2026.0123 星期五

 自分は昨年の5月末〜6月初めにかけて一人台北でほぼ無目的な旅行をしまして、むもくてき〜とは言いつつたまたま話が来ていた台湾のGagaOOLalaというクィア専門映像配信サービスでの今泉浩一監督作配信の話を(メールでのやりとりがさっぱり進まないこともあって)本社ビルに突撃してだいたい話をつけたのでしたが、帰国してからというもの半年くらいは元の木阿弥でメールでのやりとりが打てば響かない感じで滞ってしまい、さてどうなるものやら、と思っていたら11月の、よりにもよって自分らが東京で3日間にわたって自主上映会をやってる最中に連絡が来て、「契約書の確認をお願いします。あと配信に先立ってご希望だった上映イベントの詳細も決めました。急かせて申し訳ないのですが数日以内にお返事をお願いします」という立ちくらみのするような文面のメールで、これを送ってきたジャネットとは5月に会って話した感じでだと普通に仕事ができそうな印象だったのに、どうしていつもはメールの返事を平気で一ヶ月くらい寄越さない人がこの狙ったようなタイミングで「要至急返信」を送りつけてくるのでございましょう、ともあれイマイズミコーイチは「配信のことはピンと来ないというか、よく判らないけど台湾でレトロスペクティヴ上映会をやりたい」と常々言っていて、今回4作品の配信を承諾するのに合わせてGagaOOLalaには配信開始前の宣伝も兼ねた上映イベントの手配を依頼していたのでした。向こうが提示してきたのは『すべすべの秘法』と『家族コンプリート』の2作品を上映、我々2人分の航空券代と2泊のホテル代を出す、という条件で普段のWWD(ワールドワイドどさ回り)より格段に条件がいいが、ただ上映が2作品のみというのを「レトロスペクティヴ」とは言い難く、では他の作品の上映は自分らで開催できるか模索してみましょう、とGagaにはOKの返事を出す。

 東京での自主上映会がいろいろ幸運にも恵まれて割と上手く行ったので、そのノリで台北でもいけるんじゃないか、みたいな根拠のない楽観的な気持ちでいたのですが、考えてみると自分らは台湾にはほとんど人脈がなく、15年前に台北金馬影展という大メジャーな映画祭で『家族コンプリート』を上映して以来ずっと没コネクションで、ようやく2021年になって台湾クィア映画祭で『伯林漂流』を含む3作品+自分の『犬漏』を上映してくれる事になった時はパンデミックで訪台できず、オンラインでは一回Q&Aをやったけど(観客の反応は分からないし)さっぱり手応えというものが感じられなかったのでした。つまりは以前に現地で知り合った友人知人というものがほぼいなくて上映会について相談できそうな人が…パッと思いつかない。皮肉なことに今でも連絡が取れる唯一の知り合いと言っていいジェイ・リンはGagaOOLalaの社長。なのでジェイ以外の人に相談せねばならぬ、と呻吟しているとイマイズミコーイチは「あ、ジャクソン先生」と言い出す。ジャクソン先生(寂聴先生ではない)とは誰か。自分はお会いしたことはないのだがイマイズミコーイチは東京で会っていて、一緒に神保町シアターで田宮二郎の映画を観たらしい。ジャクソン先生は米国出身の映画研究者で台湾の大学で教鞭を取り、『伯林漂流』に関してイマイズミコーイチにインタビューをしてそれを「NANG」という雑誌に掲載したという経緯があるのだった。ジャクソン先生なら台北での自主上映に関して何かアドバイスをしてくれるかもしれない、とfacebookで連絡してみたところ「それだったらMOが手伝ってくれると思います、紹介します」とそのまたご友人に引き合わせてくれたのだった。

 そして紹介されたMOさんは「15年前の金馬映画祭で『家族コンプリート』の紹介文をカタログに書いたのは私です」とのことで会うべくして出会った人、という気がするが大変熱心に会場を探してくれたものの台北でも
 ・上映(と音響)設備があって
 ・無修正ゲイポルノ映画を上映しても大丈夫で
 ・そこそこ人数が入れて妥当なレンタル料金のところ
という条件を満たす会場となるとなかなか見つからない。MOさんも(この人の職業が何なのか最後までよく判らなかったが)上映イベントはやった経験がないと言っていて、台北市内の色々な場所を知ってはいるがドンピシャなところは探り当てられていない、という感じなのでした。当初は一つの会場を週末の2〜3日くらいで借りて、と思っていたのでしたが条件が合わず、最終的には金土日で毎日違う場所で上映会、という変則的な形式になり、東京での上映会でも使った写真を流用したオンライン用チラシは話が進むにつれて会場が増えてだんだんと文字情報で埋め尽くされていくのでした。Gaga主催の上映が1日1作品で土日に、自分らの自主上映会が次の週末の金土日。23〜25日までの2泊はGagaが手配してくれたがその後は自腹なのであまり勘が働かないまま値段順にソートしたリストの中から探し、agodaが一番安かったのでそこから9泊分を予約する。agodaは、というかグローバルな大手旅行サイトはとかく「問題」が喧伝されがちなので念の為ホテルにメールで予約確認をして「お待ちしています」の返事が来たのでまあ大丈夫であろう。


オンラインチラシ

 そして航空券、これもこちらで指定された到着日に合わせてこちらで取って払った代金を台湾に着いたらGagaが台湾ドルのキャッシュでくれるというので、今回は血眼になってLCCまで候補に入れたりして最安を探したりする必要もなく、でももちろん上限額というものはあるので時間帯など妥当な便を、と今回はEVA航空になりました。行きが羽田〜松山で帰りが桃園〜成田という変則チケットは偶然にも15年前の台湾行きと同じパターンで、これまた「問題」が喧伝されていたTrip.com(中国の会社なのだけど、カンボジアの観光当局と提携したので個人情報が全部犯罪組織に流れる、みたいな話が廻っていた)で予約したレシートをGagaに送れば今回の手配は完了、着いた翌日には航空券代分の台湾ドルがもらえるので(よく考えるとインターナショナルな「ショッピング枠を現金化」みたいである)、到着日だけ凌げれば両替はしなくて済みそう、かつ自分は前回の使い残しとその後に買い集めた硬貨があるので大丈夫、イマイズミコーイチは「15年前の台湾ドルは残ってなかった」そうだけれど一晩で使う分くらいの現金は自分が貸せるしこの人もついにWiseカードを作ったしたぶんこれでいけるはず。もういい年ですし到着した日にゲイバーに突入とかいたしません。同じくTrip.comで台湾で使えるeSIMも注文したしこれで旅行の準備は概ねできた、と思う。

 出発当日、自分は地元駅からバスで向かう。イマイズミコーイチもほぼバス。羽田空港で落ち合って、オンラインチェックインは済ませてあるので荷物を預けるだけ、2人で国外に行くのは2年ぶりくらいだけど今回のフライトは短いので、機内食を食べてうとうとしていたら台湾に着きました、という感じ。日本よりは格段に気温が高いけど長袖2枚を重ね着してちょうどいいくらい。松山空港に隣接したMRTの駅に入り、日本にいる時にメルカリほかで入手してあった交通系ICカードの悠遊カード(イマイズミコーイチ用)とiPass(自分用)に自分の小銭でチャージして(コインが詰まって一台サービス停止にしてしまった)、地下鉄でホテルがある西門に向かう。西門駅から近いのでそれほど苦労せずに到着したホテルは、リノベーション物件なのか小さくて真新しい内装で、ロビーにコーヒーマシンがある。早速イマイズミコーイチはコーヒーを入れ→自分がチェックインを済ませてエレベーターで部屋がある階まで上がる→と案の定イマイズミコーイチがベータ内にコーヒーをこぼす→自分が機内食と一緒に出て後生大事に取っておいた紙ナプキンで拭く、までが遠足です、とか言ってみるとわたしゃ引率の先生かという気もしてきますが部屋に入って荷物を置き、広いベランダがあるので外に出てみるととても良い眺め、ではあるがここでも禁煙。そしてGaga経由でツインベッドで頼んでいたのだがダブルベッドなのでフロントに降りて聞いてみると「ではツインベッドにします。ハウスキーピング係を向かわせます」とのことでどうやら部屋を変えずにツインルームになるらしい。やがて係の人が3人やってきてシーツをはがし、実は分かれていたベッドを離し、みるみるうちにツインベッドになったのでした。

 まだ日も暮れていないが、自分はちょっと横になってから出かけようかな、と言うと何故かイマイズミコーイチは機嫌を損ねたようで「僕はちょっと寝るとかできないので薬を飲んでちゃんと眠ります」とか言って布団をかぶってしまい、本当に起きそうにないので自分は二時間ほど仮眠してから一人で出かける。辺りはすでに暗くなっている。前回から半年くらいしか経っていないので取り立てて「ここに行くのだ」みたいなところは少なくとも今夜はなく、どっかで夕飯を食べたいな…と西門紅楼の周りをぐるぐるする。実は前回の台北ではなかなか好みの味付けのものに出会えなかったので今回もどんなもんでございましょう、でももういい時間だし閉まっている店も多そうだし、とふと目に入った「粽(チマキ)」の文字の店に入る。後で調べてみるとこの「王記府城肉粽」はけっこうな有名店のようでしたが、看板メニューから肉入りの粽を指さしで頼んだら店のおばはんが「これも食え(食うよな?)」みたいな感じでスープの入った大鍋を指さすので自分うぇす、と頷いて2品。すぐに出てきた粽&大根と魚つみれスープの代金を全額小銭で支払って、温かい粽とおでんに似た味の熱いスープは味の濃淡が補い合ってどちらもおいしい、というか「いま食べたかったもの」を引き当てた感触がする。はふはふ言いながら素早く完食して、少し散歩してから部屋に戻り、シャワーを浴びてベッドに入った。


「王記府城肉粽」の粽&大根と魚つみれスープ

2026.0124 星期六

 起床して、イマイズミコーイチはまだ寝ているので一人で散歩に出かける。近所には日本統治時代に建てられた西本願寺の台湾別院跡地があり、なんともポスト植民地主義的な光景ではあるがとりあえず公園として整備(脱色)されている。ホテルに戻ってイマイズミコーイチを起こす。部屋があるフロアのエレベーター前には給湯器付きの流し台とティーバッグや食器が置かれた棚などがあって、ロビーまで行かなくても何杯でもお茶が入れられる。さてこのホテルにレストランはないのだが、近隣のチェーン店と提携して朝食を提供しているそうでいくつか選択肢があり、どれもあんまり近くないものの「LOUISA COFFEE(路易莎咖啡)」というのが3店舗、そうでなければあとはモスバーガーが1店なので、まずは台湾のカフェチェーンであるらしいルイーザコーヒーに行ってみることにする。さっき散歩した方面にまた歩いてカフェで朝食券を出すと専用メニューを見せてくれるので選ぶ。パンの軽食と飲み物のセットみたいな感じでそれほど量はない、のであっという間に食べ終わってしまったが自分が頼んだ紅茶は(メニューによれば"Black Tea"のはずなのだけど)かなり香料が入っていてなかなか飲みきれない。これだったらどっかで肉まんとか買い食いした方が万倍いいなあ、と内心思いつつ今日はいっぱつめの上映でQ&Aもあるので、事前にもらっていた質問リストをイマイズミコーイチと検討する。そして自分らが座った席とガラス一枚を隔てた店の外側には屋外席があり、そこにテイクアウトした飲み物と他所で買ったらしい紙パック入りのご飯を持ったおばはんが一人座っておられ、正直そっちのほうが良さそうでござる…。

 食べ終わってホテルに戻る。今日はMOさんと初対面の予定で、1時にホテルまで来てくれるという。今日は部屋には戻らずこのまま上映まで行きそうなので全部の支度をしてロビーに降りる。約束の時間直前になってMOさんから「パッキングの場所を探しているので」というよく判らないメッセージが来るが、これは「パーキング」と書こうとしたのかもしれない…と思っていたらホテルの前に車が乗りつけ、あたふたした感じで男性が入ってきた。「やあ、どこにも止められないので前に車を付けてしまった。すぐ出られる?」もちろんです。とこの人がMOさん、一度オンライン会議したので顔は知っているのですが、ホテル前の歩道に半分乗り上げている白い車のドアを開けると助手席に黒い犬と若い男性がいる。この方々はどなた、とMOさんに聞く間もなくでも挨拶だけは辛うじてして、自分らが後部座席に乗り込んだら車はすぐに出発する。移動中も黒い犬は助手席の、正確に言うと人間の足元部分に嵌まり込んで大人しくしている。名前はまだ(知ら)ない。ちなみに台湾は右側通行で車は左ハンドル。


ワン(吠えない)

 しばらく走ってMOさんは「車を駐車場に入れるので、ここで降りて喫茶店に向かってくれるかな、彼が連れて行く」と言うので降車してこれまたまだ名前の判らない男性&犬に付いていく。しばらく歩いて一軒の喫茶店に入り、男性は注文を代わりにやってくれる。黒糖豆乳みたいなのがあったのでそれにする。ありがとう、あなたをなんて呼べばいいのでしょう、と聞いてみると「知り合いは大抵”ミスター・ブルー”と呼ぶのでそれで」とのこと。理由は本名に「青」という意味の字が含まれるから、だそうでした。やがて駐車したMOさんも入ってきて4人でお茶をする。連れている犬はMOさんの飼い犬で名前はオレン、漢字だと「黒輪」と書いて台湾では「おでん」の意味になるそうでした。14歳のメスとのことで、よく見ると眼が若干白濁しているので見えているの?と聞くとMOさんは「見えてはいるけどあんまり視力は良くない」。彼らは今日と明日の上映にはノータッチであくまで次週末の上映イベントを手伝ってくれる、のだがGaga側とも連絡を取ってくれていていくつか協力してもらっているそうだ。「我々のイベントはあんまり予約が入っていない」とMOさんはすまなそうな顔をして言う。「やはり中国語字幕がない作品上映のプログラムは厳しい」そうで今後の宣伝方針などを確認する。

 今日は夕方からGaga主催の上映会があるので、当初の予定では担当のニコラスがホテルまで迎えに来てくれる事になっていたのだが、支度はしてきたしホテルに戻るのも手間だから、とMOさんがニコラスに連絡を付けてこの喫茶店の近くまで来てもらうようにしてくれた。約束の時間になってニコラスが来たようなので店を出る。オレンもてけてけ歩いているがイマイズミコーイチはほぼオレンにしか関心が向かなくなったようで、止まってはしゃがみこんで「な〜」とか言いながら頭を撫でている。ニコラスがやってきて自分らは引き渡され、MOさんたちとはここでお別れまた近日中に。ここから今日の上映会場にはタクシーで行く。会場は正確には台北市ではなく隣の新平市にある「府中15」という映像文化施設で、詳細はわからないがとりあえず商業施設ではないので自分らの上映も無料である。車内でニコラス(けっこう日本語ができる)と話をしつつ割とすぐに到着した。西門駅からもMRTで5駅くらいなのでとても近い。会場に着いたら控室に通され、クワンという別のGagaの人が出迎えてくれた。クワンはピンク色のでかい紙袋から続々とおやつを出してくれる。やがてまたどこかで見たような顔の人が来た、と思ったら15年前の金馬映画祭で会った人のような気がする。スティーヴンです、と名乗った彼とはやはり2010年に台北で会っており、当時イマイズミコーイチがサインしたチラシを持っていたが自分が「お会いしましたね」と言ってもよく判らないようなのでイマイズミコーイチの事のみ覚えているらしいのでしたが、まあいいです。

 日本語通訳兼司会進行のゾッカさんも来て、事前にもらっていた質問リストを見ながら軽く打ち合わせ、自分はニコラスから航空券代として大量の台湾ドル現金を受け取って(おっかねえな)開始時刻になったので劇場に入り、上映前の挨拶をしてから『すべすべの秘法』が始まる。自分らは前の方の関係者席に座って観る。さすが無料なので客席は8割がた埋まっているが「満席」と聞いていたのに空席も見えたのは来なかった人がそれだけいるという事ですね。事前に自分が送った動画ファイルの品質がどうなのかと思ってましたが問題はなさそうで、かつ音がかなり良いので音楽係としては満足です。上映後のQ&Aは事前にあった質問も会場で出た質問も定番のというかキャスティングについてや撮影に関することとかで、すごく印象的なものとかはなかったけど限られた時間内ではかなり話ができたのではないかと思う。後で聞いたらイマイズミコーイチが「スマートフォンは人類を劣化させる」と言ったのが受けていたようでした。会場を出たロビーでは一緒に写真を、とかサインくださいみたいなのはたくさんあるもののお客さんは大抵それだけして帰ってしまい、残念ながら個別に感想を聞くみたいな展開にはなりませんでした。ここでの上映は近所の人も固定客としてけっこう来ているらしく、中高年の女性の姿もちらほら見かけたのでこういう方々が『すべすべの秘法』をどう思ったのはちょっと知りたい(目も当てられないような感想かもしれない可能性はあるが。)


キューアンドエー中

 会場を出て、ニコラスが呼んでくれたタクシーに乗ってホテルに戻る。同乗したニコラスは高雄の出身だそうで、自分らも高雄に行くかもという話をする。「新幹線(高速鉄道)だと早いんですけど、高いですよね…」とニコラス、ああでも外国人観光客限定の割引チケットがあってそれを使うとこのくらいの値段、と彼に言うと「それはすごい安いので是非使って行ってみてください」とのことでした。西門に着いてニコラスは「近くにとても有名な牛肉麺の店があります。店の前まで案内します」と連れて行ってくれて、繁華街の人気店と言ったら当然行列ができており、普段の自分はそれだけでやる気を無くすのだけどニコラスの手前「やめる」とも言いづらく、それほど長い列でもないのでじゃあここで(お疲れ様でしたありがとう)、とニコラスとは別れ、持ってきてもらった日本語メニューを見つつスマートフォンで注文してイマイズミコーイチは骨付き鶏肉が乗った丼飯と野菜スープ、自分は牛肉麺と魯肉飯(ルーローハン)を頼む。どれも旨いので前回の「好みの味に当たらない」問題は行列を回避し続けたせいかもしれない、と思い当たるが余程のことがない限りは並んでまでして飯を喰ったりしたくはない、というのも正直なところではある。まだ時間はそれほど遅くはないのだが、明日はホテル移動があるので食後は寄り道せずに早めに戻って荷物をまとめなくてはならない。

2026.0125 星期天

 少し早めの時間に起床して朝食に、せっかくなので昨日と違うところにしてみようとモスバーガーに向かう。店で朝食券を見せるとやはり専用メニューが出てきてハンバーガーセットみたいなのを選ぶ。昨日と同じく分量はあんまりない。ので再びあっという間に食べ終わってガラガラの店を後にし、西門紅楼の敷地内を通ってホテルに戻り荷造り。とMOさんからメッセージが来て「車で次のホテルまで送って行こうか?」とのことなのだがいやあ流石にそれは悪い、と思いつつどっちみちその後に打ち合わせのために会うことになっているのでそれなら最初から会った方がお互い楽だろうと思い直してありがたくお願いする。正午近くになって部屋をチェックアウトしてからロビーで待っているとそれほど経たないうちにMOさんが車でやってきて、もちろんオレンも乗っている。やあまた会いましたね、と黒犬を撫で回すチームハバカリ。次のホテルは西門からやや北上した大橋頭(ダーチャオトウ)というところにあり、歴史街区である迪化街(ディーホアジエ)にも近いエリアでもある。ただ16時を過ぎないとチェックインできないのでフロントで荷物を事前に預かってもらって夜に戻ってからチェックイン作業をして部屋に入るということで話をつける。


ホテルからの眺め(見納め)

 用事を済ませてホテルから出てきた自分らを乗せてMOさんはしばらく走り、途中の問屋街で止まって「車を止めてくるので待っていて欲しい」と言い残してどこかへ消えて行き、残された自分たちは「ペット同伴可」と書いてあるレストランみたいな店の前で待つ。イマイズミコーイチが煙草を喫いたい、とその辺にしゃがみ込んで寄りかかったのが運悪く工事中の柱みたいなのに養生を巻いたところで、土埃だか何なのかにまみれていて触れたシャツの背中が白っ茶けてしまい、自分はそれをバンバン叩きながら例えば幼稚園の先生とかって大変な仕事だなあ、みたいなことばかりを考えていた。オレンを連れたMOさんが戻ってきたのだが自分らには気づかずに店に入っていき、慌てて後を追って入ったがMOさんはまだ気づかず焦った様子で店員さんに「とろくさそうな日本人2人組が先に入っているはずなのだが見なかったか(推定)」みたいなことを聞いているので僕らはここです、と肩を叩くとMOさん若干飛び上がりつつ「ああ良かった、どこに行ったのかと」とのことですみません、先に入って自力で注文するのとか面倒そうだったんで外で待ってました。イマイズミコーイチはすでにオレンの目線の高さまでへたり込んでいる。

 MOさんは飯を食うというのだが自分らは食事はパスしての飲み物だけ、ええいビール飲んじゃえ、と自分はメニューを見るのだが選べる銘柄がハイネケンと台湾啤酒とバドワイザーくらいしかないので日本だったらまず選ばないやつにしたれ、とバドワイザーを頼む(ただし出てきたものは"Budweiser Supreme"という見たこともない金ピカ缶のだったので正解だったかもしれない)。自分はMOさんのMacBookに持参した外付けHDDをつないで、上映会用の動画ファイルがちゃんと再生できるかのテストをする。全て問題なさそうなのだが今はMacBookの残り容量がないのでコピーは後で、ということにしてダラダラと話をする。『初戀』と『伯林漂流』に関してはGagaOOLalaが中国語字幕付きのファイルを用意してくれているとのことでありがたい。その間も床に鎮座したオレンはずっとおとなしく、MOさんが食べていた料理から出た肉の骨をオレンに与えるとバリバリ言わしながら噛み砕いていました。店内には他にも犬がいたのだけどほぼ無反応である。さて今日も上映があるのでそろそろ行かないと。

 MOさんは会場の府中15まで車で送ってくれると言う。電車でもバスでも自分らだけでも行けると思うのだが遠慮してここで断るのも違うような気がするのでありがとうございます、とお願いする。車中で引き続きオレンを撫で回していたら最寄りの府中駅前に着いてしまったがMOさんは「久しぶりなので劇場の正確な場所を覚えてなくて…この辺でいいかな?」と始めたばかりの白タクみたいなことを言うのでGoogleマップもあるし大丈夫、とお礼を言って車を降り、昨日も来た会場に向かう。会場にはすでにニコラスとクワン、スティーヴンが来ていて、イマイズミコーイチは控室で和服に着替える。今日の『家族コンプリート』上映は時間がなくてQ&Aはできないので、上映前に簡単な挨拶と、上映後には外にいるから声かけてくださいね、とだけお客さんに言って上映開始。あれ昨日はずいぶん音がいいと思ったのだけど今日はボリュームを上げすぎているのか所々ひずんだりノイズが入ったりしている。単純に音が大きい箇所が、と言うわけでもないようだし何だろうコレは…と落ち着かなくてもじもじしながらの視聴になってしまった。


府中15正面

 上映後、昨日と同じで写真とサインと…みたいな人はたくさんくるのだけど、やはり映画についての質問とか感想を言ってくれる人はいなくて難しいな、と思う。まあこれが香港だとそもそもほとんど誰も寄ってこなくて上映後はみんなさっさと帰っちゃう、ので寂しくないだけマシかもしれない。ニコラスはまめまめしくお客さんのスマートフォンを受け取っては監督との写真を撮ってあげている。それを横目に携帯を開けると、昨日の『すべすべの秘法』で通訳をしてくれたゾッカさんがLINEでメッセージをくれていて、「昨日の上映に来た友人が時間の都合で監督と交流できず残念がっておりました。彼からの質問を転送します」とのことで、やはりお客さんと写真撮影で終わってしまう方式はあんまりうまくないと思うもののどうしたらいいのかは判りません。今日は自分が5月に一人で台北に来た時に知り合った人が観に来てくれて、建物の外に出てからちょっと話したのだけどその後メッセージで「君は(『家族コンプリート』で)長男役だったよね」などと書いてきたので「違うよ」と返事をすると自分らがすでに帰国した後に開催されるイベントのものすごい長文の情報を貼り付けてきて「時間があればぜひ」、何だこれはと思っていたら今度は「君は(『家族コンプリート』の)猫役…?」と聞いてきたのでお前は本当に映画を観たのか。彼は上映後に自分ら2人にキーホルダーをくれたのでしたが正直それだけありがたく、という感じである。

 ニコラスが呼んでくれたタクシーが来て、自分らの新しいホテルまで送ってくれるよう運転手さんに頼んでいる。「時間があったら滞在中にGagaOOLalaのオフィスにも来てくださいね」と言うので、ではまたその時に会いましょう。車は出発し、そんなに時間はかからずに大橋頭に到着する。辺りはもう暗くなっている。このホテルは交差点の角にあり、ただその前はバイク駐輪場になっているので道に面しているわけではないのだがとにかく角の建物内にある。一階はコンビニエンスストアや個人商店が入っているビルの2階部分がホテルで、レビューにはかなりの高確率で「エレベータがないので荷物を持って階段を上がるのがちょっと大変」と書かれている。まあ歩いて上がれる人にとっては大したことではないが、バリアフリーという観点からは確かに問題かもしれない。有人スタッフによるチェックインは16〜22時までとのことなのだったが自分らは19時頃には着いたのでカードキーを受け取り、フロントに置いてあったスーツケースを部屋に入れる。ベッドがふたつ、狭いという印象はあまりないけど、スーツケースを広げると歩くスペースが塞がってしまうので開けっ放しにはできない。その他は特に問題なしかな…あ、セーフティーボックスが無い。貴重品はスーツケースに入れて鍵をかければいいか。

 朝のモスバーガー以来ちゃんと食べていないので、夕飯はどこかレストランに入ってみよう、と外に出て大通りを渡るとそこは「延三観光夜市」なので路面店も屋台もでいろんな店が営業中だが、特にこれと決まったものもないのでどれにしようかなあ、と思いながら歩いていたら青く光るでかい「雄嘉義鶏肉飯」という店の看板が眼に入り、見ると魯肉飯もあるようなのでここにする。外国人にはハードルが高い、一覧表形式で文字のみでメニューが書かれた注文票に正の字を書いて渡すタイプだが鶏肉飯と魯肉飯と、あとは字面で見当がつくやつでスープと皮蛋豆腐に青菜炒めを頼む。温かくて出来たてのご飯をおいしくいただく。食べ終わって店を出て、ここに来る途中に豆花の店があったねえ、と入ってみたがメニューにはたくさん種類があるのだけど意味がよく判らないものも多く、イマイズミコーイチは小豆(紅豆)のぜんざいに不明な黄色いゼリーが入ったもの、自分は豆花に煮小豆をかけたもの(どちらも熱)を食べる。「まずくはないんだけど、予想していたものとは違う」と言いながらその謎の黄色いゼリーを少しくれて、食べてもやはり判りませんでした。愛玉子はこんなに黄色くないしなあ。ともあれ2日間の上映お疲れ様でした、と乾杯するものもないのだけど向かい合って小豆を吸収する。


府中15のロビー壁面に貼ってあったプログラム

目次
2026.0123-0125 台北まで/『すべすべの秘法』上映/『家族コンプリート』上映
2026.0126-0127 インタビューその1/台北ビエンナーレほか
2026.0128-0129 高雄へ/インタビューその2
2026.0130-0201 自主上映会1/自主上映会2/自主上映会3
2026.0202-0204 縦横/帰国と成田山

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