイトは「オッケー、では今からチケットを送るよう手配する」と言ってくれた。ありがとう。カストロ通り近辺をウロウロしていると、なんとトラヴィスとジョアンがレストランの入場待ちをしていたところにぶつかる。一瞬だったけど、2人揃って会ったのは初めてだ。さて映画のチケットがメールで送られてきたのでカストロ劇場最後の入場。セレモニー、と言っても淡々とした感じで、映画祭のスタート前に予めアナウンスされていた賞以外は受賞者の登壇とかもなかった。プレゼンテーターにはジョーもいたけど明らかに声がダウナーで疲れている。同じくアンジェラも疲れてるようで言動がややおかしいが、こちらはアッパー系。ともかく賞は発表され、全リストはこのページにありますが、ちょっとびっくりしたのは審査員が選ぶ短編賞のナラティヴ部門とドキュメンタリー部門の両方が自分と同じ短編プログラム内の作品だったことでした。あと映画祭のスタッフも壇上に上げられてましたが、その際に名前とプロナウンをセットで自己紹介してください、と言われていたのが新鮮でした。

観る予定じゃなかった3本目、最後の作品が始まる。『セルロイド・クローゼット』『パラグラフ175』ほかを監督したロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマンによる『Taylor Mac’s 24-Decade History of Popular Music』。24時間ぶっ通しでアメリカのポップ・ニュージック240年分(1時間で10年間を扱う)の歴史を巡る、というとんでもないパフォーマンスを追ったドキュメンタリー。「アメリカン・ポップス」のネガティヴな面に容赦なく切り込みながらもユーモアとサーヴィス精神に満ちたステージ(だったのであろう)。あと観客の巻き込み方が異様に巧み。そして特に自分は初期のミンストレルソング"Coal Black Rose"が、まるでその曲の葬式でもあるかのように冴え冴えと歌われるシーンには戦慄する他ありませんでした。カストロの客席はよく笑い、上映後にはスタンディング・オベーションが起こり、監督2人とテイラー・マックが登場してのQ&Aは実にクロージングとして相応しいものでした。


上映が終わってパビリオンはもう撤収モード、映画祭の誰にも会えずに終わりになりそうですが仕方ない。もう11時近くになっているし、明日はサンフランシスコ・プライドパレードがあるので寝坊はできないし、友人25人とか場合によってはもっと呼ぶとか言っていたピート宅のパーティにちょっと顔を出す…では済まなそうなので止めておいたほうがいいな、真っ直ぐ帰ろう。カストロの路面電車駅は相変わらず何も来そうにないので少し離れた地下に潜ると別路線の駅があり、地下鉄に乗って最寄り駅まで行き、時間が遅いので出口によってはもう閉まっていて開いているところから適当に出たらここはどこだ、と辺りを見回していると道の彼方に真夜中の(人工の)虹が見えた。これの光源を目指して歩いていたらホテルまでの道を外れて大回りしてしまいましたが、後で聞いたらライトはマーケット・ストリートのどん突きに設置してあったらしく、本当に目指して歩いたら海に出てしまうところでした。ともあれ自分の映画祭参加はこれにておしまい、おもしろかったー。もちろん自分たちが観たプログラムがゲイものばかりだったからというのはあるけれど、映画祭の客層は白人かつ年齢高めの男性が圧倒的な割合を占めるという感じでした。ちなみに今回、自分の上映も含めると17プログラム観たことになるのだけど、もしこれを自腹で購入したら単純計算でトータルのチケット代が4万円以上になる、と判ってのけぞりました。くどいようですがアメリカは高い。部屋に戻って自分は残っていたパンとチーズとハムをあらかた平らげてしまいました。


真夜中の(人工の)虹

目次
〜2023.0614  出発までと出発当日、サンフランシスコ到着
2023.0615-16 映画1本/『犬漏(SOLID)』上映+ひみつのラウンジ
2023.0617-18 GLBT博物館+SESSAライヴ/アジア美術館+映画2本
2023.0619-20 映画2本+TTさん/映画4本
2023.0621-22 トラヴィスその1+映画1本/トラヴィスその2+引越し+映画2本
2023.0623-24 SFMOMA+映画1本+プライド・キックオフ・パーティー/中華街+映画3本(映画祭クロージング)
2023.0625-28 サンフランシスコ・プライドパレード/帰国

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