2013.1026 Sonnabend

 眼を覚ますと部屋には5人いたので最後の1人も無事に帰ってきたようだ、おはよう。自分も結局午前4時くらいまで起きていたけど7時間くらいは眠ったのだろうか、あんまり疲れていないけど。キッチンにはコーヒーメーカーや湯沸かし器があるので好きなときに飲んでいい状態にしてくれてあり、自分はお茶を淹れ…ようと各種ティーバッグ群を眺めるが「普通の紅茶」が一切無くてどれもこれもスパイシーなハーブティーなのでこれはホステスの趣味であろう。今日はリョータくんも朝ごはん一緒に食べるようなのでどこにしようか、そろそろ別のところが良いかな、と思うが当ては無いよねえ、と言っているとリョータくんが「あ、そう言えばペトラがくれた地図になんか書いてあったかも」と今頃になって言うのですいません、そういったものは初日に出せよ見せろ、とエリア地図に手書きで細々とお勧めのお店他をペトラは書いておいてくれてたが、「ナイスなバー」「クィアなバー」「インド料理屋」「うふ♡」「トルコ料理」「ベトナム料理」「うふふ♡」などがあるばかりで(どう考えてもホステス様のご趣味であろう)いま行きたいような「ヨーロッパの朝ごはん」からはやや遠いものばかりなのです。


起き抜けにピアノをお弾きになるひろさん

 手詰まった自分はカレーのような香りのお茶を飲み干してから表へ出て一服する、とふと一昨日の夜に閉店間際で入れなかった2軒ほど隣のバーが眼に入った。ここ、昼間はカフェかもな…と黒板に書いてあるメニューを見るが残念ながらドイツ語。携帯を持ってきて翻訳にかけてみると「チーズ」「パン」といった単語は判ったので朝ごはん食べれるかも知れんがね、と皆様に提案してみる。イマイズミコーイチは「目玉焼きたべたい、あるかな」と言うがそれは聞いてみないと分かりません。店に入る、が客はいるものの店員さんが居ない。どうも奥の厨房で調理中のようだ。ややあっておねいさんが出てきて自分ら(どうにも面倒そうなアジア人)が一気に5人ほど入ってきたので少々気合が入ったらしく少しだけ挑戦的な眼差しになって「うちは英語のメニューが無いのだけど、いいかしら?」と仰る。ふぁーぃそれでいーでーす、とぞろぞろ奥のソファー席に陣取る。

 先ほどのおねいさんはもちろん別に意地悪役ではなく事実として「英語メニューが無い」と言っただけなので来たのはドイツ語のメニュー、でも今の時間帯に頼めるのは5種類くらいしかないのでそんなに悩ましいわけではない。今回持ってる携帯にはカメラをかざすとドイツ語を英語に翻訳してくれる機能があるが(光量が足りなくてなかなかピントが合わない)それで見た限りではなんかそれぞれにそんな違いがあるようではないな、たぶんどれでも大丈夫、と言っているとおねいさんが戻ってきて解説してくれる。やはりベースは大体同じであれがあってこれがない、といった程度のもののようだ(そして残念ながらどのメニューにも目玉焼きは無かった)。割とあっさり注文は済んでしばし待つ。照明も明るすぎずたいへん落ち着く。温かいパンがバスケットに入って5人分出され、「もっと欲しかったら言ってね」てなことでそのまま齧るうめえ。やがてでかい丸プレートに乗っためいめいの朝ごはんが運ばれてきた。しかし野菜に果物にチーズにサワークリームにオリーブに蜂蜜にハムに…色んなもんが乗っている。自分が頼んだやつには茹で卵が付いていたのでイマイズミコーイチに半分あげました。



あさごはん完食
 非常に満腹になって店を出る。なんか久しぶりに朝からえらい食ったぐへ、と部屋の前でたらたらしていると男の人がにゅ、とやって来て「ここに」「郵便が」「ぼくの」などと言うので済みませんが僕らはビジターです、と言ってもいまいち通じないのでオレの自慢のスマートフォンでペトラに電話する。「ぐーてんもーげんペトラ、見知らぬ人が郵便屋さんがどうのこうの言ってまして…、あ、したらオーナーと話してくんない?」とストレンジャーくんに電話機をパスして彼はしばしペトラとドイツ語で何やら会話していたがやがて「オッケ」みたいな顔になったので電話を受け取ってペトラ様(ラスボスの三つ前みたい)に「だいじょぶかね?」と訊くと「大丈夫よ、あなたが電話持っててくれて助かったわ」と自分がいま一番言って欲しかった一言をくれたので非常にご機嫌になった私は一言「チャオ!」。でリョータくんはこれから出かけると言い、残る4人は一緒にトレプトウの屋内ガラクタ市に行くことにした。蚤の市はどこも明日の日曜なので、今日行けるフリーマーケット的なものはここくらい。地図を見ると直線距離は近いのだけど電車だと遠回り、ただ歩くとたぶん迷わなくても30分くらい、なのでそれは避けて電車で行く。たぶん自転車があると一番いい距離感のところだと思う。「最寄」駅からかなり歩いてやや汗ばむくらいだが建物が見えてきた。馬鹿でかい室内に小分けされたスペースに商品、とういうかゴミというか…がうず高く堆積している。いろいろな店の集合体なので人によってはかなりきちんと整頓している店もあればかなり雑然と物が積み上げてあるだけで触ったら崩れそうな店もある。ただ古物商(というかリサイクル業者というか)だけではなく配管屋とか工具屋とかなぜここにあるのかよく判らない店も多いが見ているのは楽しいものの何か買おうという感じにはならず、正確に言うと婦人服の型紙未使用というものにかなり惹かれたのではありますが結局買わずにもう一周りしておしまいにした。イマイズミコーイチは屋外の出店で巨大なサロペットをためつすがめつしていましたがやはり「時間切れ」。

 しかし今日も寒くない。街路樹を通り抜けて散歩するにはとても良い陽気であります。しかし擦れ違う犬がみんなお利口さんな感じだ。ひろさんはこれから譜面屋に廻りたいと言い、イッセイくんはアンペルマンの店に行きたいらしいので19時半に劇場で集合する約束をして駅まで戻って解散し、自分とイマイズミコーイチは17時半から映画を観ることにしているので宿に戻る、途中で何とはなくツイッターを開けましたら昨夜自分が「ハッテン場に行きます…」と口走っていたのへ田亀源五郎さんから「それはLab. oratoryかな?」といきなり正解の返信があったので自分はぶったまげ、いや確かに田亀さんは2週間ほど前にベルリンにいらしたはずなのですけれどそれにしても、と「そ、そうです…。」とお返事したところ畳みかけるように「ミーティング場所にそこを指定された私の驚きがお判りいただけたでしょうかw」とのお返事が届いてしまいクロイツベルグの路上で私はイマイズミコーイチ共々腰が抜けるほど笑いました田亀さん素敵。ええとミーティング、ってのは「打ち合わせ」の事ですよね(…あそこで?)。


で、どこからがゴミでどこからが商品か

 笑いすぎて体力を消耗したので15分ほど仮眠を取って出かける。時間は結構ギリギリで劇場前の横断歩道まで来て…あれチケットが無い。複数作品のを取っているのでぐちゃぐちゃにならんようちゃんと茶封筒に入れて…、その封筒がどっかに行ってしまいました莫迦。急遽自分だけ部屋に戻って探すがやはり見つからない。仕方がないので次に観る映画のチケットだけそ知らぬ顔をしてもう一度出してもらって10分ほど過ぎてしまったもののシアターに滑り込む。今日いっぱつ目は中国の钰柯(Yuke)監督による『PHILOMIRROPHOBIA I + II』、I + IIってのがどういうことだか判らないがいきなり整形手術らしい実況中継が始まってしまってうっへえこれは駄目かも(実際にここで立つ人が幾人か)、と思いつつしばらく画面を隠しながら観る(それでも音が…)。しばらくすると顔を切ったり縫ったりする段階は終わったようなので変な汗をかきながら観続ける。セットも衣装も小道具もとても凝っているし映像も美しいがほぼ全編「心象風景とナレーション」であるため溺れるように観ないとなかなか厳しい。あと自分はCGに大変点が辛いので実写とうまく共存していないのを見ると何か覿面に醒めてしまうのでした。筋を要約する(ような性質の作品でもないけど)と「整形したら愛されるかと思ったらそうではなかったおしまい」ということのようでした疲れた。あと終盤でなんかもの凄い怒鳴りながら出て行ったお客さんが1人いらっしゃいました。

 もう一度部屋に引き返し、とイッセイくんが戻ってきた。アンペルマンショップはどうだった?と聞くと「結構迷ったけど見つけました。エコバッグとか買った」そうでよかった。で何やってんですか、いや映画のチケットがね、と言いながら同じようなところを何度もめくったりしても無いものは無い。次の自分らの上映『盗撮リポート:陰写!』のチケットも取り直さないとかなあ(他の3人分のチケットは渡してあったのが幸い)、と思いつつふと机の上に投げ出していたフリーペーパー(LG雑誌)に件の茶封筒が挟まっているのを見つけた。ああここだったんかよ、とへなへなと気が抜ける。そろそろ上映時間が近づいてきたので3人で劇場に向かう。ひろさんとリョータくんからはそれぞれ「向かってます」とのメッセージがあり、では劇場でとにかく着いたらシアターに入っちゃってください、と返信する。

 『盗撮リポート:陰写!(1991)』、イマイズミコーイチと伊藤清美さんの共演作。今回上映される3本は佐藤寿保監督の希望により新しいものから初めて古いものへ、という順番になっておりこの作品が3作品の中では一番古い。MCは今日もヨハン。毎回だけど「イマイズミコーイチの新作は日曜日に上映」と宣伝してくれる。実はプログラムが決まる前、ユルゲンから「佐藤寿保作品3本+新作という組み合わせで上映したいが新作の上映は最初にするか最後にするか?」と聞かれて「最後で」と即答したのも集客を考えてのことでした。期間中早い時期の上映だと現地で知り合った人に「観に来てね」って言いたくても終わってる、みたいなことが過去に実際あったので4日かけて宣伝をしていただこう、という魂胆である。しかも『すべすべの秘法』は日曜日に2回上映されるということなので特に深夜の追加上映みたいな2回目は正直厳しいだろう。さて盗撮リポートもさっきの中国映画と同じく刃物で顔を切るお話でした、が…「確かにポルノとしては決して煽情的な内容ではない、という事に加え、ビデオカメラのファインダー越しの粗い映像が多用されているのが特徴的です。果たしてポルノ映画を期待して来た観客にとってこれは満足できる作品なのでしょうか?」とQ&Aでのヨハンの質問は前2日と似たようなものだが無論お客さんは毎回違うので同じように答える。「正直なところ、佐藤作品は映画館や会社からはあまり好意的に受け止められなかった、とういかはっきり言うと嫌がられてしまって彼にもう撮らすな、みたいな動きがあったりもしました。でも一部には熱狂的なファンが居、彼の作品に触発されて映画監督を志した若い層も厚く、そういった支持があって作り続けていたようなところがあります。」観客は3本の中で一番多く、途中で帰る人もほとんど居なくてあと2日くらいやれば満席になったんじゃないかな、と思いました。なんか、とてもいい上映だった。


キューアンドエー(ひろさん撮影)

 上映前にクラウスが「使い終わった上映用のディスクなどを返しておきたいから終わったら来て」と言っていたのを思い出してシアターを出てラウンジ(映画祭ブース)に向かう。諸々受け取って、ふとカウンターに硝子越しでシャワー浴びてる全裸のおねいさんが表紙のメモパッドが置いてあるのを見つける。スポンサーか何か(多分エッチなテレビ局みたいの)のノベルティらしいのだけど実はこれ、初日に既に一つ貰ってました(その時もクラウスは「欲しければ持ってけば、まあ女の裸だから使う度『うげ〜』って感じだけどさあ」などと超要らん事を言いながらくれた)。貰ってましたが翌日到着したひろさんに余興のつもりで「こんなんもらっちゃいましたよ〜」と披露したところ「へえ(まあ、別にいいですけど)」みたいな感じで受け取られてしまい、全く差し上げるつもりの無かった自分は「返せよ」とも言えずにぐぬぬ、と思っていたのでしたが良かったまだあった、とクラウスに「頂いてく」と言うと(まだ欲しいのかよ、みたいな顔して)「どんどん持ってって〜」。その後も映画館前の路上で三々五々ビールを呑んでいるが皆さん腹の減り具合がバラバラであるためさあ繰り出してめしをくいに、という感じではなく、でも自分とイマイズミコーイチは朝以来何も食べていないため通りの向かいのハンバーガー屋でハンバーガーセットを買ってみる。ひろさんはベルリン名物カレーヴルスト(ソーセージにケチャップとカレー粉が無茶苦茶かかってるもの)を買ってましたがそれより前にちゃんとした有名店で喰ったのに比べるとこれは何だか味がいかにもパチもん、とか言っている。私達はどこでも買えるようなハンバーガーを路上でまりまり喰っておりますが、でもなんかドネルと言う感じじゃなかったのですよ。そして今夜は映画祭のメインパーティーがあります。ありますがオープン時から行っても疲れるのでちょっと休憩して、と部屋に戻ってたらたらしていて私は思い出してしまいました。

ア フ レ コ を し な く て は い け な か っ た と い う こ と を 。

 『すべすべの秘法』は仕上がったのが間際である事もあって実は音声部分でやや難な部分が残ってしまっていました。今回の上映は日本語が判る観客は殆ど居ないはずなのでいいけど今後のために録り直しておこう、と事前に言っていたのでした。東京でもこの3人が集まるのは至難なのでこの際、とイマイズミコーイチのiPhoneにPCM録音APPを突っ込んで来ておりました。ええと皆さんお疲れの事とは思いますがちょっと台詞を、とこれまた都合のいい事に自分のノートには粗編第一段階の動画ファイルが残っていたので(何でも取っとくもんだ)それを参考に3人とも未だ繋がったものを通して観ていないと状態で台詞の再録をさせられますがこれは罰ゲームではありません。短い台詞でもそれなりに難しいので何度かのやり直しを経て作業の進め方をめぐって自分とイマイズミコーイチは若干険悪な感じになりつつ(いつものこと)何とか録り終えてああ疲れた、ちょっと休もう、と5人は寝床でごろごろして、しばらくして自分は一服しに外に出てみたところ眼の前を「ハイ」とか言いながらヤイールがふらふらと宿の前を通っていくところでした(誰かと思った)。「これから上映があるので劇場に行く、パーティーで会おう」と心ここにあらず、と言うか半分幽霊のようになってテルアビブLGBT映画際ディレクター様は去って行かれましたので轢かれないようにね、みんなたいへん。


アサイー味、効くかどうかはわかりまへん

 そろそろ行こうか、と改めて皆さんの調子を確認したところひろさんは昼間ガシガシ動いたのでパーティーはスキップしたい、との事ででは4人で行きましょうか、と自分は買っておいた超カッコいいデザインのエナジードリンクを回し飲みしてから路上、会場の最寄り駅はこないだのハッテン場と同じWarschauer Straßeです。ハロウィン時期のせいか電車もなんか騒がしいです。「モンスターズロンソン・イチバンカラオケ」というケッタイな名前の会場に着いたら1時半過ぎで、入場待ちの客が外にずらりと並んでいますが私らはゲスト様なので抜かりなく持って来たゲストパスを見せて入り込むと昨年と同じくドアではユルゲンがもぎりをやっていました(泣きました)。中もすごい混雑で歩くのも困難ほどだが何とか真ん中辺りまで来てスタッフをぼちぼち見つける。もちろん会話も困難ですので「やあ」「ショーは終わっちゃったよ」「あいやー」程度なもんです。店名が「カラオケ」というだけあって個室カラオケボックスみたいなもんが会場内にはいくつかあって、ダンスフロアに面したガラス張りのブースがあったのでそこに滑り込む。暑いのでイマイズミコーイチは上を脱ぎ出す。しばらく煙草を喫いつつだらだらしていたら全裸の人が入って来てちんこをしごき出したのでさてこれはどうなるか、と思ったものの結局どうにもならず勃起しながら風景に溶け込んでいきました。

 DJはマンデイ満ちるさんです(嘘です例えばマヌエラでした)。"We Will Rock You"で異様な一体感を見せるフロアに浮いたり沈んだりしつつビール買うのに10分くらい掛かったりしつつ、さっきの勃起のおにいさん(超可愛い♡とリョータくん)がお立ち台でフェラチオなどされて居る中を気がつけばその隣で半裸のイマイズミコーイチがベルリナーレ2008ショルダーバッグを下げたまま汗だくになってぶんぶん踊っており、実に普通のパーティーだ、とちょっと麻痺していますが隅っこの「カラオケボックス」ではセックスし始めた男女のカップルなどもおりメインパーティーは動物園と化しダンスフロアには華やかな光、ヤイールもトッドもヨハンもイッセイくんもリョータくんも私も踊り、スタッフの女の子は豪快にこけ(たのを勃起の人がすかさず助け起こす、配慮の人だわ)、「ミックス」とは言いつつ何だかんだでゲイが制圧してしまうパーティーとも違う種類のミクスチャー、僕らは汗と涙で視界が霞んで来たのでこの辺で帰ろうかねホイットニーヒューストンのポートレートの前で記念撮影して、電車はまだ動いているみたいだし。明日はいよいよ映画祭最終日、で『すべすべの秘法』世界初公開。

2013.1023 出国
2013.1024 『ラフレシア』上映
2013.1025 『誕生日』上映
2013.1026 『盗撮リポート:陰写!』上映
2013.1027 『すべすべの秘法』上映
2013.1028 おまけ1
2013.1029 おまけ2
2013.1030 帰国