2013.1027 Sonntag

 おは、よう、ございます(低調)。生まれて初めての国外における歯痛により私だけ昨夜2時間くらいしか寝ておりません。昨夜横になってから何だか厭な感じはあったのですが、やがて鈍い痛みが絶え間なく寄せては帰すようになり、その度に口をゆすいでみたり煙草を喫ってみたりストレッチしたりしても気晴らしにもならず、外へ出てみれば(晴れていれば東京よりずっと良く星が見えるのですが)雨がしとしと降っていたり、とにかく陰鬱な感じで時間はぜんぜん過ぎないし他はみんな寝てるし、それでも午前7時くらいに時計を見たのが最後の記憶なので一応は眠れたのでしょうがそれにしてもキツい。長期治療中の箇所なので不安はあんまり無いけど実際、痛いのは困りますよね。幸いイッセイくんがバファリン持っていたので分けてもらって(イッセイくんありがとう)飲んで、後は忘れることにする(今日のQ&Aとかで急に来ないかだけが気がかり)。というわけで本日の私は不断より役に立たない予定です。

 朝飯は飛ばして5人で(今回初めてかも)地下鉄に乗ってNollendorfplatzへ向かう。戦前からのゲイエリア、らしいので近くにはバーとかゲイ用ホテルとか沢山ありますが、駅を降りてすぐの景色は何というかどうにも寒々と吹きっさらし、という印象は初めて来た時から実は変わらない。取り敢えずでかいショップ、ということで「Brunos」の前の虹色熊像の前で記念撮影などをしてから開店直後の店内に入る(いるよーお客さん)。自分らは毎回来てるので適当にフリーペーパーなどを貰ってあとは座ってぼんやりしておりました。あ~もし「BUTT」の2014カレンダーがあったら買いたかったのだけど無かった。入りたかった隣のHIV情報センターは夕方からのオープン、ということで残念ながら次回以降に、でひろさんはここにもう少し残る、リョータくんはここから別行動、というので19時からの上映に間に合うように劇場集合ということにして駅で解散し自分とイマイズミコーイチ、イッセイくんは6月17日通りの蚤の市へ、空はちょっと雲行きが怪しい。


「とってとって〜(キャッキャ)」「…あの、そろそろ…」

 ここの蚤の市は有名な観光名所としてガイドブックにもよく載ってる、ので整理されている反面昨日のガラクタ市みたいなカオス感は無くて、青空アンティークショップ街とでも言うのか整然としております。イマイズミコーイチは「軍服とか、サロ・ペット…」とぶつぶつ言ってますがここはあんまり衣類はないかも(あってもジャケットとか)。お、真ん中あたりまで来たところでカリーヴルストの屋台があるではないか買おう(かなり並んでいる)。メニュー数はそんなに無いのだけど、人によってパンに挟んであったりトレイに入っていたりでどれがどれだろう、と思って並んでいたが自分の番が来てしまった。イッセイくんはすごく長いソーセージをちっこいパンに挟んだやつを、自分とイマイズミコーイチはトレイにフライドポテトと一緒になったやつを見よう見まねで注文する。切る、というよりは潰す。という感じで一口大にされたソーセージにケチャップ風のソースとカレー粉がかかっていて見た目は何かたこ焼きみたいだ。あんまりカレーの風味は強くない。そして本場だけあってこういう何でもないところでもジャガイモがうまい。蚤の市は一回りしただけで何も買わずに(箪笥とか売ってましたがどうすんだろう)電車に乗って宿に戻る。

【この後の3時間ほどの記憶が非常に断片的です。写真もごっそり抜けてるけど何やってたんだろ上映まで】
・イッセイくんとはどこで別れてどこで合流したんだっけ。
・イマイズミコーイチは着物に着替えながら「あのね、今日の上映が終わったらお客さんと一緒に写真を撮りたい(一度やってみたかった)」とうわ言のように。
・明日帰国のイッセイくんは早々にパッキングをあらかた終えていたのでこの人はすごい、と思ったような気がする。
・一本くらいはビール飲んだかも
・相変わらず室内は電波が弱い。
・なんか現地友人ソフィーから「息子急病につき会えないかも」というメッセが来る。
・結局寝てたのかも

 とここまで書いていて急に思い出しました16時半から映画を一本観たんだった。なので蚤の市の後はイッセイくんと一時的にバレて自分ら2人は劇場でこれを観て宿に戻りイマイズミコーイチ着替えなど、(この映画の事を部屋で彼に話した記憶があるので)イッセイくん合流で一緒に劇場に行きました。観たのは初めてこの映画祭に来た時に知り合ったアメリカの監督トッド・ヴェロウの新作(しかし多作な人だ…)『The End of Crusing』世界初公開。世界各地のハッテン場(パブリック・スペースの)映像とそれにまつわるテキストの朗読からなるドキュメンタリー(+所々トッドのケツ出し姿あり)なので英語が充分に判らんとアレですが映像を観ているだけでも判る部分もありパリ、ロンドン、ベルリン、リスボン、テルアビブ、コペンハーゲン、ニューヨーク(かつてのWTC)、あとは忘れましたがかつての、または現在進行形のハッテン場巡り(+所々トッド他によるシミュレーションあり)で、いい加減な勘で言いますが「ハッテン場コレクション」に一番向いているのは動画じゃなくて写真集なのではないかと思いました。そしてこの人の映画は2本ほど観ていますがどっちかつうとフィクション性の高い作品の方が自分は好き。


会場入り(ひろさん撮影)

 『すべすべの秘法』、まず一回目の上映は19時から。司会はヨハンのはずなので彼を探して事前に軽く打ち合わせる。昨日までとだいたい同じだけど、ヨハンが自分とイマイズミコーイチを呼んだら続けて自分たちが俳優を呼び込むから、と伝える。「判った。あと初回のチケットは売り切れたよ、おめでとう」と言ってくれる。うれしい。二回目は23時から、で司会はクラウス。こちらも打ち合わせをするべくラウンジの映画祭ブースにいる(大抵いる)クラウスに会いに行くとなんかあからさまに疲労の色が滲んでいて顔が死にかけのボラみたいになっているので心配になり腕をさすりながら「疲れてる?」と聞くとどこか上の空な感じで「つ〜かれてるう~」と自動応答マシーン様になってるので「えと、最終回の上映なんだけど」と言うと「あ~それは〜僕が司会だあ。通常この時間帯は遅いので、終映後のQ&Aは基本やらない。や~ら~な~い~が~、もし、やりたければ…」とクラウスはやおら青竹踏みしているおばはんの如く上下にやや振動しながら合掌しだし「お願い~『やらない』って言って~いって〜」とウルトラ正直なヴァイブが伝わってきたので判った、でも上映前に全員で軽く挨拶だけはさせてね、と言ってこちらも終了。

 劇場に5人が揃う。どうしても少し浮き足立ってしまうので、劇場前で風に当たっていたほうが気分がいい(冷えるけど)。2011年にここで上映してから丸2年、世界初公開まで…長かったかなあ。しばらくすると入場が始まったようなので僕らも入る、前にポスターの前でひろさんに記念写真を撮ってもらう。前日までと同じ最前列の一番左端。主演俳優ズは真ん中の席、なのは良いけど端を取らなかったので後で出るのが面倒なところに…まあいいや、このヴァージョンを見たことがあるのはほぼイマイズミコーイチのみで、自分も音楽を付けた後は通しで観ておらず、3人はアフレコ作業の際に見た部分以外は全くどうなってるんだか知らない(試写などを行う余裕はあらゆる意味でありませんでした)のでいい席で観てくらはい。会場が明るいうちに予告編が流れ、その後で司会のヨハンがスクリーンの前に立って最初の挨拶。「今夜、今泉浩一の新作世界初公開が出来ることを映画祭として非常に光栄に思います。日本出発の2日前に完成したそうですが(笑)」などと話しているのを聞きながら眼の端っこにユルゲンが滑り込んできたのが見えた。スタッフもほぼ誰も(ヨハンもまだ)観ていないらしい。「上映終了後にQ&Aがあります」というアナウンスがあって、シアター内は暗くなった。


フルハウスだぜ(どや?)

 上映が始まる。映画祭には大変失礼ながら自分にとって今回はすごく条件の良い試写会みたいなものなので、観ながら記録をとる。音の鳴り方は当然劇場のサウンドシステムに依存するのであまり細かく気にしだすと切りが無いのだけど、かなり意図通りになって「ない」箇所も幾つかあるので後で調整要検討項目をメモしていく。これまでは自宅のステレオにつないだのが最大音量だったのでやっぱりだいぶ違う。画質は、結局これDVDなのかHDDに入れたファイルなのか確認しそびれたけど悪くはない。お客さんは割と笑いそうなところで笑い、というか結構始終クスクスしていたようだけど「笑う」以外の反応って判りづらいし泣き所もないし(ちなみに「この映画祭のお客は沸点が低い」とイマイズミコーイチ)。意外な部分での反応、も今回は取り立ててなかったような、少なくとも怒鳴り散らして出て行く人は居ませんでした。上映終了後の拍手を迷わず出来るような感じにするにはエンドロールにある種の音楽があったほうがいいのかもなあ、と何となく思いました。ひとまず上映自体が止まらなかったのでそれが何よりです。

 打ち合わせた通りに5人が揃って挨拶したのちQ&A、ヨハンは前3日間の内容を踏まえて「なぜ俳優だったあなたが映画を監督するようになったのでしょうか」「例えばピンク映画とか、そういった商業映画の枠の中で撮る、という選択肢はなかったのか」「そして自主制作だと国内での上映はより困難だと思うが、その辺りはどうしているのか」といった質問をイマイズミコーイチにしていく。これまで俳優として参加した、または脚本を書いた映画で感じた違和感や、そういった事を順を追って説明しつつ「で何故、インディペンデントで作るのか?」という問いに対しては「詰まるところ結局、ぼかしがねえ…」というところに尽きるというか海外に行くと必ずこの問題は興味を持たれるのだがうまく説明できた試しがない。ヨハンと話し込んでしまったのでお客さんからの質問タイムは殆どなくなってしまい、ではありがとうございました、とイマイズミコーイチが率先してドアのところに行ってしまったので(お見送りを、と思ったらしい)おいおい写真を撮りたいんじゃなかったのか、と呼び戻して観客の皆さんと集合写真を撮らせてもらって一回目終了。


いっきまっすよ〜、とか言いながら撮ったような気がする

 劇場外では出演者がリョータくんの現地友人(トーマス含む。そのまた友人が感想として「いい映画だった。でも次回作ではキミがガンガンにファックしてる作品が観たいな」などと抜かすのでお前はQ&Aの何を聞いていたのか、と拳を硬く…というかやっぱ通じてなかったか、英語?)やらに囲まれて楽しげだが、見ればユルゲンも外に出てきていたので僕らはおっかなびっくりで「どう…でした?かね?」と聞いてみた。ユルゲン大先生は別に返事に困る、という感じでも無くというか満面の笑みで「大変、良かった。どこがよかったか、と言うとこれは非常に『ごくありふれた("banal")』ストーリーだったということだ。それに尽きる。あと途中で風がびゅんびゅん吹いてるシーンがあったが、あそこは上映の後で何人かの観客が『あれはもう少し何とかならなかったのかね?』みたいな事を言っていたけど、それこそがインディペンデント・ムーヴィーなんだよ、と自分は思う。そして何より主人公たちがとても純粋で愛らしい。と言うかそもそもが"Fuck buddy"の話だというのに(一部省略)という結末は、これは恐らく我々ヨーロッパ人の感覚にはないものだ。」

 この先もこれ以上のものは無いであろう、というお言葉をこの人から頂けたからには、僕らはただただ頭を垂れるほかはなく、
  呼んでくれてありがとうユルゲン、ウェ・リーベン・ディヒ。

 あとそうそう、と大先生は思い出したようにまた笑って「君たち2人は映画祭が終わった後もまだ少しベルリンに居るんだよね、ならば最後の夜、ディナーに招待したい。来るかい?」
  勿論です。

 次の上映まで一時間くらい、ならば打ち上げ兼で夕飯にしようと目の前のイタリア料理屋に入る。去年ふらっと入って結構おいしかったのは憶えている。あと近いし、とぞろぞろ入店してイタリアンだけどドイツビールとかも無論あるので乾杯する。おつかれさまでした。腹が減っているのでパスタもピザもサラダも前菜も山盛り頼んでしまう(自分はアーティチョークのチーズ焼きがあったので嬉々として注文する)。混んでいなかったせいかすぐに料理が出てきてうれしいアラビアータ辛い。そろそろテーブルに乗り切らなくなってきた皿からわしわし喰いながら俳優陣3名は初めて通して観た映画での自分の演技、その他、について色々言いたい事が当然あるようで会話は収拾がつかなくなって来ておるが、とにかくこれだけ一気に「初めて観た人、しかも出演者」の感想が収穫できる機会は滅多にないので何とか頭に入れようとする。さっきの上映で取ったメモもノート1ページくらいになってた。しかし噛むとまだ歯が痛むのだけどアザミが旨いなあ。


さいごのゆうしょく@どいつのいたりあん

 本当はあと1時間くらいはかけてゆっくり平らげたいところではありますが2回目の上映が15分後から、なので急いで食って店を出る(少し残してしまった)。イマイズミコーイチは「僕は2回目も観るから、イワサくんは残りのメンツをクロージングパーティー会場に連れて行って」と言っていたのだが蓋を開けてみれば俳優3人も「もっかい観る」と言うので結局2回目を観ないのは私だけ、では上映が終わった頃に戻ってくるです、ということになってシアター入り、お客さんはまあこの時間帯としては仕方ない(クロージングパーティも始まってるし)かと思うけど半分くらい。フラッフラの司会クラウスに呼び込まれて5人が並んでさっきのように短く一言ずつ挨拶して、自分だけそろりと測道を抜けて劇場を後にした。腹一杯になったら前夜の睡眠不足が響いていや、なんかもうマジ眠いは歯は痛むは(少人数の劇場で爆睡してたら居ないより感じ悪いか、とこれでも少しは)弱りもぞする。部屋で一時間くらいは寝られるかな、とおやすみなさいぐががががが。

 確かアルバニアとかの近くで何かがどうした、といった類いの不安定な夢から目醒めると何故か私はまだ部屋におり、チームすべすべの皆さんが私を指差して笑っている、ような気がする。自分は枕元にあったWindows Phoneを手にして袈裟がけに、ずば。と言うか寝坊してました。一度アラームで起きたんだけど、じょうえいは、おわったらしいでした。私だけ2回目の上映(後)がどうだったのか知りませんのでそれは自分以外の人に聞いてください。「お客さんは少なかったけどみんな残ってくれて、遅かったんで終映後もそんなに突っ込んだ話はできなかったけど、とても良かったよ」ということらしいのでそれは何よりでした。ビールが飲みたい。

 クロージングパーティー会場「Südblock」はここから一駅くらいなのですが最寄り駅まで行って~乗って~駅から歩いて~とかやってると結局歩いたほうが早いやねこの時間は電車もあんまり来ないし、と自分ら4人(ひろさんは欠席、てかパッキングもせな)は夜道を北上する。去年と同じ会場なので道は覚えているけど駅周辺が工事中で景色が変わっておって近づくにつれ何となく自信がなくなってきたが、あった。昨日の大混乱パーティーとは違ってこの時間はもうほとんど「スタッフ打ち上げ」ですわな。外で煙草を喫いながらビールを飲んでいると(おしっこいきたい)フランクフルトの映画祭の人だったかな、男の人が話しかけてきて映画良かったよ、と言ってくれる。とそこへブロンドの女の人が「ちょっと割り込んでごめんなさい」と文字通りお割り込みになられておいでになり「私は今年の長編の審査員で、あなたの映画を推したの。残念ながら受賞しなかったけど、セクシュアルマイノリティーにも当然ある筈の『普通の日常』を表現する、という事の重要性を私は評価(略)」とだだだだだ、と喋ってそのグラマー審査員(アメリカの方とのこと)は怒濤のように去っていきました。


おどれ、まわれ(同じ事じゃよ)

 冷えてきたので屋内に入る。知ってるところだとヨハン、それにクラウスがいる。ヨハンはいつも通りな感じで「『すべすべの秘法』の上映はとても成功だった。観客の雰囲気がとても良かったし、そして美しい映画だった。ありがとう。」ありがとう、んでもって私のQ&A通訳がヘボ過ぎでごめんなさい。そして問題のクラウスは既にへべれけ「な〜かでも~た〜ばこが~すえるんだよ~」と座らない首をゆらゆら揺らしながらなんか飲んでる。イマイズミコーイチと何やら話しているので写真を撮ってみましたが「もういちまい」「もういちまい〜」って納得してくれないけど暗いから何枚撮ってもぶれるのよ。ユルゲンはいないが誰に聞いても「帰ったと思う」とのことで流石に疲れてるよね。そういえばペトラは劇場で会った時に「私はパーティ会場で受付をやっているから後で会えるわ」とか言っていたのに居ねえよな。「Fucking Different」プロジェクトのキキもいて、リョータくんとイッセイくんは彼の教え子だという世界各地から来た若い子たちと踊っている。僕らは何故かニューヨークから来た約2名の方々(審査員と映像作家)に個別に「とにかくがんばれ」と励まされている(大変ありがたいのですがマシンガンのように喋った挙句に「Do you understand me?」って儂らはよほど茫然とした顔をしていたらしい)。

 そろそろ帰ろうか、と誰ともなく言い出して僕らは店の外に出た。帰りはタクシーかな、と思っていたのだけどタクシーは何台か止まっていたもののみんな休憩中なのか明かりが消えていて、まあいいや酔い醒ましに歩こう。コットブッサー・ダム(大通り)沿いに川をわたってシェーンレインシュトラーセ駅を過ぎ、去年も全く同じように結局往復徒歩だったなあん時は二人だったけど、と映画館の前で横断歩道を渡り、ビデオ屋の角を左折して2ブロック目、そろりと鍵を回して中に入るとひろさんは既にパッキングを終えて眠りについており、自分らもばらばらにおやすみなさい。ワールドプレミア及び映画祭、終了いたしました。あとはおまけです。

2013.1023 出国
2013.1024 『ラフレシア』上映
2013.1025 『誕生日』上映
2013.1026 『盗撮リポート:陰写!』上映
2013.1027 『すべすべの秘法』上映
2013.1028 おまけ1
2013.1029 おまけ2
2013.1030 帰国