2013.1029 Dienstag

 みんな行っちゃったねえバブ(犬)、バブバブバブ。
 おなか減ったねえバブ、バブバブバブ。
 スープの店は開いてるかなあバブ、バブバブバブ。

 虚空の飼い犬(名前はバブ)と会話をしながら朝食に出かける。先行の二人は無事帰国したとの由、で例の昨日は閉まってた「謎スープの店」は当然のように今日もやってない、というか人はいるんだけど店内に椅子を積み上げていて開店準備中みたいな感じ。さあどうする、と道を引き返してきていつも通りすぎているトルコ系スーパーの隣に、これまたいつも見過ごしているお店(何の店だろう、とすら思ったことがなかった)があってペトラの地図によるとここは「ターキッシュ・ベイクドポテトの店」とある。焼き芋か?と思って中を覗いてみると先客が食べているものがご飯ぽいので試してみることにする。カウンターのガラスケースに上に乗せる具材(ツナとかオリーブとかコーンとかクスクスとか野菜サラダとかソースとかで、肉類はないみたい)越しに「店内で」と注文するとスカーフしたおばはんが「よっしゃ」と言ってカウンター内から出てきて店の隅にある簞笥みたいな箱の引き出しを開ける、と実はその簞笥は芋焼きマシーンで、引き出しの中には巨大な馬鈴薯が山のように詰まっていたのでした。カウンターでその熱々の芋を半分に縦割りして中身を掻き出したらそこへチーズとバターを溶かし混ぜて、更にお客指定のものを乗せて完成。グラタン皿2つ分くらいある食べる物(呼び名が不明)が完成。

 見た目では何だか判らない「トッピング具材」もあったのだけどまあNGはなかろ、と適当に指さして盛ってもらってからスプーンで食らいつく。まだ温かくて仕上げに焼いてないポテトグラタンみたいである。そう言えば子供の頃の自分はオーブンで焼く前のグラタンが好きで、いつもつまみ食いしては母親に怒られていたことを思い出しました。しかし量が2人前くらいなのとメインが芋なのでどんどん腹の中で膨れていって大変である。寝起きで胃が活性化していないらしいイマイズミコーイチは半分くらい進んだ所で「もう食えない、食べて」とこちらに寄越すが自分も何とか完食したようなところなのでこれ以上はちょっと無理。その後いつものパン屋でお茶だけ頼んでしばし腹を休める。


いもの

 部屋に戻って半分くらい帰国の準備をしつつ、各種連絡事項をチェックする。今夜ご自宅訪問予定のユルゲンからは住所が届いていたので場所を確認し(ここから近いみたい)、ペトラからは「空港に行くにはアレクサンダープラッツ経由でバスよりもヘルマンプラッツから空港に一番近いJakob-Kaiser-Platz駅まで地下鉄で行ってバスに乗るほうが楽だと思う、何しろアレクサンダープラッツ周辺はカオスだから」とのアドバイス。とここで携帯が鳴って、ソフィーからの電話だった。息子の具合はどう?と聞くと「一日中寝てる。昨日まではおばあちゃんのところにいたんだけど、お土産も持ってきてくれたのにごめんね、やっぱり今回は会えない。日本人が免疫を持ってる病気かどうか判らないので、止めておいたほうがいいと思う。」イマイズミコーイチにも替わってしばらく話をしていたが、きっとまた来るからその時はみんなで会おうね、まだ子供が小さいから難しいかもだけど、日本にも来てね、と話してさようならをした。さて今回、そんなソフィーに渡し損なったお土産とは↓

【梅酒の梅のジャムの作り方】
 1. 梅酒瓶から実を取り出し、総重量を量ってから鍋に入れる。
 2. かぶるくらいの水を入れ、火にかける。
 3. 沸騰して5分くらいしたら火を止め、ザルにあける。
 4. 更に1~2回ほど繰り返す。実の皮が破れそうになってきたら止める。
 5. 湯を切り、鍋に戻す。実の重さ30%程度の砂糖を加え、つぶしながら煮る。
 6. 砂糖が溶けたら種をスプーンで取り除く(ちなみに果肉のついた種は焼酎お湯割りとかに入れると旨い)。
 7. 粗熱が取れたら瓶詰めする。

 去年ソフィー宅を訪ねた時に「ベルリンの梅」の、という手作りのペーストをくれて、それがとても美味しかったので返礼として自宅で漬けていた梅酒の梅をジャムにしてその同じ瓶に詰めて持ってきていたのでした(しかも日本を出る2日前に)。ソフィーの為のお土産ですがでも会えないんじゃ仕方ないユルゲンにでもあげてみるか。イマイズミコーイチは部屋で寝る、と言うので自分は土産物漁りの仕上げとしてヘルマンプラッツのKarstadtに行って贈答用のチョコレートやら自分用のシュトーレンなどを買いこんで帰ってきた。


こっちのスズメは何だかでかいような気がする

 ユルゲン大先生宅突入の前に1つ約束がある。去年来た前後にfacebookで知り合ったものの会えなかった在ベルリンの美術家Musk Mingと今回は会う約束をしていた。昨日も行ったNollendorfplatzにギャラリーがあり(彼が経営してるのか働いてるのかどうか不明だが)大体そこにいる、とのこと。実はここは去年来たことがあって彼のポストカードを買ったのだったが本人には会っておらず、今回が初対面となる。宿を出てNollendorfplatzに向かう電車の途中でイマイズミコーイチが急に「バウムクーヘン、行けるかな」と言い出す。バウムクーヘンとは何か、それはイマイズミコーイチの好物でありますがドイツに来る度に「本場のバウムクーヘンが食べたい」と何度も言うので今回は事前に有名店を調べておいた、のが但し微妙に行きづらい場所にある(どっかのついでに寄れる場所にない)ので時間があればね、と言っていたのだった。例によってぐずぐずしていたらあまり時間はなくなってしまったのだけれど乗り継ぎさえうまくできればギリギリ間に合うかも、と急遽Nollendorfplatzは素通りしてツォー駅でSバーン(地上線)に乗り換え…がトラップで非常に迷い、んでもって急行に乗ってしまって目的駅は通り過ぎてしまい、と大変な辛酸を嘗めてのちようやっとBellevue駅に辿り着いた頃には日は暮れて暗くなっていた。

 川の方に向かって歩けば着くはずだ、とずんずん進んでいくと割とあっさり店は見つかり、イマイズミコーイチは狂喜して「バームクーヘーン」と言いながら店に突っ込んでいった。店舗の前庭にはテーブルが置いてあってお茶できるがもうこの時間は寒い。時間もないので買うだけにして「両親用と、自分用と、あといますぐ食べる用と…」といろいろ選んでいるので自分も小さいのを買ってみた。冷静に考えると結構いいお値段でした。店の前で記念写真を撮ってから、引き返す道でさっそく食べる。アイシングがかかっているので外側は甘いが本体はあっさりとけっこうやわらかい、おいしいケーキでした。さてBellevue駅のホームに戻った時点で既にMingとの約束の時間になっております。彼に「ごめん、遅れてます~」とメッセージを送って急ぎNollendorfplatzに戻る。遅刻っすー。


店長、日本人がやってきました

 遅刻。夜のNollendorfplatzを急ぐ。一昨年はこの辺りのゲイホテルであったブルース・ラブルース vs. ヴィーランド・スペックという豪華対談を見るために行ったものの超道に迷って(あの頃は携帯すら持ってなかった)その辺を歩いていたどう見てもな熊さん2人組に道を聞いたものでしたが、今回は迷わなかった。ギャラリー「Berlin Avantgarde」に入るとMingが待っていてくれて、やっと会えました。「コーヒーでいい?それともお茶にする?」なんて言いながら。自分は日本から持ってきたしるこサンド(我ながら何故に、と思いますがスーツケースにはこれしか残ってなかった)をあげて話し込む。彼は天津出身でもう8年くらいベルリンで活動しているそうだ。ポルノ映画祭の事は知ってはいるけど、という程度のようだったが自分らの映画の話は色々聞いてくれた(北京クィア映画祭に共通の友人がいた。このギャラリーでも彼らの上映をやったらしい)。

 ベルリンはとても活動しやすいよ、と言いつつ本当に色々な活動しているみたいだけど一番多いのはドローイングかな、去年も買ったポストカードと、イマイズミコーイチがカレンダーを買うというので「お会計プリーズ」と言うと「あげるよ」と言い出すのでそれは悪いから、と押し切ると割引してくれて、なんだか蚤の市で勝手に値下げされたような感じになる。自分が出した財布が「革命」と赤い字がでかでか書かれた中国共産党モチーフのデザインなのを目ざとく見つけて大笑いしていましたが「でもこれ、ドイツのデザインだよ」と言うとちょっと驚いていました。ああそうそう、この近所にHIVの情報センターみたいのがあるけど、知ってる?と聞くと「ああ、スタッフを知ってるから」とメモをくれ、「この人を訪ねていけばいい」と教えてくれた。何かいろいろしっかりしてんなあ多分年下だけど、と思いながら一緒に写真を撮って(どうもここ最近自分らが林家ぺー&パー子化している気がしてならない)またね、とギャラリーを後にした。

 駅に戻ってBrunosの隣にあるHIVセンターに入る。何かのミーティングでもしているのか主におじさまで盛況です。Mingにもらったメモをその辺の人に見せると「ああ、いま戻ってくるよ」というので待つ。気がつけばイマイズミコーイチは喫茶スペースでカフェオレなんぞを頼んでいる。やがてやってきたスタッフの人に「日本から来ました(としか言いようがない)。東京で同じように主にゲイ男性向けの啓蒙活動をしている団体があってそこに友人がいるので、資料をもらってきました。もしここのと何か交換できたら嬉しい」といきなり言われても面喰らうよなあ、と自分でも思うのだけどそのように名乗り、案の定???みたいな相手も一応理解はしてくれたようで話を聞いてくれた。新宿二丁目にaktaというセンターがあって、そこがゲイ雑誌Badiと共同制作で作った印刷物をもらってきていたので、あと無料配布用のコンドームもあります、とわらわら出して渡し、代わりにここの資料やポストカードなどをもらってありがとうございました、誰に頼まれた訳でもなく海外に出るときには出来るだけこういう交換をしている理由は自分でもうまく説明できないのだけど、何か具体物がやりとりされるところから生まれるものがあるかも知れない、という一縷の望みみたいなもんか、まあ大部分は引き出しに仕舞われて終わりだろう、と言うのは判っているのだけど、とイマイズミコーイチが飲み終わるのを待って辞去した。さて次は最後のイベント、ユルゲン大先生宅でのディナータイムである。


文章と関係ないけど、くまさん

 送ってもらった住所によるとユルゲン宅は自分らの宿の最寄り駅から同じ路線で駅2つ。もうほとんどうちに帰る途中、みたいな感じで乗り換えて反対方向に一駅乗って降りる。2年前、まだ彼に会う前に送ってきた打ち合わせメールでは「来てくれたら"Sexy Stay"をお約束」みたいな事を書いてあって僕らは色めき立ったものでしたが何度行ってもどこがどうセクシーステイなのか判らず困惑したものでした。そんな歳月を経て今夜ついにセクシーディナー(イメージとしてはこないだのハッテン場みたいなヤツ)が、とわくわくしている私のリュックには手作りの梅ジャムが入っているわけですが、約束の時間オンタイムで建物の前に着きました。指示された通りに道に面したプレートからユルゲンの名前のインターホンボタンを鳴らすと若い女性の声で(期待が高まります)「どうぞ~」と声がして扉が開いた、がどこからどう行ったらいいのか分からん(部屋番号も書いてないし)、この建物はロの字型になっているようで少し進むと中庭みたいなところに出て、とここで上方から「ハロー、ハロー」とユルゲン大先生のお声がする。うへえ4階かよ(エレベーターはどうせ無いんでしょうね)と「そっち」と指差された方にあった階段をひたすら登って踊り場から「あと1フロア」と励ましてくれる声に導かれて、ようやく、セクシー、御殿、に、到着、いたし、ました。

 中に入ると知ってる顔知らない顔、で6人くらい、あれヤイールもいる。でもなんか咳き込んでるね、風邪?と聞くと「流行された。喉をやられた」とのこと。ユルゲンも何だかゴホゴホ言ってるが煙草を喫いつつ蜂蜜を舐めている。僕らが一番遅かったみたいで皆飲み始めているがまずは、とスパークリングワインをもらって乾杯する。映画祭お疲れ様でしたー、とそう言えばクロージングパーティで会えなかったね、とユルゲンに言うと「色々片付けをしていたので、それから会場に着いたのは4時半くらいだ」どええタフ。急にユルゲンは部屋に消えるといそいそと自作のDVDパッケージ(日本製、ただし廃盤)を持って来て見せてくれる。20年くらい前の作品なのかなあ、「もうこのサンプル盤1枚しか無いので、あげられないのだけど」ということなので日本に戻ったら探してみよう。テーブルにはアラレみたいなのが山盛りになってるのでパリパリ食っているうちに右隣に座っていた素敵なおばさまが「さあアラレはおしまい、食べちゃって」と皿を空にして、キッチンから鍋を持ってきた。各人の皿にパスタを盛って、何かの肉の赤ワイン煮込みソースを掛けてくれる。これはイマイズミコーイチが食えない肉かも、と聞くと「DUCK」とのことなので本人も「食べてみないと判らない」らしい。


ごはん、くれるの?

 めし、激うまい。胡瓜のサラダも旨い、ともりもり食いながらそれぞれの皆さんがわらわらと話しているがメンバーはユルゲン大先生にTLVfestのヤイール、ドイツで配給をやっている男の人と、ギリシャ出身のアレクサンドラ(一昨年会った)、隣のおじいさんだけはどういう人なのか謎でしたが超いい声です。で、自分の隣のおばさまガンマさんは自分も監督やらプロデューサーやらやってるとのことでどうもユルゲンと似たような、というかここで8年くらいユルゲンと部屋を共有している方だそうでした。ユルゲンがオープニングの挨拶と同じ話をしている「以前XXという雑誌から映画祭に取材の申しこみがあって受けて、スチール写真を送ったら『もっとセクシーな写真はないか』と言われたけど『ない』と答えた。そんなとこばっかりだよ『もっと肌の露出が多い写真はないか』とかさ」と笑いながらもブリブリしている(余程なんかあったのか今年)。それからニューヨークなどで女に迫られた(自慢)話を始め、例によって話はあっちゃこっちゃ飛ぶ。そして『すべすべの秘法』をまた褒めてくれたので(内容は上映日の時とだいたい同じ)次回作はプロデュースしてくれ大先輩、とお願いする。

 ユルゲンは「どこか観光したか?」と聞く。いや、俳優3人はそれなりにいろいろ行ってたみたいだけど、僕らはほぼ劇場周辺だけだったかな、毎日上映があると時間が細切れになっちゃって、あんまり。ああでも今日はバウムクーヘンを買いに行った、と言うとユルゲン「は?なんでバウムクーヘン?」と大仰に反応したので周囲の笑いものになる。「大体あれはクリスマス時期のものだ。もう少ししたらスーパーとかそこら中に並ぶけど、まだ無い」とユルゲン。日本におけるほど一般的なケーキではないらしく、しかもどうも縁起物っぽいので「秋口に日本に行ったら本場の伊達巻を食べたい」的なものかも知れません。あ、あとLab. oratoryには行ったよ、と一応言っておきました。そして上映終了後(らいとなう)ウチのおとぼけ監督が抜け殻のようになっております事の適当な訳語が思いつかず「ええと要はヒーイズ空き瓶のようになってまして」と映画祭ディレクターに説明したところユルゲン大先生はたいへん良く判る、といった感じで頷いてから「みんな自分から全てを呑み干して行ってしまうんだよ、自分も今"Empty Bottle"だ」と何だかしみじみと、まあ彼の場合は映画祭が終わった後の感慨、という意味合いのようでしたが正直、こんなに共感されるとは思いませんでした。


これはまだエンプティーじゃない

 その他この食卓ではドイツ人とイスラエル人がポーランドに、てかあんたアウシュヴィッツ行った事ある?てな話をしてたりハンガリー系ドイツ人のガンマと自分といい声のおじいさんが原発の話をしていたり、彼女の姪っ子が妙にロマな感じの見た目なせいで、とかアレクサンドラが地元ギリシャの父親の外国人やゲイに対する差別的な発言を電話口でこっそり録音して作品に使っちゃったので親父に知られたら殺される、てな話などが沸いていました。自分はそろそろいいかな、とユルゲンに「プレゼントがあります風邪にも効く(筈)」と適当なことを言いながら懸案の梅ジャムを差し上げると(アレクサンドラがすかさず味見にやって来た)けっこう喜んでくれました乾杯。ガンマがどっかから何だかヤバそうなガラス瓶を持ってきて「これはハンガリーのお酒で、ラベルには桃が書いてあるけど梨から作ったお酒なの」という訳の判らない説明をされながらその喉が焼けそうな蒸留酒(後に調べたらどうも"Pálinka"というものらしい)を小さいグラスで飲みました。しかしこれは中国の白酒並みにまわる。 

 そろそろ寝る、とユルゲンは言いヤイールは近くのゲイバーで友人と待ち合わせている、と帰りそうになるのでその前に、とセルフタイマーで集合写真を撮って、ごちそうさまでしたありがとう、イマイズミコーイチは「この後BERGHAINに行く」と騒いでいるがユルゲンが「あそこが面白いのは週末だけだ」と言うので大人しく帰ることにする。あ、亮太くんはモスクワ無事終了したみたい、と電車で携帯にメッセージが来てたのを確認してたら「すみません、切符チェックです」と男の人が近づいてきて噂には聞いていたけど初めて遭いました。やっぱ気付かれないように普段着なんだねえ、と感心しつつ切符は持っていたので問題なし、持ってなかったり打刻してなかったりすると40ユーロくらい取られるらしい。宿に帰って流石にもう酒はいいや、とお茶を入れて、シャワーを浴びてから最後の片付けをする。パッキングは7割くらいしてあるので後は詰めなおして寝ます。


酔っぱらっているのでピースサインなど。

2013.1023 出国
2013.1024 『ラフレシア』上映
2013.1025 『誕生日』上映
2013.1026 『盗撮リポート:陰写!』上映
2013.1027 『すべすべの秘法』上映
2013.1028 おまけ1
2013.1029 おまけ2
2013.1030 帰国