2010.1015 FRI

 ホテルで朝飯→寝る→雨降ってる→寝る→雨上がった、というどうしようもないような時間の無駄遣いを午前中は粛々と行い、お昼過ぎに広がる空は雲の多い青灰色でさて今日はこれから泳ぎますか、ただしジョンのヴィラで。つうわけで支度をしてでけでけ5分ほど歩き、入り口から果てしなく長い道を通って昨夜も来ましたが今日も来ました。ドアを開けるとプール脇のソファには女の子と男の子が一人づついて、どちらもううむ初対面か、男の子の顔は見憶えがあるかもしれない、という程度なので「ハロー」とだけ言うと(不審者)「ジョン?」と聞いてくれたので「うん」と答える。やがて真ん中の部屋から出て来たジョンはいつもと同じくにこやかに(内心「本当に来やがった」と思ってるかもしれませんが、それは判らない)「好きにしてていいし、冷蔵庫から勝手に飲んでいい。見たい映画があったらDVDもあるし」と言ってくれて至れり尽くせりである。反対側のデッキチェアを占領して根城を造るとあとはもう水に浮かんだり沈んだり、途中ジョンもざばあ、と入って来て3人で浮かんだり沈んだり。3つある部屋からは映画祭スタッフが出たり入ったり。


およぐ

 泳いでは眠り、眠ってはまた泳ぎ、水気ですぐに重くなってしまったバスタオル(ホテルから持参した)を帆布のパラソルの骨に引っ掛けてお気持ち程度に乾かしたりしながら強風のせいか傘布が外れているので直したり、ととにかく退屈を満喫する。イマイズミコーイチは途中ほとんど寝てました。やがてジョンが「僕らはランチを食べに行くけど、お腹減ってる?」と聞いてくれるが、まだあんまり空いてないのとイマイズミコーイチがかなり椅子に根を張っているので「まだいいや」と返事すると「じゃあ帰りに何か買ってくるよ、1〜2時間したら戻る」と言い残してみんなは出て行った。バリに来ての初仕事は留守番です。その後もバカみたいにでかいバナナの木や遠目にもその大きさが判る鳥が2羽上空を飛行機のように飛んで行くのを写真に撮ったり、空は相変わらず曇っているので日焼けはしないかな、自分は昨日の死の行進で顔と首筋が非常にヒリヒリしだしました。まずい。そしてプールの水はぬるい。

 やがてみんなが戻って来た。ジョンが「はい、ごはん」とビニール袋に入った発泡スチロールをくれて、奥のキッチンから皿まで出してくれる。わ〜い、とか言いながら開けてみるとキッシュとあとこれはなんだろうイカの炒めたヤツか、それと芋と豆が入っている。丁度お腹が減ってきていたのであっという間に平らげて、今日の昼飯おしまい。もともとやる事など無いに等しいがそろそろ帰ろうか、とその前に僕らの明日の航空券をもらっておかないといけないのでジョンに聞くと「ああ、ハリーが手配しているから言っておくよ」との事でしたがハリーはさっき部屋に入って行ったので自分で聞こう、と右端の部屋を覗いてみるとパンツ一丁で寝ているらしい姿が隙間から見え(痴漢か)て、これを起こすのもなあ、でも次にいつ会えるか判んないしどうせ夜遊びして寝てるんだろうし、と逡巡していると同じくジャカルタから来ているスタッフのヘンリーが「ハリーに用事?」と助けてくれたので「うん、でも寝てるみたい」と言うとヘンリーはずかずか部屋に入り起こしてくれた(すいません)。「チケット、あああはいはい」と寝起きのハリーはがさごそブリーフケースを引っかき回して紙を取り出し「これ」とプリントアウトされたeチケットをくれた。インドネシア最後のフライトはええと、またしてもバタビアエアーっすか。


何かが飛んで行く

 ついでなので聞いてみようか、「今日は上映あるの?」とハリーに言うと「2会場だけだけど夜にあるよ、行きたい?」と言うのでこの際映画は何でもいいや、と「うん」と答える。場所は何とかカフェと言うので、もしかしたら警察に上映許可をもらわなくてもいいところなのかも知れない。「じゃあ後で迎えに行く。6時半くらいにホテルで待ってて」つうことで今日は初めて予定が決まった。のでそろそろ戻る事にして、ジョンに「今日は上映に行ってみる、またね。あ、チケットはハリーからもらった」と言うと「そうか、明日のフライトは充分余裕を見てあるけど、もしジャカルタ発の帰国便に乗り遅れたら買い直してくれればその分は払う」とおそろしい事を言うのでお互いそうならないように祈るばかりですが、これで大ジョン・バダル様でもインドネシア国内便はどうにも出来ないらしい、つうことが判明いたしました。またね。

 自分らのホテルに戻る道すがらイマイズミコーイチと今夜の予定を話し合う。ハリーが迎えにくるまでに2時間くらいあるけどそれまで部屋で寝て待つのもいい加減飽きたし、前回行ったビンタン・スーパーマーケットに行ってみませんか。そうしましょうそうしましょう、と部屋に戻ってシャワーを浴び、すぐにフロントに行ってタクシーを頼んでみる。「はい。少々お待ちを」てな感じで待っているとフロントにでっぷり太った白人おっさんが話しかけて来て「映画祭のゲストですか?私はここのオーナーですようこそ」とか何とか言うのでどもどもども、とご挨拶する。ああやっぱここの経営はインドネシア人じゃないんだ、と妙に納得するというかポストコロニアリズムというか、今ひとつ煮え切らない感じでうつむき加減のままな自分を尻目に「オーナー様」はさっさとスタッフルームに引き揚げて行かれました。あ、タクシー来た「ビンタン・スーパーマーケットまでお願いします」「あいよ」てなかんじで。


タクシーを待つ

 前回たいへん興奮して店内をかけずり回った自分らですがまあ2度目ですし今回は時間も無いので必要なものを、とイマイズミコーイチは今作の出演俳優よりメールで(しかもバンクーバーかどこかでネットにつないだら注文が来たらしい)指示のあった何やらいう油(用途不明)を探さなくては、とバリに来てからというもの起きている間は(という事は大したことはない、という意味ですが)1時間おきくらいに思い出してはなんで僕がバリまで来てお使い、と思い出したようにしばしば呟いており、自分だったらまあもし頼まれればもちろん気にはかけておきますが最終的に見つからなかったりうっかり忘れて買い損なっても口先だけごめんごめんごめんマジごめんねとか言いながら大して済まなそうでも無しに全く違うものをあげて終わりにしてしまうのですが、この人は一旦引き受けたからには何が何でも責任を果たさなくては、と自分を追い込んでしまうところがあるようで、できればそういうオーダーはなるべくしないであげて、とは思うものの受けてしまったからには後はどうかあっさり見つかりますように、と。まあ名前も判ってるしバリでは有名ってことだから店員さんに聞いてみたら、と言うとイマイズミコーイチは「よし」とその辺の女性店員にメモを見せると「ああ、あそこで」と指差されたのは薬のカウンターでこれか、と複数個を買い求める。

 そのカウンターには日本未発売のガラム煙草「234」がカートンであるので一つづつ注文して(自分はスタンダードのではなくて真っ黒なパッケージの「プレミアム」とかいう少し高いヤツを買う)、会計をしてはああパン買おう、とかお菓子も買おう、とかで3回くらいレジに並んでそれでやっとお買い物は打ち止めで時間はまだ大丈夫だね、と外に出てみたら物凄い雨が降っていた。あちゃ〜。タクシーはすぐそこで客引きしてますが、そこに行くまでで結構濡れそう、と一服付けて雨を眺める。夕立みたいなもんじゃないのかなあ、と思っていると案の定しばらくすると小やみになったのでそこに停まっていた車をつかまえてホテルに戻る。スーパーで買い物するのにタクシー往復、なんて日本じゃ絶対やりません。戻って割とすぐにフロントより電話が鳴って「アリという人が来てます」ってハリーか。すぐ行きます。




 車はどこをどう走ったのか、僕らは静かな住宅街みたいなところに着いた。車内で「上映作品が変わっちゃったんだけど、いいかな?」とハリーは言ったのだがいいも悪いも無いのでそれを観るしかない。元々の予定ではレズビアンが主人公のブラジル映画だったはずですがインドネシア映画に変更です。「Art Cafe」という会場は文字通りカフェ、庭を突っ切ったその奥にギャラリーのようなスペースがあってそこにぱらぱらと椅子が置かれている。たいへんよい感じのところにも関わらずまだ誰もいないのでこのまま僕ら2人だけだったらどうしよう、と不安が頭をかすめるが、そのうち五月雨式に人が来て(上映始まってから「遅れているお客さんがいるので」と一時停止にもなってしまう)、「JERMAL(2009)」という長編を観る。母を亡くした男の子が父親に会いに海辺の水産加工工場に来たもののそこで働く子供達から苛烈にいびられ、かつそこのボスである「父親」はまったく自分を受け入れてくれず、というお話ですがさてこれクィア映画なんだろうか、と最後まで判らないながら観終わって、もしかしたら明からさまにクィア映画はまずくて出来ないのかなあ、でもこの映画は元々のラインナップに入っていたし、と主催者の意図を聞きたいのだけど肝心のハリーは上映前に「ごめん、別のところに行かなくちゃいけない」と居なくなってしまったので僕らは取り残されています。

 どうやって帰るべえ、つかここはどこ。と辺りを見回すが目印っぽいものが見当たらない。あ、あの高い塔は前回見かけたバンジージャンプ台か、それだったらあれを目指して行けば海岸に出るかも、と歩き出すが散々迷って行った挙げ句に近くで見たらそれはバンジー台ではなくてただの電気塔、おおまちがい。カフェに何度も戻っては「海はどこでしょう」「このへんにゲイクラブ(一応ここはスミニャックなので)ってありますか」とその都度聞くのですが有効な情報は得られず、遂に僕らは諦めてカフェのおねいさんに頼んでタクシーを呼んでもらう。「車で少し時間がかかるので、何か飲みますか」とごく自然にセールストークをされたのでそうね、散々お世話になってしまったのでビール、ください。半分くらい飲んだところでタクシーが来たのでお会計して、瓶を持ったまま乗り込む。運ちゃんは「ホテル帰るの?ディスコとか行かないの?女は?」などとじゃかじゃか提案してくるので「済まんが全部、要らん」とホテルに向かってもらいひとまず部屋に引き揚げる、とここでまた強烈な雨が降り出して来てやっぱ車で帰ってよかった、あのまま歩いていたらずぶ濡れでした。


会場にあったポスター

 これがまたすごい雷雨で、週末だし今日はゲイクラブかなあ、と言っていた気分も下がり気味、フロントにはハリーから伝言が来ていて何かあったら電話して、と番号が書いてあったけど架けても留守電でもうだめかな、と思っているところへハリーではない誰かから電話、「これからクラブ行きますけど、一緒にどうすか迎えに行きますよ」つうことですぐ行きます。都合良く雨は止みかけている。恐らく僕らがうろうろした辺りとそんなに離れていないエリアを車で向かい、着いた辺りには見覚えがある。3年前に上映があった店を始め、ことごとく変わっていたり閉店していたりしてましたが雰囲気はだいたい同じよう、現在一番有名なゲイクラブ「MIXWELL」に入る。あんまり広くはない。店内ではジョンやカルロスなど見覚えのある顔を見ることができたので安心する。一応ステージっぽいものあるのですがドラァグクイーンもゴーゴーボーイも意地でもカウンターへ乗る、というスタイルもそのまんま。レディー・ガガの例の曲(タイトル知りません)が都合3回くらいかかりましたが、何度聞いてもこれがそんなにいい曲かね。お腹が減ったので隣の店でちょっと食事をして、もう3時だし明日帰国だし帰ろうか、と残っているはずの皆さんに挨拶するためさっきまでいた店内に戻ると4〜5人くらいの集団に引っ張られて「you're so cute」と言われて抱きつかれたり「これを君に」とどっかのアレンジメントから引っこ抜いて来たとしか思えない花(しかも菊)を耳に飾られたりどさくさまぎれにチンコ触られたりしましたが、具体的経験に乏しいので果たしてこれが最後っ屁のようにモテたという事なのか、よく判りません。

 カルロス+一部のスタッフはどこか別の店に移る、とタクシー拾って先に出てしまい、僕らはジョンと一緒に車を拾って帰宅する。車内で「明日はチェックアウトしてから少し時間があるので荷物を置かせてもらっていい?」とお願いすると「オーケー、じゃあ出る前に電話してくれれば迎えを寄越す」ということでそれぞれの寝所にバック、おやすみなさい。


クラブ入り口にあった「メモリーオヴゲイシャ」は何のキャンペーンだか判りません


インドネシア・ジャカルタ編
2010.0929 成田発仁川経由ジャカルタ行
2010.0930 二泊目
2010.1001 三泊目
2010.1002 「傘脱」上映

カナダ・バンクーバー編

インドネシア・ジョグジャカルタ編
2010.1008 香港経由ジャカルタ経由ジョグジャカルタ行
2010.1009 二泊目
2010.1010 三泊目
2010.1011 四泊目
2010.1012 五泊目
2010.1013 ジョグジャカルタ発バリ行

インドネシア・バリ編
2010.1014 クロボカン2時間徒歩
2010.1015 長編1本
2010.1016 バリ発ジャカルタ経由仁川経由成田行